宇宙小市民物語スターエイジ・フールマンズ 作:アイアイホイホイおさるさん
ラクーン号の居住ブロックには、何とも言えない空気が漂っていた。
メインモニターでは先程まで流れていた『テイルズ・サガ・クエスト〜キミの物語〜』のエンドロールが終わり、V-FIRSTの待機画面へと切り替わっている。
だが。
ジョンとセリアのテンションは、明らかに開始時より下がっていた。
「…………」
「…………」
二人とも無言でコーラを飲む。
宇宙船のエンジン音だけが小さく響く。
ジョンはソファに沈み込み、遠い目をしていた。
「二連続はキツいな……」
「キツいわねぇ……」
セリアも疲れた顔で頷く。
「なんなの最近の映画業界。説教しないと死ぬ病気なの?」
「知らん……」
ジョンはポップコーンを一掴み口へ放り込む。
だが味がしない。
いや、実際には味はするのだが、精神的ダメージが上回っていた。
「最初のコスモファイターもアレだったけどさぁ」
「うん」
「サガクエはもっと酷かったわよぉ」
「そーだね」
セリアがうんざりした声で言う。
「なんで最後に急に“現実見ろ”とか説教始めるのよ」
「ゲーム原作でやる内容じゃねぇって」
「しかも二本続けてこういうの引く?」
セリアは疑いの目でメインモニターを見た。
「V-FIRSTのAI、おかしいんじゃない?」
「AI?」
「だって普通ランダム再生ってもっとこう……あるじゃない?」
「まぁ……?」
「アタシ達の趣味分析して嫌がらせしてる可能性あるわよ」
「そんな性格悪いAIあるか?」
「最近のAIって妙に人間臭いじゃない」
「否定しづれぇな……」
ジョンは苦笑した。
実際、近年のAIは無駄に個性を持たされている。
広告AIが妙に煽ってきたり。
通販AIが妙な商品ばかり勧めてきたり。
サポートAIが逆ギレ気味だったり。
そういう話は珍しくない。
「でもまぁ」
ジョンは気を取り直すように言った。
「次はちゃんと面白いだろ」
「二連続ハズレの次くらい当たり来てほしいわねぇ……」
セリアもそう言いながら、新しいコーラを開ける。
プシュッ――という炭酸音。
船内へ甘い香りが広がった。
メインモニターには、“次の作品をランダム選択中”の文字。
数秒後。
画面が暗転する。
「さーて次は何かな」
「頼むから説教映画はもうやめてよね……」
二人が見守る中。
新たな映像が始まった。
まず映し出されたのは――海だった。
青黒い海面。
巨大な波。
雷鳴鳴り響く嵐の夜。
その海を、一隻の巨大船が進んでいる。
「海?」
ジョンが首を傾げる。
「宇宙映画じゃないのかしら」
船体側面には銀河連合政府の紋章。
さらに“核燃料輸送艦”の文字。
重厚なBGM。
荒れ狂う暴風雨。
船員達の怒号。
『右舷安定しろ!』
『波が来るぞ!』
『機関出力維持!』
画面から伝わってくる空気感は異様にリアルだった。
水飛沫。
船体の軋み。
暴風。
どれも妙に迫力がある。
「なんかすげぇ金かかってそう」
ジョンが感心したように言う。
「映像めちゃくちゃ気合入ってるわねぇ」
セリアも少し驚いていた。
輸送船は荒波の中を進む。
だが突然。
ゴゴンッ!!という凄まじい衝撃が走った。
船全体が激しく揺れる。
『な、何だ!?』
『座礁!?』
『馬鹿な!この海域に浅瀬は無いぞ!』
警報が鳴り響く。
乗組員達が混乱する。
その時だった。
レーダー担当が青ざめた顔で叫ぶ。
『……い、移動しています!』
『何!?』
『暗礁が……動いてます!!』
ジョンとセリアも思わず画面を見入る。
海面下。
巨大な黒い影が、ゆっくりと輸送船から離れていく。
それはまるで――。
生き物のようだった。
『こんな暗礁があってたまるか……!』
船長が狼狽えた声を上げた瞬間。
画面が暗転した。
重低音。
轟音。
そして。
巨大な文字が浮かび上がる。
『ガニラ 超怪獣空中激突』
「おっ」
ジョンが少し身を乗り出した。
「ガニラじゃん」
「有名よねぇこれ」
セリアもタイトルを見て頷く。
ガニラ。
銀河規模で長年続いている怪獣映画シリーズだ。
巨大怪獣同士の戦い。
都市破壊。
軍隊との総力戦。
古臭いと言われつつも根強い人気があり、特に男性人気が異常に高い。
「名前は知ってるけど見たことなかったな」
「アタシも。男子が好きそうな映画って印象」
「まぁ実際そうなんだろうな」
タイトルが終わる。
そして映画本編が始まった。
舞台は、とある孤島。
鬱蒼とした密林。
古代遺跡。
島を調査する研究チーム。
どこか不穏な空気。
『この地下反応……本当に生物なんですか?』
『記録通りならな』
研究員達が遺跡内部へ進む。
古代文字。
巨大な鎖。
封印施設のような構造。
やがて。
地鳴りが起きた。
島全体が揺れる。
『まさか……』
『封印が――』
次の瞬間。
地面を突き破り、“それ”が現れた。
巨大だった。
黒紫色の外殻。
無数の触手。
甲殻類とも昆虫ともつかない異形。
赤く発光する眼。
口から漏れる蒸気。
古代生物兵器ジャメス。
その禍々しい姿が、圧倒的な迫力で映し出される。
「うおっ」
ジョンが思わず声を漏らす。
「デザイン怖っ」
「めちゃくちゃ悪役顔してるわねぇ……」
さらに凄かったのは。
その後の銀河連合軍の対応だった。
戦闘艇が発進する。
戦車部隊が展開する。
空母型輸送艦が飛来する。
兵士達が避難誘導を行う。
その描写がやたら細かい。
『第一航空隊発進!』
『対怪獣誘導弾装填!』
『民間人避難急げ!』
通信のやり取り。
兵士の動き。
兵器描写。
どれも異様なリアリティがある。
「うわ、これ軍監修入ってるやつだ」
ジョンはすぐ気付いた。
「装備の描写がやたら細けぇ」
「さっきまでの映画と熱量違いすぎない?」
セリアも苦笑する。
ミサイル発射。
編隊飛行。
迎撃砲火。
怪獣映画なのに、やたら兵器描写が本格的なのだ。
そして。
ジャメスが咆哮を上げた。
島が吹き飛ぶ。
戦闘機が墜落する。
爆炎が夜空を染める。
その瞬間。
ジョンの口元が、少しだけ笑った。
「……これ」
「うん?」
「今んとこ普通に面白くね?」
映画は、その後も実に分かりやすく、そして実に勢いよく進んでいった。
古代生物兵器ジャメスは、目覚めて以降、各地を転戦するように移動を開始する。
沿岸基地を破壊し。
海上輸送路を寸断し。
連合軍の艦隊を次々と叩き潰してゆく。
特に海戦シーンの迫力は凄まじかった。
大型戦艦が主砲を斉射し。
戦闘機部隊が編隊飛行を行い。
ミサイルが雨のように飛び交う。
それでもジャメスは止まらない。
紫色の生体光線で艦隊を焼き払い、巨大な触手で空母を叩き潰していく。
「うわっ、艦隊沈む沈む」
ジョンが若干引き気味に呟く。
「容赦ないわねぇ」
セリアもポップコーンを摘まみながら目を細める。
だが。
映画全体に漂う空気は暗すぎない。
テンポが良いのだ。
次から次へと見せ場が来る。
怪獣が暴れる。軍隊が立ち向かう。街が壊れる。
また怪獣が暴れる。
非常にシンプルである。
そして、それが良かった。
「こういうのでいいんだよこういうので」
ジョンが満足げに頷く。
「余計な説教始まらないだけでこんな安心感あるのね……」
セリアも苦笑した。
そんな中、物語はついに大きく動く。
ジャメスが、人口数千万規模の沿岸都市へ迫ったのだ。
避難警報。逃げ惑う市民。出撃する銀河連合軍。
戦闘機が飛び交い、ミサイルが撃ち込まれる。
だがジャメスは止まらない。
巨大な身体で海を割りながら進んでくる。
『止めろ!!』
『市街地へ入れるな!!』
『砲撃続行!!』
連合軍の砲火が降り注ぐ。
しかしジャメスは咆哮を上げるだけだった。
その時だった。
沖合の海面が盛り上がる。
巨大な“何か”が接近してくる。
レーダー担当が叫ぶ。
『新たな巨大反応!!』
『まさか二体目か!?』
海面が爆発するように割れた。
現れたのは――冒頭で輸送船を座礁させた“動く暗礁”。
いや。
それは暗礁などではなかった。
巨大な甲殻類怪獣。
青白い装甲。
丸みを帯びたシルエット。
鋭いハサミ。
だがその顔つきは妙に愛嬌がある。
そして何より。
どこか“ヒーロー”っぽかった。
巨大な目。
堂々とした立ち姿。
まるで正義の味方のような雰囲気。
それが、映画の主役でもある守護神ガニラだった。
「おおっ」
ジョンが思わず声を上げる。
「思ったより可愛い」
「でもちゃんとカッコいいわねぇ」
セリアも少し感心したように言う。
ガニラは咆哮を上げる。
そのままジャメスへ突撃。
海が割れる。
ビル群が揺れる。
巨大怪獣同士の激突。
衝撃波。
爆発。
肉弾戦。
ここからの戦闘シーンは圧巻だった。
ジャメスの触手攻撃。
ガニラのハサミによる迎撃。
海上で組み合いながら空へ飛び上がる二体。
「飛んだ!?」
ジョンが驚く。
「空飛ぶの!?」
どうやらガニラは飛行能力を持っているらしい。
ジェット噴射のようなプラズマを噴き出しながら飛翔する。
対するジャメスも羽を展開し、空中へ。
夜空で巨大怪獣同士が激突する。
ビーム。火炎。衝撃波。
都市上空で繰り広げられる怪獣空中戦。
「男子ってこういうの好きでしょ?」
「好き」
ジョンは即答した。
結局、戦いは決着がつかない。
互いにダメージを負いながら撤退。
海へ消えるガニラ。
地下へ潜るジャメス。
そしてその後。
連合軍の科学者達による解析が始まる。
『古代文明の記録によれば――』
『ガニラは守護神です』
『ジャメスという古代生物兵器へ対抗するために作られた存在だと思われます』
古代文明。
封印。
守護神。
王道である。
だが、それが良い。
しかし、銀河連合軍上層部はそんな分析を聞いても態度を変えなかった。
『怪獣は怪獣だ』
『制御不能な生物兵器に変わりはない』
『ガニラも危険対象として排除する』
その決定により、連合軍はガニラへも攻撃を開始する。
「うわっ、可哀想」
セリアが眉をひそめた。
だが。
ガニラは攻撃されてもなお、人間を守ろうとする。
崩れるビルを支え。
避難船を守り。
ジャメスの攻撃から都市を庇う。
それがまた良かった。
「ちゃんとヒーローしてる……」
ジョンが呟く。
「こういうの好きだわぁ」
セリアも素直に見入っていた。
そして物語は最終局面へ。
ジャメスが銀河連合首都へ到達する。
崩壊する市街地。
燃える高層ビル。
逃げ惑う人々。
その中心で、ジャメスは産卵を始めた。
巨大な卵が次々と街へ撒き散らされる。
『駄目です!』
『増殖されたら止められません!!』
『人類圏が終わる!!』
緊迫感が一気に増す。
「うわ、これヤバいやつだ」
ジョンも身を乗り出す。
そして。
そこへ現れる。
海を割って。空を裂いて。
ガニラが。
BGMが盛り上がる。
ガニラが咆哮する。
ジョンが思わず言う。
「うおおお来た!!」
「完全にヒーロー登場演出ね!」
最終決戦が始まった。
ここからは怒涛だった。
ガニラとジャメスは空中を飛び回りながら激突する。
ビル群の間を飛び抜け。
空母上空で組み合い。
大気圏近くまで上昇する。
連合軍も総攻撃を開始。
ミサイル。レーザー。戦闘機。艦砲射撃。
全てが飛び交う。
完全にお祭りだった。
「うわすげぇ!!」
ジョンが完全に少年の顔になる。
「テンションで押し切ってくるタイプの映画だわこれ!」
セリアも笑っていた。
そして最後。
ジャメスが巨大エネルギー砲を放つ。
ガニラは真正面から突撃。
全身をプラズマで発光させる。
そして。
胸部が開く。
そこから放たれたのは――超高熱のプラズマ火炎放射。
青白い奔流が夜空を焼き尽くす。
ジャメスを飲み込む。
絶叫。爆発。そして。
ジャメスは崩れ落ちた。
大爆発と共に消滅する。
「勝ったぁ!!」
ジョンが思わずガッツポーズした。
完全に映画へ乗せられていた。
エンディング。
戦いを終えたガニラは、人々を一瞥する。
そのまま静かに海へ去っていく。
朝日。
穏やかな海。
そして流れる主題歌。
綺麗な終わり方だった。
エンドロールが流れ始める。
ジョンは大きく息を吐いた。
「……いやぁ」
そして、しみじみと言う。
「面白かった……」
その声には本気の感動が滲んでいた。
「ちゃんと映画見た気分になれた……」
「分かるわぁ」
セリアも満足げに頷く。
「普通の女の子なら置いてけぼりになるんでしょうけど」
そう言って。
セリアは少し笑った。
「私は普通に楽しかったわ」
そこには、ようやく「映画」を観れたという喜びがあった。
しかしさて、次に再生される作品は何か?