SF世界の天使っぽい種族に転生したけどワープ事故で戦国時代の日本に来ちゃいました。 魔法と知識で日本を発展させます。   作:Lavian

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第十五話 栄養と衛生

 その日の授業は食べ物の話から始まった。

 

 生徒たちが席につくと、信長もいつものように列の中に座った。最初の頃は生徒たちが信長の隣に座ることを遠慮していたが、最近は少し慣れてきたようで、自然な間隔で席が埋まるようになっていた。

 

 丹羽は筆と紙を用意して、セララが話し始めるのを待っている。

 

「今日は栄養の話をするよ」とセララは言った。

 

 端末を操作すると、宙に映像が広がった。米、野菜、魚、肉、大豆といった食べ物が並んで映し出された。

 

「人間の体は食べ物から力を作っているんだけど、食べ物によって体に与えるものが違うんだ。大きく分けると炭水化物、ビタミン、タンパク質、脂質の4つが大事だよ」

 

「炭水化物、ビタミン、タンパク質、脂質……聞いたことのない言葉ですな」と丹羽が言いながら書き取った。

 

「炭水化物はお米に多く含まれていて、体を動かす力の元になる。ビタミンは野菜や果物に含まれていて、体の調子を整える働きをする。タンパク質は肉や魚、大豆に含まれていて、体を作る材料になるんだ。脂質は油の事だよ」

 

 映像がそれぞれの食べ物を示しながら切り替わった。

 

「これらをバランスよく食べることで、健康で力強い体に育つんだよ。逆に栄養が偏ると病気になっちゃう」

 

「栄養が偏ると、病気に……」と若い武将が繰り返した。

 

「そう。例えば脚気っていう病気は、白米ばかり食べてビタミンが不足することで起きるんだ」

 

 部屋がざわめいた。

 

「脚気と言えば原因不明の病気ですぞ」

 

 壮年の武将が言った。声に驚きがにじんでいた。

 

「足がむくんで力が入らなくなる、あの病が……食べるものが原因だったとは」

 

「そうだよ。白米は美味しいし炭水化物が取れるけど、白米だけだとビタミンが足りなくなる。野菜や大豆を一緒に食べることで防げるんだ」

 

「力強い体というのも魅力的ですな」

 

 別の武将が前のめりになって言った。

 

「武士は体を鍛えてこそ。訓練だけでなく食べるものでも体を作っていけるということですか」

 

「そういうこと。訓練で筋肉を使うなら、その材料になるタンパク質をしっかり取ることが大切だよ。肉や魚を食べると体が回復しやすくなる」

 

 武将たちが顔を見合わせた。何人かが熱心に書き取っている。

 

「セララよ。では肉を大量に食べれば最強の体を得る事が可能なのか?」

 

「食べ過ぎは体に悪いからダメだよ」

 

 信長の質問にセララが駄目だしする。信長が太るフラグを丁寧に叩き折ったのだった。

 

 

 

 

 

 栄養の話が一通り終わったところで、セララは次の話題に移った。

 

「次は衛生の話をするね。病気の仕組みについてだよ」

 

 映像が切り替わり、目に見えない小さな粒が無数に浮かんでいる様子が描写された。

 

「空気の中には、目に見えないくらい小さな病魔がいるんだ。これが体の中に入ることで病気を引き起こす」

 

 部屋が静まり返った。

 

「目に見えない病魔、でございますか。まさか、この部屋にもいるのですか?」

 

「うん、この部屋にもいっぱいいるよ」

 

 その言葉を聞いた瞬間、生徒達に衝撃が走った。目を凝らして病魔を発見しようとする物、警戒して身構えようとする者。慌てて部屋を逃げ出そうとす者。

 

「部屋の外にも病魔はいっぱいいるからね」

 

 部屋の扉に手をかけていた生徒がその言葉を聞いて固まる。実は同じように逃げようかと内心で思っていた信長は、それを表情と行動には一切出さずに「ほう」と相槌を打ってごまかしていた。

 

「大丈夫。慌てず安心してね。病魔はいるけど、病魔を退治する仕組みも機能してる。だから病にはかからないよ」

 

 セララが安心させるように言い、生徒達が落ち着きを取り戻す。

 

「人間の体の中には病魔を撃退する免疫っていう仕組みがあるんだ。これがあるから病魔がいても普通に生活できている」

 

「免疫、とは……」

 

「体を守る力と思ってもらえれば分かりやすいかな。体調不良だったり、老化だったり、病魔が多すぎたり、色んな理由で免疫が負けると病気になちゃうんだ」

 

 生徒たちが書き取りながら聞いていた。表情は様々だった。すんなり受け入れている者もいれば、目に見えない病魔という概念に戸惑っている者もいる。

 

「それでは……どうやって病気を治すのですか?」と若い男が聞いた。

 

「病気を治すには二通りだね。病魔を倒すか、免疫を強化するか。病気になったときは、栄養のある食事を取って免疫を強化するのが基本だよ。病魔は目に見えないから、人間が直接倒すのは難しい」

 

「なるほど」

 

 と丹羽が言った。

 

「栄養は病への対策にもなるのですね」

 

「そういうこと。だから栄養の話と衛生の話は繋がってるんだよ」

 

 信長が口を開いた。

 

「目に見えない敵か。見えない敵は対処が難しい」

 

「そうなんだよね。だから一番大事なのは予防なんだ。病魔を体の中に入れない仕組みが必要になる」

 

「予防とは具体的に何をするのだ」

 

「いくつかあるよ。まず食事の前には手洗いをして病魔を洗い流すこと」

 

「手を洗うのですか?」

 

 と武将の一人が言った。

 

「そう。手には目に見えない病魔がついていることがあるから、食べる前に洗い流すと体の中に入りにくくなるんだ」

 

「それだけで病気が減るのですか」

 

「完全には防げないけど、確実に減るよ。それと不潔な場所は病魔が集まりやすいから、綺麗にしておくことも大切だよ。ごみや汚物を放置している場所には病魔が多い」

 

「城下の掃除ということですな」

 

「そう。生活する場所を清潔に保つことが病気の予防に繋がるんだ。それからもう一つ、怪我や血液に触れるときも注意してね。傷口から病魔が入ってくることがあるから」

 

「怪我をしたときは特に気をつけよということですな」

 

「そう。傷口はできるだけ清潔に保って、汚れた手で触らないようにすることが大切だよ」

 

 質問が続いた。

 

「病魔は水の中にもいるのですか?」と商人の生徒が聞いた。

 

「いるよ。濁った水や汚れた水には特に多い。飲み水はできるだけ綺麗な水を使う方が良いね。井戸の周りを清潔に保つことも大事だよ」

 

「では雨水を溜めたものは」

 

「場合によるけど、溜めたままにしておくと病魔が増えやすいから注意が必要だよ。できれば流れのある水か、きちんと管理された井戸の水の方が安全だね」

 

「煮沸はどうでしょうか。水を沸かすと病魔は死にますか?」

 

 と商人の生徒が聞いた。

 

 セララは少し驚いた。鋭い質問だと思った。

 

「良い質問だよ。水を沸騰させると、多くの病魔を死滅させることができる。飲み水が心配なときは煮沸してから飲む方が安全だよ」

 

「では茶を飲む習慣は……」

 

「お茶は水を沸かして作るから、その点では安全な飲み方だね」

 

 その答えを聞いて、何人かが頷いた。普段から茶を飲む習慣がある者にとっては、自分たちの習慣に理由が見えた瞬間だったのかもしれない。

 

 授業が終わる頃には、部屋の空気が最初とは変わっていた。見えない病魔という概念への戸惑いは残っていたが、手洗い、清潔な環境、栄養のある食事という具体的な対処法は受け入れやすかったようだった。

 

「他に質問のある人は?」

 

 セララが問いかけると信長が手を上げた。

 

「はい。信長さん!」

 

「虫歯もその病魔によるものなのか?」

 

 よっぽど虫歯が嫌いらしい。セララは虫歯になる仕組みと歯磨きの大切さを授業で教えた。また歯ブラシについて説明し、職人に歯ブラシの製作を頼んだのだった。

 

 

 

 

「今日の内容をまとめます」

 

 と丹羽が言って、書き取った紙を確認した。

 

「炭水化物、ビタミン、タンパク質、脂質の栄養を偏ることなく食べること。手洗いと清潔な環境で病魔の侵入を防ぐこと。怪我の傷口は清潔に保つこと。飲み水は煮沸が有効であること。以上でよろしいでしょうか」

 

「重要な事が抜けておる。虫歯と歯磨きについても追加せよ」

 

 信長があまりにも真面目に言うのでセララは苦笑する。

 

 授業が解散した後も、生徒たちは廊下で話し合いながら出ていった。食べ物と病気の関係、目に見えない病魔、手洗いの効果。それぞれが今日聞いた話を消化しようとしているようだった。

 

 信長だけが部屋に残った。

 

「セララ」

 

「何?」

 

「栄養の話だが、城の食事を変えることは難しくない。今日から野菜と大豆を増やすよう指示しておく」

 

「それは良かった。すぐ実行してくれるんだね」

 

「知ったことを試さずにいる理由がない。話を聞いて正しいと思ったなら、やる。それだけだ」

 

 セララは少し笑った。

 

「信長さんらしいね」

 

「城の者の体が丈夫になれば、いざというときの力になる。合理的なことだ」

 

 信長は立ち上がって部屋を出た。

 

 この日以降、清州城の食事には野菜と大豆が増えた。膳に青菜が添えられるようになった。武将たちの中には食事の変化に最初は戸惑う者もいたが、体の調子が良くなったという声がじわじわと広がっていった。

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