ようこそ百合至上主義のハーレムへ 作:ド級のスランプ、ドスランプス
3月。期末試験も終わって普通の学校なら春休みに心躍らせている頃である。この一年とりあえずひとりも赤点を取っていない……どころか理系科目に関しては学年トップの平均点を取れるようになっている我がクラス、教えてる側としても鼻が高いね。大体ひよりんのモリアーティ教授への憧れのせいな気もするけど。本気でりゅーたんが数学者になっちゃったらどうすんのさ。……別にどうもしなくていいな。暴力団になるよりマシでしょう。
「──例年であれば残っているのは学年末特別試験のみなのですが……急遽、追加で特別試験を行うこととなりました」
とはいえそんな緩んだ空気は坂上先生の言葉で霧散してしまったのだけど。そして説明された追加特別試験──クラス内投票のルールとは。
・自分以外のクラスメイト3名に賞賛票、自分以外のクラスメイト3名に批判票、クラス外の生徒1名に賞賛票を必ず入れなければならない。ただし同一人物を複数回記入すること、無記入、棄権などの行為は不可。
・賞賛票と批判票は打ち消し合い、各クラスで賞賛票が最も多かった首位生徒にプロテクトポイント(退学を取り消す権利)が与えられ、批判票が最も多かった最下位生徒は退学処分となる。
・全員0票という結果になった場合は、違う結果になるまで再投票を繰り返す。また、同率首位生徒、同率最下位生徒が出た場合も決選投票を行うが、それでも同率の場合には学校が用意した特殊な方法で優劣を決める。
って感じ。要は退学者を一人皆で選んでねってこと。陶片追放かな?
「……この試験は今年一人も退学者を出していないあなた方への特例試験として新たな理事長が定めたものになります。よって、本試験のルールに関しては現生徒会は一切関わっていないことを明言させていただきます」
理事長変わったこと言っていいんだ……って思ったけどそこ言っとかないと生徒会へのヘイトエグイことになりそうだもんね。最悪退学濃厚になった人が道連れと言わんばかりに殺しに行きかねない。この学校、退学を死みたいな扱い方するから……
「……おい坂上。この退学処分は2000万プライベートポイントで取り消せるのか?」
「はい。それと試験の結果による退学、若しくはその取り消しどちらもクラスポイントは増減しません。……申し訳ありません。一教師の立場で通せる限界はここまででした」
担任としてこんな試験をさせるのは心苦しいものがあるのか、あとは最低限の連絡だけして去って行った。うーん、救済措置無しの強制退学じゃないのは先生達の頑張りだった……のかな? 実は月城理事長代理は本気で綾小路君を退学にさせたいわけじゃない説も推してるんだけど。原作を最後まで読んでたら分かってたのかな……?
「一々狼狽えるな雑魚共」
そんなことを考えてたらりゅーたんの一言でざわついてた教室が静かになった。独裁者って凄い。私は改めてそう思った。いや、破ァ! とか言ってないけど。
「虎居。お前の端末のプライベートポイントを読み上げろ」
「はいはい。端数はいいよね? 4500万。皆の積み立ては龍園が管理してるからクラスにはもっとあるよ~」
「そういうことだ。……裏切るようなアホが居れば別だが、お前らは内心はどうあれこの一年しっかりと俺に従ってきた。安心しろ。この試験も俺に任せておけばいい」
「まあプロテクトポイントと名目上の退学者だけは決めとかないとだからちょっと話し合う必要はあるけど……そんな心配しなくていいってこと。少なくともウチはね」
露骨に安堵の声が上がる。普段りゅーたんを嫌ってる人からも。まあ誰か一人選んで殺してね! ってデスゲームが始まったと思ったらりゅーたんのおかげで終わったようなもんだからね。ありがとう干支試験。A、Bクラスもこれで……大丈夫、だよね? ちょっとお節介しとこうかな……ついでにDクラスへのちょっかいも。
「……2000万ポイントをプロテクトポイントに変換する試験ということか」
「葛城君らしい判断ですね。ですが恐らく違います。これは『不要な生徒』をプロテクトポイントに変換する試験ですよ」
「……何?」
「嫌われ者を選ぶ、能力の低い生徒を選ぶ、リーダーが個人的に嫌っている生徒を選ぶ……様々あるでしょうが、そもそも生徒一人、2000万ポイントと引き換えにしてまで守るべきものでしょうか? 本来であれば干支試験のボーナスも存在しなかったでしょうし……というのはあの試験に参加していない私の言うことではありませんね」
「坂柳、貴様……退学者を出すつもりか?」
干支試験のボーナスポイントはクラスのリーダーの管理……つまりは坂柳有栖の端末に入っている。要は特別試験の結果としての退学者を救うかどうかは彼女の胸三寸ということだ。
「ふふ、どうでしょう? これを機に目障りな残党を消してしまうのもいいかもしれませんね?」
「貴様……ならば俺に批判票を集めろ。俺が居なくなれば完全に派閥争いは終わる」
「そんなことを言う物じゃありませんよ。貴方は優秀です。それより、例えば貴方の取り巻きを退学に追い込んで再び争う……なんて面白そうではないですか? ……ふふ、顔が怖いですよ」
「そんなことをしてみろ。俺が……」
「何ができるんです? 頑張って票を取りまとめてみますか? ──なんて意地悪はこの辺にしておきましょうか。ご安心ください。誰が退学者になろうとしっかり救済しますよ。信じられなければどうぞ私に批判票を集めてください」
「……どういう風の吹きまわしだ?」
「私のやり方じゃない自覚はありますけど……退学者を出すと怖い虎さんに怒られてしまうので……」
「何を言っている?」
「いえ、『退学者を出すようなクラスのリーダーとなんて遊ぶ価値が無いと思わない? そんな人がもしいたら私の友達にも遊ばないように伝えちゃおうかな〜』とメッセージがですね……惚れたら負け、ってこういうことなんでしょうか……」
「本当に何を言っているんだ……?」
葛城には理解のできない理由ではあったが、Aクラスでも退学者を出さないようにと意思は統一されていた。
「まあそれはそれとしてこの試験を楽しみはしますけどね」
「ほ、帆波ちゃん。どうしよう……」
「大丈夫。干支試験の時に大きく稼いだ分がまだまだ残ってるし、皆で貯めてる分もあるから! 少なくともウチのクラスは退学者は出さなくて済むよ」
その一言でBクラスの雰囲気は一気に弛緩する。流石は一之瀬さん! と褒める声も。自分達のリーダーのおかげで救われるのだから当然の反応ではあるだろう。しかし。
(駄目だなぁ、私)
余裕があるのはポイントがあるから。それを一番理解していたのは他でもない彼女自身だった。
(干支試験のボーナスは虎ちゃんがまとめてくれたおかげ。もしあの2000万以上のボーナスが無かったら……)
手持ちからその額を引いた残りは1000万と、これまた虎居のおかげで混合合宿で手に入った400万。クラス全員から出してもらったとして、虎居が居なかったら果たして救済に必要なポイントを確保できていたかどうか。
(多分足りてなかった。そうしたら……)
多分自分を退学者に選ぶように動いたと一之瀬帆波は思う。頼れる相手なんて思いつかないし、試験にもし裏道があったとしても気が付ける自信はない。
(……反省することは多いね。こんな試験が来るなんて思ってなかった──なんてただの言い訳。だって虎ちゃんは明らかにこれを想定して動いてた)
我も人、彼も人。ならば自分にだって出来たはず。善性の塊のような少女はそう考える。それと。
(でも、今は感謝を……ありがとう、虎ちゃん)
一之瀬の元に届いたメッセージ。『もしポイント足んなかったら言ってね~。1000万ぐらいまでなら貸せるから~』なんて気楽な文面ではあったけど、その額がどれほどの大金か、集めようとしていた一之瀬だからこそ理解できる。
(でも、優しくしてくれるのってもしかして“そういう関係”だからなのかな……? だとしたらもっと積極的にアレに参加するべき……? ……いやいや何考えてるの私!)
ただまあ、少しだけ桃色な事を考えるぐらいには余裕はあったのも事実だが。
そして。Dクラスはと言えば──
次話はDクラス視点がメインになる…はず