SF世界の天使っぽい種族に転生したけどワープ事故で戦国時代の日本に来ちゃいました。 魔法と知識で日本を発展させます。   作:Lavian

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第二十二話 月光剣

 今川の動きが怪しい、という報告が入ったのは、春の初めのことだった。

 

 配下の者が集めた情報によると、駿河で兵の動員が始まっており、街道の整備が急ピッチで進んでいるという。物資の買い付けも増えており、これは戦の準備以外には考えにくいという報告だった。

 

 信長は広間で腕を組んで聞いていた。報告が終わると、しばらく黙っていた。

 

 今川義元。東海道の大半を支配する大大名だ。武田、北条との三家同盟を背景に、強大な兵力を持っている。対する織田は、尾張の統制こそ整ってきたが、兵力の差は歴然としていた。

 

 その日の夕方、信長はセララを呼んだ。

 

「セララよ。もしも織田と今川が戦になった場合、戦力の差で織田が苦戦するのは間違いない。何か良い案はあるか?」

 

 セララは信長の言葉を聞きながら、頭の中で整理していた。

 

 桶狭間の戦い。転生前の知識で、信長が今川義元を破ったことは知っている。一五六〇年の話だ。しかし具体的にどうやって勝ったかの詳細は曖昧で、自信を持って語れる内容ではなかった。根拠の薄い予言めいた話を持ち出すのはリスクがある。信長が判断を誤る可能性もある。

 

 だから今ここで話すべきことは、今できる準備についてだ。

 

「新型のフリントロック銃は間に合わないよ」

 

 とセララは言った。

 

「開発中だし、もし開発が完了しても実戦で使えるレベルになるにはまだ時間がかかる」

 

「その通りだ」

 

「だとすれば旧式の銃をいっぱい揃えて、銃を扱える兵士を増やすのが良いと思う。銃の数がそのまま戦力になるから、お金さえあれば兵士を強化できるはず」

 

「そうだな。銭には余裕があるし、銃の購入を増やそう」

 

 と信長は即座に頷いた。

 

「他にはあるか?」

 

「あとは……ボク自身が戦場に出て、敵将を狙うことかな」

 

「例の、飛行しながら炎や雷を降らす戦法か。あれには対抗できん。敵は逃げるしか無いだろうな」

 

「その戦法もあるけど」

 

 とセララは続けた。

 

「ボクは魔力で身体能力を強化できるんだ。だから敵との斬り合いだって負けないよ。バリアもあるし、空から敵将を狙って奇襲して、斬り合いに持ち込んだら一気に首を取れると思う」

 

 信長がしばらく考えた。

 

「セララが空から敵将を奇襲し、敵軍が混乱したところへ味方の兵が突撃する。敵将を討ち取れるかは不明だが、空から奇襲をかけた時点で混乱は確実であろう」

 

「そうだね。本陣が奇襲で混乱している所へ織田軍が突撃すれば兵力差を埋められると思う」

 

「この作戦ならば勝てるかもしれん。だが、敵軍にセララが囲まれる事になる」

 

 と信長は言った。それからセララを見つめた。

 

「ボクなら大丈夫だよ。囲まれていても空へ飛んで逃げれば敵は追ってこれないし」

 

「……それもあるが、お前は争いごとが嫌いだと聞いた。問題ないのか?」

 

「うん。争いは嫌いだけど、信長さんや清州城の人が死んじゃう方がもっと嫌だからね」

 

 信長はその言葉を受け止めて頷いた。

 

「ではセララに頼むとしよう。しかしこの戦術が有効かどうか、確認が必要だ」

 

「信長さん、確認って?」

 

「演習だ。次の演習で配下の森可成とその護衛二十名に対して、セララが空から奇襲する。やれるか?」

 

 セララは少し考えてから頷いた。

 

「大丈夫だよ。演習でボクの力を見せてあげるね」

 

 

 

 

 

 

 演習の日は晴れていた。

 

 城外の広い平地が演習場として使われた。信長と丹羽、それに何人かの武将が高台から見守る中、森可成が護衛の二十名を引き連れて演習場の中央に位置した。

 

 森可成は年齢三十代半ば、信長の信頼が厚い武将だ。落ち着いた判断力で知られており、信長が演習の相手に選んだのも、その実力を見込んでのことだろう。

 

 森可成は空を見上げながら、護衛の兵たちに低く声をかけた。

 

「水神様の事は良く知っているな。空を飛び、魔法を使い、結界を持つ。常識の通じる相手ではない。だが演習だからといって手を抜くな。本物の戦のつもりで動け」

 

 兵たちが頷いた。弓を持つ者が数名いる。槍を構えた者もいる。全員が空を警戒しながら周囲を見回した。

 

 空に、白い影が現れた。

 

 遠く、高い。最初は小さな点にしか見えなかったが、それが急速に大きくなってきた。翼を畳んで急降下している。速度が速い。

 

「来た!矢を放て!」

 

 森可成の号令と同時に、弓を持った兵たちが一斉に矢を放った。

 

 矢がセララに向かって飛んだ。しかし着弾する寸前で、矢は弾かれた。バリアに当たって方向が変わり、地面に落ちていく。

 

 セララは速度を緩めなかった。

 

 そのまま急降下してくる勢いの中、セララの手に光が集まった。

 

「ファイアーボール!」

 

 炎の塊が二つ、護衛の集団に向かって飛んだ。演習であることを考慮して直撃は避けたが、炎は護衛の両側に着弾し、大きな爆発音を上げて炎の壁を作った。護衛の半数が炎に阻まれ、森可成の周囲から分断された。

 

 炎の煙が立ち上る中、セララが着地した。

 

 砂利が砕けるような音がして、地面に白い翼が舞った。着地の勢いを翼で殺し、滑らかに立った姿は、小柄な体格に似合わず迫力があった。

 

 森可成と残った護衛数名がセララと向き合った。

 

 森可成は素早く状況を判断した。距離は十メートルほど。半数の護衛が炎で分断されている。弓は通じない。そして目の前の存在はバリアを持ち、魔法を使う。

 

 しかし演習だ。実戦を想定するなら、ここで名乗るのが武士の礼儀だ。

 

「我は森可成!名乗られよ!」

 

「ボクは水神のセララ!いざ尋常に勝負!」

 

 セララが答えた瞬間、魔力が体を包んだ。

 

 魔力による身体強化。スカイエルフの魔法の中でも基本的な術式の一つだが、効果は絶大だ。筋力、反応速度、跳躍力。全てが通常を大きく上回る状態になる。

 

 同時に、右手に持った機械の筒に光が集まった。

 

 細長い光の刃が形成される。白く輝く、魔力で作られた剣だ。レーザーブレード。セララが聖国の軍事学校で学んだ近接戦闘用の武装だ。刃に触れるものは金属であろうと容易く溶断する。

 

 セララが踏み込む。

 

 翼が激しく動き、踏み込みが加速する。森可成の目にはセララがぶれて見えた。

 

 横からの斬撃が来た。森可成は反射的に刀で受けようとして、寸前で思いとどまった。あの光の刃に刀を当てれば刀が溶ける。

 

 かわした。体を横に逃がして斬撃をやり過ごした。

 

 しかし次が来た。セララの連撃は止まらない。右から、左から、上から。一撃一撃は必ずしも全力ではないが、速度と連続性が異常だった。森可成はかわし続けることで精一杯で、反撃の隙がない。

 

 護衛の複数人が槍でセララに突きかかった。セララは身をひねってかわし、同時にバリアを展開して別の護衛の斬撃を弾いた。動きが全く止まらない。

 バリアにヒビが入り、攻撃が全く効いて無い事も無いが、まだ2~3回の攻撃は防ぐだろう。

 

 セララはバリアが割れる前に決着を付ける事を優先した。

 

 森可成は後退しながら活路を探したが、セララは地面に足をつけながらも翼を使って跳躍し、一瞬で間合いを詰めてきた。

 

 光の刃が首元に止まった。

 

 動きが止まった。

 

 森可成は首に触れるか触れないかの位置に光の刃が止まっていることを感じながら、静かに言った。

 

「……降参いたす」

 

 セララは光の刃を消した。そして直ぐに翼を広げて空へ離脱する。あっという間に弓矢の届かない高度まで飛びあがっていた。

 

 敵将を撃破した後の離脱も完璧だった。

 

 

 

 

 

 逃げ切りまで演習として再現したセララはしばらくしてから元の位置へ降りて来た。

 

 周囲は静まり返っていた。護衛の兵たちが呆然とした顔で立っている。炎の壁は燃え尽きて煙だけが残っていた。

 

 高台から見ていた信長が、ゆっくりと立ち上がった。

 

「見事だ」

 

 と信長は言った。

 

 高台から降りてきた信長は、演習場に降り立ったセララの前に立った。森可成も近くに来た。

 

「セララ様の実力……演習とはいえ、圧倒されました」

 

 と森可成は言った。

 

「矢が通じず、炎で分断され、あの速度で斬りかかられては、対抗する手立てがありません」

 

「怪我はない?」

 

 とセララは聞いた。

 

「はい。お心遣いありがとうございます」

 

 信長はセララが持っていた光の刃の残像を思い返しながら言った。

 

「その光の剣、何と呼ぶのだ」

 

「レーザーブレード、だよ。天の国の言葉で……」

 

「発音しにくいな」

 

 と信長は言った。しばらく考えてから続けた。

 

「刀身が白く輝いていたな。月の光の剣。月光剣と呼ぼう。その方が箔が付く」

 

「月光剣……」

 

 とセララは繰り返した。

 

「良い名前だね」

 

「れーざーぶれーどとやらより、月光剣の方が兵たちにも伝わりやすい」

 

 信長がそう言って正式に名前を決定した。配下の記録係が横で演習の結果と月光剣の名前を書き取っていた。

 

 森可成が改めて信長に向き直った。

 

「殿、セララ様の実力は本物でございます。空からの奇襲は防ぎようがなく、着地後の近接戦闘においても手に負えません。敵将を討ち取ることは十分に可能かと存じます」

 

「討ち取ったあとはすぐに空へ飛び立てば囲まれていても大丈夫だよ」

 

「うむ。セララが空から敵将を奇襲すれば、敵軍は必ず混乱する。そこへ味方が突撃する。この作戦は有効だ」

 

 信長が評価し、セララの実力と作戦が有効であることが証明された。

 

 作戦を立てる信長の目には、冷静な計算と、どこか楽しそうな光が混じっていた。ピンチを前にして燃えるような、そういう気質がこの人にはある。転生前の知識で知っていた信長という人物像と、今目の前にいる信長が重なった。

 

「セララよ。今川が来た時、頼めるか」

 

と信長は言った。

 

「もちろん。友人の頼みだからね」

 

 信長はそれを聞いて、短く笑った。

 

 演習場に残った煙が、風に流されて消えていった。




主人公が強い理由として、スカイエルフが種族的に強いと言うのもありますが、
主人公は代々軍人の家系かつ、軍事学校に通っているというのがあります。

人間換算で2年訓練する=スカイエルフだと20年訓練を積んでいる、というのもあります。
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