「ふふ、やはり平で指すと違いますね」
「いや、俺は試験の時も全力で指した。その結果が敗北だったのだから、負けは負けで受け入れるべきだろう?」
「ええ、あの試験においては私の勝ちでした。変な横槍も入りませんでしたしね。私が負けそうならどうせあの理事長代理とやらが介入……いえ、優里さんにあれだけやられたらしなかったかもしれませんね……」
「……ともかく、敗因は橋本と堀北の自力の差だったな。いや、言い訳に過ぎないか……」
「はい。そしていいえ。今こうして私が追い詰められている以上、貴方は紛れもない天才です。言い訳に過ぎない、なんて事はありませんよ。そして……」
一拍。少しだけ恥ずかしそうに。
「橋本君が強くなってたのは……その、何度も私との対局に付き合わせてしまっていたからです。優里さんに勝てなかったことが悔しくて悔しくて。その癖あまりチェスで相手してくれないものですから」
「虎居は自由人だからな」
「なんなんですかねあの人は本当に……まあ天才というのは多かれ少なかれエゴを持っているとは思いますが……」
「虎居は指し方も凄まじいからな……ポーンの為に平然とクイーンを捨ててくる。かと思えば定石通りのオープニングから始めたりもする」
「見えてるものが違うんですかね……この盤面からでも優里さんなら勝てるんでしょうか」
「まだ俺がミスするかもしれないぞ?」
「そんな期待をしなくてはならない時点で敗北と同義でしょう。投了です」
「いい勝負だった。また是非とも指したいものだ」
「ええ、是非──」
「あ──!!! 二人だけの世界作ってる──!!!」
有栖ちゃんを探していたらなんか綾小路君といい雰囲気を作りながらチェスを指していました。私は寝取られを許しません。純愛と思わせての不意打ち寝取られを許さない党の党首、虎居です。清き一票をお願いします。
「いや、丁度今終わったところだ」
「二人だけの世界が!?」
えっちなことしてたんですか? 八年ぶりの再会で溜まっていた欲望を開放したんですか?
「またアホなこと考えてますね? 心配しなくても教室でそんなことするのは優里さんくらいですよ」
「坂柳、お前まさかやったことがあるのか……?」
「こ、言葉の綾ですよ?」
「そういうことにしときましょう……それで、気が済んだ? 有栖ちゃん。ずっと綾小路君と指すためにチェスの腕磨いてたんでしょ?」
「ええ。尤も、私の役割は既に不要だったようですが」
「役割?」
なんかあったっけ。人工の天才の否定みたいなやつ? 綾小路君の再現性が無いみたいな話だっけ? なんか違う気がする。
「私はたった今綾小路君に負けましたが、特別試験では私が勝ちました。優里さん、差は分かります?」
「え、橋本君が強かったからじゃない? 二人の差って持ち時間だったろうし」
30分。堀北と綾小路の接続が切れる──みたいな感じだったし。アレは5分だけど。
「その通りです。私達は……少なくとも今は同じくらいの実力ですが、ああして差がついていたのですよ」
「独りじゃ強くなれないってこと?」
「というよりは、独りで出来ることには限界がある、が近いな。ホワイトルームでの成績は、結局あの部屋でしか通用しないものだったということだ」
「ま、まあ勉強とかは今でも役立ってるんじゃない?」
「まあな。だが別にあの部屋で学ぶ必要も無かっただろう。そうなると損得どちらが大きいかという話になるが……」
「あんな無機質な部屋では損の方が大きいでしょう。現に、他人を鍛えるという分野では私が勝ったわけですし。いえ、橋本君が勝手に育っただけかもしれませんが」
そういえば原作だと堀北さんに稽古つけてたよね? なんでしなかったんだろ。堀北さんの好感度不足? あ、もしかして……
「やっぱ人肌の温もりが無いとダメだねぇ……佐倉さんがチェス出来たら綾小路君が鍛えてたかな?」
他の女の子とあんまり親密になるのは、的な。うーんバタフライエフェクト。
「……そうだな。俺は普通の学生生活を楽しみたくてこの学校に来たが……幸い出会いに恵まれた。もし孤独だったら……分からないが、自分の勝利の為だけに邁進していたかもな」
機械小路君ルートだね。でもどっちかって言うとぼっちより脅迫脅迫冤罪暴力のフルコースが悪かった気がするよ。綾小路グループは原作でも出来てたわけだし。……もしかして機械小路君作成の戦犯はお茶先生なのでは……?
「そうだ、それで虎居に一つ聞きたかったことがあるんだが」
「ん? なんだいなんだい? 経験人数なら数えてないよ? 男はゼロだけど。スリーサイズなら上から7──」
「何故あの時俺に声をかけてくれたんだ? 既にDクラスには動かせる駒が居ただろう?」
うーん見事なスルー。というかあの時……? あ、昔懐かしの過去問の時か。原作主人公と接点を持ちたかったから、なんて言うわけにいかないしな。どうしましょ。
「んー……別に深い理由があったわけじゃないんだけど……そうだなぁ、綾小路君は運命って信じる?」
「宗教勧誘か?」
「違うよ!? まあこれは私の持論なんだけど、運命って小さい偶然の集合体だと思うんだよね。例えば散歩する時に通行人一人一人誰とすれ違うか決めて歩く人なんて居ないでしょ? それと同じで、私も別に誰に渡すかなんて考えてなかった。偶々偶然やってくれそうな人として選んだのが綾小路君だっただけ。でも、人の出会いなんてそんなもんでしょ?」
うおぉ回れ回れ私の舌。それっぽいことを捻りだすのじゃ。
「……そうですね。私もホワイトルームに見学には行きましたが、別に自分の意思で行ったわけではありませんし、そこで綾小路君を見かけたのも本当に偶然でした。しかし、それが私のここでの生活の大きな目的になってしまいましたね」
おお援護射撃。あとでご褒美あげようね。
「誰でも良かったし、誰になる可能性もあった。でもあの時出会ったのは綾小路君だった。気まぐれでも何でもね。大事なのはそこだけでしょ。現実にもしもなんて存在しないんだから」
「そうか……そうだな。小さな偶然の積み重ねで、今の生活があるわけか。なるほどな」
よく分かんないけど感心した顔で頷いてる、なんとかなったっぽいね。
「虎居、それに坂柳も」
「ん?」
「なんでしょうか?」
綾小路君はちょっとだけ緊張したような顔をしていて。
「ありがとう。俺と友人になってくれて」
「どういたしまして? まあこんな美少女と友人になれたことは是非自慢して欲しいね」
「ふふ。悪くないでしょう? 人肌の温もりは」
「ああ、本当に──」
虎居と……お前達と出会えて良かった
「……!? 綾小路君が笑った!? 初めて見た! 写真写真──」
「悪趣味ですよ。まあ気持ちは分かりますが……」
「笑ってたか?」
「微笑むぐらいだったけど。初めて見た気がするよ、さっきも言ったけど。……綾小路君、本気でウチのクラス来ない? ポイントは私が出すし」
「そうだな。正直今のクラスからはさっさと逃げてしまいたいが……友人もいるからな」
「あら、振られちゃった?」
「いや……そうだな。移動するにしても友人に不義理はしたくない。ある程度事情を説明してからだな。納得してもらえるかは分からないが」
「担任の先生に退学にするって脅されてるからって言っちゃえば? 実際今回Aクラスに負けたからお茶先生文句言ってくるかもしれないし」
「なるほど……脅迫は事実だしな。悪くない案だ」
「本当に悪知恵は働きますね」
「わーい褒められた」
「……まあそういうことにしておきましょう」
グループの誰かを退学に追込みでもすれば崩壊するかもしれないけど、脅迫から逃げるために他のクラスに移るならむしろ同情されるんじゃないかな。幸村君とか『じゃあこれからはライバルだな』みたいなセリフ似合いそうだし、他の面々もクラスへの帰属意識って薄そうだし。
「新学期までには結論を出す。それでもいいか?」
「勿論。出来れば来年はクラスメイトになりたいね。綾小路君が貰えるプライベートポイントも増えるし」
「むぅ、私だけ別クラスですか……」
「まあ競い合うには丁度いいでしょ」
まあ実際どうなるか分かんないけど。もしかしたら佐倉さんと一緒に居る方を選ぶかもしれないし。そうなったらなんよかしてもう2000万……りゅーたんなら何とかしてくれないかな? 徴収してる分で結構あるでしょ手持ち。
一年生が終わってもこれからまだ二年。来年は多分ホワイトルーム絡みの後輩も入ってくるはず。美少女ばっかだったらいいな。綾小路君退学に協力する見返りに抱かせろとかいけるかもしれないし。これで男ばっかだったら泣きます。
ともあれ──
私はようやく登り始めたばかりだからな、この果てしなく遠い百合ハーレム坂をよ……!
最後にデレたのが綾小路君なのはどうなんだ……?
ぼちぼち完結になるので、その時に今後について活動報告を上げます。
その為に今のうちに匿名を解除しておきます。