SF世界の天使っぽい種族に転生したけどワープ事故で戦国時代の日本に来ちゃいました。 魔法と知識で日本を発展させます。   作:Lavian

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第十七話 マヨネーズと冷凍桃

「セララよ。天の国に美味い料理はないのか」

 

 信長は夕食の席で言った。

 

 箸を持ったまま、どこか期待のある目でセララを見ている。農業の知識、栄養の授業、紙芝居と、次々と新しいものが出てくることへの慣れが、信長にそういう問い方をさせているらしかった。

 

「美味しい料理かぁ……」

 

 セララは少し考えた。

 

 聖国の料理はテクノロジーに頼った部分が大きく、この時代に再現するのは難しいものが多い。しかしこの時代の食材と道具でも作れるものがあれば、と考えたとき、一つの答えが浮かんだ。

 

 創作において、戦国時代やファンタジー世界に現代人が転移した際に作る調味料の定番、マヨネーズだ。

 

 前世で当たり前のように使っていた調味料であり、卵と油と酢があれば作れる。材料はこの時代にも揃う。

 

「準備しておくね。明日、皆に見せてあげる」

 

 

 

 

 その夜、セララはホワイトスワローに向かった。

 

 倉庫の扉を開けてコックピットに乗り込み、端末をデータベースに接続した。検索欄にマヨネーズのレシピを入力すると、製法と材料が表示された。手順を一通り確認してから食中毒のリスクについても調べる。この時代の衛生環境を考えると、卵の加熱処理を丁寧に行う必要がある。

 

 手順を頭に入れてから倉庫を出た。

 

 

 

 

 翌日の昼、信長が広間に人を集めてくれた。武将たち、丹羽、城の使用人たち。台所から食材が運ばれてきた。卵、油、酢、塩。セララが事前に頼んでおいたものだ。

 

「今日は天の国の料理を作るよ。皆、見ていてね」

 

 配下の一人が食材を見回してから、恐る恐る手を上げた。

 

「その、水神様。一つよろしいでしょうか」

 

「どうぞ」

 

「卵を食べるのは殺生にあたるのではないでしょうか。仏教では殺生を禁じておりますゆえ……」

 

 広間がわずかにざわめいた。確かに気になっていた者が他にもいたようで、似たような表情をしている者が何人かいた。

 

 セララはその問いを正面から受け止めた。

 

「動物を意味もなく殺すのは良くないけど、食べるために命を頂くのは昔から行われてきたことだよ。狩りで得た獣肉は武士の間でも薬食いとして認められているし、卵はそもそも命になる前のものだから殺生には当たらないという考え方もあるよ」

 

「それはその通りですな。しかし……」

 

「それでも気になるなら……仏教をやめてボクを信仰するのはどうかな?水神を信仰すれば細かい規則なんて何も無し。お肉も卵も何でも食べてOKだよ」

 

 配下は目を丸くした。それからゆっくりと笑顔になった

 

「ふふ、神様直々に勧誘されたのであれば断れませんね。水神様を信仰いたします」 

 

「確かにいるかどうかも分からぬ仏より、目の前に実在する神を信仰した方が合理的だな。してセララよ、水神様を信仰したらご利益はあるのか?」

 

 信長が問いかける。セララは自信たっぷりに答える。

 

「ご利益はねー、今日ならとっても美味しい料理が食べられるよ。神様が手作りしたヤツね!」

 

「くくっ、それは素晴らしいご利益だな!では、儂は食事の時だけ水神様を信仰するとしよう」

 

 信長が笑いながら言う。

 

「あっ!信長さん、それ頭いいね。皆も食事の時だけ仏教じゃ無くてボクを信仰して良いからね」

 

「はっはっは!水神様のお墨付きだ!皆の者、セララを信仰して美味い料理を食おうではないか!」

 

 信長が大笑いして場を盛り上げる。

 

 周囲から同意の声が広がった。俺も水神様を信仰するぞ!という声が口々に上がった。

 

 

 

 

 

 

 問題が解決したところで、セララは調理を始めた。

 

「まずは卵を加熱して、卵の中にいる食中毒の病魔を退治するよ」

 

 新鮮な卵を割り、卵黄だけを取り出した。白身は別の器に分けておく。

 

「卵黄に少量の水と酢を混ぜて、小鍋に入れるよ。弱火でゆっくりかき混ぜながら加熱するんだ。沸騰させないように注意してね。表面がわずかに震えて、湯気が出る直前くらいまで加熱したら取り出して、冷水で冷やす」

 

 台所から借りた小鍋を火にかけて、木べらでゆっくりとかき混ぜた。加熱しすぎると卵が固まってしまう。温度の感覚を確かめながら、丁寧に混ぜ続けた。周囲の者たちが固唾を飲んで見ていた。

 

 程よいところで火から外し、冷水に当てて冷やした。

 

「次は乳化の作業だよ。塩を少し加えて、油を少しずつ加えながら激しく攪拌する。一度に油を入れると分離しちゃうから、少しずつが大事だよ」

 

 木べらで素早く混ぜながら、油を細く垂らしていく。最初はさらさらしていたものが、攪拌を続けるうちに少しずつ白くなり、粘度が上がっていく。

 

「変わってきた」と誰かが言った。

 

「乳化が始まってるんだよ。油と水が混ざり合っている状態だね」

 

「油と水は混ざらないはずでは……」

 

「卵黄に含まれる成分が橋渡しをしてくれるんだ。乳化剤と言うんだけど、卵黄にはそれが含まれているから油と水を混ぜることができる」

 

 丹羽が素早く書き取っていた。

 

 最後に酢と柑橘の汁を加えて味を整えた。全体が均一な白いとろみのある状態になったところで、セララは木べらを置いた。

 

「これでマヨネーズの完成だよ」

 

 広間の全員がその白い塊を見つめていた。

 

「どんな食べ物に合うのですか」

 

 と武将の一人が聞いた。

 

「味の薄い淡白な食べ物に合わせると美味しいと思う。お魚とか野菜だね」

 

 用意していた里芋の蒸したものが台所から運ばれてきた。

 

「信長さん、まず食べてみて」

 

 信長が里芋にマヨネーズを少しつけて、口に入れた。

 

 一瞬の沈黙があった。

 

「これは……酸っぱさがあり、味わい深い。美味いな」

 

 マヨネーズをさらにかけ、信長は里芋を美味そうに食べる。

 

 それを見てセララは笑顔になりつつ、さらにもう一品の準備に取り掛かった。

 

「生の野菜にかけても美味しいけど、このマヨネーズを組み合わせた料理も作るよ」

 

 セララはそう言い、事前に料理人に頼んで準備して貰っていたものを運ばせる。

 

 運ばれてきたのは魚の身を細かくほぐしたものだ。

 

「これはカツオの身をほぐしたものだよ」

 

 カツオの身をほぐしたもの、つまり現代で言うツナを匙で掬うとマヨネーズと絡ませる。

 

「これをマヨネーズと絡ませて、お握りの具にするよ」

 

 セララがツナマヨを白米で包み込んでお握りの形に整えて皿に載せる。

 

「完成!ツナマヨお握りだよ。とっても美味しいから食べてみてね!」

 

「では早速頂くとしよう」

 

 里芋を食べ終え、ツナマヨお握りの完成を待っていた信長が皿を受け取る。

 

「うむ。こちらも美味い。カツオの身とマヨネーズとやらが合わさって調和している」

 

「他の皆も食べてみてね!」

 

 料理を見守っていた配下たちが列を作った。里芋や他の野菜にマヨネーズをつけて食べていく。ツナマヨお握りは作る側から手に取って食べられていく。

 

 反応は様々だったが、美味い、という声が次々と上がった。初めての味に目を丸くする者、すぐに追加を求める者、しみじみと味わっている者。

 

 広間が賑やかになってきたところで、セララは次の準備を始めた。

 

「甘味もあるよ」

 

 事前に準備して貰っていた桃を袋から取り出した。

 

「魔法で冷やすだけだけどね」

 

 桃に向かって、氷の魔法を細く絞って使った。果肉の水分が凍るように、慎重に温度を下げていく。表面に薄く霜がついたところで、セララは信長に差し出した。

 

「冷凍桃だよ。信長さん、どうぞ」

 

 信長は受け取ってかじりつくと動きが止まった。

 

「なんと……桃を凍らせるとこうも美味いのか」

 

 信長の表情が珍しく無防備になった。

 

「これは毎日食べたくなってしまうな」

 

 周囲の者たちにも桃が配られた。冷たい甘さに、あちこちで驚きの声が上がった。普通の桃とは全く違う食感と冷たさが、広間の人々を一様に笑顔にした。

 

 その日の夕方、セララは信長と話し合って、清州城の地下に氷室を作ることを決めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、アースシェイプで地下深くに空間を掘り、クリエイトアースで岩を作って壁を固めた。さらにアイスウォールで大量の氷塊を生成して氷室に収める。これで果物を冷凍保管できる場所の完成だ。氷が不足してきたらセララがまた魔法で補充する運用だ。

 

「これでいつでも冷たい果物が食べられるよ。肉や野菜、果物も氷室に保管すれば長持ちする」

 

「素晴らしい。城の者たちも喜ぶであろう」

 

 信長はそう言いながら冷やした桃を手に取り食べ始めた。

 

「信長さん、夕食の前につまみ食いは良くないよ」

 

「ふん。この冷凍桃が美味すぎるのが悪いのだ」

 

 信長は冷凍桃がとても気に入ったようだった。あっという間に食べ切り、2個目の冷凍桃に手を伸ばす。

 

「信長さん。甘い物ばっかり食べてると虫歯になっちゃんだからね」

 

 セララの一言に信長が冷凍桃に伸ばした手が止まる。

 

「ぬぅ……虫歯は……困る……仕方ない。さっき食べた1個で満足するとしよう」

 

 伸ばした手をそそくさと引っ込めて氷室を出て行く信長。この前の水神式虫歯治療は二度と体験したくないらしかった。

 

 

 

 

 

 

 

 氷室は清州城の中でたちまち人気の場所になった。夏の暑い日に冷凍した果物を食べられるというのは、この時代には前例のない贅沢だった。城で働く者たちの間で、それを楽しみにしているという話をよく聞くようになった。

 

 数日後、丹羽が報告のために部屋を訪ねてきた。

 

「セララ様、城下の様子をご報告いたします。マヨネーズとやらが城下の料理屋に広まりまして、大変な評判になっております。最初に試した料理屋が野菜に使い始めたところ、それを聞きつけた別の店も次々と使い始めたようで」

 

「本当に?」

 

「はい。水神様が作られた調味料だということも広まっておりまして、清州は美食の地として近隣にも噂が立ち始めております」

 

 セララはそれを聞いて良かったと思った。

 

 水神様を信仰すれば肉や卵を食べても問題がないという話も、じわじわと広まっていった。水神様を信仰するなら大丈夫だという話が城下に伝わり、卵料理を出す店が増えた。

 

 一つの調味料から、思った以上に広い変化が広がっていった。

 

 セララは氷室から持ってきた冷凍桃を一房食べながら、次の料理の案を考える。

 

 この世界には美味しいものがいっぱいある。これからも料理を作って皆を幸せにできたら良いなと思うのだった。

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