尾張水神伝 ~SF世界の天使っぽい種族に転生したけどワープ事故で戦国時代の日本に漂着しました~   作:Lavian

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第四十六話 チーズとピザ

 セララの元に南蛮貿易で得た作物の育成の報告が届いていた。

 

 サツマイモ、トウモロコシ、じゃがいも、カボチャ、唐辛子、ニンジン、ホウレンソウ。これらが数年前にイエズス会から種を貰った作物で、各地の村で栽培して順調に数が増えているとの事だった。

 

 また、新たにイエズス会からトマトが届けられ、種を増やす試みが始まった。

 

 各種作物の状況としては、米の不作に備えるための救荒作物としてサツマイモとカボチャが人気で多く育てられていた。じゃがいもも救荒作物であったが、こちらは夏の暑さに弱く栽培が難しい地域もあったため、主に北の地域での栽培となった。

 

 セララが作成した各種作物の育成手順書は『水神農書』と名付けられ、これらの作物を育てるのに役立っていた。連作障害や、一種類の作物だけ育てていると凶作や病害の際に壊滅的な被害を受ける危険があると言った事も記載していた。

 

 しかし水神農書も完璧では無く、やってみなければ分からない事も多かったため、各地の作物は試行錯誤しながら育てられた。育て方についての有益な報告が来ると、セララはそれらの情報を分析し、水神農書に反映させてアップデートしていった。

 

「よし、水神農書のアップデートはこんな感じかな」

 

 作業を終えて一息ついたセララは、机の上に積まれた報告書の中に、チーズの生産量が安定してきたという一文を見つけた。

 

 それを読み、数年前に悪戦苦闘したチーズ作りの記憶が蘇った。

 

 

 

 

 牛が十分に増え、牛乳の入手が安定してきた頃、セララはチーズ作りに挑戦することにした。

 

 セララはペンダント型携帯端末でチーズの作り方を調べた。チーズへの加工の手順は、牛乳を温めて酢を加えて凝固させ、布で絞って水分を抜くというものだ。難しそうな工程はないように見えた。

 

「これならきっと作れるよね」

 

 セララは厨房でチーズ作りに挑戦したが、最初の試みは失敗した。

 

 牛乳を鍋に入れて火にかけた。温まってきたところで酢を加えると、白い塊がふわふわと浮かんできた。良い感じだと思ってそのまま加熱を続けたのが間違いだった。

 

 温めすぎた。

 

 白い塊がぼろぼろに崩れ、鍋の中がざらざらした粒だらけになった。布で絞ってみたが、まとまらずに細かい粒が全部流れ出てしまった。

 

「あれ……全然固まらない」

 

 端末を見直すと、温度の管理が重要だと書いてあった。熱くしすぎると凝固した成分が壊れてしまうらしい。

 

「うーん、火力が強すぎたかな。温度に気をつけないといけないんだね。もう一回やってみよう」

 

 気を取り直して再挑戦することにした。

 

 二度目は温度に気をつけながら丁寧に進めた。

 

 牛乳を鍋に入れ、手を当てながらゆっくりと温める。熱くなりすぎないように火加減を調整しながら、端末で調べた温度の目安を意識した。温まってきたところで少しずつ酢を加えると、今度はきれいに白い塊が浮かんできた。

 

「よし、良い感じ」

 

 布を用意して、浮かんだ塊を掬い取って包んだ。力を込めて絞り始めた。

 

 水分がどんどん出てきた。出てくる出てくる。良いことだと思ってさらに力を込めた。

 

 そうしたら絞りすぎた。

 

 布を開けると、中に残っていたのはぱさぱさに乾いた白い塊だった。口に入れてみると、粉っぽくてぽろぽろと崩れた。塩気もなく、美味しくない。

 

「……固くなりすぎた。一応食べられるけど、美味しくはないね。絞りすぎたみたい。水分を全部抜いちゃダメなんだ」

 

 セララは端末を確認した。水分をある程度残すことで、しっとりとした食感になるらしい。絞る加減が重要だと分かった。

 

 だが、その後も挑戦し続けたがなかなか上手くいかなかった。それっぽい物は作れるが美味しいチーズにならないのだ。

 

 試行錯誤が続き、セララは水分を絞るやり方を変えた。布で塊を包んでから、重しを乗せてゆっくりと水分を抜く方法にしたのだ。手で絞るより、軽い重しで時間をかけて押した方が均一に水分が抜けると考えての事だった。

 

 この方法でようやく上手くいき、セララが満足できるチーズが完成した。

 

「やったあ!美味しいチーズが完成したよ。後で皆にも食べて貰おう!」

 

 チーズ作りに慣れてきた頃、セララはバター作りにも挑戦した。

 

 セララは魔法で氷を作り、城の地下室に氷室を維持していた。夏でも食材を冷やして保存できるその氷室に、牛乳の入った壺を一日置いておく。

 

 一日放置しておくと、冷やされた牛乳の表面に白い脂肪分がゆっくりと浮いてくる。その上澄みをすくい取り、容器に入れてひたすら振り続けると、やがて黄色い塊が分離してくる。それを取り出して塩を加えれば完成だ。

 

「チーズより全然簡単だね。氷室で1日放置して振るだけだし」

 

 夏は氷室が必要なのが難点だったが、秋や冬なら氷室が無くても大丈夫だろう。

 

 セララは蒸した里芋にバターを塗って食べてみた。

 

「美味しい……これは絶対に皆に食べてもらわないと」

 

 バターとチーズは好評を博し、岐阜の食卓に新たな味が加わった。城の料理人たちはチーズやバターを様々な料理や食材と合わせて試し始めた。特にバターで山菜を炒めた料理は評判となり、料理人たちは競うように新たな献立を考案した。

 

 

 

 

 数年前のあの苦労があったからこそ、今こうして安定してチーズが作れるようになったのだ。報告書を読んで昔を思い出したセララは懐かしさを覚えつつ、チーズを使って何の料理を作るかを考え始めた。

 

「せっかくチーズがたくさんあるし、食材も増えて来たから新しい料理を作ろう。今の岐阜には無い料理がいいな」

 

 セララは入手可能な食材を確認しながら考えた。

 

「ピザとか良いかも。載せる具材を変えれば色んなバリエーションが出来るし。チーズとトウモロコシとマヨネーズで……マヨコーンピザだね。唐辛子もトッピングしよう」

 

 セララは厨房を借り、マヨコーンピザの作り方を教えるために城の料理人を集めて見学させていた。

 

「これからピザを作るよ。教えながら調理するから覚えてね」

 

 ピザ生地の作り方は簡単だ。小麦粉に水と塩、それと少量の蜂蜜を加えて生地を作る。こねて、伸ばして、薄い円形にする。この時代には酵母を使った発酵生地は難しいので、薄く伸ばしたシンプルな生地で作ることにした。

 

「小麦粉をこのように使うのですか。うどんのように細く切るか、饅頭として使うかのどちらかと思っていました」

 

 料理人の一人がそのような感想を漏らした。小麦粉の生地の作り方だけでも、形や手順が異なれば料理人にとっては新たな発見だった。

 

「そうだね。生地の形を変えるだけで異なる料理になったりする。皆も試行錯誤してみると面白いよ。ピザは上に載せる具材によって色々な味にも変化する素敵な料理なんだ」

 

 セララはそう言い、薄く伸ばした生地の上にチーズをたっぷり乗せた。続いてトウモロコシの粒を散らした。マヨネーズを全体にかけて、最後に唐辛子を少し刻んでトッピングした。

 

「強い火力の竈はある?」

 

「はい、普段よりも火力の強い竈ならございます」

 

「それで焼こう。強火で一気に焼くのが大事だよ」

 

 竈に入れると、すぐに香ばしい匂いが厨房に広がった。チーズが溶けてぶくぶくと泡立ち、生地の端が少し焦げて色がつく。マヨネーズとトウモロコシの甘い匂いが混ざって、厨房全体が良い香りになった。

 

 竈から取り出した。

 

 生地は薄くカリッとしていて、チーズが溶けて表面を覆っている。トウモロコシの粒が黄色く焼けて、唐辛子の赤が点々と乗っていた。

 

「ピザ、完成!」

 

 ピザを切り分けて信長たちが待つ広間に運んだ。

 

 信長が一切れを手に取った。見慣れない形の料理だという顔をしている。一口食べた。

 

「……これは何という名前の食べ物だ」

 

 と信長は言った。

 

「ピザだよ。小麦粉の生地の上にチーズとトウモロコシを乗せて焼き上げた料理だね」

 

「チーズとトウモロコシが……組み合わさるとこうなるのか」

 

「美味しい?」

 

「美味い。これまでの料理とは全く違う食感だ。カリッとした部分と、溶けたチーズの部分がたまらん」

 

 信長がもう一切れ取った。それを見た武将たちも手を伸ばした。

 

「これは美味い」

 

「チーズが伸びてこぼれ落ちてしまう」

 

「唐辛子の辛さとマヨネーズの酸っぱさが合わさって……」

 

 広間が騒がしくなった。あっという間に皿が空になり、追加を求める声が上がった。

 

 丹羽が満足そうに言った。

 

「また新しい料理が生まれましたね。これは城下でも評判になりそうです」

 

「ピザって種類の料理で、マヨネーズとトウモロコシを乗せてるからマヨコーンピザだよ。コーンっていうのはトウモロコシの南蛮での呼び方だね」

 

 とセララは言った。

 

「ピザにコーン、馴染みのない言葉では民も覚えにくいだろう。名前は水神ピザで良いではないか」

 

「信長さん、何でも水神って名付ければ良いと思ってない?」

 

 セララが文句を言うが信長は全く気にしない。

 

「水神と名付ければ人気となるのだ。セララが作った料理に水神の名前を使わぬ理由が無い」

 

 信長が三切れ目を食べながら言った。

 

「城下の料理屋に水神ピザの作り方を教えて広めろ。これも清州の水神餅のように、岐阜の名物になるだろう」

 

「分かった。レシピを書き出しておくよ」

 

 水神ピザはその後、城下に広まった。

 

 最初に作り方を習った料理屋が出すと、食べた者が別の店に話をして、また別の店が始める。トウモロコシとチーズという見慣れない組み合わせへの最初の戸惑いは、一口食べれば消えた。

 

 岐阜城下に新しい名物が生まれ、すぐに大人気となった。

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