宇宙小市民物語スターエイジ・フールマンズ   作:アイアイホイホイおさるさん

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67.

 宇宙空間に、巨大な爆炎が広がっていた。

 グランドスラム級宇宙戦艦一番艦アハマド。そして二番艦ムハンマド。

 セントクルセイダース艦隊の中核を担う超弩級戦艦同士が激突した事によって生じた衝撃は、戦場全体へ凄まじい動揺を与えていた。

 宇宙へ散らばる装甲破片。

 吹き飛ぶ砲塔。

 断続的に起こる誘爆。

 巨大艦の片側装甲が裂け、その内部構造が剥き出しになっている。

 アハマドの姿勢は大きく傾き、メインスラスターの一部からは制御不能な噴射炎が噴き出していた。

 ムハンマド側も衝突によって艦首装甲が歪み、複数の砲塔が沈黙している。

 まさに大事故だった。

 それを目撃したセントクルセイダース艦隊司令部は、一瞬完全に混乱していた。

 

『アハマド応答せよ!!』

『ムハンマド、状況を報告しろ!!』

『駄目です! 内部通信が混線しています!!』

『推進制御系に深刻な損傷!!』

『両艦とも姿勢維持不能!!』

 

 通信士達の悲鳴じみた声が飛び交う。

 ゴッド・オブ・ジャスティス司令室でも空気が張り詰めていた。

 ジバード・ダルケンは険しい顔でメインモニターを睨みつけている。

 普段は冷静な男だったが、流石にこの状況は想定外だった。

 

「何が起きた……?」

 

 低い声。

 怒気を押し殺した響き。

 オペレーターが慌てながら答える。

 

「Hファイター一機がアハマド後部へミサイル攻撃を行い、その影響で推進器が損傷……」

「そのままムハンマドへ衝突しました……!」

「Hファイターだと?」

 

 ジバードの眉が歪む。

 信じ難かった。

 グランドスラム級は、セントクルセイダース最大級戦力である。

 並の戦闘機程度では傷一つ付けられない。

 それが、たかがHファイター一機の攻撃で大混乱に陥った。

 しかも、よりにもよって味方艦同士の衝突。

 屈辱以外の何物でもない。

 

「無様な……」

 

 ジバードが低く呟く。

 その時だった。

 

『敵艦隊前進!!』

『解放同盟側、攻勢へ移行!!』

 

 オペレーターの叫び。

 直後、メインモニター上の戦況図が一気に変化した。

 今まで押されていた解放同盟艦隊が、まるで獲物を見つけた肉食獣のように一斉前進を開始したのだ。

 ――当然だった。

 グランドスラム級二隻は、セントクルセイダース側における精神的支柱でもあった。

 圧倒的火力。

 圧倒的装甲。

 圧倒的威圧感。

 それが存在するだけで、解放同盟側は正面突破を躊躇せざるを得なかった。

 だが今、その鉄壁が崩れた。

 ならば攻めるしかない。

 解放同盟側旗艦。

 ボレロ級改強襲揚陸艦艦橋。

 ギャタ・ザ・ダービーは、崩れた敵陣形を見ながら静かに口元を吊り上げていた。

 

「……来たね」

 

 彼の目が鋭く光る。

 周囲のオペレーター達も気付いていた。

 戦況が変わった。

 明らかに。

 

「ダービー卿!敵陣形に乱れ!」

「ムジカ級艦隊の連携も低下しています!」

「当然だろう」

 

 ダービーは冷静に言う。

 

「グランドスラム級は彼等の“絶対”だった。その絶対が崩れた以上、人は動揺する」

 

 そして、戦場における動揺は致命的だ。

 

「全艦前進」

「今こそ押し切る」

 

 その命令と同時に、解放同盟艦隊が一斉に加速した。

 ボレロ級改強襲揚陸艦群が前へ出る。

 巡航ミサイル発射。

 無数の軌跡が宇宙を走った。

 さらにHファイター部隊が突撃する。

 その先頭を飛ぶのはアメリア機だった。

 

「今よ!!」

 

 アメリアが叫ぶ。

 

「一気に行く!!」

 

 Hファイター隊が散開しながら敵艦隊へ突入する。

 レーザーバルカン。

 ミサイル。

 宇宙空間に光が乱舞した。

 ダートファイター部隊も迎撃するが、先程までの勢いがない。

 連携が乱れている。

 動きが鈍い。

 そこをアメリア達は逃さない。

 

「どきなさい!!」

 

 アメリア機が急旋回。

 背後を取る。

 レーザーバルカン発射。

 

 ギュギュギュギュン!!

 

 二機のダートファイターが爆散した。

 別空域ではジョン機も戦闘へ加わっていた。

 

「うおぉっ!?」

 

 ジョンは半ば悲鳴を上げながら操縦桿を握っている。

 周囲を飛び交うレーザー。

 爆発。

 破片。

 完全に戦場の真っ只中だ。

 

『右だジョン君!』

「分かってる!!」

 

 ジョンが機体をロールさせる。

 敵レーザーを回避。

 直後、エシモフ軍曹が補助照準を起動した。

 

『今だ、撃て!』

「っ!」

 

 ジョンが引き金を引く。

 ギュン!!

 ダートファイター一機が火球へ変わる。

 

「当たった!?」

『だから言ったであろう』

「いやお前普通にすげぇな!?」

 

 ジョンは思わず叫ぶ。

 だが戦況を見る余裕もない。

 次から次へと敵機が飛んでくる。

 しかし。

 押している。

 確実に。

 先程までとは違う。

 セントクルセイダース側の動きが鈍い。

 混乱している。

 その隙を解放同盟側が徹底的に突いていた。

 

 さらに。

 ゴッド・オブ・ジャスティス内部でも混乱は続いていた。

 警備ドローン暴走。

 内部システム障害。

 通信遅延。

 加えて艦隊指揮系統の混乱。

 巨大要塞は徐々に統制を失いつつあった。

 その状況を見たダービーが静かに呟く。

 

「崩れ始めたな」

 

 鉄壁だったはずの防衛線。

 絶対だったはずの戦力。

 それが、ほんの小さな綻びから崩壊し始めている。

 そして一度崩れた流れは、そう簡単には止まらない。

 宇宙戦争において重要なのは火力だけではない。

 士気。

 勢い。

 混乱。

 恐怖。

 そういった“流れ”こそが、時に戦局そのものを決定付ける。

 今、その流れは確実に解放同盟側へ傾き始めていた。

 

 そしてその光景を、ゴッド・オブ・ジャスティス司令室で見つめる男がいる。

 ジバード・ダルケン。

 セントクルセイダース司令官。

 彼は険しい顔でメインモニターを睨みつけていた。

 

「……何をしている」

 

 低い声。

 怒気を押し殺したような響き。

 

「なぜ押し返せん」

 

 オペレーター達は顔色を青くしながら必死に端末を叩いている。

 

「だ、ダートファイター第三中隊壊滅!」

「ムジカ級二番艦被弾!」

「解放同盟艦隊、中央突破を開始しています!」

「迎撃しろ!!」

 

 ジバードが怒鳴る。

 

「グランドスラム級は何をしている!?」

「アハマドは依然姿勢制御不能!」

「ムハンマドも損傷が激しく……!」

「役立たず共が……!」

 

 ジバードの拳がコンソールを叩いた。

 鈍い音。

 周囲が凍り付く。

 焦っていた。

 明らかに。

 彼にとって、今の戦況は悪夢だった。

 ゴッド・オブ・ジャスティス。グランドスラム級。セントクルセイダース。

 絶対的戦力を揃えたこの戦場で、まさか解放同盟ごときに押されるなど、本来あり得ない。

 

 だが現実は違った。

 戦場は混乱している。

 統制が崩れている。

 そしてその原因の多くが、たった一体のお掃除ロボから始まっている事実が、ジバードの神経を逆撫でしていた。

 

「エシモフ……!」

 

 低く吐き捨てる。

 あのロボット。解放同盟の亡霊。伝説の軍人シュン・ヒラノの残滓。

 あれさえいなければ。

 その時だった。

 

「司令!」

 

 通信士が叫ぶ。

 

「オメガ砲、エネルギー充填完了しました!」

 

 司令室の空気が変わった。

 ジバードの目が見開かれる。

 次の瞬間、彼は即座に叫んだ。

 

「発射準備!」

 

 周囲がざわめく。

 

「し、しかし!」

「現在味方艦が前方宙域に多数存在します!」

「この状態で撃てば――」

「構わん」

 

 ジバードが言い切った。

 その声に迷いはない。

 

「オメガ砲を発射する」

「しかし……!」

「聞こえなかったか?」

 

 ジバードの視線がオペレーターへ突き刺さる。

 冷たい。

 殺意すら感じる視線だった。

 

「これは命令だ」

 

 司令室が静まり返る。

 逆らえない。誰も。

 セントクルセイダースにおいて、ジバードの命令は絶対だった。

 

「……オメガ砲、発射シークエンス開始」

 

 オペレーターが震える声で入力する。

 ゴッド・オブ・ジャスティス内部で巨大なエネルギーが動き始めた。

 低い駆動音。振動。

 莫大な出力が主砲へ集中していく。

 宇宙要塞中央部。

 超巨大レーザー主砲オメガ砲がゆっくり展開を始める。

 その砲身周囲に膨大な光が集束していった。

 それを見た解放同盟側が騒然となる。

 

「オメガ砲だ!!」

「まずい!」

「撃たれるぞ!!」

 

 艦隊各所に緊張が走る。

 だが。その瞬間だった。

 ゴッド・オブ・ジャスティス内部で異常警報が鳴り響く。

 

『警告』

『エネルギー制御異常』

『炉心出力不安定』

「……何?」

 

 ジバードが眉をひそめる。

 

「どうした」

「わ、分かりません!」

「エネルギー流制御系が……!」

 

 次の瞬間。

 ゴッド・オブ・ジャスティス全体が激しく震えた。

 

 ゴゴゴゴゴゴ……!!

 

 照明が明滅する。

 コンソールが火花を吹く。

 

『危険』

『エネルギー逆流発生』

『制御不能』

「逆流だと!?」

 

 ジバードが叫ぶ。

 オペレーター達が悲鳴を上げる。

 

「だ、駄目です!!」

「止まりません!!」

「炉心出力が主砲側から逆流しています!!」

「何故こんな事が起きる!?」

 

 その瞬間。

 ジバードの脳裏に、ある存在が浮かんだ。

 小さな、お掃除ロボ。

 赤いセンサーアイ。

 尊大な喋り方。

 エシモフ軍曹。

 

「……貴様か」

 

 ジバードの顔が歪む。

 

「エシモフぅぅぅぅ……!!」

 

 怒声。憎悪。理解した。

 やられたのだ。

 あのロボットに。

 内部システムへ侵入された時点で、既に仕掛けは終わっていた。

 

「異教徒風情が……旧時代の亡霊がぁぁぁ!!」

 

 ジバードが叫ぶ。

 だがもう遅い。

 オメガ砲へ集中した超膨大エネルギーは、制御を失ったまま逆流を続けていた。

 限界を超えた出力が炉心へ叩き返される。

 

『炉心崩壊まで三十秒』

『二十九』

『二十八』

「止めろ!!」

「何とかしろ!!」

「無理です!!」

 

 司令室は完全なパニックに陥っていた。

 火花。爆発。煙。

 床が歪む。

 隔壁が吹き飛ぶ。

 巨大要塞そのものが悲鳴を上げていた。

 ジバードはなおもコンソールへしがみつく。

 

「こんな……!こんな結末が認められるか!!」

 

 だが宇宙は無情だった。

 次の瞬間。

 ゴッド・オブ・ジャスティス中心部が閃光を放つ。

 そして――。

 

 ドゴォォォォォォォォォン!!!!!!

 

 超巨大爆発。

 オメガ砲が内側から吹き飛んだ。

 続いて炉心誘爆。

 巨大宇宙要塞全体へ爆炎が広がる。

 装甲が裂ける。

 砲塔が吹き飛ぶ。

 内部ブロックが次々崩壊していく。

 ゴッド・オブ・ジャスティス。

 バスタゴア圏支配の象徴。

 圧政の象徴。

 その巨大要塞は、内側から崩壊を始めていた。

 ジバードは燃え上がる司令室の中で、なおも歯を剥いていた。

 

「エシモフ……!貴様だけは……!」

 

 だが言葉は最後まで続かなかった。

 轟音。

 爆炎。

 崩落。

 司令室そのものが飲み込まれる。

 そしてジバード・ダルケンの姿は、巨大爆発の中へ消えていった。

 

 一方、外宇宙。

 その光景を見た解放同盟側では歓声が上がっていた。

 

「やったぞ!!」

「ゴッド・オブ・ジャスティスが沈む!!」

「成功だ!!」

 

 ギャタ・ザ・ダービーは静かに目を細める。

 

「……終わったか」

 

 長かった。

 多くが死んだ。

 多くを失った。

 だが。

 今、確かに巨大要塞は崩壊している。

 

「………全艦急速旋回」

 

 ダービーが命じる。

 

「戦域を離脱する!」

 

 既に目的は達した。

 これ以上留まる意味はない。

 解放同盟艦隊は一斉に反転を開始した。

 ボレロ級。Hファイター隊。

 生き残った艦艇達が次々離脱していく。

 

 その背後で。

 ゴッド・オブ・ジャスティスはなおも爆発を続けていた。

 まるで、圧政そのものが燃え尽きていくかのように。

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