ようこそ百合至上主義のハーレムへ 作:ド級のスランプ、ドスランプス
最後に俺が勝っていればいい、なんてセリフがあったけれど、そもそも勝利とは何か。
相手を打ち負かすこと? 勝者が次の戦いで敗者に入れ替わるなんて事はザラにある。
自分の目的を達成すること? 死んでも何かをしたい、なんて口ではよく言ってしまうけど、実際死んで何かを成し遂げたとして、それで勝ったと言っていいのだろうか。
何が言いたいのかといえば、勝利なんて曖昧な言葉でしかなくて。ゲームならともかく人生において最後に勝っていればいい、の勝利の定義を決めるのはあまりにも難しいということだ。
しかし。こと私にとって最後に勝つことの定義は実に簡単である。何故かと言えば、確固たる信念を持って人生の目標を定めているからだ。
即ち──可愛い女の子を侍らせる。私にとって勝利とは百合ハーレムだ。
死後の世界とは映画館なのではないかと少しだけ期待もあったのだが、どうやら死後の世界とは創作物への転生であるらしい。仮に現状が死の寸前の脳がフル活動している妄想によって作られた走馬灯だとしてもそれはそれで構わない。重要なのは私にとっての認知だけだ。
ともかくまあ、最早私のようなオタクには説明不要となった創作世界への異世界転生だ。神様にも会った。貌の無い神様は私の、『次の人生では女の子になって美人を侍らせてナメクジのような爛れた交尾をして生きていきたい』という願望を聞いて、ゲラゲラ笑って願いを叶えてくれた。お陰で今の私は百合ハーレム……いや、とせがらハーレム……? ……とにかくTS界のメアリー・スーである。見よこの艶やかな金髪と有り得ない美肌の美少女ボディ。胸が小さいのは……まあ学生の年齢ならこんなものだろう、うん。
そんな私は今バスに揺られながら……原作イベントに遭遇しなかったと若干気落ちしている所である。
バスの向かう先は『高度育成高等学校』。私が転生したのは……というか選ばせてもらったのは、【ようこそ実力至上主義の教室へ】の世界である。何故って? 女の子キャラが多くてバレなければナニをしても問題が無さそうだから。男ばっかりの世界とかお断りだよ。あと現代っ子としては文明度が低そうな異世界ものもNG。
さて、ここで言う原作イベントとは、お婆さんに席を譲る譲らないで揉める話であり、私としては是非とも櫛田ちゃんからの点数稼ぎに使いたいところだったのだが……残念ながら同じバスには櫛田ちゃんも金髪チートも原作主人公も居ない。居るのはヤクザかホストのどっちかだろうというロン毛の男と……モブって感じの人達と……銀髪の女の子!
多分だけど、『椎名ひより』さんかな? 杖ついてないし……他に銀髪は居なかったはず……? アニメで存在を消されたキャラとかだったらどうしよう。こんなことなら原作の知識もインストールしてもらえばよかった。私はアニメ派なのです。
ということでまずは挨拶を……しない。制服が同じってだけで挨拶しても与える印象は薄いだろう。転生ものの常識としておそらく原作主人公のいるDクラスになるであろう私なんて尚更すぐに記憶から消えてしまうはず。よって取るべき行動は……隣に座って推理小説を取り出す、これであれば────
「あ」
「ん?」
なんと偶然。私が取り出したのは椎名さん(推定)が読もうとしていた小説と同作者だったのである。流石に想定外。
「推理小説、お好きなんですか?」
「どっちかっていうと作者読みかな? これも映画になってたから読んでみたんだけど、そしたら紙の方にもはまっちゃって」
「……良かったら感想語り合いません?」
「お、もしかして貴女もこの作者さん好き?」
「というよりは本なら全般。特に好きなのは推理小説ですけど」
「私はこれ人間ドラマとして読んでたなぁ……犯人の動機とかさ」
「『人はただ懸命に生きているだけで誰かを救うことがある』ですね」
「そうそう! でもそんな人がホームレスはあっさり殺すのとかさ──」
下心ありきで話しかけたけど、普通に話してて楽しい。……Dクラス、こんな話出来る相手居るのかな? ギャル的ノリは元男には厳しいし、初期北さんはコミュニケーション不可だし、櫛田さんは満遍なく行くだろうし……一番可愛いの初期ノ小路くんかもな。浮かれてるし。
そんな一抹の不安を抱えつつも、盛り上がりのままバスからクラス分けが貼りだされている所まで辿り着いて──
「そういえば名乗っていませんでしたね。椎名ひよりといいます。クラスは……C、みたいですね」
「私は虎居優里。クラスは……あれ? Cだ」
「では、これからもよろしくお願いします、ですね? いっぱい語り合いましょう」
「うん、よろしくね!」
神様、こういうのって原作主人公の傍に配置するもんじゃないんですか? ああ、無貌の神が笑ってる気がする。……まあいい。プラスに考えればいきなり美少女一人と仲良くなった上に同じクラスになれたのだ。むしろ神様が配慮してくれたのかもしれない。
よう実の初日と言えばやはりSシステムの説明だろう。毎月10万円(と見せかけて変動する)が振り込まれることとかクラス替えが無いこととかが説明される例のアレだ。当然私は原作知識持ちオリ主の特権としてマウントを──
「質問いいか? ポイントは毎月『10万』入るのか?」
機先を制された。キッショ。なんで気づけるんだよ。少なくとも私は知識無かったらそういうもんだと思ってたぞ? 前世の経験的にも余計に。
「……残念ながら答えられません。それと敬語を使うように。龍園君」
「ククッ、分かったよ」
ドラゴンボーイは納得したのか質問を終える。多分振り込まれる額の法則についてでも考えてるんだろうな。
「先生、私からも質問いいですか?」
「虎居さんでしたね? 答えられることなら」
「先程ポイントで買えない物は無いと仰っていましたが、権利などは買えますか? 例えば……欠席しても出席扱いになる、というような」
「そうですね……値段は物によりますが、そういったものも取り扱っている、とは言っておきましょうか」
心なしかCクラスの担任である坂上先生は嬉しそうだ。まあこの時点でシステムに気づけばクラスポイント大分残せるかもしれないもんね。Aクラスの担任になるとボーナスがあるらしいから。
洞察力に優れた生徒が多いのは有利だろう。少なくともCP0ポイントの偉業は達成せずに済むだろうし。
少し他の生徒たちもざわざわとしていたがそれ以上質問が出ることは無く、「これからの生活頑張ってくださいね」というちょっとだけ期待を込めてくれていそうな一言を残して先生は退室していった。
本来……というか、Dクラスであればこの後は自己紹介タイムだったはず。というかクラスに関わらずそれはやるべきだろう。少なくとも私は今のところ椎名さん以外誰も知らないぞ。原作知識君が居てもドラゴンボーイとアルベルト、あと伊吹ちゃんぐらいしか分かんない。名前は……名前だけならもう何人か覚えてるんだよ……!
これは私が音頭を取って自己紹介の会を開くべきか? でもこのクラス不良の集まりだし……
「お前ら聞け。──俺がこのクラスの王になる。文句がある奴はかかってこい」
早くない???
当然というか賛同が得られるはずもなく、「なんだテメェ偉そうに!」と男子がドラゴンボーイのところへ……あ、殴り飛ばされた。やめなよここ監視カメラあるんだから。
「ど、どうしましょう虎居さん」
「うーん……逃げよっか。へいそこの彼女、良かったら一緒に買い物行かない?」
「私? ……まあ、巻き込まれるよりはいっか」
両手に花だぜ。
読書ガール椎名さんと空手ガール伊吹さんをゲットして、とりあえずということでコンビニへと向かってみる。
「ねえ、虎居……って呼ばれてたよね? さっきの質問、何のため?」
「んー……ポイントの使い方を考えるため、かな? ほら、例えばテストの問題売って貰えたら勉強しなくていいでしょ? 勉強得意な人は気にしなくていいだろうけど……えっと……」
「? ……ああ、伊吹澪よ。よろしく」
「改めて、虎居優里だよ。で、伊吹さんが勉強出来るならそういうのは要らないだろうけど、どう? ついでに椎名さんは?」
「……値段次第、かな」
「私はそんなお金があるなら本に使いますね」
「まあ私も買わなくて済むなら好きなことにポイント使うけどさ。ほら、見てよアレ」
無料コーナーにはお安い生活雑貨が並んでいる。貧乏人への慈悲……というわけではない。
「浪費家へのお情け?」
「いえ、最低限の生活の保障ではないでしょうか。貰えるポイントがゼロでも暮らせるように」
「『10万貰えるのか?』……あの男子が仄めかしてた通りかなって。だとしたらポイントを多く貰う権利がポイントで買えるかもしれないでしょ?」
「……初日から凄いこと考えるのね」
「……私達も、一応節約できるところは節約しましょうか」
「新刊出てもそのセリフが言えるのかな……」
「うっ」
とりあえず無料品コーナーを見てみる。大体品揃えは普通のコンビニ……の中で生活必需品と呼ばれるようなもの。洗剤とか、水とか……生理用品とか。というかオシャレ用の化粧品とかはともかく、生理用品ぐらいは無制限で配ってよ。特別試験ではそうだったじゃん確か。あと男子に見えないとこに置いてよ。
とりあえず二人と無料で手に入る品の情報とか共有しましょうと連絡先を交換して今日はお別れ。ハーレムは一日にしてならず。じっくり好感度を上げていかなくては。
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