宇宙小市民物語スターエイジ・フールマンズ   作:アイアイホイホイおさるさん

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46.

 ワープブリッジ周辺宙域。

 巨大リング構造物の周囲では、無数の宇宙船が避難行動を取っていた。

 貨物船が慌てて進路を変え。

 観光船がスラスターを噴かし。

 警備艇が右往左往しながら警告通信を飛ばしている。

 そんな混乱の中心で。

 ジャークスピアのダートポッド部隊は、まるで獲物を見つけたハイエナのように騒ぎ立てていた。

 

『ヒャハハハ! 一機だけェ!?』

『ナメてんのかコラァ!!』

『こっちは数十機いるんスよォ!?』

『まとめて宇宙のゴミにしてやるぜェ!!』

 

 ダートポッドの群れが散開する。

 粗雑な改造砲台。

 無秩序な編隊。

 だが数だけは多い。

 普通のパイロットなら、それだけで押し潰される。

 だが、デュミナスのビートアロウは微動だにしなかった。

 白い機体が宇宙空間に静止する。

 まるで戦場全体を見下ろしているかのような落ち着き。

 

『……ふむ』

 

 デュミナスの低い声が通信へ流れる。

 

『随分と騒がしい連中だ』

『何ィ!?』

 

 ジャークスピア構成員が怒鳴る。

 

『テメェ、状況分かってんのかァ!?』

『一機で俺ら全員相手する気ッスか!?』

『無論だ』

 

 あまりにも自然な返答だった。

 一瞬。通信越しですら、ジャークスピア側が呆気に取られた空気が伝わってくる。

 その直後。

 

『舐めやがってェ!!』

『やっちまえェ!!』

 

 ダートポッド部隊が一斉突撃。

 レーザー砲火が宇宙を埋め尽くした。

 赤い光線。

 ミサイル。

 即席改造砲台から放たれる無数の弾幕。

 ワープブリッジ周辺が光で染まる。

 だが。

 ビートアロウは、その弾幕の中へ自ら飛び込んだ。

 

「うおっ!?」

 

 ジョンが思わず声を上げる。

 普通なら自殺行為。

 だがデュミナス機は違った。

 機体が滑る。流れる。回る。

 レーザーの隙間を、髪の毛一本分の精度で抜けていく。

 まるで攻撃そのものが見えているかのようだった。

 

『なっ!?』

『避けたァ!?』

『全部読んでやがる!!』

 

 ジャークスピア側が動揺する。

 次の瞬間。

 ビートアロウが急加速。

 白い残光が宇宙を走った。

 レーザーバルカン発射。

 一機。

 爆発。

 さらに旋回。

 二機目撃墜。

 三機目。

 四機目。

 あまりにも速い。

 ダートポッド側は照準すら追いついていなかった。

 

「す、すげぇ……」

 

 ジョンが呆然と呟く。

 ただ上手いだけではない。

 動きに一切無駄が無い。

 最短。最速。最効率。

 まるで宇宙空間そのものを支配しているかのような飛び方だった。

 しかも。

 

「待て……」

 

 ジョンがモニターを凝視する。

 

「アイツ……」

 

 ビートアロウの軌道。

 撃墜位置。爆発方向。

 それら全てが計算され尽くしていた。

 撃墜されたダートポッドは、ワープブリッジ方向へ一切流れていない。

 周囲民間船にも破片が飛ばない。

 全て、外側宇宙空間へ弾き飛ばされている。

 デュミナスは、ワープブリッジも民間船も一切傷つけないよう戦っていた。

 セリアが目を丸くする。

 

「えっ……なにこれ……」

 

 サクラがどこか誇らしげに微笑んだ。

 

「隊長は無駄を嫌いますの」

「いや無駄とかそういうレベルじゃねぇだろ……!」

 

 ジョンは半ば悲鳴じみた声を出した。

 戦いながら周囲被害まで完全制御している。

 そんな芸当、人間業ではない。

 

『ひ、怯むなァ!!』

『囲め囲めェ!!』

 

 ダートポッド部隊が再び包囲を試みる。

 だが。

 デュミナス機が急停止。

 次の瞬間、機体が信じられない角度で反転した。

 

『えっ』

 

 ジャークスピア構成員の間抜けな声。

 レーザーバルカン連射。

 三機同時撃墜。

 爆発光が宇宙を染める。

 その火炎を背に、ビートアロウが滑るように飛ぶ。

 まるで演舞だった。

 殺戮ですら、美しく見えるほどに。

 

『ば、化け物ォ!?』

『こんなの聞いてねぇッス!!』

『逃げ――』

 

 逃げようとしたダートポッドの前へ、白い機体が回り込む。

 

『逃がす理由が無い』

 

 低い声。

 発砲。

 撃墜。

 爆発。

 ジョンは唖然としていた。

 

「なんだアイツ……」

「スカイピラーズ隊長、デュミナス」

 

 シンヤがニヤニヤしながら言う。

 

「元銀河連合軍エース候補生。模擬戦無敗記録持ち」

「は!?」

「しかも卒業主席ですわ」

 

 サクラが付け加える。

 

「電子戦、空戦、宇宙戦、白兵戦、全部トップ成績」

「なんでそんな奴が傭兵やってんだよ……」

「色々あるんだよ、大人には」

 

 シンヤが肩を竦める。

 その間にも。

 宇宙では一方的な虐殺が続いていた。

 ダートポッドが撃墜される。

 また一機。

 さらに一機。

 まるで熟練ハンターに狩られる害獣だった。

 ニオークのガチノゲー改内部。

 警報が鳴り響く。

 

『な、何故ですかァ!?』

 

 ニオークが狼狽する。

 

『何故たかが一機にィ!?』

 

 モニター上から味方反応が消えていく。

 圧倒的多数。

 それなのに、一方的に減っているのはジャークスピア側だった。

 

『認めませんよォ!!』

 

 ガチノゲー改のドリルクローが高速回転を始める。

 

『選ばれし存在であるこの私がァ!!』

 

 戦場の中央、そこに残る機影は二つだけ。

 白と青の流線型戦闘機、ビートアロウ。

 そして。

 巨大機動兵器ガチノゲー改二号機。

 鋼鉄のワタリガニを思わせる異形の巨体が、ゆっくりと前進する。

 左クローへ換装された巨大ドリルが高速回転を始めた。

 

 ギュィィィィィィィン――――。

 

 不快な金属音が通信越しにすら伝わってくる。

 回転するドリル先端が、周囲の光を歪ませていた。

 

『……認めませんよォ』

 

 ニオーク・キュムレルの声が響く。

 その声音には、焦りと苛立ちが混じっていた。

 

『認めませんとも』

 

 ガチノゲー改の全身スラスターが噴射。

 巨体がゆっくり加速を始める。

 

『この私が……選ばれし知性を持つこの私が……何故こんな俗物共に邪魔をされなければならないのですかァ!?』

 

 ジョンは操縦席モニターを見ながら顔をしかめた。

 

「めんどくせぇタイプだなコイツ……」

「自意識が肥大化し過ぎていますわね」

 

 サクラが冷静に言う。

 シンヤは呆れたように肩を竦めた。

 

「ジャークスピアの中でも特に拗らせてる奴なんだよアイツ」

 

 宇宙空間では、ガチノゲー改がさらに前進を続ける。

 その巨体だけで圧迫感が凄まじい。

 四十メートル級の鋼鉄兵器が迫ってくる様は、巨大怪獣そのものだった。

 

『アイドルだのライブだの』

 

 ニオークは吐き捨てる。

 

『くだらないでしょう。実にくだらない』

 

 ガチノゲー改前面のビーム砲群が展開。

 赤い光が灯る。

 

『チャラチャラした小娘の歌遊びを守るために命を張るなど、滑稽極まりない!』

 

 発射。

 六門のビーム砲が一斉に火を噴いた。

 極太の光線が宇宙を裂く。

 ワープブリッジ脇を掠めながら、ビートアロウへ襲いかかる。

 だがデュミナス機は、まるで水の上を滑るように機体を傾けた。

 最小限の動き。

 それだけで全弾回避。

 光線が背後を通過し、遠方宇宙へ消えていく。

 ワープブリッジにも、民間船にも、掠りもしない。

 

『なっ……!?』

 

 ニオークが息を呑む。

 デュミナスは静かだった。

 

『イタいと思うか?』

 

 低い声が通信へ流れる。

 

『アイドルを守るため戦う事が』

『当然でしょう!?』

 

 ニオークが即座に叫ぶ。

 

『そんなものに本気になる人間など愚かだ!』

『仕事なら』

 

 デュミナスが言った。

 

『イタい事でもやらなければならない』

 

 ビートアロウが加速する。

 白い機体が残光となって宇宙を走った。

 

『我々は傭兵だ。依頼を受けた以上、依頼人を守る。契約を果たす。ただそれだけの話だ』

 

 レーザーバルカン発射。

 ガチノゲー改側面へ命中。

 火花。爆発。

 

『ぐっ!?』

 

 ニオークが呻く。

 だがデュミナス機は既に次の軌道へ移っていた。

 ビートアロウがガチノゲー改周囲を高速旋回する。

 白い軌跡が何重にも宇宙へ描かれていく。

 

『そ、それだけの為に命を張ると!?』

『十分な理由だ』

 

 デュミナスは即答した。

 その声に一切の迷いは無い。

 ジョンは少し驚いた。

 デュミナスという男は、もっと冷徹なタイプだと思っていた。

 だが違う。

 合理的でありながら、自分なりの筋を持っている。

 だからこそ強いのだと、少しだけ理解できた気がした。

 

『むしろ理解できないのは君だ』

 

 デュミナスの声が続く。

 

『……何?』

『君は何の為に戦っている?』

『はァ!?』

『ジャークスピアの連中は少なくとも自分達の醜さを理解している』

 

 ビートアロウ急加速。

 ガチノゲー改後方へ回り込む。

 レーザー連射。

 背部装甲へ着弾。爆発。

 

『ぐぅっ!?』

『だが君は違う』

 

 デュミナスは淡々と言った。

 

『自分を特別な存在だと思い込み、周囲を見下しているだけだ』

『黙れェ!!』

『中身が空っぽだから、周りに流される』

 

 一瞬。

 ニオークの呼吸が止まったような沈黙。

 

『周囲がアイドルを嫌うから、自分も嫌う。周囲が暴れるから、自分も暴れる。自分自身の意思が存在しない』

 

 ビートアロウが再び回避機動。

 ガチノゲー改のビームが虚空を薙ぐ。

 

『空虚な人間だ』

 

 その言葉。

 それは明らかにニオークの核心を突いていた。

 

『……黙れ』

 

 低い声。

 

『黙れ黙れ黙れェェェェェェッ!!』

 

 絶叫。

 ガチノゲー改が突撃した。ドリルクロー高速回転。

 巨大質量。狂気じみた勢い。

 周囲のデブリを吹き飛ばしながら一直線に突っ込んでくる。

 その迫力は凄まじかった。

 ワープブリッジ周辺の宇宙船から悲鳴混じりの通信が飛ぶ。

 

『うわぁぁぁ!?』

『ぶつかるぞ!!』

『逃げろォ!!』

 

 だが。デュミナス機は微動だにしない。

 ギリギリまで引きつける。

 ジョンは思わず息を止めた。

 

「おい……!」

 

 そしてほんの一瞬。

 ビートアロウが滑るように横移動した。

 回避。

 それだけ。

 たったそれだけで、ガチノゲー改の突撃は空振りする。

 

『なっ!?』

 

 ニオークが目を見開く。

 その瞬間。

 ビートアロウ急旋回。

 レーザーバルカン連射。

 狙いはドリル基部。

 火花。爆発。

 巨大ドリルが根本から吹き飛んだ。

 

『がァァァ!?』

 

 ドリルクロー停止。

 破損。

 ガチノゲー改左腕部が爆炎を噴きながら崩壊する。

 

『ば、馬鹿なァ!?』

『鈍い』

 

 デュミナスの声。

 次の瞬間、ビートアロウがガチノゲー改下面へ潜り込んだ。

 死角。

 そこからレーザー連射。

 脚部関節破壊。

 右脚損傷。

 左脚亀裂。

 巨大機体が大きく姿勢を崩した。

 

『ぐおおおおっ!?』

 

 ジョンは唖然としていた。

 

「解体してやがる……」

 

 そう。

 これは戦闘ではない。

 巨大兵器を、戦いながら“分解”している。

 必要な部分だけを。

 的確に。

 容赦なく。

 ビーム砲破壊。

 クロー切断。

 推進器損傷。

 装甲剥離。

 ガチノゲー改は、まるで猛獣に肉を削ぎ取られるように破壊されていった。

 

『認めん……』

 

 ニオークが呻く。

 

『認めませんよォ……!』

 

 ガチノゲー改が最後の突撃を試みる。

 だが。

 その瞬間。

 ビートアロウ下面装甲が展開した。

 プロトンランチャー。

 高出力粒子砲。

 砲口が青白く発光する。

 

『終わりだ』

 

 発射。

 青白い光の奔流が宇宙を貫いた。

 直撃。

 ガチノゲー改中央部。

 一瞬の静寂。

 次の瞬間。

 大爆発。

 

『そんなァァァァァァァァッ!?』

 

 ニオークの絶叫。

 巨大機動兵器が内側から吹き飛ぶ。

 クロー。

 脚部。

 装甲。

 ビーム砲。

 全てが爆炎と共に四散した。

 最後に中央胴体が完全崩壊。

 巨大火球がワープブリッジ宙域を照らし出す。

 静寂。

 そして。

 

『うおおおおおおっ!!』

『助かったァ!!』

『やったぞ!!』

 

 周囲宇宙船から歓声が上がった。

 民間通信回線が一気に沸騰する。

 拍手。歓声。口笛。

 様々な声が飛び交う。

 ジョンは爆炎を背に静止するビートアロウを見つめた。

 その姿は、まるで宇宙を守る騎士のようだった。

 その時。

 ワープブリッジ全体が眩く発光する。

 

『空間接続完了』

『ワープゲート起動します』

 

 巨大リング中央。

 歪んでいた空間が完全に開いた。

 青白い光の渦。超空間航路。

 その先には、惑星イブバーチュ宙域が繋がっている。

 

「開いた……!」

 

 セリアが声を上げる。

 

『ラクーン号、急げ』

 

 デュミナス機が帰還進路を取った。

 ラクーン号格納庫が開放される。

 ビートアロウ着艦。

 ロック完了。

 

「行くぞ!」

 

 ジョンが操縦桿を握る。

 ラクーン号が加速。 青白い光の渦へ突入する。

 船体が超空間光に包まれた。

 ワープブリッジ内部。無数の光が流れていく。

 そしてラクーン号は、惑星イブバーチュへ向けて超空間航路を駆け抜けていった。

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