尾張水神伝 ~SF世界の天使っぽい種族に転生したけどワープ事故で戦国時代の日本に漂着しました~   作:Lavian

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第一章 降臨編
第一話 転生先はSF世界で、天使っぽい種族でした。


 死ぬ瞬間の事を、セララはぼんやりと覚えている。

 

 深夜の残業帰り。雨が降っていた。傘を差しながらスマートフォンの画面を眺めて歩いていたら、気がついたら車に跳ねられていた。痛みはほとんど感じなかった。ただ、濡れたアスファルトが顔に冷たかった事だけを、奇妙なほど鮮明に記憶している。

 

 前世の名前は、もう覚えていない。

 

 二十代の後半で、会社と家の往復だけの毎日だった。好きな仕事でも何でもなかった。ただ何となく就職して、何となく働いて、何となく生きていた。休日には漫画を読んだり、アニメを見たりした。ファンタジーの世界が好きだった。剣と魔法、異世界転生、宇宙を舞台にしたSF。現実には絶対にない、胸が弾むような非日常に憧れていた。でも憧れるだけで、何かをしようとは思わなかった。疲れていたのだと思う。

 

 そして、次に気がついたときには赤ん坊になっていた。

 

 

 

 

 

 ボクが転生した世界はSFみたいな世界だった。国の名前はアルテリス聖国。聖国はすでに宇宙進出しており、惑星の軌道上にいくつものコロニーが浮かんでいる。ボクが住んでいるのはそのひとつ、辺境のラビットコロニーだ。田舎のコロニーだと思ってもらえれば大丈夫。

 

 そしてボクは、スカイエルフという種族に転生していた。長い耳に、頭上に浮かぶ金色の光輪(ヘイロー)、白い翼。平均寿命は2000歳。高い魔力を持ち、魔法を得意とする、まるでファンタジーのエルフと天使を混ぜたような種族だ。

 

 ボクの年齢は120歳。人間で言えば12歳くらい、身長は133cmほど。金髪に、ルビーみたいな赤い瞳。

 

 転生してすぐの頃は戸惑いもあったけど、物心がついてあたりを見回したら、もう夢中になるしかなかった。

 

 空に浮かぶコロニーの都市構造。街を走る乗り物は静粛で排気ガスを出さず、エネルギー源は魔導結晶と融合した次世代炉だ。人々は当たり前のように魔法を使いこなし、ワープゲートを使えば数光年の距離も数日で移動できる。前世で憧れていたオーバーテクノロジーが、ここでは日常として存在していた。

 

 それに、この体は魔法が使える。最初は小さな光球を作るところから始めて、今では風の流れを操ったり、物体を浮かせたりもできる。スカイエルフは種族的に魔力が高いらしく、教師には「伸びが速い」と言われた。その言葉が嬉しくて、さらに練習した。

 

 魔道工学の本も片っ端から読んだ。読めば読むほど新しい概念が出てきて、またそれを理解するために別の本を読んだ。前世では勉強が苦痛だったのに、好きなことを学ぶのはこんなにも楽しいのかと、転生した自分の幸運を何度も噛みしめた。

 

 ボクは今、アルテリス聖国の軍事学校、ミドルスクールの一年生だ。代々軍人の家系に生まれたこともあるけれど、正直に言えば志望理由の半分以上は別のところにある。軍人になれば、宇宙戦闘機や戦艦に乗れる。

 

 軍人と言っても、聖国では数千年も戦争が起きていないから平和な職業だ。前世の言葉で言えば、宇宙パイロットと宇宙探検家と技術者を足して三で割ったような夢の職業になる。

 

 軍人になって戦艦の艦長になる。これがボクの将来の目標だ。

 

 

 

 

「セララ、今日はずいぶん眠そうな顔をしているね」

 

 食卓の向かいに座ったパパがそう言って、口元に柔らかな笑みを浮かべた。パパはラビットコロニー駐留軍の軍人であり、セララの父である。上背があって肩幅が広く、いかにも軍人といった体格をしているが、家の中では穏やかな表情しか見せない人だ。

 

「んー、ゆうべちょっと本を読みすぎたかも」

 

 セララは欠伸を噛み殺しながら、フォークでパンケーキを刺した。表面はきつね色に焼けていて、上からかかった蜂蜜の甘い香りが鼻をくすぐる。これがまた美味しいのだ。前世では朝食なんてコンビニのおにぎりで済ませていたのに、今では毎朝こんな幸せな食卓がある。

 

「また魔法の本?」

 

 キッチンから声をかけてきたのはママだ。ラビットコロニー軍の技術開発部門に勤めるエンジニアで、ふんわりとした金色の髪と赤い瞳はセララと同じ色をしている。

 

「そう。天候操作の魔法についての本だよ。最近習得したから応用しようと思って」

 

「まあ、熱心ね。でも睡眠はちゃんと取りなさいよ。成長期なんだから」

 

 とママは苦笑した。

 

 スカイエルフは二百歳でようやく成人と見なされる。百二十歳のボクはまだまだ少女の域を出ない。百二十年も子供扱いはさすがに納得できないけれど、それはまあ仕方がない。

 

「今日の午後は操縦シミュレーターの時間だったな」

 

 パパがスケジュールを確認するように言った。

 

「うん!」

 

 途端にセララの顔が明るくなった。眠気が吹き飛んだように背筋が伸びる。

 

「合格すれば来週から実機に乗れるんだ」

 

「実機と言うとホワイトスワローね。ちゃんと安全確認の手順は覚えた?」

 

 とママが言った。

 

「ばっちり。起動前チェックリスト、二十八項目、全部暗記済みだよ」

 

「さすがだ。シミュレーター課程の試験、頑張って来い」

 

 パパが褒めてくれた。

 

 その言葉に少し照れくさくなって、セララは蜂蜜をたっぷり吸ったパンケーキを頬張った。

 

 

 

 

 午後の訓練棟は独特の緊張感に包まれていた。

 

 シミュレーター室には機体を模した筐体が八台並んでいて、それぞれにクラスメートが乗り込んでいた。目の前の画面には精巧なグラフィックで再現された宇宙空間が広がり、エンジン音も振動も、本物に極めて近い形で再現されている。

 

 セララは筐体に乗り込み、シートベルトを締め、チェックリストを口の中で唱えながら各スイッチを確認した。二十八項目、一つも漏らさない

 

「シュトーレン、準備完了の報告を」

 

 インカムから教官の声が聞こえた。

 

「シュトーレン、準備完了です」

 

「ではシナリオ7を開始する。自由宙域での機動確認と、緊急離脱ルートの選択試験だ。評価基準は正確性と判断速度。始め」

 

 画面が切り替わり、コロニーを出た直後の宙域が映し出された。正面には惑星の弧、左手には小さな月。ラビットコロニーから見える景色によく似ていた。

 

 セララは操縦桿を握り、スロットルをゆっくり押した。

 

 シミュレーターで乗る機体のホワイトスワローは小さな訓練機だ。加速のレスポンスが素直で、旋回時のロールが読みやすい。初心者向けの機体だ。

 

 シナリオは複数の想定状況を含んでいた。まず航路を塞ぐデブリへの対応。落ち着いてスラスターを逆噴射し、迂回ルートへ切り替える。続いて突然の通信障害。インカムが途切れた瞬間、一瞬だけ心臓が跳ねた。マニュアルで帰還座標を入力しながら、セララは焦る気持ちを意識的に抑え込んだ。焦っても状況は変わらない。まず現在位置を確認する。次に燃料残量。それから最短の帰還ルート。

 

 ひとつひとつ、順番に処理していく。

 

 最後の模擬警告アラームをこなし、帰還シーケンスを完了させたところで、インカムから教官の声が届いた。

 

「シュトーレン、評価スコアを告げる。正確性A、判断速度A、手順遵守A。総合評価はS評価だ。来週から実機搭乗を許可する」

 

 セララは操縦席の中で、小さくガッツポーズをした。

 

 

 

 

 訓練棟を出ると、コロニーの外壁越しに宇宙が見えた。漆黒の中に星が散らばっていて、遠くに月の輪郭が浮かんでいる。かつての自分は、この景色を画面の中でしか知らなかった。今は窓一枚隔てたところに、本物の宇宙が広がっている。

 

 廊下を歩いていると端末に通知が届いた。差出人は担任教官。件名は「特別課題について」とある。

 

 首を傾けながらメッセージを開く。

 

 そこには実際のワープゲートを使用した低出力ジャンプ演習の概要が書かれていた。成績優秀者のみに課される実地訓練の機会だという。

 

 セララは一度だけ瞬きをして、それから窓の外に視線を移した。

 

 等間隔に並ぶ小さな光の点。ワープゲートの誘導灯だ。あの光の輪をくぐれば、遠く離れた宙域へと一瞬で跳ぶことができる。技術書で読んだだけでは物足りなくて、いつかあれをくぐって遠くへ行ってみたいとずっと思っていた。

 

 ボクは、本物のワープゲートをくぐるんだ。

 

 前世では想像の中にしかなかったものが、また一つ現実になろうとしていた。




アルテリス聖国 :通称聖国。スカイエルフ達の国。宇宙進出を果たしており、科学も魔法も発展してる凄い国。
ラビットコロニー:聖国が建造したコロニー。辺境に位置する。
スカイエルフ  :天使とエルフが混ざったような種族。頭上にヘイロー、背中に白い翼がある。寿命が長い。


主人公の画像です。AIを利用して作成しました。
戦国時代の日本なので和風の衣装にしてみました。

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