SF世界の天使っぽい種族に転生したけどワープ事故で戦国時代の日本に来ちゃいました。 魔法と知識で日本を発展させます。   作:Lavian

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第十六話 紙芝居と水の呼吸

 信長との食事が増えたのは、清州城に移ってから自然とそうなったことだった。

 

 最初は授業の後に話し合いをする流れで同席することが多かったが、気づけば朝食を一緒に取ったり、夕方に縁側で雑談したりすることが習慣になっていた。信長は話し相手としてセララを気に入っているらしく、配下の武将たちとは違う距離感で接してくれた。

 

 その日の夕食も二人で取っていた。

 

 焼き魚と汁物と白米という献立の中に、最近は必ず野菜の小鉢が加わっている。授業の効果が食卓にも出ていることがなんとなく嬉しかった。

 

「セララよ。神の国の知識は素晴らしい。農業に栄養に衛生とどれも役に立つものばかりだ」

 

「喜んでもらえて良かったよ」

 

「だが、一つ聞いてもよいか」

 

「何かな?」

 

「神の国には物語はないのか。面白い物語がたくさんあるのではないか」

 

 セララは自慢げに宣言した。

 

「もちろんあるよ。準備しておくね!」

 

「楽しみにしているぞ」

 

 セララが返事をすると、信長は嬉しそうだった。

 

 

 

 

 

 部屋に戻ってからセララはしばらく考えた。

 

 どの物語を伝えるか。面白くて、この時代の人々にも伝わりやすくて、何度でも聞きたくなるもの。

 

 悩んだ末に答えが出た。鬼滅の刃だ。

 

 前世で繰り返し読んだ漫画だった。鬼と戦う剣士の話。家族を失った主人公が強くなっていく物語。戦いの迫力、仲間との絆、敵にも理由がある深さ。日本が舞台だし刀を使う。この時代の人々に刺さらないはずがない。

 

 問題はどうやって伝えるかだ。本と紙芝居の二つを思いつき、まずは紙芝居からやってみせる事にした。

 

 セララは次の日から紙芝居の準備を始めた。

 

 画力は前世では平均以下だったが、転生してから120年の時間があった。機械いじりと並んで絵を描くことも覚えており、デフォルメされたキャラクターなら十分に描けるようになっている。色はつけられないが、線だけでも表情や動きは伝えられる。

 

 炭治郎の顔。禰豆子の竹の口枷。鱗滝の面。水の呼吸の型。一枚一枚、物語の流れに沿って描いていった。

 

 数日後、城の広間に人が集まった。

 

 信長、丹羽、武将たち、城の使用人、呼べる者は全員集めたらしい。広間の前にセララが立ち、手元に重ねた紙芝居の絵を持っている。

 

「みんな、今日は物語を聞かせるよ」

 

 広間が静まった。

 

「昔々ある所に、人々の血を吸う鬼と、鬼を狩る侍集団、鬼殺隊がいました……」

 

 セララは一枚目の絵を掲げた。

 

 炭治郎が家族と暮らしている穏やかな場面から始まった。そして帰宅した炭治郎が目にした惨劇。鬼に変えられた禰豆子。山中での冨岡義勇との出会い。鱗滝の元での過酷な修行。水の呼吸を身につけていく過程。

 

 セララは絵を替えながら声に表情をつけて語り続けた。

 

 広間は最初は静かだったが、物語が進むにつれて空気が変わっていった。炭治郎が家族を失う場面では息をのむ声が聞こえた。禰豆子が兄を守る場面では誰かが小さく声を上げた。修行の場面では武将たちが前のめりになった。水の呼吸の型が明かされる場面では、広間全体が固唾を飲んで絵を見つめていた。

 

 序盤のひとまとまりを語り終えたところで、セララは絵を下ろした。

 

「今日はここまでだよ」

 

 一瞬の沈黙があった。それから広間が爆発した。

 

「続きはどうなるのだ!」

 

「禰豆子は人に戻れるのか!」

 

「水の呼吸とはどのように使うのだ!」

 

 声が重なった。信長が立ち上がった。

 

「儂も水の呼吸を身につけるぞ!セララ、早く呼吸を教えるのだ!」

 

 セララは慌てた。

 

「ちょ、ちょっと待って。信長さん、落ち着いて」

 

「呼吸の型を見せたではないか。あれを教えてくれ」

 

「これは空想の話なんだよ。呼吸は現実には存在しないんだ」

 

 広間が静まり、信長が止まった。

 

「……存在しない?」

 

「そう。物語の中だけの技なんだよ。現実の剣技とは違う」

 

 信長はしばらく黙った。それから、心の底から残念そうに言った。

 

「そうか……呼吸が存在しないのは本当に残念だ」

 

 その言葉が真剣すぎて、セララは思わず笑いをこらえた。周囲の武将たちも似たような顔をしていた。

 

「だが」と信長は続けた。表情がすぐに切り替わった。

 

「物語の続きはあるのだろう?次も楽しみにしているぞ」

 

「あるよ。また準備してくるね」

 

 

 

 

 

 

 鬼滅の刃の紙芝居を披露してから、清州城の中で変化が起きた。

 

 紙芝居を見た者たちが、廊下や訓練場で水の呼吸の型の真似をし始めた。型に名前をつけて呼び合い、どの型が強いかを議論する声が聞こえた。呼吸は存在しないと分かっていても、やめられないらしかった。

 

 丹羽が紙芝居の絵を模写する職人を呼んだ。セララの描いた絵が複製され、物語の内容が言葉で添えられた。それが冊子の形にまとめられ始めた。

 

「本として広めることはできますか」

 

 と丹羽がセララに聞いた。

 

「もちろん。むしろそうしてほしい。本になれば読んだことのない人にも届くから。紙芝居用と小説の両方を執筆するね」

 

 丹羽は目を輝かせた。

 

「では早速、写本の手配を進めます」

 

 セララが書いた小説の写本が作られ、城下の者たちの間にも物語が広まっていった。読んだ者が別の者に内容を話し、話が広がるにつれて鬼滅の刃を知る人間が増えていった。清州城を発端として、物語の波紋が外へ外へと広がっていく。

 

 

 

 

 

 数日後、信長がセララのところに来た。

 

「続きはまだか」

 

「もう少しかかるよ。絵を描く時間が必要だから」

 

「どのくらいかかる」

 

「週に一度なら続けられると思う。毎週少しずつ語っていくのはどう?」

 

 信長は少し考えてから頷いた。

 

「週に一度か。……仕方ない、待とう」

 

 その言葉がいかにも渋々という感じで、セララはまた笑いをこらえた。

 

「じゃあ来週また広間に集まってね」

 

「必ず来る」と信長は言い切った。

 

 週に一度の紙芝居が決まった。

 

 その夜、セララは部屋で次の紙芝居の絵を描き始めた。

 

 鬼と戦う場面は迫力が必要だ。前回よりも構図を工夫して、動きが伝わるように描きたい。炭治郎の表情、鬼の恐ろしさ、戦いの緊張感。紙一枚で伝えなければならないことを考えながら、筆を動かした。

 

 みんなが喜んでくれた顔を思い出した。信長が夜に水の呼吸の型を真似て「参ノ型・流流舞い!」と何度も叫んでいた場面も思い出し、くすくすと笑いながら執筆をした。

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