尾張水神伝 ~SF世界の天使っぽい種族に転生したけどワープ事故で戦国時代の日本に漂着しました~   作:Lavian

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第二十七話 卵と蜂蜜と牛乳と

 信長は尾張の統治と勢力拡大を着実に進めていた。次は美濃攻略を狙っていたが、以前に宣言したようにセララを戦に使う気は無かった。そのためセララは戦場に出ることなく、内政を行う日常が続いていた。

 

 ある朝、セララは報酬として受け取った銭の使い道を真剣に考えていた。

 

 大量の銭で何をするか。自分のやりたい事と言えば……

 

 すぐに思い浮かんだのは料理だった。

 

 マヨネーズを作ったとき、食材の幅が広がれば料理の可能性がもっと広がると感じた。特に欲しいのは乳と卵と甘味だ。マヨネーズには卵を使ったが、他にも卵があれば作れる料理は多い。乳があればチーズやバター、クリームが作れる。甘味があればデザートの幅が広がる。

 

 セララはホワイトスワローでデータ検索を行い、信長や丹羽に説明するためのデータと資料を準備するのだった。

 

 

 

 

 

 数日後、セララは丹羽を呼んだ。

 

「丹羽さん、桶狭間戦の報酬の銭の使い道なんだけど、ボクは牛が欲しいんだ」

 

 丹羽が少し意外そうな顔をした。

 

「牛、でございますか」

 

「牛の乳を得ることが目的だよ。牛乳は飲んでも美味しいし、加工して固めてチーズにするのも美味しいよ。栄養もたっぷり入ってるんだ」

 

 丹羽はしばらく考えてから、頷いた。

 

「セララ様のおっしゃることは、これまで全て尾張の利益になってきました。清州はマヨネーズの産地として名が広まりつつあり、料理から生まれる利益も無視できません。牛の購入について承知しました」

 

「やったー!ありがとう!」

 

「しかし牛を購入すると言っても、飼育が上手くいくかは別でございます。まずは試験的に数頭を購入いたします。乳の採取と家畜として育てる事に問題ないと確認できれば、頭数を増やすということで」

 

「それで十分だよ。チーズの作り方も教えるから、試してみようね」

 

 牛の話が決まったところで、セララはもう一つの案を出した。

 

「養蜂と養鶏もやってみたいな。養鶏は卵が目的だね。養蜂をすれば甘くて美味しい蜂蜜が採れるよ」

 

「養鶏は分かります。ですが養蜂とは何でしょうか。蜂を育てることができるのですか」

 

 と丹羽は言った。

 

「えっと、養蜂っていうのはね」

 

 セララはペンダント型の端末を操作してホログラフィックの映像を投影した。蜂の巣の構造、蜂の生態、蜂蜜が作られる仕組みが映し出された。

 

「蜂っていうのは蜂の巣に花の蜜を溜め込むんだ。これが蜂蜜だよ。だから人工の蜂の巣を作って、そこに蜂蜜を溜めさせて、十分に溜まったら回収するの」

 

 映像に木箱の設計図が現れた。

 

「この形の通りに木箱を作って女王蜂を入れれば、そこに蜂が巣を作ってくれるはずだよ。花の多い場所に置くのが大事で、蜂が蜜を集めやすい環境を整えることが大切だね」

 

「蜂を外から捕まえてくるのではなく、住む場所を作ってやるということですね」

 

と丹羽は映像を見ながら言った。

 

「そう。自然に蜂が集まってくるように環境を整えるの。蜂を怒らせないように扱う方法も教えるよ。煙を使うと蜂が落ち着くんだ」

 

「煙でございますか」

 

「うん。燻煙器っていう道具があるんだけど、木箱と同じくらいの大きさで作れるよ。これで煙を吹きかけてやれば蜂の巣を管理するときに刺される心配が減るんだ」

 

 丹羽は熱心に書き取った。

 

「早速手配いたします。近隣の村で養蜂と養鶏を始めますね」

 

「うん、よろしくね。やり方と注意点はちゃんと説明するから、村人たちにも丁寧に伝えてほしい」

 

 こうしてセララは酪農、養鶏、養蜂を開始した。牛や鶏の購入や養蜂箱の設置には桶狭間の報酬で貰った銭を使った。

 

 

 

 

 

 数日後、近隣の村への説明会が設けられた。

 

 セララは村人たちを前に、端末の映像を使いながら養蜂と養鶏の仕組みを説明した。

 

 養鶏については、村人たちは比較的すぐに理解した。鶏を育てて卵を安定的に得るための環境の作り方、鶏が卵を産みやすくなる餌の与え方、清潔に保つことの大切さ。いくつかの質問が出たが、丹羽の配下が書き取った内容を村人たちと確認しながら進めると、理解が深まっていった。

 

 養蜂の方は少し時間がかかった。

 

「蜂に刺されないのですか」

 

という心配の声が上がった。

 

「刺されることはあるよ。でも煙を使えば蜂が落ち着くから、正しい方法で扱えば大丈夫だよ。闇雲に触ったり、巣を揺らしたりしなければ、蜂もそんなに攻撃的にはならないんだ」

 

「蜂蜜はどれくらい採れるのですか」

 

「環境によるけど、一箱から年に何度か回収できるよ。花が多い季節は特によく採れる」

 

「売れますか」

 

「売れるよ。甘味は貴重だから、きっと良い値がつく」

 

 その言葉に村人たちの目が輝いた。

 

 木箱の設計も説明した。特に難しい構造ではなく、大工の技術があれば作れる。村の大工が興味深そうに図面を眺めた。

 

「これくらいなら作れますな」

 

「お願いできる?できれば数箱、花の多い場所に置いてみてほしいんだ」

 

「承知しました」

 

 養蜂箱の制作が始まり、近隣の花畑や雑木林の近くに設置された。女王蜂の確保については、山の中の自然の蜂の巣から分蜂を誘導する方法を取ることになった。詳しい手順は端末で調べて、村人たちに伝えた。

 

 

 

 

 

 

 酪農と養鶏の方は早くも結果が出始めた。

 

 酪農は試験的に導入した牛から牛乳が採取できた。牛乳は美味であり栄養も豊富だったため、本格的に酪農を開始する事が決定された。

 

 養鶏は適切な環境で育てた鶏が安定して卵を産み始めた。村から卵が城に届くようになり、台所での卵料理の頻度が上がった。

 

 セララはその卵と牛から採れた牛乳を使って、試しにカスタードクリームを作ってみた。卵黄と砂糖と牛乳を合わせて加熱する。砂糖は貿易で購入するしか無く、セララの銭を使用して購入した。高価であるため砂糖の量は少しだけだ。

 

 いずれ蜂蜜が採れるようになったら砂糖を蜂蜜で代用する予定だ。

 

 こうしてカスタードクリームが完成した。

 

 セララはシュークリームを作りたかったが、シュー生地が無かったため、薄く延ばした餅の生地でカスタードクリームを包んだ。

 

「餅の生地で包んだから、シュークリームじゃ無くて大福みたいになっちゃった。まあこれはこれで良いかも」

 

 

 

 

 

 完成したカスタードクリーム入りの大福を信長に出すと、気に入ったのかあっという間に食べてしまった。

 

「これは……丁度良い甘さの菓子だな。口の中で溶けるようだ。茶と合わせると実に美味い」

 

「砂糖と乳と卵を合わせた甘味だよ。砂糖は高いから、養蜂が成功して蜂蜜が採れるようになったら蜂蜜で代用するね」

 

「砂糖を使っているのか……では、この料理を頻繁に食べるのは難しそうだな。だが、いずれ蜂蜜が採れるようになればこれを毎日作れるようになるか?」

 

「もちろん。でも甘いものを食べた後はちゃんと歯磨きをしてね」

 

「無論。虫歯は2度とごめんだからな」

 

 そこで信長はふと気が付いたようにセララに問いかける。

 

「そういえばこの料理の名前はなんと言うのだ?」

 

「名前はまだ考えてないんだ。中身はカスタードクリーム、外側の皮はお餅だよ」

 

「ふむ……では水神餅と名付けておこう」

 

 こうして将来の尾張の名産品、水神餅が完成した。今は砂糖が高価で作るのが難しいが、蜂蜜が採れたらもっと食べれるようになるかもしれない。

 

 部屋に戻ったセララは、端末を開いてチーズの作り方を調べ始めた。チーズが上手く行ったらヨーグルトも作りたい。

 

 料理の構想が膨らむにつれて、翼がご機嫌にちょこちょこと動いた。




現代のwikiの水神餅の項目

<水神餅>
現代に実在する唯一の神である水神セララが考案した室町時代後期から伝わる伝統菓子。
求肥や餅米で作った餅でカスタードクリームを包む(または餅の中にカスタードクリームを注入する)代物。
日本最初のカスタードクリームを使ったお菓子である(カスタードクリームは一説では16世紀当初に産まれた説もあるので、その場合世界最初ではない)

水神セララが最初に作ったカスタードクリームは砂糖を材料に用いたのだが、当時の尾張では砂糖は領土外からの完全輸入品として非常に高価であり、水神餅が広まった際は彼女が普及させた養蜂で採取出来る蜂蜜で代用され、結果的に水神餅=蜂蜜入りという認識が世間にも広まった為、現代でも水神餅は蜂蜜入りの方が主流である。

水神セララに調理法を教わったお城付き料理人の一族が開店した『白蜜屋』は日本最初にして最古の水神餅専門店として現代でも繁盛しており、水神セララもたまに訪れている。
その際は伝授元である女神様からは代金は受け取れないと主張する店側と、代金を払おうとする水神セララの押し問答が過去にあったと記録されている。
白蜜屋の当代当主は、業務時にチェックした完成品の最初の一つを水神様の神棚に捧げる習わしが開業当時から根付いている(捧げ物は毎日腐る前にちゃんと回収している)
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