宇宙小市民物語スターエイジ・フールマンズ   作:アイアイホイホイおさるさん

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 宇宙要塞ゴッド・オブ・ジャスティス。

 その中枢区画に存在する司令室は、宗教施設と軍事基地を無理矢理融合させたような異様な空間だった。

 巨大なホログラムモニター。

 立体投影される宙域マップ。

 無数の制御卓。

 そして壁面には、オーラ教の紋章がまるで神聖画のように掲げられている。

 軍事施設でありながら、どこか礼拝堂めいた空気を漂わせていた。

 

 その司令席に腰掛けているのは、ジバード・ダルケン。

 褐色の肌。

 鋭い眼光。

 軍人らしく鍛え上げられた体躯。

 セントクルセイダース総司令官としての威圧感が、静かに周囲を支配していた。

 彼は腕を組みながら、正面モニターを眺めている。

 そこに映し出されているのは、公開処刑場の映像だった。

 スタジアム中央。一方的に打ち据えられるジョン・サトウ。歓声を上げる観客達。

 まさしく見世物。ジバードはその様子を見て、薄く笑った。

 

「愚かな男だ」

 

 側近の兵士が恭しく頷く。

 

「異端者に相応しい末路です」

「銀河社会の連中は甘い」

 

 ジバードは淡々と語る。

 

「秩序を守るには、恐怖が必要だ。見せしめは実に効率的な教育となる」

 

 モニターの中で、ジョンが再び床へ叩き伏せられる。

 観客席から大歓声。

 ジバードは満足げに目を細めた。

 

「この映像を全土へ流し続けろ。逆らえばどうなるか、民衆に徹底的に理解させるのだ」

「はっ」

 

 その時だった。

 突然、司令室内に鋭い警報音が鳴り響いた。

 

 ビーッ! ビーッ! ビーッ!

 

 赤色警告灯が点滅する。

 空気が一変した。

 兵士達が一斉にざわつく。

 

「な、何事だ!?」

「警報!?」

 

 オペレーター席の兵士が慌ててコンソールを操作する。

 

「ジバード司令!要塞内部各区画にて戦闘発生!」

「何?」

 

 ジバードの眉が動く。

 

「侵入者か?」

「不明です!」

「警備ドローン群が突如制御不能に!」

「内部兵士への攻撃を開始しています!」

 

 一瞬、司令室の空気が凍り付いた。

 

「……なんだと?」

 

 モニターが自動的に切り替わる。

 映し出されたのは、要塞内部の監視映像。

 そこでは。

 球形警備ドローンが赤いセンサーを点滅させながら、セントクルセイダース兵士へレーザーを乱射していた。

 

 ギュン! ギュン!

「うわああっ!?」

「味方だ! 撃つな!」

「止まれ! 止ま――ぎゃあああっ!!」

 

 通路で兵士が撃ち倒される。

 別区画では監視ドローンが機銃を乱射。

 整備班へ襲いかかっていた。

 火花。

 爆発。

 悲鳴。

 司令室の空気が騒然となる。

 

「バカな!」

「IFF識別が狂っているのか!?」

「全区画で同時発生しています!」

「制御を取り戻せません!」

 

 ジバードの表情が険しくなった。

 

「システム攻撃だな……誰がやった」

 

 その瞬間だった。

 司令室モニターの一つが突然ノイズに包まれる。

 バチバチッ、と火花のような映像乱れ。

 直後。

 画面中央に、一体のお掃除ロボが映し出された。

 丸っこいボディ。

 バケツを被ったような頭部。

 場違い極まりない外見。

 だが、その電子音声には妙な威厳があった。

 

『フハハハハ!愚かなるバケツ頭共よ!ワガハイを甘く見たな!』

 

 司令室が静まり返る。

 バケツ頭、それは解放同盟のような反政府勢力がセントクルセイダースを指して言う蔑称である。組織と宗教を妄信し、自分で考える事をしないという意味を含んでいる。

 

「……お掃除ロボ?」

 

 誰かが呟いた。

 だがジバードだけは即座に察する。

 

「エシモフ軍曹か」

 

 画面の中で、お掃除ロボ――エシモフ軍曹が偉そうに胸を張った。

 

『その通り!解放同盟所属、誇り高きロボット兵士………エシモフ軍曹である!』

 

 そして得意げに続ける。

 

『貴様らの使っておる警備ドローン、監視システム、警戒AI……その大半が宇宙戦争時代の民生技術ベースで構築されておる!しかもセキュリティ更新すら碌にされておらん!これではワガハイからすれば鍵の開いた金庫同然よ!』

 

 司令室がざわめく。

 

「な……!」

「ハッキングだと!?」

『自然を重んじるあまり技術軽視とは実に結構!お陰で助かったぞ!』

 

 エシモフ軍曹はケタケタ笑う。

 その間にも、別モニターでは警備ドローンが味方を撃ち続けていた。

 廊下で爆発。

 逃げ惑う兵士。

 転倒する整備員。

 要塞内部は完全に混乱状態へ陥っていた。

 

「司令! 第七区画封鎖不能!」

「格納庫でも戦闘発生!」

「ドローンが次々暴走しています!」

「発電区画でも銃撃戦が――!」

 

 怒号が飛び交う。

 警報が鳴り止まない。

 司令室の秩序が崩れ始めていた。

 ジバードは険しい顔でモニターを睨む。

 

「……小癪な真似を」

 

 対するエシモフ軍曹は、どこか楽しげだった。

 

『さて、それではワガハイは忙しいのでな!作戦を続行するとしよう。まあせいぜい頑張って右往左往したまえ!』

 

 ブツン、と通信が切れる。

 同時に、別区画で爆発音が響いた。

 ゴッド・オブ・ジャスティス内部は、今まさに大混乱へ突入しようとしていた。

 

 

 ***

 

 

 巨大スタジアムに、金属音が何度も響き渡っていた。

 

 ガギィン!!

 

 剣と剣がぶつかり合い、火花が散る。

 だが、それは“戦い”と呼ぶにはあまりにも一方的だった。

 

「ぐっ……!」

 

 ジョン・サトウは荒い息を吐きながら、どうにかセントクルセイダース兵の斬撃を受け止める。

 腕が痺れる。

 肩が痛い。

 握力も限界だった。

 まともに剣など握った事のないジャンク屋が、日々訓練を積んだ兵士に勝てるはずがない。

 観客席からは熱狂した歓声が飛ぶ。

 

「やれぇぇぇ!!」

「異端者を浄化しろ!」

「オーラは最も偉大なり!」

 

 耳障りな怒号。

 叫び。

 笑い声。

 ジョンは歯を食いしばった。

 

(クソ……!)

 

 再び兵士が踏み込む。

 速い。

 鋭い。

 ジョンが反応するより早く剣閃が迫る。

 

 ガン!!

「がぁっ!!」

 

 ジョンの剣が弾かれる。

 直後、兵士の蹴りが腹へ叩き込まれた。

 鈍い衝撃。

 胃の中身が逆流しそうになる。

 ジョンの身体が床を転がった。

 観客席から大歓声が上がる。

 

「いいぞ!」

「もっとやれ!」

「異端者は弱い!」

 

 兵士はゆっくり歩み寄ってきた。

 まるで余裕を見せつけるように。

 

「立て。終わりではないぞ、異端者」

 

 ジョンは床に手をつきながら、どうにか顔を上げる。

 頬から血が垂れていた。

 肋骨も痛む。

 呼吸の度に胸が軋む。

 

「……ちくしょう」

 

 兵士が剣を肩へ担ぐ。

 

「貴様の死は、全土へ放送されている。オーラに逆らう愚か者の末路としてな」

「へぇ……」

 

 ジョンは苦笑した。

 

「趣味悪ぃ宗教だな」

 

 兵士がゆっくり剣を構え直す。

 

「これも救済だ、異端者の魂を正しき道へ導く為の――」

 

 その瞬間だった。

 スタジアム全体へ、鋭い警報音が響き渡る。

 

 ビーッ!! ビーッ!! ビーッ!!

 

 赤色灯が点滅した。

 空気が変わる。

 観客席がざわついた。

 

「なんだ?」

「警報?」

「敵襲か?」

 

 ジョンも顔を上げる。

 次の瞬間。

 スタジアム後方ゲートが爆発するような勢いで開いた。

 

 ゴンッ!!

 

 そこから雪崩れ込んできたのは――大量のお掃除ロボだった。

 

「…………は?」

 

 ジョンが間抜けな声を漏らす。

 丸っこい民生用ボディ。

 安っぽい外装。

 家庭用清掃ロボそのもの。

 そんな連中が隊列を組み、ぞろぞろと突撃してきていた。

 しかもその後方には、武装警備ドローンの大群。

 赤いセンサーを点滅させながら浮遊している。

 そして先頭。

 ひときわ偉そうに進んでくる一体。

 

『フハハハハ!!待たせたなジョン君!!』

 

 エシモフ軍曹だった。

 ジョンが目を見開く。

 

「軍曹!?」

『救出作戦開始である!!』

 

 次の瞬間。

 警備ドローン群が一斉にレーザーを乱射した。

 

 ギュン!! ギュギュン!!

「ぐあっ!?」

「な、なんだこれは!?」

「警備ドローンが暴走している!!」

 

 セントクルセイダース兵達が次々撃ち倒される。

 爆発。

 火花。

 悲鳴。

 さっきまで熱狂していた観客席が、一瞬で恐慌状態へ変わった。

 

「きゃあああ!!」

「逃げろ!!」

「助けて!!」

 

 人々が我先に出口へ殺到する。

 将棋倒し。

 怒号。

 泣き声。

 スタジアム全体がパニックに包まれていく。

 ジョンは呆然とその光景を見ていた。

 

「いや待て待て待て……何だこの絵面……!」

 

 エシモフ軍曹は満足げだった。

 

『どうだね!敵内部ネットワークへ侵入し、警備システムを完全掌握したのである!このお掃除ロボ軍団も、今やワガハイ直属部隊よ!』

「直属部隊って……!」

『掃除機は数が揃うと強いのだ!』

 

 実際強かった。

 警備ドローンが容赦なく兵士達を撃ちまくっている。

 お掃除ロボ達も体当たりしたり、床洗浄液をぶちまけたりして地味に妨害していた。

 

「滑る!?」

「うわぁっ!!」

 

 兵士が転倒し、その上へ警備ドローンのレーザーが降り注ぐ。

 完全な地獄絵図だった。

 その時。

 エシモフ軍曹のアームが何かを持ち上げる。

 

『ジョン君!!これを受け取れぇぇい!!』

 

 ブンッ!!

 何かが回転しながら飛んできた。

 ジョンは反射的に掴み取る。

 

「っ!」

 

 レーザーピストル。

 没収されていた、自分の護身用武器だった。

 

「軍曹、お前……!」

『回収しておいた!やはり男は愛銃が一番である!』

 

 その瞬間。

 

「異端者あああああああっ!!」

 

 セントクルセイダース兵が怒声と共に斬り掛かってくる。

 ジョンは即座にピストルを構えた。

 引き金。

 

 ギュン!!

 

 赤い閃光。

 兵士の肩装甲が爆ぜる。

 

「がっ!?」

 

 よろめいた所へ二発目。

 

 ギュン!!

 

 ヘルメットが焼き抜かれ、兵士は崩れ落ちた。

 ジョンは息を吐く。

 剣より遥かにしっくり来る。

 

「……やっぱ銃だな」

『だから言ったであろう!』

 

 さらに別の兵士達が集まってくる。

 

「逃がすな!」

「撃てぇ!!」

 

 レーザー弾が飛ぶ。

 ジョンは咄嗟に身を伏せた。

 その頭上を警備ドローンの援護射撃が通過する。

 

 ギュギュン!!

「ぐわっ!?」

「味方ドローンだぞ!?」

『もう味方ではないがな!!』

 

 エシモフ軍曹が愉快そうに笑う。

 スタジアムは完全に崩壊状態だった。

 逃げ惑う観客。

 暴走するドローン。

 爆発する設備。

 響き渡る警報。

 ジョンは苦笑混じりに言った。

 

「公開処刑がここまで台無しになるとはな……」

『派手な方が面白い!』

「お前絶対楽しんでるだろ!」

『当然である!!』

 

 エシモフ軍曹がアームを振る。

 

『ジョン君!脱出するぞ!要塞全体を混乱状態へ叩き込んである!今なら逃げられる!』

 

 ジョンはレーザーピストルを構え直した。

 

「分かった!行くぞ軍曹!」

『うむ!!』

 

 お掃除ロボの小さな車輪が高速回転する。

 ジョンはレーザーを撃ちながら走り出した。

 背後ではなおも悲鳴と爆発音が鳴り響いている。

 公開処刑場は今や、狂気と混乱の坩堝へ変わっていた。

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