宇宙小市民物語スターエイジ・フールマンズ 作:アイアイホイホイおさるさん
ジャークスピア艦隊とスカイピラーズの激突によって、惑星イブバーチュを眼前に控えたこの宙域は完全な戦場へ変貌していた。
レーザー光が幾筋も闇を切り裂く。
爆発。
閃光。
破砕された装甲片。
撃墜されたダートポッドの残骸が赤熱しながら宇宙空間を漂ってゆく。
その戦場の中心を、四筋の白い光が駆け抜けていた。
ビートアロウ。流線型の白い機体、青い差し色の全領域対応型多目的戦闘機。スカイピラーズの主戦力である四機の機体。
四機は全て同型であり、本来性能に大きな差はない
だが、戦場を舞う彼等のその動きは四機四様だった。
操縦するパイロットの個性によって、同じ機体とは思えないほど戦い方が違う。
『囲め囲めェ!!』
『四機だけだYO!!』
『数で押し潰すッス!!』
ジャークスピア構成員達の怒号が飛び交う。
無数のダートポッドが散開し、一斉にレーザー砲火を浴びせた。
宇宙空間が光で埋まる。
普通のパイロットなら回避不能。
だが。
先頭を飛ぶデュミナス機は、その弾幕へ真正面から飛び込んだ。
白いビートアロウが僅かに傾く。
機首が数度動く。
それだけで、殺到するレーザーが紙一重で外れていく。
まるで敵弾道そのものを見切っているかのような機動だった。
『なっ!?』
『避けた!?』
『ありえねぇYO!!』
敵が狼狽する。
その瞬間。
デュミナス機のレーザーバルカンが閃いた。
短く、正確な射撃。
三機のダートポッドがほぼ同時に爆散する。
爆炎が咲く。
デュミナスは無駄に追撃しない。
次の敵。
次の配置。
次の射線。
全てを冷静に把握しながら飛んでいた。
『右側編隊、密集』
『サクラ、崩せるか』
『お任せくださいまし』
直後。
後方宙域で電子障害が発生した。
『うおっ!?』
『レーダー狂った!?』
『照準補正が死んだッス!!』
サクラ機だった。
同じビートアロウ。
だがその戦い方はまるで違う。
サクラ機は敵集団の外縁を滑るように飛行しながら、電子戦用装備を駆使していた。
妨害電波。
欺瞞信号。
センサー撹乱。
敵機同士の通信網が乱れ始める。
『左へ回れYO!!』
『右ッス右!!』
『誰だ今ぶつかったの!?』
混乱。
統率が崩れる。
ダートポッド同士が衝突し、火花を散らしながら爆発した。
サクラがくすりと笑う。
「ふふっ♪数だけでは勝てませんわよ?」
その隙を突いた。
一機のビートアロウが高速で敵陣へ飛び込む。
シンヤ機だった。
『オラァ!!』
シンヤの叫びと同時に、白い機体が常識外れの軌道を描く。
急旋回。
上下反転。
デブリの隙間を縫う超高速機動。
同じビートアロウとは思えないほど鋭い。
敵機の至近距離を掠めながら次々レーザーを撃ち込んでいく。
『速ぇ!?』
『なんだその動きYO!!』
『捕まんねぇッス!!』
シンヤは笑っていた。
楽しんでいる。
敵の死角へ潜り込み。
背後へ回り込み。
至近距離からレーザーを叩き込む。
爆発の炎を掠めながら再加速。
その操縦は曲芸に近かった。
「まだまだァ!!」
白いビートアロウが閃光となって宙域を駆け抜ける。
一方。
前線中央。
ゴート機が敵部隊を押し返していた。
同じビートアロウ。
同じ武装。
だが、ゴートの戦い方は他三人とまるで違う。
最低限の回避だけで砲火を受け流しながら前進。
重い。
とにかく重厚だった。
『止まんねぇ!?』
『突っ込んで来るYO!!』
敵砲火を掻い潜りながらゴート機が接近する。
そして。
プロトンランチャー発射。
重い閃光が走った。
直撃したダートポッド数機がまとめて吹き飛ぶ。
爆炎が宇宙空間へ広がった。
「前へ出すな」
ゴートの低い声。
次の瞬間。
ゴート機が敵編隊へ真正面から突撃した。
ダートポッドを体当たり同然に弾き飛ばしながら突破していく。
同じビートアロウとは思えないほど圧力のある戦い方だった。
ラクーン号操縦席。
ジョンは呆然としていた。
「……同じ機体なんだよな?」
「そうだよ?」
セリアが笑う。
「でも乗る人間が違えばこうなる」
ジョンは前方モニターを見つめた。
四機とも同じビートアロウ。
同じ白い戦闘機。
だが。
動き。戦い方。空気。
全てが違う。
デュミナスは精密無比。
サクラは知略。
シンヤは超機動。
ゴートは圧力。
それぞれが異なる役割を担い、互いを補完し合っている。
だから強い。
『ラクーン号』
通信回線へデュミナスの声が入る。
『敵前衛を崩した』
『今の内に進め』
「了解!」
ジョンが操縦桿を押し込む。
ラクーン号後部ブースターが唸りを上げた。
巨大な推進炎が噴き出す。
船体が加速。
ジャークスピア艦隊の隙間へ突っ込んでいく。
その前方では。
四機のビートアロウが、なおも巨大艦隊を切り裂き続けていた。
だが。
そのさらに奥。
巨大宇宙戦艦艦橋で。
ヤジー・ドッコはモニター越しにその光景を眺めながら、不気味に笑っていた。
『ヒャハハ……』
鋭く歪む口元。
『いいねェ……やっぱ祭りはこうじゃねぇとなァ!!』
ジャークスピア艦隊中央。
巨大宇宙戦艦艦橋。
薄暗いブリッジ内部では、下品なネオンと爆音じみた音楽が鳴り響いていた。
壁にはスプレーで描かれた落書き。
乱雑に転がる酒瓶。
正規軍の艦橋とは似ても似つかない。
暴走族の根城そのものだった。
その中央。
艦長席へふんぞり返るヤジー・ドッコは、モニターに映る戦場を見ながら楽しげに肩を震わせていた。
『ヒャハハハ!!』
モニターの中では、四機のビートアロウが縦横無尽に暴れ回っている。
白い機影が閃く度に、ダートポッドが爆発する。
数で押し潰すはずだった包囲陣形は、既にあちこちが食い破られていた。
『なんだアイツらァ!!楽しそうじゃねぇかYO!!』
ヤジーは歯を剥き出しにして笑う。
その瞳には苛立ちと興奮が同時に宿っていた。
『雑魚共だけじゃ話になんねぇなァ!!』
次の瞬間、ヤジーは勢いよく立ち上がった。
『艦を前に出す!!』
艦橋内がざわめく。
『ヤ、ヤジーさん!?』
『マジで前出るんスか!?』
『相手戦闘機ッスよ!?』
『うるせェ!!』
ヤジーが怒鳴る。
『祭りってのはよォ!!主役が前に出てナンボだろォ!?』
その叫びと同時に、巨大宇宙戦艦が動き始めた。
全長三百メートル級の巨体。
無数のスラスターが青白く点火する。
重厚な装甲を軋ませながら、ジャークスピア旗艦が前進を開始した。
まるで巨大な怪獣が宇宙を泳ぐようだった。
戦場中央。
その異変にデュミナスが気づく。
『……敵旗艦前進、ヤジー本人が来る気か』
シンヤが笑う。
『おっ、ラスボス登場ってやつ?』
『派手で結構ですわね』
サクラも皮肉混じりに返した。
だが。
巨大戦艦が前進した事で、ジャークスピア艦隊全体の陣形が乱れ始める。
本来ラクーン号を封鎖する為に組まれていた包囲網。
その中心が動いた事で、統率に歪みが生じていた。
しかもヤジー自身がスカイピラーズとの戦いへ夢中になっている。
『全部隊ィ!!』
『アイツら四機を潰せェ!!』
命令が飛ぶ。
大量のダートポッドがビートアロウ隊へ殺到する。
結果。
ラクーン号側への圧力が一気に薄くなった。
ラクーン号操縦席、セリアが目を見開く。
「ジョン!包囲網に穴!」
前方モニター。
敵艦隊陣形に生じた僅かな隙間。
突破可能。
ジョンが即座に操縦桿を握り直した。
「今しかねぇ!!」
ラクーン号後部ブースターが唸りを上げる。
推進炎がさらに巨大化した。
船体加速。
ジャークスピア艦隊の隙間へ向かって突っ込んでいく。
『うおっ!?』
『オンボロ宇宙船行ったYO!!』
『止めろォ!!』
数機のダートポッドが慌てて追撃へ移る。
レーザー光が飛来。
船体後方を掠めた。
警告音。ジョンが歯を食いしばる。
「クソッ、まだ来るか!」
「このままだと追いつかれる!」
セリアの声。
ブースターユニットは強力だ。
だが巨大な分、機動性を大きく落としている。
そこへ。
ジョンの脳裏へある考えが閃いた。
「……セリア」
「ブースター切り離しできるか?」
「え?」
「アイツらにくれてやる」
セリアが一瞬ぽかんとした後、ニヤリと笑った。
「なるほど……そういう雑な作戦好きよ」
ジョンが叫ぶ。
「切り離せぇ!!」
次の瞬間。
ラクーン号後部で巨大な火花が散った。
固定ボルト爆破。
大型ブースターユニットが船体から分離される。
『なっ!?』
『ブースター外したッス!?』
追撃していたダートポッド隊が狼狽する。
だが。
切り離された巨大ブースターは、なおも凄まじい速度で推進を続けていた。
しかも真正面から敵編隊へ向かって。
『うおおおっ!?』
『避け――』
間に合わない。
巨大質量がそのまま激突した。
轟音。
爆発。
ブースターユニットが大火球となって炸裂する。
巻き込まれたダートポッド数機がまとめて吹き飛んだ。
残骸と火炎が宇宙空間へ広がる。
ジョンが叫ぶ。
「今だァ!!」
ラクーン号が爆炎の中を突き抜ける。
加速。
突破。
その瞬間。
前方モニターへ巨大な惑星が映り込んだ。
青と緑に彩られた美しい星。
イブバーチュ。
目的地だった。
セリアが声を上げる。
「領域到達確認!イブバーチュ宙域に入った!」
ポッピーが息を呑む。
ようやく。ようやく辿り着いた。
その後方では。
なおも四機のビートアロウがジャークスピア艦隊を相手に戦い続けていた。