宇宙小市民物語スターエイジ・フールマンズ   作:アイアイホイホイおさるさん

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48.

 惑星イブバーチュ宙域。

 超空間航路出口付近で停止したラクーン号の前方には、ジャークスピアの大部隊が壁のように立ち塞がっていた。

 無数のダートポッド。

 改造武装機。砲台艦。

 そして中央に鎮座する巨大宇宙戦艦。

 まるで宙域そのものを封鎖するかのような布陣だった。

 艦隊灯火が暗い宇宙へ不気味に瞬いている。

 ラクーン号操縦席。

 誰もすぐには言葉を発せなかった。

 モニターに映る敵影数。多すぎる。

 単純な戦力差で言えば絶望的だった。

 ジョンが乾いた笑いを漏らす。

 

「……冗談だろ」

 

 その声には呆れすら混じっていた。

 

「暴走族ってレベルじゃねぇぞこれ……」

「完全に艦隊ですわね」

 

 サクラの表情も険しい。

 シンヤが眉をひそめながら口笛を吹いた。

 

「いやー、ここまで来ると逆に感心するわ」

「笑い事ではない」

 

 デュミナスが低く言う。

 モニターへ表示される敵布陣を鋭く見つめていた。

 ジャークスピア側は明らかに待ち伏せを前提とした配置を取っている。

 航路中央を戦艦が塞ぎ。

 その周囲を大量のダートポッドが囲む。

 不用意に突っ込めば集中砲火。

 逃げようとしても包囲される。

 非常に嫌らしい布陣だった。

 

「……迂回は?」

 

 ジョンが訊ねる。

 サクラが即座に航路マップを展開した。

 

「可能ではあります」

「ただし――」

 

 表示された迂回ルートは大きく遠回りしていた。

 

「ライブ開始時刻には間に合いません」

 

 その一言で船内が静まり返る。

 ポッピーが小さく息を飲んだ。

 

「そんな……」

「しかも」

 

 デュミナスが続ける。

 

「今から逃げに回っても、確実に振り切れる保証は無い」

「敵は数でこちらを上回っている」

「追跡され続ければ消耗戦になる」

 

 ジョンが舌打ちした。

 

「つまり詰みかよ……」

「まだそう決まった訳ではありません」

 

 ポッピーが前へ出る。

 その表情には不安が浮かんでいた。

 だが、それでも瞳は折れていなかった。

 

「絶対ライブはやります」

「ファンのみんなが待ってるんです」

 

 小さな拳を握る。

 

「ここまで来て諦めたくない……!」

 

 ジョンはその横顔を見た。

 怖くないはずがない。

 相手は武装艦隊だ。

 しかもこちらは戦闘艦ですらないジャンク回収船。

 それでも、この少女は前を向こうとしている。

 

「……ったく」

 

 ジョンは頭を掻いた。

 

「アイドルってのは本当に根性あるな」

「プロですから!」

 

 ポッピーが少しだけ笑う。

 その時だった。

 

「待って」

 

 セリアが口を開く。

 皆が振り返る。

 セリアはモニターを見つめながら、高速で情報を処理していた。

 紫色の瞳に無数のウィンドウ表示が反射している。

 

「敵の配置……」

 

 セリアが呟く。

 

「真正面は完全封鎖」

「でも左右の展開速度に微妙な差がある」

 

 サクラが目を見開いた。

 

「……本当ですわ」

 

 敵部隊の布陣データが拡大表示される。

 確かに、一部宙域だけ防御密度が薄い。

 ほんの僅か。

 だが存在している。

 

「ブースターユニットの最大加速なら」

 

 セリアの声が続く。

 

「そこを突破できる可能性がある」

 

 ジョンが顔を上げた。

 

「突破?」

「うん」

 

 セリアが頷く。

 

「スカイピラーズが敵前衛を引きつけて蹴散らす」

「その間にラクーン号が最大加速」

「敵陣を一気に突っ切るの」

 

 モニターへシミュレーション映像が表示される。

 四機のビートアロウが敵編隊へ突入。

 敵陣形を崩す。

 その隙間へラクーン号がブースター全開で突撃。

 突破成功率――六十二パーセント。

 

「六割……」

 

 ジョンが眉をひそめる。

 

「結構賭けだぞ」

「でもゼロじゃない」

 

 セリアは真っ直ぐ言った。

 

「逃げるよりは可能性ある」

 

 デュミナスが腕を組む。

 しばし沈黙。

 やがて静かに口を開いた。

 

「悪くない案だ」

「隊長?」

「敵はラクーン号を止める事を優先するはずだ」

「ならば我々が暴れれば意識を分散させられる」

 

 シンヤがニヤリと笑う。

 

「要するに派手に暴れろって事か」

「得意分野ですわね」

 

 サクラも端末を閉じながら微笑む。

 ゴートは静かに頷いた。

 

「やるしかない」

 

 ジョンは大きく息を吐いた。

 危険な作戦だ。

 だが。

 他に道は無い。

 窓の向こうでは、ジャークスピア艦隊が不気味な光を放ちながら待ち構えている。

 まるで巨大な怪物が口を開けているようだった。

 その時。

 通信回線から再びヤジー達の笑い声が流れる。

 

『YOYOォ!どうしたァ!?』

『ビビって動けねぇかァ!?』

『ライブ前に逃亡エンドかYO!!』

 

 下品な笑い声。

 ジョンは舌打ちした。

 

「……気に食わねぇ」

 

 操縦桿を握る手へ力が入る。

 デュミナスが立ち上がった。

 

「各機、出撃準備」

 

 その声で空気が変わる。

 休息時間は終わった。

 最後の突破戦が始まろうとしていた。

 

『総員戦闘配置』

『総員戦闘配置』

『外部敵性部隊接近中』

『発進シークエンスを開始します』

 

 重低音のような振動が床を伝う。

 格納庫前方隔壁。

 宇宙空間へ繋がる大型ハッチがゆっくり左右へ開いていった。

 その先には、漆黒の宇宙。

 

 そして。

 ジャークスピアの大艦隊。

 無数の推進炎が暗黒空間へ浮かび上がっている。

 改造ダートポッド。

 武装艦。

 大型砲台艇。

 それらを従えるように中央へ鎮座する巨大宇宙戦艦。

 まるで宇宙そのものへ巨大な牙を剥いている怪物だった。

 艦体各部には下品なネオンサイン。

 グラフィティ。増設スピーカー。そして巨大な“JERKSPEAR”のロゴ。

 暴走族の悪趣味をそのまま宇宙戦艦へ貼り付けたような外観だった。

 

 格納庫内部では四機のビートアロウが発進準備を完了している。

 白い流線型機体。

 青いライン。

 静かに唸る高性能エンジン。

 それぞれのコックピットへスカイピラーズの四人が搭乗していく。

 シンヤはヘルメットを脇へ抱えながら苦笑した。

 

「いやー、最後にしては派手すぎる歓迎会だな」

「歓迎というより処刑台ですわね」

 

 サクラが端末を閉じながら言う。

 

「敵影数、ざっと百以上。正面突破なんて普通はやりませんわ」

「普通ならな」

 

 ゴートが短く返す。

 その声は静かだったが、どこか重い迫力があった。

 シンヤは肩を竦める。

 

「でも俺達、普通じゃないだろ?」

 

 サクラが小さく笑った。

 

「それもそうですわね」

 

 その時。

 デュミナスがゆっくり前へ歩み出た。

 旧地球連合空軍ジャケットを羽織った男は、発進デッキ中央で足を止める。

 黒髪を後ろで束ねた長身。

 視力補助用仮面の奥から鋭い視線が仲間達を見渡した。

 格納庫内部の空気が変わる。

 誰も無駄口を叩かなくなった。

 ジョン達も上部モニター越しにその様子を見守っている。

 

「……やっぱ隊長って感じするな」

 

 ジョンがぼそりと呟く。

 セリアも頷いた。

 

「こういう時だけ異様にカッコいいよねぇ」

「こういう時“だけ”とは失礼ですわ」

「うげっ、地獄耳」

 

 サクラの通信越しの声が返ってきた。

 だが少し笑っている。

 デュミナスは静かに口を開いた。

 

「諸君」

 

 低く落ち着いた声が格納庫へ響く。

 

「敵は我々を圧倒的に上回る数を揃えている」

 

 前方モニターへ映るジャークスピア艦隊。

 まさに物量。

 まともに撃ち合えば押し潰される。

 

「火力も規模もこちらが劣る……しかし」

 

 デュミナスは続ける。

 

「我々が止まればラクーン号は突破できない。ポッピー嬢もイブバーチュへ辿り着けない」

 

 ポッピーが操縦席後方で息を呑む。

 自分の為にこの人達は命懸けで戦おうとしている。

 その事実が胸へ重く刺さっていた。

 デュミナスは仲間達を見回した。

 

「我々は何の為に飛ぶ」

 

 短い問い。

 シンヤがニヤリと笑う。

 

「金の為」

 

 サクラが続ける。

 

「依頼達成の為ですわ」

 

 ゴートの低い声。

 

「仲間を守る為だ」

 

 デュミナスは静かに頷いた。

 

「そうだ。ならばやるべき事は一つ」

 

 次の瞬間。

 その声が鋭く変わった。

 

「敵艦隊を突破し、ラクーン号の道を切り開く!」

 

 格納庫空気が震える。

 四機のビートアロウエンジンが一斉点火した。

 轟音。

 青白い推進炎が格納庫内部を照らし出す。

 機体が低く震えた。

 シンヤが操縦桿を握る。

 

「よっしゃ、暴れるか!」

 

 サクラがコンソールを叩く。

 

「電子戦支援開始しますわ」

 

 ゴートが静かに言う。

 

「各機連携を忘れるな」

 

 そして。

 デュミナスが前方宇宙を睨みつけた。

 

「スカイピラーズ――」

 

 一拍。

 

「戦闘開始!!」

 

 次の瞬間。

 四機同時発進。

 爆音と共にビートアロウ隊が格納庫から飛び出した。

 白い閃光。

 一直線に宇宙空間へ突き進んでいく。

 先頭を飛ぶデュミナス機。

 その後方へシンヤ機、サクラ機、ゴート機が続く。

 整然とした高速編隊飛行。

 まるで四本の白い矢だった。

 一方、ジャークスピア側も騒然となる。

 

『来たッス!!』

『うおォ!? 四機だけで突っ込んで来やがるYO!!』

『頭おかしいッス!!』

 

 ヤジーの笑い声が通信越しに響いた。

 

『ヒャハハハハ!!いいねェ!! そういう無茶嫌いじゃねぇZE!!全機迎撃!! ブッ潰せェ!!』

 

 無数のダートポッドが一斉起動。

 推進炎が暗黒宇宙へ咲き乱れる。

 ジャークスピア艦隊全体が動き始めた。

 その同時刻。

 ラクーン号機関部。

 外付け大型ブースターユニットが凄まじい駆動音を上げていた。

 

『ブースター出力上昇』

『推力限界値突破』

『船体フレーム負荷上昇』

 

 警告表示が次々点灯する。

 ジョンは操縦席で顔をしかめた。

 

「おいおいおい、大丈夫なんだろうなこれ!?」

「壊れる時は壊れる!」

 

 セリアが笑う。

 

「でも今は動くから平気!」

「説明が雑すぎる!」

 

 しかしそのセリアも真剣だった。

 敵布陣データ。

 突破ルート。

 敵機動予測。

 無数の計算結果が高速で処理され続けている。

 

「敵右翼展開速度低下確認」

「今なら通れる!」

 

 ジョンが歯を食いしばる。

 

「……やるぞ」

 

 モニター前方では既に戦闘が始まっていた。

 ビートアロウ隊が敵先頭集団へ突入している。

 レーザー光。

 爆発。

 火花。

 宇宙空間へ無数の閃光が咲いた。

 

『ブースター点火五秒前』

 

 カウント開始。

 

『四』

 

 ジョンが操縦桿を握り締める。

 

『三』

 

 ポッピーが祈るように拳を握る。

 

『二』

 

 デュミナス機が敵編隊中央へ突撃する。

 

『一』

 

 静寂。

 

『ブースター点火』

 

 瞬間。

 ラクーン号後部から巨大な推進炎が噴き上がった。

 轟音。衝撃。

 船体全体が激しく震える。

 

「うおおおおっ!?」

 

 ジョンの身体がシートへ叩きつけられる。

 ラクーン号が猛烈な加速を開始した。

 旧式ジャンク回収船とは思えない速度。

 船体後方へ長大な光の尾を引きながら、ラクーン号はジャークスピア艦隊へ向かって突撃していく。

 その前方では、四機のビートアロウが巨大艦隊へ真正面から挑みかかっていた。

 最後の決戦が始まった。

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