SF世界の天使っぽい種族に転生したけどワープ事故で戦国時代の日本に来ちゃいました。 魔法と知識で日本を発展させます。 作:Lavian
翌日の朝、信長から呼び出しがあった。
案内されたのは城の外の訓練場だった。広い砂地に的や木の杭が立てられており、普段は武将たちが鍛錬をする場所らしかった。今朝は信長とその配下たちが集まって、セララを待っていた。
「セララ、昨日の話の続きだが、お前が何をどこまでできるのかを実際に見たい」
隣の武将が頷いた。
「殿が神と友人になられたからには、どのようなお力をお持ちなのか知っておきたいと我々も思いまして」
セララは訓練場を見回した。的がいくつか立っている。距離は様々だ。空も広い。やるには十分な場所だった。
「分かった。じゃあ魔法を色々見せるね。ボク、魔法は60年も修行したから得意なんだ」
なお、60年という時間はスカイエルフの時間間隔では小学校に入学してから卒業するまでの期間である。人間基準に換算すると6年も魔法を修行したから得意だよ!という発言になる。
「60年ですと!?……水神様は今、おいくつなのですか?」
「120歳だよ。人間で言えば12歳だね。人間の年齢を10倍したのがボクの種族の年齢って感じかな」
「どう見ても子供にしか見えないのに、120歳とは……」
周囲で驚いている人達がいるが、自分がこの場で最年長である事が少し恥ずかしくなり、翼を広げて空へ逃げるように飛行開始した。
一気に上昇して、訓練場の上空に浮いた。下で見ていた武将たちが顔を上げた。
上空から、遠くに立てられた的に向けて手を伸ばす。
「ファイアボール」
掌から炎の塊が放たれた。弧を描いて的に当たり、炎が弾けた。爆発の音が訓練場に響き、的が木片になって飛び散った。
武将たちがざわめいた。
セララは高度を保ったまま、別の的に向けた。
「サンダーボルト」
指先から雷が走った。空気が裂けるような音がして、直撃した的が一瞬で黒焦げになった。さらに別の方向へ。
「アイスウォール」
地面に氷の壁が出現した。高さと幅が二メートル以上、厚さが1メートル以上ある即席の壁だ。白く濁った氷が朝の光を反射して、訓練場に冷たい光を散らした。
最後にセララは手の前で魔力を集めた。
「ウィンドカッター」
不可視の風の刃が飛んだ。音もなく、しかし氷の壁の端が綺麗に切り取られた。断面が鏡のように滑らかだった。
セララは高度を下げて、武将たちの前に降り立った。
しばらく誰も声を出さなかった。
最初に口を開いたのは、壮年の武将だった。声がわずかに掠れていた。
「飛びながら……全部やったのですか」
「うん」
「飛びながら、あれだけの術を」
「そうだよ。飛行しながらでも問題なく使えるよ」
武将たちが顔を見合わせた。その顔に浮かんでいるのは驚きだけではなかった。寒気に近い何かが混じっていた。
「防ぐ手立てが無い……」と誰かが呟いた。
「空を飛ばれたら刀が届かん。あの速度では弓矢も当たるかどうか。そこから炎や雷を撃たれたらどうやって対応すれば良いのだ」
「バリア……攻撃を防ぐ結界も使えるよ。だから矢は通らないんだ」
魔法を見せる前、水神様と言っても子供だから大した事は無いだろうと考えていた者が少なからずいた。しかし今、セララの魔法を見た後には一人もいなくなっていた。
「水神様ではなく、軍神様ではないのか」と一人が言った。
それを聞いて、別の武将が苦笑した。
「確かに。これは戦の神だ」
流れを見守っていた信長がセララの前まで歩き、立ち止まって声をかける。
「セララよ。お前の力、確かに確認したぞ。この力は神に相応しい」
セララは少し申し訳ない気持ちになった。
「えっと、一応言っておくけど……ボクは戦が好きなわけじゃないからね。あくまでも自衛と、困ってる人を守るためだから」
「分かっておる。よほど危機的状況にならぬ限り、セララを戦場に引っ張りまわすつもりは無い」
それから信長は武将たちを見回した。
「セララが友人である事の意味がこれで分かったであろう」
武将たちが頷いた。水神様が味方で良かったと、心から安堵していた。
午後になって話題が変わった。
「怪我を治せると聞いたが、本当か」と武将の一人が言った。
「病気は難しいけど、怪我なら大抵は治せるよ」
「実際に見せてもらえるか」
城の中には怪我を抱えた者が何人かいた。訓練中に痛めた肩、長年続く古傷、先日の転倒で骨折した足。そういった者たちが順番に連れてこられた。
最初の男は右肩を痛めていた。数ヶ月前から続く痛みで、重いものが持てなくなっているという。
セララは肩に手を近づけて、魔力を流し込んだ。損傷の状態を感知しながら、修復に必要な量を調整する。筋の炎症が収まっていくのを感じながら、ゆっくりと魔力を流し続けた。
「どう?」
男が肩を回した。それから腕を上げた。目が大きく開いた。
「痛くない……全く痛くない」
周囲から声が上がった。
次の者は足の骨折だった。三日前に転倒して折れたという。セララは骨の位置を整えてから修復した。数分後には歩けるようになっていた。
次に連れてきたのは老いた武将だった。腰に古傷があり、長年痛みに悩まされていたという。この傷は随分前のものだったが、セララは丁寧に魔力を流した。時間の経過した古傷の完治は難しいかもしれないと思っていたが、傷の状態が思ったよりも修復に応じてくれた。数分後、老武将は腰を伸ばして立ち上がった。
「これは……何年ぶりかに痛みがない」
老武将が呟き、セララに感謝する。
これらの奇跡を見て武将たちがセララを見る目が変わった。その目にある感情は……信仰。セララを神と崇めた村人たちを同じ表情だった。
炎も雷も氷も、目に見える力だ。しかし怪我を治すということは、もっと直接的に人の生活に触れることだ。特に侍ならば戦争での怪我が身近だ。武将たちは怪我を治す奇跡を見て、その恩恵に期待したのだ。
「水神様のご利益は素晴らしい。何と言っても、奇跡が目に見える」
「水神様を信仰すれば戦にも医療にも加護がある!」
武将たちが口々に水神様の名を唱え、その言葉がゆっくりと広間に広がっていった。
夕方、セララは信長の部屋に呼ばれた。奇跡で治療をして欲しいが、人目のある場所で自身の病気について話す事は弱みに繋がってしまう。そのため人払いをしてからセララを呼んだとの事だった。
「セララよ、病気は治せないとの事だが……儂の虫歯は治療可能か?」
信長がセララの前に座り、自分の口を大きく開いて指で歯を指し示した。
「虫歯に回復魔法?えっと、虫歯菌がある状態でヒールをかけても多分ダメなんだよね……」
高度に科学が発達したスカイエルフの国では歯磨き粉に虫歯治療成分が含まれており、故郷では虫歯なんて聞いた事が無かった。そのため虫歯に回復魔法をかけるなんて聞いた事が無い。抜けた歯であれば回復魔法で対応可能だが……
「むぅ。天の国の奇跡でも治せぬのか?」
信長が悲しそうに聞いてくる。普段の偉そうな態度がどこかへ飛んで行っていた。よほど虫歯を治したいらしい。
「いや……虫歯菌を無くしてからヒールをかければ大丈夫だと思う。つまり、虫歯を抜いてから回復魔法をかけて歯を再生させるよ」
「な、なんだと!?儂の歯を抜くと言うのか!?それは……だがしかし……うぬぬ……」
思わず声をあげながら立ち上がってしまい、立ったまま唸って悩む信長。大人と言えど、これから歯を抜きますと言われたら躊躇するのは仕方ない。
「信長さん。虫歯は治療しないと治らないよ。ずっと痛いままだしどんどん悪化していくよ」
セララは冷静に事実を述べる。
「ぐぬぬ……覚悟を決めたぞ。セララ、やれい!」
信長が決断して大声をあげる。セララの前にどかっと座り込み、大きく口を開いた。
セララはうんうんと頷き、自身に殺菌魔法をかけて清潔にして準備を整える。
「それじゃあ治療を開始するよ。まずは痛み止めの魔法だね。これで痛みの8割が遮断されるよ。ペインリリーフ!」
「ありがたい。だが、痛みが2割は残るのか……」
信長を緑の光が包み込む。これで痛みは軽減された。さらに信長が暴れないように魔法で素早く拘束した後、セララは自身の身体能力を魔法で強化する。
「準備完了!暴れないでね。いくよ!」
信長の口に手を突っ込んだ。
「もがっ!」
信長が抗議するように声をあげるが気にしない。虫歯を指でしっかりとつかむ。身体強化した自分なら虫歯を指で掴んで引っこ抜けるはずだ。
「抜くよ!せーのっ!!」
「っっっ!!」
信長が暴れるが魔法の拘束は破れない。信長はまな板の上の鯉だ。セララは思いっきり歯を引っこ抜いた。
「あがーーーっっ!!」
「抜歯成功!信長さん、よく頑張ったね」
セララは涙目になっている信長に笑顔で語り掛ける。そして、抜いた虫歯を放り捨てた後に再度信長の口に手を突っ込んだ。
「それじゃあ続いて2本目の虫歯を抜いていくよっ!!」
「もががががーーーっっ!!」
こうして信長の虫歯は治療されたのだった。
後日、信長は清州城の住人たちに虫歯治療を命じた。虫歯の者がいればセララに治療してもらうようにと。
「抜歯は一瞬の苦しみ。虫歯は一生の苦しみだ。早急に治療せよ」
信長はそう宣言した。もっともらしい言葉だったが、実際の所は自分だけが虫歯治療で痛い思いをしたのが悔しかったため、他の人間も巻き込もうとしただけだった。
成長速度と寿命に関する設定。
スカイエルフが成人するまでの成長速度は人間の10分の1。それでいて寿命が長い。
スカイエルフの平均寿命は2000歳。成人年齢は200歳。200歳からは外見変化(老化)無し。
人間基準で計算すると平均寿命は200歳。成人年齢は20歳。20歳からは外見変化(老化)無し。
スカイエルフは寿命が長いため、のんびり屋さんが多い。