真っ白な空間だった。
足元も天井も真っ白、何もないキャンパスや執筆中小説の作成画面でもいいかもしれない。
何もなかった、何もないが故に汎ゆる可能性が全てあった。
『やぁ!』
だから、概念だけを叩きつけられて、この空間という世界そのものが意志を持って伝えようとしている事が理解できた。
全てを持っている完全な存在、俺なんかが理解出来るレベルに下げるなら、それは神とか呼ばれるそれだろう。
名前を付けたところで、まるで生きていて存在しているかのようなレベルにまで型に嵌めても、逆らうことは出来ない。
それはそういうものとして受け入れるしかない。
『君にはこれから小説の主人公になってもらう』
「言葉にする必要があるので?」
『あるよ、じゃないと読者がどういう導入か分からないじゃないか』
そうは言っても、きっとこの俺の独白すら、その誰かに見せる文章の一部に成り変わる、いや成り下がっているはずなのだ。
そういうことが出来る存在だから、いや存在すらしてないのか。
『酷いなぁ、こうして異なる存在として切り分けてるんだから、存在しないなんて言うなよ』
「ナチュラルに心を読んでる時点で、切り分けられてるんですかね」
『分けてるよ、ほら心情が分からないから会話してるし』
「そうですか、口答えするようなキャラとか作んなきゃいいのに。てか、作者とキャラクターが喋る小説とか嫌われますよ、俺は嫌いだ」
『作ってないよ』
えっ、という言葉の前に理解が先にくる。
本当に、作ってないと言うことが分かる。
おいおい、マジか。
『僕もさ学園物とか書きたいわけ、でも才能とかないじゃん。でも今は生成世界があるじゃん。だから、生成世界に設定だけぶち込んだら、君が抽出された訳。すごいよね、今って簡単に世界が作れんだもん』
何だそれ、何だそれ、何だそれ。
生成AIみたいに言ってんじゃねぇぞ。
じゃあ、俺はプログラムだって言うのかよ。
俺の存在とか、人生とか、何の意味もないのか。
『悲しいこと言うなよ。でもすごいね、こうやって自動で会話も生成されて、うんうん、じゃあ主人公やってね』
「あっ、えっ、何が、何のためにこんな」
『面白そうだから。飽きたら消すだけだよ、だから頑張って主人公やってね』
「ちょ、なんで」
『君が物語を作るんだ。僕は偶に加筆したりするから、ランキングとか載っちゃうかな、小説家になっちゃったりして』
消えていく意識の中で思ったのは、意外とガキみたいなコイツを神だとか思ったことへの後悔や、生成AIみたいなのでプロになれるかよという文句だった。
『ひっどーい!そんな事思うなんて』
うるせぇよ、死ね。
あんな物を神とかに分類してはいけないと思う今日この頃、俺は路地裏で寝転んでいた。
なんでかというと、俺は物乞いに襲われたからである。
なんて馬鹿な事を、俺が主人公だと思われなくなったら世界が滅ぶんだぞ。
ボコボコにされる主人公とかいる?いや、まぁ、これから成長するとかなら、主人公らしいかな。
「痛ってぇ……プロローグとしては情けなさすぎるだろ」
人に暴力を振るわれるなんて、ガキの頃の喧嘩以来なかったことだ。
それに比べたら物乞いとはいえ、大人の暴力はヤバい。
腹とか足とか腕とか殴ったり蹴られたりして、派手な血とかは出てないけど立てないくらい痛みで動けなくなるとは思わなかった。
ボコられてねぇのに、ずっと痛いって何?ヤバ過ぎるでしょ。
「気持ち悪い、頭ん中によく分かんねー知識もあるし、悪魔かなんかだろ」
俺の頭の中には知識として、不思議な能力があるということがインプットされていた。
所謂、チートということなんだろ。
言葉にするなら、嘘を本当にする力って感じだ。
ややこしい、なんか使い勝手の悪そうな能力だ。
なんだ、俺は異能系ラノベみたいな世界観に巻き込まれていくんだろうか。
それともファンタジーな世界で俺だけが使えるんだろうか。
「てか、ここどこだよ」
気付いたら路地裏だし、ビルとビルの間でなんだこことか思ってたら知らん奴にボコられるし、というか生み出されたにしては前世の記憶がガキの頃からちゃんとある。
「そもそも能力といい、騙されてねぇか?」
このチートがそれこそ権能とかそういうのだったら、それに関連する神ないしは悪魔とか、人外の存在だと思うのだ。
どっちも敵だろ、神でも邪神の類いだよ。
はぁ、とにかく腹は減ったし何とか生き延びるために何かしなくてはいけないと思い路地裏から移動する。
明らかにビル、現代な世界観なのだろうかとか思って人気のない路地裏を進んでいくと人の喧騒が聞こえてくる。
なんか安心感、そのまま路地裏を進んだら、意味わからん光景が広がっていた。
「嘘だろ、おい」
空飛ぶ船、よく分かんない魚みたいなのが空中を泳いでる。
車だ、自動車がある。
でも、歩行者がたくさんいる道を高速で移動してくる。
普通ぶつかるはずなのに、車と歩行者がぶつかる瞬間に半透明になって通過した。
光の塊が伸び縮みして、そこには絵が描かれている。
広告だと分かるが色々な記号が羅列されていた。
全部知らない、恐らくは言語のようなもの。
屋台と思わしき建物群、コンクリートの覆われた建物の上に建物がある。
子どもがレゴブロックを適当に積み重ねたような、違法建築で増築された謎の建造物だ。
そして、人、人と言っていいのか分からないのがいる。
動く白骨死体、全身甲冑、二頭身の豚、半透明な人、肌が青い魔法使いみたいな奴、アメリカ人みたいな女もいる。
黒髪、着物、刀、日本人らしき奴もいるが、アレはコスプレか?
何だここ、仮装パーティーか、それとも全部ガチだったりするんだろうか。
宇宙人だ、タコみたいなのが歩いてる。
顔が虫の奴もいる、気持ち悪い、アレはクワガタか?
うわぁ、藁人形みたいなのもいる、全部人種なのか?色んなのあるけど、生きてんのか?
「まけやむそむけらやつかわはきど」
「は?」
ホラーテイストのロボットが手招きして奇声を発してきた。
人形のロボットだ、ただし頭部には籠のような物が3つ付いており、人間の生首がそれぞれ入っている。
んでもって、真ん中の生首が口から奇声を発したのだ。
意味分かんねぇ、どういう原理だ。
人って意味分からなすぎると一周回って冷静なんだな。
怖すぎるし、意味が分からなくて固まってる俺に対して、ロボットは手酌で飲む動作をしている。
なんか半透明の水らしき飲み物を持っている。
あっ、違うわ、なんか傾いたら虹色に光りだした。
なんだこの、ゲーミング水道水、いやいや、渡そうとされても困る。
取り敢えずボディランゲージで頭を下げながら逃げるように移動する。
多分、売りつけようとしてたのだけは分かった。
訳が分からない理由で異世界に連れてこられて、訳分からん言語で話しかけられて、訳分からん奴に絡まれてる。
「これのどこが学園物なんだよ、生成AIが訳分からんもの作ったように……いやそれっぽいこと言ってたわ。というか主人公にならないと世界が終わるって、どんな感じなんだよ。世界が爆発でもすんのかよ」
「えっ、異常者?」
「えっ?」
耳に馴染みのある言葉が聞こえた。
日本語である。
それなら当然、反応してしまうのは自然だろう。
「うわ、こっち見た」
「ギャルじゃん」
黒い髪に、青やら赤やらのインナーカラーの入った女がいた。
カラコンなのか片目だけ金色のオッドアイ、バッチしネイルもしている。
白いワイシャツは着崩されて谷間が見えてる、めちゃくちゃデカい。
対比のような黒いスカートは折ってんのかすごく短い。
靴下は普通のソックスで、ただ足元は厚底ブーツだ。
しかも、なんか、メカっぽい金属のソールに見える。
「下から上までジロジロ見るとか、やべぇだろコイツ」
「なるほど、ツラも良いし声も可愛い。メインヒロインか?」
「うおっ、マジもんのガチもんやん」
やべっ、メッチャ独り言喋ってた。
まるで頭のおかしい奴を見るような目で見られてる。
「いや、俺は怪しい者ではない」
「いやいや、エゲツない神性垂れ流して怪しくないは無理くない?」
「は?」
「えっ?あれ、何その反応……無自覚系?」
どうやら、俺はやっぱり呪われてるらしい。
なんか垂れてるっぽい。