尾張水神伝 ~SF世界の天使っぽい種族に転生したけどワープ事故で戦国時代の日本に漂着しました~   作:Lavian

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第十二話 病気は怪我に変換してから回復魔法を使おう

 翌日の朝、信長から呼び出しがあった。

 

 案内されたのは城の外の訓練場だった。広い砂地に的や木の杭が立てられており、普段は武将たちが鍛錬をする場所らしかった。今朝は信長とその配下たちが集まって、セララを待っていた。

 

「セララ、昨日の話の続きだが、お前が何をどこまでできるのかを実際に見たい」

 

 隣の武将が頷いた。

 

「殿が神と友人になられたからには、どのようなお力をお持ちなのか知っておきたいと我々も思いまして」

 

 セララは訓練場を見回した。的がいくつか立っている。距離は様々だ。空も広い。やるには十分な場所だった。

 

「分かった。じゃあ魔法を色々見せるね」

 

「魔法とは奇跡の事でしょうか。水神様は自然に奇跡を使えたのですか?それとも修行して身に着けたのですか」

 

「もし修行して身に着けたのであれば、何年ぐらい修行したのでしょうか。我々も修行して身に付けられるかどうかが気になっておりまして」

 

と複数の武将が質問した。

 

「えっと、魔法はボクの種族なら自然と使えるようになるよ。魔法は習得してからも修行を続けていて、六十年ぐらい修行してるね」

 

 広間がざわめいた。

 

「六十年!?……水神様は今、おいくつなのですか?」

 

「百二十一歳だよ。人間で言えば十二歳くらいね。ボクたちの種族は寿命が長いから、年齢の感覚が人間とだいぶ違うんだ。だからボクにとって六十年の修行は、人間で言えば六年くらいの感覚かな」

 

「どう見ても子供にしか見えないのに、百二十一歳とは……」

 

 周囲で驚いている声がしたが、自分が実はこの場で最年長だという事実が少し居心地悪くなり、セララは翼を広げてさっさと空へ飛び上がった。

 

 一気に上昇して、訓練場の上空に浮いた。下で見ていた武将たちが顔を上げた。

 

 上空から、遠くに立てられた的に向けて手を伸ばす。

 

「ファイアボール」

 

 掌から炎の塊が放たれた。弧を描いて的に当たり、炎が弾けた。爆発の音が訓練場に響き、的が木片になって飛び散った。

 

 武将たちがざわめいた。

 

 セララは高度を保ったまま、別の的に向けた。

 

「サンダーボルト」

 

 指先から雷が走った。空気が裂けるような音がして、直撃した的が一瞬で黒焦げになった。さらに別の方向へ。

 

「アイスウォール」

 

 地面に氷の壁が出現した。高さと幅が二メートル以上、厚さが1メートル以上ある即席の壁だ。白く濁った氷が朝の光を反射して、訓練場に冷たい光を散らした。

 

 最後にセララは手の前で魔力を集めた。

 

「ウィンドカッター」

 

 不可視の風の刃が飛んだ。音もなく、しかし氷の壁の端が綺麗に切り取られた。断面が鏡のように滑らかだった。

 

 セララは高度を下げて、武将たちの前に降り立った。

 

 しばらく誰も声を出さなかった。

 

 最初に口を開いたのは、壮年の武将だった。声がわずかに掠れていた。

 

「飛びながら……全部やったのですか」

 

「うん」

 

「飛びながら、あれだけの術を」

 

「そうだよ。飛行しながらでも問題なく使えるよ」

 

 武将たちが顔を見合わせた。その顔に浮かんでいるのは驚きだけではなかった。寒気に近い何かが混じっていた。

 

「防ぐ手立てが無い……」

 

と誰かが呟いた。

 

「空を飛ばれたら刀が届かん。あの速度では弓矢も当たるかどうか。そこから炎や雷を撃たれたらどうやって対応すれば良いのだ」

 

「バリア……攻撃を防ぐ結界も使えるよ。だから矢は通らないんだ」

 

 魔法を見せる前、水神様と言っても子供だから大した事は無いだろうと考えていた者が少なからずいた。しかし今、セララの魔法を見た後には一人もいなくなっていた。

 

「水神様ではなく、軍神様ではないのか」

 

 と一人が言った。

 

 それを聞いて別の武将が苦笑した。

 

「確かに。これは戦の神だ」

 

 流れを見守っていた信長がセララの前まで歩き、立ち止まって声をかける。

 

「セララよ。お前の力、確かに確認したぞ。この力は神に相応しい」

 

 セララは少し申し訳ない気持ちになった。

 

「えっと、一応言っておくけど……ボクは戦が好きなわけじゃないからね。あくまでも自衛と、困ってる人を守るためだから」

 

「分かった。よほど危機的状況にならぬ限り、セララを戦場に引っ張りまわすつもりは無い」

 

 それから信長は武将たちを見回した。

 

「セララが友人である事の意味がこれで分かったであろう」

 

 武将たちが頷いた。水神様が味方で良かったと、心から安堵していた。

 

 

 

 

 

 昼を過ぎた頃、武将の一人がセララに近づいてきた。

 

「水神様、折り入ってお願いがあるのですが」

 

 男は四十がらみで、左腕をかばうような動きをしていた。

 

「怪我を治せると昨日お聞きしまして。実は五年前の戦で矢が刺さった古傷が……ずっと痛みが続いておりまして」

 

 セララは左腕を見た。袖の下に傷の跡があるのが分かった。

 

「見せてもらっていい?」

 

 男が袖をまくった。肩から肘にかけて、引きつれた傷跡があった。古い傷だ。筋肉の一部が損傷したまま固まっているように見えた。

 

「治せるかどうかやってみるよ。古い傷だから時間がかかるかもしれないけど」

 

 セララは傷に手を近づけて、魔力をゆっくりと流し込んだ。古い損傷は修復に抵抗があるが、じっくりと丁寧に魔力を届けていくと、固まっていた組織がほぐれていくのを感じた。

 

 数分後、男がゆっくりと腕を動かした。それから大きく上まで上げた。目に涙が浮かんでいた。

 

「五年ぶりに……腕が上がった」

 

 それを見た周囲の武将たちがざわめいた。武将という立場で生きている人間にとって、戦場での怪我がどれほど身近なものか。その古傷が消えた瞬間を、全員が自分のことのように受け止めていた。

 

「病気は治せないし、四肢欠損も無理だけど、それ未満だったら治療できるよ。傷がある人はボクに言ってね」

 

 セララが周囲の人々に優しく言った。

 

「治してもらえるのか」

 

「戦で負った傷が……」

 

 それから次々と申し出が来た。肩を痛めた者、足に古傷を持つ者、骨折が完全には癒えていない者。セララは一人ずつ丁寧に治療した。

 

 武将たちがセララを見る目が変わった。炎も雷も氷も、確かに圧倒的だった。しかしそれは攻撃する力だ。怪我を治すという奇跡は自分の体、そして戦闘能力に関わってくる。戦場を生きてきた者たちにとって、傷の治療は何よりも切実な恵みだった。

 

「水神様を信仰すれば戦にも医療にも加護がある」

 

 武将たちが口々に水神様の名を唱え、その言葉がゆっくりと広間に広がっていった。

 

 

 

 

夕方、セララは信長の部屋に呼ばれた。奇跡で治療をして欲しいが、人目のある場所で自身の病気について話す事は弱みに繋がってしまう。そのため人払いをしてからセララを呼んだとの事だった。

 

「セララよ、病気は治せないとの事だが……儂の虫歯は治療可能か?」

 

 信長がセララの前に座り、自分の口を大きく開いて指で歯を指し示した。

 

「虫歯に回復魔法?えっと、虫歯菌がある状態でヒールをかけても多分ダメなんだよね……」

 

 高度に科学が発達したスカイエルフの国では歯磨き粉に虫歯治療成分が含まれており、故郷では虫歯なんて聞いた事が無かった。そのため虫歯に回復魔法をかけるなんて聞いた事が無い。抜けた歯であれば回復魔法で対応可能だが……

 

「むぅ。天の国の奇跡でも治せぬのか?」

 

 信長が悲しそうに聞いてくる。普段の偉そうな態度がどこかへ飛んで行っていた。よほど虫歯を治したいらしい。

 

「いや……虫歯菌を無くしてからヒールをかければ大丈夫だと思う。つまり、虫歯を抜いてから回復魔法をかけて歯を再生させるよ」

 

「な、なんだと!?儂の歯を抜くと言うのか!?それは……だがしかし……うぬぬ……」

 

 思わず声をあげながら立ち上がってしまい、立ったまま唸って悩む信長。大人と言えど、これから歯を抜きますと言われたら躊躇するのは仕方ない。

 

「信長さん。虫歯は治療しないと治らないよ。ずっと痛いままだしどんどん悪化していくよ」

 

 セララは冷静に事実を述べる。

 

「ぐぬぬ……覚悟を決めたぞ。セララ、やれい!」

 

 信長が決断して大声をあげる。セララの前にどかっと座り込み、大きく口を開いた。

 

 セララはうんうんと頷き、自身に殺菌魔法をかけて清潔にして準備を整えた。

 

「それじゃあ治療を開始するよ。まずは痛み止めの魔法だね。これで痛みの8割が遮断されるよ。ペインリリーフ!」

 

「ありがたい。だが、痛みが2割は残るのか……」

 

 信長を緑の光が包み込む。これで痛みは軽減された。さらに信長が暴れないように魔法で素早く拘束した後、セララは自身の身体能力を魔法で強化する。

 

「準備完了!暴れないでね。いくよ!」

 

 信長の口に手を突っ込んだ。

 

「もがっ!」

 

 信長が抗議するように声をあげるが気にしない。虫歯を指でしっかりとつかむ。身体強化した自分なら虫歯を指で掴んで引っこ抜けるはずだ。

 

「抜くよ!せーのっ!!」

 

「っっっ!!」

 

 信長が暴れるが魔法の拘束は破れない。信長はまな板の上の鯉だ。セララは思いっきり歯を引っこ抜いた。

 

「あがーーーっっ!!」

 

「抜歯成功!信長さん、よく頑張ったね」

 

 セララは涙目になっている信長に笑顔で語り掛ける。そして、抜いた虫歯を放り捨てた後に再度信長の口に手を突っ込んだ。

 

「それじゃあ続いて2本目の虫歯を抜いていくよっ!!」

 

「もががががーーーっっ!!」

 

 こうして信長の虫歯は治療されたのだった。

 

 

 

 

 後日、信長は清洲城の住人たちに虫歯治療を命じた。虫歯の者がいればセララに治療してもらうようにと。

 

 「抜歯は一瞬の苦しみ。虫歯は一生の苦しみだ。早急に治療せよ」

 

 信長はそう宣言した。もっともらしい言葉だったが、実際の所は自分だけが虫歯治療で痛い思いをしたのが悔しかったため、他の人間も巻き込もうとしただけだった。

 




成長速度と寿命に関する設定。

スカイエルフが成人するまでの成長速度は人間の10分の1。それでいて寿命が長い。

スカイエルフの平均寿命は2000歳。成人年齢は200歳。200歳からは外見変化(老化)無し。
人間基準で計算すると平均寿命は200歳。成人年齢は20歳。20歳からは外見変化(老化)無し。

スカイエルフは寿命が長いため、のんびり屋さんが多い。
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