尾張水神伝 ~SF世界の天使っぽい種族に転生したけどワープ事故で戦国時代の日本に漂着しました~   作:Lavian

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第十三話 清洲城への引っ越し

 一週間ほど清洲城に滞在した後、セララは元々いた水神村へ帰る準備を始めた。元々清洲城には招待されただけであり、一時的に滞在していただけだ。セララの家は水神村にある。だが、信長がそれに待ったをかけた。

 

「セララよ。清洲城に住んで貰えないか?」

 

 セララは少し驚いて聞き返す。

 

「清洲城に?」

 

「そうだ。水神様が清洲城におり、儂と友人であるという事実は尾張にとって大きな意味を持つ。城下の者たちがお前の姿を目にする機会が増えれば、神が実在すると広く知れ渡る。それは儂にとっても、尾張の民にとっても良いことだ」

 

 セララは考えた。

 

 水神村を離れることへの迷いはあった。五兵衛たち村人との生活にも慣れていたし、愛着もあった。しかし信長の言っていることは筋が通っている。清洲城の方が影響力が大きい。この時代で生きていくなら、信長との関係を深めていくのは理にかなっている。

 

「分かった。清洲城に引っ越しするね。でも準備期間をもらえないかな」

 

「二ヶ月を目処にせよ。その間に水神村や周囲の村でやり残したことがあれば終えて来い」

 

「分かった!」

 

 

 

 

 

 

 

 水神村への帰り道は、翼で飛んだ。

 

 村が見えてきたとき、畑仕事をしていた米蔵が空を見上げて手を振った。セララが降りてくると、すぐに人が集まってきた。

 

「水神様、お戻りですか!清洲城はいかがでしたか?」

 

「色々あったよ。皆に伝えたいことがあって戻ってきた」

 

 広場に村人たちが集まった。子供たちも走ってきた。五兵衛が最前列に立って、セララの顔を見た。

 

「実は……二か月後から清洲城に住むことになったんだ」

 

 五兵衛の顔が少し曇った。周囲の村人たちも、言葉を探しているような沈黙だった。

 

「村を離れてしまうのですか……」

 

 年配の女性が言った。声に寂しさがにじんでいた。

 

「うん。村を離れてしまうのは寂しいけど、皆には本当に感謝しているよ。最初にボクを受け入れてくれたのはこの村の人たちだったから」

 

 しばらく沈黙があった。

 

 それを破ったのは子供である太助だった。

 

「水神様は、これから尾張を救うんだ!」

 

 太助の声は明るかった。確信に満ちていた。

 

「清洲城って信長様のお城でしょ。水神様が信長様のところに行くんだから、村じゃなくて尾張全体を助けに行くんだ!」

 

 その言葉が広場に広がった。

 

「そうか、そういうことか」

 

「水神様が村を出て、もっと広い場所で働いてくださるのですね!」

 

「それはありがたい。村だけでなく尾張全体をお守りいただけるなら、こんな嬉しいことはない」

 

 セララは内心で苦笑した。また勘違いが広がっている。しかしこの勘違いは訂正する必要もないし、させる必要もなかった。むしろその通りかもしれないと思った。

 

「皆、送り出してくれてありがとう。また会いに来るよ」

 

「お待ちしております、水神様!」

 

「ご活躍をお祈りしております!」

 

 人々の声が重なった後、五兵衛が一歩前に出た。

 

「水神様」

 

 五兵衛が声を出すと広場の賑わいが少し収まった。

 

「この村に来てくださった日のことを、儂はずっと覚えております。空から降りてきて、雨を降らせてくださった。井戸を掘ってくださった。子供たちと歌い、滑車を作り……この村はあの日から変わりました」

 

 五兵衛はそこで一度言葉を切ってから、深く頭を下げた。

 

「どうか、清洲城でもご健勝で。儂らのことはご心配なく。水神様に教えていただいたことは、しっかりと受け継いでまいります」

 

 セララはその言葉を聞いて胸が温かくなった。

 

「ありがとう、五兵衛さん。ボクが最初に来たのがこの村で良かったよ」

 

 残りの日数でセララは村でやり残していた作業を片付けた。壁の補修、家具の仕上げ、五兵衛への農業知識の最終確認。最後の夜は村人たちが小さな宴を開いてくれた。

 

 

 

 

 そして出発の朝、セララは森の中へ向かった。

 

 ホワイトスワローが横たわっていた。

 

 布をかぶせる前に、セララは少しだけ機体の側に立った。墜落してからずっとここにある。ナノマシンが少しずつ修復を続けているが、飛べるようになるまでにはまだ百年以上かかる。その間、この機体は森の中で眠り続ける。

 

 聖国に戻る方法は、今のところここにしかない。

 

 いつかまた飛ぼう、と思いながら、セララは機体に大きな布をかけた。村から調達した粗い麻布を何枚も組み合わせて、折れた翼も含めた機体全体を覆った。

 

 オートパイロットで機体を浮かせた。両翼は折れていたが反重力装置は無事だったため浮遊は可能だった。風魔法を使えば歩く程度の速度で移動させることができる。

 

 セララは機体をゆっくりと清洲城まで運んだ。

 

 

 

 清洲の城下町に着くと信長がすでに準備を整えていた。城下町のある土地に新しく建てられた倉庫があった。大きさはホワイトスワローが収まるのに十分で、周囲には人が近づかないよう柵が設けられていた。二か月前に信長に相談して建てて貰った倉庫だ。

 

「これに収めればよいか」

 

 と信長は言った。

 

「助かるよ。ありがとう」

 

 機体を倉庫の中に下ろして、布を外した。信長が中に入って機体を見た。乗らなくても見るだけでその大きさと異様さは伝わってくる。

 

「これが天の国の船か」

 

「そうだよ。ボクが天の国から降りてくるときに乗っていた船だね。今は動かせないけど、中に天の国の知識を引き出せる書庫があるよ」

 

「重要なものだな」

 

「うん。できれば秘密にしておいた方が良いと思う」

 

 布をかけなおし、信長は倉庫の扉を閉めて配下の武将を振り返った。

 

「この倉庫のことは口外するな。口が堅く、誠実な者を選んで警備させよ。」

 

「ははっ」

 

 武将たちが頭を下げた。

 

 こうしてホワイトスワローは清洲城の城下町の倉庫に収まった。

 

 

 

 

 

 

 年が変わり、1558年になった。

 

 セララの清洲城での生活が始まった。信長から部屋を与えられ、食事も城で取るようになった。城下の町に出ると人々がセララの姿を見て立ち止まり、頭を下げた。翼とヘイローを見た子供が指を指して、親に水神様だと告げる声が聞こえた。

 

 清洲城に落ち着いてしばらく経った朝、信長が配下たちを集めた。

 

「セララの仕事について決めたい」

 

 広間に信長と武将たちが揃い、セララも席に着いた。

 

「神様の仕事というのは特に決まっていないよね。ボクにできることで、役に立てることを考えてみたんだけど」

 

「聞かせてもらおう」

 

「まず、怪我人の治療。以前見てもらった通り、骨折や古傷は治せるよ。次に魔法で氷を作ること。夏場は特に需要があると思う。それから、天の国の知識を広めること。この知識は尾張を発展させられると思う。最後に、戦が起きたときに力を貸すこと」

 

 武将たちが聞いていた。

 

 信長はひとつひとつ頷きながら聞いてから、戦の件について口を開いた。

 

「戦が起きた時の助力はありがたいが、危機的状況のみに留めるとしよう。水神様の力を頻繁に戦に利用すると、水神様を信仰している者から不満が出るだろうからな」

 

「それで構わないよ」

 

「では次だ。天の国の知識とは、具体的にどのようなものがあるのだ?」

 

「農業の知識は作物の収穫量を上げられると思う。栄養や衛生の知識は国民を健康にできるよ。軍事の知識は火縄銃の改良とかはできるかも。その他の技術とか発明の知識も、色んな事で国の発展に役立つよ」

 

 信長は腕を組んで少し考えてから、広間をゆっくりと見回した。その目が一人の武将で止まった。

 

「丹羽長秀」

 

「はっ」

 

 答えたのは二十前後の落ち着いた顔つきの男だった。これまでの謁見でも常に控えめながら鋭い目で場を観察していた人物だ。信長が彼に目を向けるのを見て、周囲の武将たちも納得したように頷いた。

 

「長秀をセララにつける。セララの知識を授かり、理解し、広める者を選抜せよ」

 

 丹羽長秀が勢いよく頭を下げた。

 

「ははー!この丹羽長秀にお任せください。必ずやセララ様の知識を広めてみせましょうぞ!」

 

 その声には本気の意気込みと熱意があった。

 

 

 

 

 

 

 広間が解散してからセララは丹羽と二人で話し合った。

 

 どうやって知識を伝えるか。一人に話しても広がりが遅い。複数の者に同時に教える方が効率がいい。

 

「授業という形はどうでしょうか。優秀な者を集め、セララ様に毎日教えていただく。我々がその内容を整理して、さらに広める者を育てる」

 

 丹羽が提案し、セララが頷く。

 

「それが良いと思う。どんな人を集める予定?」

 

「読み書きができる者、理解力がある者、新しいことに抵抗のない者を選んで参ります。城の者だけでなく、城下の職人や商人の中にも優秀な者はおりますので」

 

 セララは頷いた。

 

「じゃあ授業は毎日やることにしよう。最初は農業の知識から始めようかな。冬の間に農業の知識を広めて種まきに間に合わせたい」

 

「今の内という事ですな。承知しました。授業の内容を書き取る者も手配いたします」

 

 こうしてセララの清洲城での主な仕事が決まった。

 

 村での日々は好きだった。五兵衛と話して、太助と飛んで、小さな村の小さな困りごとを一つずつ解決していた。あの生活には確かな温かさがあった。

 

 でも今、目の前には別の景色がある。

 

 ここで自分が教えた知識が広まれば、この城下の人々の生活が変わるかもしれない。それはもっと大きな話だ。怖くないと言えば嘘になる。でも、やってみたかった。

 

 最初の授業で何から話そうか、セララはそれを考えながら城下の景色を眺め続けた。

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