宇宙小市民物語スターエイジ・フールマンズ   作:アイアイホイホイおさるさん

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 ゴッド・オブ・ジャスティス崩壊から数日後。

 銀河社会は大きく揺れていた。

 

 解放同盟によって公開された“Xファイル”。

 それは単なる内部告発データではなかった。

 

 ガルダ党内部で長年行われていた児童婚。

 孤児売買。

 人身売買。

 誘拐。

 性的搾取。

 それらの記録が、映像・音声・金銭取引データに至るまで詳細にまとめられていたのである。

 しかも、その中には銀河社会各地の人身売買組織との繋がりや、一部銀河企業との癒着記録まで含まれていた。

 

 もはや揉み消せる規模ではなかった。

 銀河ネットワークへ流出したデータは爆発的速度で拡散され、世論は瞬く間に炎上した。

 これまで「信仰の自由」の名の下にオーラ教やガルダ党を半ば黙認してきた銀河連合政府も、流石に無視できなくなる。

 銀河ニュースは連日この話題で埋め尽くされた。

 討論番組。特番。緊急会見。

 各星系で抗議デモも発生した。

 

 そして最終的に、銀河連合は正式に介入を決定。

 ガルダ党は危険宗教組織として指定され、その政治組織は完全解体された。

 セントクルセイダースもテロ組織認定を受け、残党狩りが開始されている。

 最高責任者であるモハメッド・ルカイダルは逃亡に失敗し、銀河連合保安局へ身柄を引き渡された。

 銀河中継された護送映像の中で、かつて絶対権力者だった男は、拘束具を付けられ俯いているだけだった。

 もはやそこに、かつての威厳はない。

 長年続いたガルダ党支配は、こうして終焉を迎えたのである。

 

 

 そして。

 惑星バスタゴア首都。

 その日は、快晴だった。

 透き通るような青空が、どこまでも広がっている。

 かつては重苦しい空気に覆われていた首都も、今日はまるで別世界のようだった。

 街中に人が溢れている。

 笑顔。

 歓声。

 音楽。

 旗。

 花吹雪。

 至る所で祝福の声が上がっていた。

 解放同盟勝利記念パレード。

 そして、民主主義復活記念式典。

 長い圧政から解放された人々は、今日という日を心の底から祝っていた。

 広場には巨大な横断幕が掲げられている。

 

『自由なるバスタゴア万歳』

『民主主義の勝利』

『圧政に終焉を』

 

 かつてオーラ教のスローガンばかりが掲げられていた街並みとは、まるで違っていた。

 路上では若者達が歌っている。

 子供達が走り回る。

 女性達も自由に顔を出して歩いていた。

 たったそれだけの光景が、この星では奇跡のようだった。

 そして。

 

 首都中央。

 巨大広場。

 そこに建つのは、かつてガルダ党中央議事堂だった建物である。

 オーラ教の権威を誇示していた巨大建築。

 だが今、その正面にはガルダ党旗ではなく、バスタゴア新政府の旗が掲げられていた。

 巨大な演説台の前には無数の市民達が集まっている。

 歓声が響く。

 拍手が鳴る。

 その中央へ、一人の男が姿を現した。

 

 ギャタ・ザ・ダービー。

 

 義体の富豪。

 解放同盟指導者の一人。

 外見だけ見れば、相変わらず年若い少年にしか見えない。

 だが、その瞳には長い戦いを潜り抜けた者だけが持つ深い光が宿っていた。

 演説台へ立つ。

 マイクを握る。

 歓声がさらに大きくなる。

 

「ダービー卿!!」

「ありがとう!!」

「自由だぁぁ!!」

 

 市民達が叫ぶ。

 ダービーは少しだけ笑った。

 そして静かに口を開く。

 

「諸君」

 

 広場が静まり返る。

 

「今日という日は、私一人が勝ち取ったものではない」

 

 その声は、広場全体へよく通った。

 

「長年耐え続けた市民達、武器を取った解放同盟、命を落とした同志達………その全てによって勝ち取られた自由だ」

 

 拍手。

 歓声。

 ダービーは続ける。

 

「我々は、これから長い再建の道を歩む事になるだろう。壊された文化、奪われた教育、踏みにじられた自由。それらを取り戻さねばならない」

 

 彼は広場を見渡した。

 そこには様々な人々がいる。

 若者。

 老人。

 女性。

 子供。

 サイボーグ。

 皆、彼の言葉を真剣に聞いていた。

 

「だが私は信じている。この星は、再び立ち上がれると。かつて文化と芸術で輝いていたバスタゴアを、我々は必ず取り戻せると」

 

 歓声が爆発する。

 拍手。

 口笛。

 涙を流している者もいた。

 

 演説台脇には、アメリアの姿もあった。

 ゴス系の黒い衣装。

 首元のチョーカー。

 そして隣には、小型台車に乗ったエシモフ軍曹がいる。

 

『実に良い演説であるな』

「そうね」

 

 アメリアは小さく頷いた。

 だが。

 彼女はふと周囲を見る。

 そこにいない人間がいた。

 ジョン。

 そしてセリア。

 解放同盟勝利の立役者でありながら、今日この場に二人の姿はない。

 演説でも、その存在は意図的に伏せられていた。

 理由は単純だった。

 ジョン達はあくまで一般人であり、銀河社会側へ余計な火種を残さない為でもある。

 そして何より。

 彼等自身が、それを望まなかった。

 英雄になるつもりなどなかったのだ。

 ジョンはただ、元の生活へ戻りたかっただけなのだから。

 

「……行っちゃったなぁ」

 

 アメリアが小さく呟く。

 エシモフ軍曹が横を見る。

 

『寂しいかね?』

「……まあね」

 

 アメリアは苦笑した。

 

「ちょっとだけ」

 

 脳裏に浮かぶ。

 無精髭の男。

 ツナギ姿。

 不器用で。

 文句ばっかり言って。

 でも、最後まで逃げなかった男。

 そしてその隣には、いつも紫髪のセリアがいた。

 

「元気にしてるかな」

『あの二人なら大丈夫であろう』

「……うん」

 

 アメリアはゆっくり空を見上げた。

 青空だった。

 どこまでも広く、澄み切った空。

 戦火も。

 恐怖も。

 圧政もない。

 自由な空。

 その空の向こうへ、ジョン達はもう旅立っている。

 けれど。

 アメリアは少しだけ笑った。

 今度会う時があるなら。

 その時は、もっと胸を張って外の世界の話を聞ける気がした。

 

 

 ***

 

 

 惑星バスタゴアを離れたラクーン号は、静かな宇宙空間をゆっくりと航行していた。

 窓の外では、青い惑星が徐々に小さくなってゆく。

 つい数日前まで内戦の炎に包まれていたとは思えないほど、その星は静かだった。

 ブリッジ内には、エンジンの低い駆動音だけが響いている。

 その一方で、貨物スペースは地獄のような有様だった。

 

「おぉ……!」

 

 ジョンが感嘆の声を漏らす。

 彼の目の前には、今回の戦いで回収した大量のジャンクパーツが積み上がっていた。

 グランドスラム級戦艦の外装材。

 ダートファイターの推進ユニット。

 セントクルセイダース仕様のレーザー砲台。

 果てはゴッド・オブ・ジャスティス内部設備の残骸まである。

 宇宙戦争の戦場跡地も同然だった。

 ジョンはその山を前に、完全に目を輝かせていた。

 

「これ絶対高く売れるぞ……!」

 

 壊れた装甲板を叩く。

 鈍い金属音が響いた。

 

「うわ、軍用ナノコート残ってるじゃねぇか……!これだけで相当な値段になるぞ……!」

 

 さらに別のコンテナを開ける。

 

「おっ、こっちはレーザー砲の収束ユニット!」

 

 ジョンのテンションは完全にジャンク屋モードだった。

 

「しかも純正軍用品!民間じゃまず流通しねぇやつだ!うわぁ……夢が広がる……!」

 

 もはや内戦を生き延びた男の反応ではない。

 宝の山を前にしたスカベンジャーそのものだった。

 一方。そんなジョンを見ていたセリアは、呆れたように肩を竦める。

 

「ついこの間まで革命だの解放だのやってた男とは思えないわねぇ……」

「ん?」

「いや、別に」

 

 セリアは苦笑した。

 だが、その顔はどこか楽しそうでもあった。

 ジョンは結局こうなのだ。

 銀河の命運より、目の前のジャンク。

 英雄より、転売価格。

 そんな俗っぽさに、セリアは少し安心していた。

 ジョンが“元の日常”へ戻ってきた気がしたからだ。

 ブリッジモニターではニュース番組が流れている。

 

『――現在、銀河各地でオーラ教関連施設への抗議活動が発生しています』

 

 映像が切り替わる。

 どこかのスペースコロニーだった。

 建設途中のオーラ教教会を前に、市民達が抗議デモを行っている。

 

『これ以上迷惑施設を増やすな!』

『深夜礼拝やめろ!』

『子供を勧誘するな!』

 

 プラカードが並ぶ。

 以前なら、こうしたニュースは「信仰の自由を弾圧する過激市民」として扱われていた。

 だが今回は違った。

 

『オーラ教を巡っては近年、公共区画での無許可礼拝や強引な勧誘行為、児童婚問題などが指摘されており――』

 

 キャスターが淡々と説明する。

 

『住民側は「これまでの被害を考えれば当然の反発だ」と主張しています』

 

 セリアが鼻で笑った。

 

「悪い事するからこうなるのよ」

 

 ソファに座りながら足を組む。

 

「今まで散々好き放題やってたんだもの。自業自得じゃない?」

「まぁな」

 

 ジョンは工具を回しながら頷く。

 だが、その表情にはどこか冷めたものもあった。

 

「でも結局さ、マスコミの連中も世間の流れ見て言う事変えてるだけだろ」

 

 ジョンはため息をついた。

 

「前まではオーラ教擁護してたくせに、今度は叩く側だ。何も変わってねぇよ」

 

 モニターの中では、評論家らしき男がもっともらしく語っている。

 

『以前から問題視されていました』

 

 ジョンは呆れたように鼻を鳴らした。

 

「いや絶対嘘だろ。前まで庇ってたじゃねぇかお前ら」

 

 セリアがクスリと笑う。

 

「あんた、そういう所ほんと捻くれてるわよねぇ」

「現実的って言え」

 

 そんな軽口を叩きながら、ジョンは再びジャンクの山を漁り始めた。

 その時だった。

 

「ん?」

 

 ジョンの手が止まる。

 積み上がった残骸の奥。

 壊れた装甲板の下から、丸い何かが転がり落ちてきた。

 ゴトン、と床に落ちる。

 セリアがそちらを見る。

 

「何それ?」

「いや……」

 

 ジョンが拾い上げる。

 丸っこいボディ。

 古びた外装。

 煤だらけの装甲。

 どう見ても。

 

「……お掃除ロボ?」

 

 しかも完全に壊れていた。

 片側の車輪は外れ、アームも半分千切れている。

 セリアが呆れ顔になる。

 

「またぁ?」

「いや待て待て」

 

 ジョンはそのロボットをまじまじと見つめた。

 そして。

 ニヤリと笑う。

 

「これレストアして転売しね?絶対売れるって。軍用残骸の中から見つかった謎のロボって、こういうの好きなマニアいるんだよ」

 

 セリアは数秒黙った。

 それから。

 深々とため息をつく。

 

「あんた、本当に懲りないわねぇ……」

 

 だがその顔には、苦笑が浮かんでいた。

 ラクーン号は今日も宇宙をゆく。

 ジャンクと共に。

 騒動の種と共に。

 そして――新しい物語の気配を乗せながら。

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