尾張水神伝 ~SF世界の天使っぽい種族に転生したけどワープ事故で戦国時代の日本に漂着しました~   作:Lavian

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第四十話 船と新たな作物

 1569年(永禄12年)。

 

 セララは大きな船を作り、外国と貿易したいと思っていた。だが、今の尾張には外洋を航海できる船が存在しない。新たに西洋式の船を開発する必要があった。

 

 ホワイトスワローのデータベースから使えそうなデータ一式を吸い上げ、そのデータをペンダント型携帯端末に移動させてある。携帯端末を操作し、船の設計データを検索した。

 

「西洋式の大きい船と言えば、やっぱりガレオン船だよね」

 

 ガレオン船の設計図が表示された。大型の帆船で、竜骨を持ち、複数のマストに横帆と縦帆を組み合わせた西洋式の帆装を持つ。外洋を航行できる設計で安定性と速度を両立している。

 

 しかし、いきなりガレオン船を作るのは無理だ。

 

 まず小型の実験船から始める必要がある。竜骨の追加と西洋式帆装を取り入れた小型船で設計の考え方を実証してから、大型船に移行する計画だ。

 

 丹羽に相談し、今後の進め方を決めることにした。

 

「船大工を手配いたします。それと、イエズス会を通じて船の知識がある職人に協力を依頼しましょう」

 

「それが良さそうだね。設計図はホロ画像で見せられるけど、実際に木材を加工する技術は船大工さんの知識が必要だから」

 

「承知しました」

 

 

 

 

 

 

 数日後、岐阜の船大工たちとイエズス会から紹介された南蛮の船匠が集められた。

 

 セララは端末を操作して、小型実験船の設計をホロ画像で投影した。竜骨の位置と形状、帆柱の立て方、帆の種類と配置。日本の船とは根本的に異なる構造が映し出された。

 

「日本の船は竜骨がないから横揺れに弱い。竜骨を入れることで安定性が上がる。帆の形も変えることで、向かい風でも進める角度が増えるんだ」

 

 船大工たちが映像を見ながら話し合った。南蛮の船匠が日本の船大工に説明を加えた。言葉の壁は通訳が補い、図を指差しながらの議論が続いた。

 

「この竜骨とやらがあれば確かに良い船になりそうですな」

 

 と老いた船大工が言った。

 

「今まで作ったことがない構造ですが、やってみる価値はありそうです」

 

「模型を先に作ってみましょう」

 

 と南蛮の船匠が提案した。

 

「小さな模型で設計を確かめてから、実際の船に移れば失敗が減ります」

 

「良い考えだね。模型で問題が分かれば、設計を修正できる」

 

 とセララは言った。

 

 模型の製作が始まった。

 

 セララは機械いじりが好きな性格であり、模型作りに喜んで参加した。

 

 まず図面を作るところから始まった。

 

 セララが端末でガレオン船の設計画像を映し出し、南蛮の船匠がそれを見ながら図面を描いていく。船匠は船の構造に精通していたため、画像から必要な寸法や構造を読み取る作業は速かった。セララが分からない部分を補足し、日本の船大工に分かる形に言葉を翻訳しながら、図面が仕上がっていった。

 

 しかし図面が完成しても、問題はそこからだった。

 

 図面通りに木材を切り出して組み合わせると、あちこちで微妙なずれが生じた。竜骨と船底の接合部が想定より緩かった。帆柱を立てる台座の角度が設計より数度ずれていた。

 

「ここが合っていない」

 

 セララは図面と実物の模型を見比べながら、模型に物差しを当ててずれている箇所を一つずつ指摘した。

 

「画像では問題なく見えても、実際に木を削って組み合わせると誤差が出る。木材は素材によって微妙に硬さが違うから」

 

「おっしゃる通りで。長年やっておりますが、図面通りにならないのはいつもの事でございます」

 

 老いた船大工が苦笑いした。

 

「だから図面だけ渡しても意味がなくて、実際に作りながら調整するしかないんだよね」

 

 南蛮の船匠が図面を修正し、セララが端末の画像と照らし合わせて確認する。そこに日本の船大工が現場の知識を加える。三者が議論しながら作業を進めた。接合部をどう補強するか。帆柱の角度をどこで調整するか。言葉の壁は通訳が補い、図を指差しながらの議論が続いた。

 

 竜骨の接合部を組み直して大まかな模型が出来た時、老いた船大工が呟いた。

 

「こうして模型を作って動かしてみると、確かに竜骨があると安定感が違いますな」

 

 組み直した模型を両手で持って軽く揺らし、安定感を確かめている。

 

「竜骨があると重心が下がるから、揺れに対して粘るような動きになるんだ。波に飲まれにくくなる」

 

「なるほど……」

 

 老いた船大工はしばらく模型を眺めてから、顔を上げた。

 

「水神様、これは本当に外洋を走れる船になりますか」

 

「きっとなるよ。もしこの船が駄目だったとしても、改良を進めて外洋を走れる船が完成するまで頑張るから」

 

 セララは迷わず答えた。

 

 老いた船大工は頷いた。その目に、職人としての興味が灯っていた。

 

 設計を微調整しながらの作業はさらに数週間続いた。問題が出るたびに議論して、修正して、また試す。端末の画像と職人たちの経験が噛み合っていくにつれて、模型の完成度が上がっていった。

 

 模型が完成すると川で浮かべて試した。

 

 揺れの安定性、帆の動き、方向転換のしやすさ。一つひとつを確認した。

 

「安定しています。今までの船とは違いますな」

 

 老いた船大工が言った。

 

 セララは浮かぶ模型を見ながら、少し満足した気持ちになった。

 

 こうして模型の製作は成功した。次は模型製作を通して完成した図面を参考に、実際の船のサイズの図面を作成した。

 

 小型実験船の建造が始まったのは、模型の完成から1か月後の事だった。

 

 

 

 

 

 

 建造には時間がかかる。船大工たちは黙々と作業を進めていたが、完成までにはまだはかかりそうだった。その間、セララは他の仕事を進めることにした。学校の運営、水神教の布教、水神刀の製作。やることは尽きない。

 

 そんな日々を過ごしていたある日、別の知らせが届いた。

 

 イエズス会からの便りだ。

 

 丹羽が持ってきた文を開くと、作物が届いたと書かれていた。セララが依頼していたものだ。

 

「ついに届いたね!」

 

「はい。じゃがいもとサツマイモとトウモロコシが届いております」

 

 セララは思わず声が弾んだ。

 

「じゃがいもにサツマイモにトウモロコシ!本当に見つけてくれたんだ」

 

 倉庫に案内されると、見慣れた形の塊が積まれていた。間違いなくサツマイモだ。紫色の皮が懐かしかった。

 

「それと、こちらがトウモロコシでございます」

 

 黄色い粒が並んだ穂が束になっていた。前世でスーパーに当然のように並んでいた作物が、今は南蛮からはるばる運ばれてきた。

 

「最後に、こちらがじゃがいもでございます。食料としてではなく、観賞用の花としてフランスの宮殿で栽培されていたそうです。セララ様が書いた詳細な情報や花の絵によって気が付いたとか」

 

 じゃがいもが入った袋を見せて丹羽が説明する。

 

「えっ?既に発見済みなのに観賞用で花だけ見てたの?食べられるって知らないとそういう扱いになっちゃうんだね」

 

 セララが驚く。まさか、前世では主食として当たり前に食べていたあのじゃがいもが観賞用の花だとは思わなかった。

 

「毒を持っていたことと、聖書に載っていない作物だったために食用と思われなかったそうです」

 

 聖書に載っていない作物だから食べない、という理由にセララは驚くが、この時代の人々はそういう考えなんだねと納得した。

 

「そうだったんだ。じゃがいもは主食になるとても良い作物なんだよ。じゃがいもの利点と、毒、連作障害、その他の注意点を書いた、農民が育てるための指導書を作るつもりなんだ。この指導書を翻訳してイエズス会にも送ってあげよう」

 

「セララ様の指導書があれば尾張や美濃の農民もじゃがいもを育てられそうですな。南蛮もじゃがいもの育て方、食べ方を知って喜ぶでしょう」

 

 丹羽がうんうんと頷いた。

 

「サツマイモとトウモロコシも育成方法を書いた指導書を作るよ」

 

 サツマイモは痩せた土地でも育ちやすい。干ばつに強く、手間がかからない。この時代の日本で広まれば、飢えで苦しむ人が減る。それだけの力を持つ作物だ。

 

 トウモロコシも素晴らしい。長期保存が効き、様々な用途に使える。粉にすれば料理の幅が広がる。家畜の飼料にもなる。

 

「指導書が完成したら複数の村でじゃがいも、サツマイモ、トウモロコシを育てて種を増やしてほしい。まず量を確保することが大事だから。サツマイモは暖かい地域、じゃがいもは寒い地域に向いているよ」

 

「承知いたしました。新たな作物を育てると言うのは楽しみですな」

 

 

 

 

 

 

 

 さらに1年後、尾張の地には無いが既に南蛮貿易で扱っている作物として、カボチャ、唐辛子、ニンジン、ホウレンソウの種が届いた。

 

 以前にセララが「他にも食べられる作物の種なら何でも買いたいよ。見つけたものは全部持ってきてほしい」と言っていたため、これらの種が届いたのだ。

 

「カボチャ、唐辛子、ニンジン、ホウレンソウが届いたのだけれど、これも尾張で育てるように指示できる?」

 

「育て方を村人に教えれば対応可能ですな」

 

「じゃあこっちも数を増やそう。育成方法を調べて書いておくね」

 

 サツマイモ、トウモロコシ、じゃがいも、カボチャ、唐辛子、ニンジン、ホウレンソウ。作物の種類が増えれば、料理の可能性も広がる。セララは頭の中で料理の構想を組み立て始めた。

 

 サツマイモは蒸して食べても美味しいし、焼いても良い。甘みがあるからデザートにもなる。トウモロコシは焼きトウモロコシにすれば十分に美味い。カボチャは煮物にすれば甘くなる。唐辛子があれば辛い料理が作れる。ニンジンやホウレンソウは栄養豊富で色々な料理に合う。

 

 じゃがいもは主食になるし、油で揚げてフライドポテトにするのも美味しそうだ。

 

 セララは色んな料理を作ることを想像してご機嫌になった。

 

「どんな料理を作るか、今から楽しみだよ」

 

 とセララは笑顔で言った。




サツマイモはこの時代では別の名前、唐芋とか甘藷です。
薩摩の芋として広まったのはもっと後の時代ですね。

この小説では読者への分かりやすさ重視でサツマイモという名称で記載しました。
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