SF世界の天使っぽい種族に転生したけどワープ事故で戦国時代の日本に来ちゃいました。 魔法と知識で日本を発展させます。 作:Lavian
授業は城の一室で行われた。
丹羽が選んだ最初の生徒は16人だった。城の武将や事務を担う者が10人、城下の職人と商人が6人だ。読み書きができて、理解力があり、新しいことを受け入れられる者を厳選したと丹羽は言っていた。
全員が朝早くから部屋に集まり、セララが入ってくると一斉に頭を下げた。
信長もいた。
上座ではなく、生徒たちと同じ列に座っている。それを見てセララは少し驚いたが、信長は当然のような顔をしていた。天の国の知識に興味があるなら自分で聞く、ということらしい。
「授業を始めるよ。分からないことがあれば手をあげて質問してね」
いきなり手が上がった。
「この授業に名前はあるのですか?」
「名前?ええっと……セララ先生の特別授業とか?」
急に聞かれても授業の名前なんて考えてなかったので、思わずそのまんまな名前をつけてしまうのだった。
「名称は『セララ先生の特別授業』で決定とする。神の授業だ。後世に残す歴史書のつもりでしっかりと記録せよ」
信長がそれを聞いて真面目に指示した。妙な名前をつけてしまったが今更訂正できず、ちょっと恥ずかしいセララだった。
「まずは農業からだよ。最初に塩水選種と正条植えを教えるよ」
セララはペンダント型の端末を念じて操作した。端末から光が広がり、宙にホログラフィックの映像が浮かび上がった。
生徒たちがどよめいた。初めて見る者が多いようだった。信長は二度目なので落ち着いていたが、それでも映像に視線を向けていた。ホロ画像を触ろうとする生徒がいたが、画像を手が突き抜けてしまい、別の生徒に手が当たってしまい気まずそうにしていた。
ホロ画像の衝撃が落ち着いた後、セララが塩水選種(種籾を一定濃度の塩水に漬けて、沈んだ思い種籾を使う)と正条植え(一定間隔で苗を植える)を説明し、生徒達が書き取っていく。
「次は輪作農法も教えるね」
生徒たちが筆を構えた。
「同じ畑に同じ作物を作り続けると、土地が痩せていって収量が減っちゃうんだ。これを防ぐためには土地を回復させなきゃいけない。だから土地を回復させるための農作物を順番に植えていくんだよ」
映像に畑が映し出され、年ごとの作付けの流れが図示された。
「1年目の春夏は大豆、秋冬は大麦。
2年目の春夏は粟と黍、秋冬は小麦。
3年目の春夏は小豆、秋冬は蕎麦。
4年目の春夏は大根と蕪、秋冬は休耕。
という流れが良いと思う」
教室の人々がざわめく、今までの農業には無かった発想であり、次々と質問が飛んだ。
「どうして別々の作物を植えると痩せた土地が回復するのですか?」
「作物って『地面から力を奪うもの』と『地面に力を与えるもの』があるんだ。麦や粟と黍が地面から奪う作物、豆が地面に力与える作物だね」
「4年目の休耕にはどんな理由があるのだ?何も育てないのは無駄ではないか」
授業を聞いていた信長から質問が飛ぶ。効率重視の信長らしい質問だ。
「人が睡眠を必要とするのと同じで、土地も休ませる期間が必要なんだ。土を回復するのと害虫を減らすためなの」
「ふむ。土も眠らずに働き続けていては痩せてしまうという事か」
信長が説明を聞いて納得する。その後も信長は度々質問を行ったが、その質問は『何故そうなるのか』という理由だった。信長は合理的な説明を聞いて自分が納得するまで質問を繰り返し行う、この教室で一番優秀な生徒だった。
複数の質問にセララが回答を行い、最後に纏める。
「短期的には同じ作物を作り続けた方が楽に見えるけど、長い目で見ると輪作の方が収穫量が安定するんだ」
「長い目で見るか。分かった。各村に布告を出してやらせてみよう」
セララの纏めを聞いて信長は言った。早速これらの農業知識を採用するつもりのようだ。
輪作農法の話が一段落したところでセララは別の話題に移った。
「農業で使う道具も必要だよね。千歯こきっていう道具を説明するから、開発して欲しいんだ。これがあれば脱穀作業が十倍の効率で進む」
驚きの声があがった。十倍という数字のインパクトはすさまじい。
「十倍、でございますか」と丹羽が聞き返した。
「そう。十倍。その分の時間を別の作業に充てられるよ」
「脱穀作業の効率が十倍とは……天の国の道具はすさまじいのですね」
映像に千歯こきの形が映し出された。細長い木の台に、鉄の歯が櫛のように並んでいる道具だ。稲穂をその歯の間に差し込んで引き抜くと、籾が一度にまとめて外れる仕組みだ。
「見た目は難しくない。木と鉄があれば作れるよ。大工を呼んでもらえる?」
授業が終わった後、大工が呼ばれた。
セララは大工たちに千歯こきの構造を説明した。映像を見せながら寸法を伝え、鉄の歯の間隔と角度を細かく指示した。
自分の魔法で加工すれば早く作れる。しかしそれはしないことにした。大工自身が作り上げることで、構造を理解し、作り方を習得する。それが大切だと思ったからだ。一つを作るのではなく、作れる人間を増やすことの方が長期的には価値がある。
大工たちは熱心に話を聞き、その日のうちに材料の準備を始めた。
それから一週間後、千歯こきが完成した。
試しに稲わらを使って実演してみると、大工たちも生徒たちも、その速さに目を見張った。従来の方法では丸一日かかる作業が、見る間に進んでいく。
「これは……確かに速い」
と丹羽が言った。
「こんな道具が天の国にあるのですか」
と若い武将が呟く。
「あるよ。もっとすごい道具もいっぱいある。少しずつ教えるね」
完成した千歯こきを信長が手に取って眺めた。鉄の歯を指でなぞり、構造を確かめるように見ていた。
「千歯こきの台の部分に水神の文字を掘れ。また、これを各村に無償で1台配れ」
と信長は言った。
「無償で、ですか。売れば相当な値がつきますが」
武将の一人が少し驚いた顔をした。
「水神様の恩恵として配るのだ。銭を取るよりも水神様の評判を広める方が価値がある。銭を取るのは2台目からで良い」
信長の判断は早かった。
農業知識についても同じだった。塩水選種、正条植え、輪作農法、これらを各村が確実に実行するよう、信長の名で布告が出された。布告には必ず水神様の知識であることが明記された。
千歯こきは水神様の恩恵として各村に1台、無償で届けられた。
村人たちの反応は、現時点では半信半疑が大半だった。殿様の指示ということもあって素直に従う者が多かったが、本当に効果があるのかという疑いの目を持つ者も少なくない。
それでも信長の布告なのだ。各村は実行するだろう。無償で配られた千歯こきの力を体験すれば輪作農法に前向きになるに違いない。
結果が出るのは来年以降だ。収穫の季節が来て、実際に数字が変わって初めて信じる人が増える。それまでは実績を積み上げていくしかない。
授業を終えた夕方、セララは城の廊下から空を眺めた。
来年の秋には田んぼの収穫量が増えているはずだ。その変化を楽しみに待とうと思った。