尾張水神伝 ~SF世界の天使っぽい種族に転生したけどワープ事故で戦国時代の日本に漂着しました~ 作:Lavian
1567年(永禄10年)。
美濃攻略は新たな局面を迎えていた。
信長が目をつけたのは、斎藤家の柱とも言える三人の重臣だった。稲葉良通、安藤守就、氏家卜全。美濃三人衆と呼ばれる彼らは、斎藤家の実質的な戦力を支えている。この三人を切り崩せれば、斎藤龍興は孤立する。
ある夜、信長はセララと木下藤吉郎を執務室に呼んだ。
「藤吉郎、美濃三人衆への調略を任せる」
「はっ、承知いたしました」
藤吉郎は迷いなく答えた。信長の命令を受けた瞬間から、もう頭の中で段取りを組み始めているような顔だった。
「セララも一緒に行ってくれ」
「ボクも?」
「そうだ。水神を疑っている者でも直接見れば信じる。それに水神が直接出向いたとなれば、相手の受け取り方も変わる」
藤吉郎がセララに向かって人懐っこく笑った。
「セララ様にご同行いただけるとは、心強うございます。私一人では口八丁に見られることもございますが、水神様がいれば誰も疑いますまい」
「分かった。藤吉郎さん、よろしくね。口八丁に期待しているよ」
「お任せください。口の上手さが取り柄でございます」
その言い方が妙におかしくて、セララは笑った。
数日後、セララは藤吉郎と共に美濃三人衆の一人である稲葉良通の元へ向かった。
藤吉郎はよく喋った。道中も、相手の家臣と顔を合わせた瞬間から、あっという間に打ち解けてしまう。名前を覚えるのが早く、相手の関心に合わせて話題を変え、気づけば笑いが起きている。セララには真似できない種類の才能だった。
対面した稲葉良通は、最初から値踏みするような目でセララを見ていた。水神が噂通りの存在か、見定めようとしているのが伝わってきた。
「水神様と木下殿がお揃いとは。して、尾張は美濃の勝ち目が無いほどに豊かになったと噂で聞いておりますが、これは真実ですか?」
と稲葉は言った。
先に口を開いたのは藤吉郎だった。
「豊かになりましたとも。田畑の収穫は増え、城下には活気が戻り、病で倒れる者も減りました。これも水神様のお知恵のおかげでございます」
藤吉郎は流れるように話した。数字を挙げ、具体的な変化を描き、相手が関心を持ちそうな部分を的確に突く。稲葉はそれらの説明を聞きながら、途中でセララに目を向けた。
「水神様は、そのような奇跡を民に与えておられるのですか」
「奇跡を与えているというより、知っていることを教えてあげてるだけかな。物事を知れば人は自分で動く。ボクは手助けをしているだけだよ」
とセララは答えた。
「……神が直接奇跡を起こさずとも、手助けで国が変わると」
「変わったよ。ボクの知識から信長さん達が法と仕組みを作り上げた。農民が米を作り、商人が商売をして、職人が道具と銃を作った。全部、神じゃ無くて人が動いたからだよ」
「なるほど。尾張が豊かになるのも理解できますな」
稲葉の表情が僅かに和らいだのは分かった。
「一つ聞いても良いかな。稲葉さんは、今の斎藤家のままで良いと思っているの?」
とセララは稲葉に言った。
座が静かになった。稲葉は少しの間、何も言わなかった。
「……今の主君の龍興様は、祖父の道三様や父君の義龍様とは、違いますな」
と稲葉は低い声で言った。
明確に批判はしなかったが、それは今の主君の斎藤龍興に不満があると言っているのと同じだった。
その後も藤吉郎が交渉を続け、追加の条件として『稲葉良通の所有する領土にも水神の知識を確実に授ける事』により稲葉良通は織田家に寝返る事を了承したのだった。
安藤守就、氏家卜全とも同様に藤吉郎とセララが揃って出向いた。美濃三人衆はそれぞれ異なる言葉で話したが、共通していたのは斎藤龍興への失望と、尾張への関心だった。
三人衆が最終的に寝返りを決めたのは複数の理由からだった。
斎藤龍興に統率力がなく、信長の勝勢が明白で、所領を守るには織田家につく方が合理的だという判断が重なった。そこに、尾張が実際に豊かになっているという事実と、水神様が織田家にいるという現実が加わった。水神様は敵にすると恐ろしく、味方にすれば心強い。その判断が三人を動かした。
こうして藤吉郎とセララは美濃三人衆の調略に成功。信長は稲葉山城の攻略準備が整ったと判断し、総攻撃を命じた。
総攻撃の際、美濃三人衆は織田軍へ寝返って斎藤龍興を攻撃した。頼りにしていた美濃三人衆に裏切られた斎藤龍興はまともに抵抗する事ができず、稲葉山城はすぐに落城する事となった。
こうして織田軍は被害をほぼ出す事も無く稲葉山城の戦いに勝利したのだった。
稲葉山城の陥落により美濃を平定するおよそ7年がかりの戦いに決着がついた。美濃と言う地域が織田の支配下になったのだ。
信長は稲葉山城に入り、城の名を岐阜城と改めた。
「拠点を岐阜城に移す。セララも一緒に来い」
信長はセララが付いてくるのが当然の事のように言った。
「うん。もちろんだよ」
セララもそれを当たり前の事であるかのように言った。
信長が進む方向に、セララも一緒について行くと決めていた。今度は岐阜の城下町を発展させようとセララは意気込んでいた。
岐阜への移転から間もなく、信長は楽市令を発令した。
荘園領主が持っていた商業の特権を廃止する。商人が税を払うことなく商売に参加できるようにする。座と呼ばれる同業者の組合が独占していた商いの仕組みを壊す。誰でも自由に商いができるようになる。
「特権で守られた商いは淀む。自由に商いを行えば、良い品と安い値が生まれる。ここまでは儂の考えだ。そして……」
信長がセララの目を見て言葉を続けた
「民が得をすれば、国が活気づく。これはセララの活動を見て学んだことだ」
と信長は言った。
「流石は信長さんだね。国を強くするには、まずは民を豊かにすること。これが基本だよ」
セララは嬉しそうに笑顔で言った。
楽市令が出ると城下の商いが変わった。
これまで座の許可がなければ商売できなかった者たちが、新たに店を開き始めた。競争が生まれ、品物の種類が増え、値段が変動し始めた。
「城下に新しい店が増えております。商品の種類が多くなり、客の足が増えているようです」
岐阜の城下に活気が出てきた、という報告を丹羽が行った。
「良いことだよね」
「はい。ただ、既存の座の商人からは不満の声も出ております」
「そうだろうね。これまで守られていた特権が無くなるんだから」
「セララ様はどうお考えですか」
「ボクにできる事は……既存の商人に知識を授けてあげる事かな。岐阜でも学校を開くつもりだから、その時に優先して参加する権利を保障するよ」
「良い考えですな。目ざとい商人であれば、セララ様の知識を商売に応用して利益を上げるでしょう」
丹羽は頷き、次の報告を行った。
岐阜城から見える城下の景色は、日ごとに変わっていった。
新しい建物が増え、川沿いに店が並び始め、遠くから商人が訪れるようになった。楽市令の効果が徐々に現れていた。
美濃は現代では岐阜県の場所になります。
岐阜城は岐阜県岐阜市の金華山ですね。
美濃三人衆は史実よりも織田家への忠誠心が高い状態となっています。
それぞれの領地で水神様の知識の恩恵を得られるためです。