阿良々木暦は止まらない 作:ぼんぼーる
005
気持ちの問題なのかもしれないが、相手が僕の作品のファンだと、やはり能力の
さて。ひとまずは、直近の記憶から見せてもらうよ、暦くん。
……。
……何だ、これは? この文章、記憶ってより、まるで小説みたいだ。人によって思考のプロセスは異なり、だからこそ、その内容や文体には個人差が出るものだが——にしたって、『ヘブンズ・ドアー』で本にした中身がこんな風になっているやつなんて、見たことがないぞ。
阿良々木暦……、面白い男だ。
……ちょっとばかし情報を探し辛いが、まあいい。ひとまずは、読み進めよう。
……フゥン、大学を受験するのか。随分と、勉強を頑張っているらしいな。現状の学力に対して、結構難易度高めのトコを目指しているようだが——趣味でもないことに対して、ひたむきに努力を続けるってのは、中々どうして、誰にでもできることじゃあない。その点、君は尊敬に値する人物だな。……まあ、だからといって、その努力が結実するかってのは、また別問題だろーがね。
しかしながら、僕が今知りたいのは、そういうことじゃあないんだ。……もう少し、遡ってみるか。
……ム? 『囲い火蜂』……だと? 随分と珍しいものを知っているな。僕も詳しい訳じゃあないが、確か、古い書物に載っている妖怪——だったか? ……ふむ、もしかすると暦くんは、オカルトマニアってやつかな。いいぞ、吸血鬼の件が空振りだったとしても、他に何か面白いネタを掴んでいる可能性も出てきた。
……!?
……オイオイ……妹が『囲い火蜂』に刺された、だって? 他の文献でも見かけないし、よくある創作物に過ぎないと思っていたが、『囲い火蜂』は実在するということか? ……いや、僕だって『妖怪』に出くわしたことがあるんだから、何が存在したっておかしくないってのは、その通りなんだが。
……興味深い。今回の取材が終わったら、そっちの方面について調べてみてもいいかもな。
しかし、そうなると、暦くんという一個人についても、俄然興味が湧いてきたぞ。吸血鬼の話題に対する露骨な反応といい、ただの高校生じゃあできないような体験をしてるってことも、十分に考えられる。
個人の情報が載っているのは……この辺りだな。
阿良々木暦。高校三年生。人間関係に若干の難ありだが——困っている人間を放っておけない性格。……フム、いいぞ。大学受験の件といい、好感が持てる。こういうタイプは、読者からも気に入られやすいしな。
家族構成は、両親の他に……妹が二人か。『囲い火蜂』に刺されたってのは、上の妹の方だな。……オイオイ、モーニングコールとして、寝込みをバールで襲われるってのは、流石に事件性があるんじゃないか? ……しかし、仲が悪い訳ではないらしいな。むしろ、良好か? 相当変わった関係性だが——だからこそ、面白いぞ。
……っと、あまり読み込んでいる暇はないんだったな。いくら人通りが少ないとはいえ、いつ通行人が現れるか分からない。口惜しいが、急ぐとするか。さて……、プロフィールに何か、おかしな点はないものか。
……。
……ン、これは…………吸血鬼? ……まさか、冗談だろう? 暦くん自身が、
……いや、違う。違うぞ。普通に考えて、有り得ない。本物の吸血鬼だとすれば、日光の下を平気で歩き回れているはずがないんだ。だったら——。
……やはりな。
吸血鬼——擬きの人間。
なるほどな。つまりは、完全な吸血鬼じゃあないってことだ。ほんのちょっぴり、吸血鬼の血が混ざっている。そんなところか。だから、日光の影響も受けない。あるいは受けたとして、極僅かってコトなんだろう。
しかし……『擬き』というのが気になるな。ハーフとかじゃあなく、『擬き』。先天的にそうだったのか、後天的にこうなったのかすら分からないぞ。
……吸血鬼の噂を聞いたのは、春頃だと言っていたな。該当の記録は……この辺りか?
——うッ!? 何だこれはッ!?
ほとんど黒く塗りつぶされているじゃあないかッ!?
読める部分もあるにはあるが、大半が虫食いの状態だな……。特に、人名は全く読めないぞ。まるで検閲でも喰らったみたいだ……。
…………嫌な予感がしてきたぞ。これ以上読み続けるのは何か、マズい気がする。暦くんという吸血鬼擬き——だけじゃあない。もっと
……もっとも、志士十五が調べていた『禁止用語』の件ほど、切羽詰まってヤバいって雰囲気でもないんだが。
とはいえ——引き返すなら、今なんだろーな。ここを逃せば、後はもうずるずると、なし崩し的に
……ああ、諦めてやるよ。僕にしては、非常に珍しくな。極上のネタに、あと少しで手が届くという絶好のチャンス。逃すのは非常に悔やまれるが、しかし、ネタ集めってのは、それを活かせる環境が、つまりは、僕が漫画を描ける状況にあるという前提があってこそだからな。
だから、ここは大人しく引き下がろう。
——だが。
僕の目的はあくまで、
君の記憶を読み続けることが危険なんだったら、君以外の記憶を読めばいい。
『ヘブンズ・ドアー』を発動する直前の、噂話についての会話。
つまり君は、誰から噂話を聞いたのか、それをはっきりと覚えていた。ならば、書かれているはずだ。その人物の名前が、最新のページに、な。
どれ……。
……。
……どうやら、僕の考えは正しかったらしいな。
——羽川翼。これだ。
暦くんのクラスの、学級委員長、ね。
決まりだ。
それじゃあ次は、その子を取材させてもらうとしようか。
————?
……何だ? ……何故、新しい記述が追加されている? 僕はまだ、『ヘブンズ・ドアー』を解除していないんだぞ。スタンド使いでもない人間が、意識を保てているはずがないッ!
だが、現実として記述が増えている——増え続けている以上、今現在、暦くんが起きていることは確実だッ!
……いや、しかし、僕の声がはっきり届いているにしては、内容が欠けているし、文字もかなり薄い。これじゃあ、後から振り返ろうにも、断片的な内容しか思い出せないぞ。
第一、本当に起きているのだとしたら、彼からしてみれば、気付いたら身動きが取れなくなっているという状況なのだから、もっと慌てるなり取り乱すなりしてもいいはずだ。知り合ってまだ数分程度だが、暦くんはいかにも、そういうリアクションが大きそうなやつだしな。
だとすれば、考察するに——暦くんは、寝惚けているのと近い状態なのか?
意識があるともないとも言えない、中途半端な覚醒状態という事なのか?
……こんな奇妙な現象は初めてだ。
とはいえ、物事には必ず理由が存在する。暦くんの意識が——辛うじてとはいえ、繋ぎ止められているのならば、何か理由があるはずだ。
……普通に考えれば——というか、どう考えたって、吸血鬼であるという事が、要因なんだろーな。
となると間違いなく、吸血鬼の特徴が絡んでいる。
吸血鬼の特徴と言って、真っ先に思い浮かぶのはやはり、生物の血を吸うという点と、銀の弾丸やらのやたら多い弱点と引き換えに、それら以外では殺せないという、強力な不死性だが……。
不死性……。
漫画やアニメだとよく、傷が瞬時に治るなんて描写もあるな。作品によって、その程度に差はあるものの……。
…………待てよ、傷が治る?
——ッ! まさか……!?
『ヘブンズ・ドアー』の副次効果による昏倒が、肉体への危害だと捉えられているのだとしたらッ! 人ならざる存在としての肉体が、本人の意思に関係なく、抵抗しているのだとしたらッ!
しかしながら、吸血鬼の力とスタンド能力が干渉し合い、その効力が半端にしか発揮されずにいるッ! そういうことなのかッ!?
……そう考えれば、一応の理屈は通る。だが、そうすると——。
……。
……考えてばかりいても、埒が明かないな。なんにせよ、この状況に陥ってしまった以上、僕が取るべき行動は変わらない。
結果
とにもかくにも、賽の目がどうなるのかなんて、振ってみなけりゃあ分からないんだからな——いや、暦くんに向けて言うなら、鬼が出るか蛇が出るか、なんて言い回しの方が、洒落が効いてるかな? 君の知っている妖怪が、蜂じゃあなくって蛇だったなら、尚ぴったりだったんだがね。……それとも、もしかすると暦くんは、既に蛇の妖怪なんかも、見たことがあったりするのかな?
できればその辺り含め、じっくり読ませてもらいたかったが、そうもいかないからな。
……さて、どうなることやら。
僕に都合よく事が運ぶのか、あるいは、暦くんが——吸血鬼の力が、凌駕するのか。
何にせよ——