SF世界の天使っぽい種族に転生したけどワープ事故で戦国時代の日本に来ちゃいました。 魔法と知識で日本を発展させます。   作:Lavian

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第五話 村で過ごす日々

「水神様、一つお聞きしてもよいでしょうか」

 

 翌朝、五兵衛がやや遠慮がちに切り出した。広場の端で、セララは端末に記録した地形データを整理していた。顔を上げると、五兵衛は少し緊張した様子で続けた。

 

「水神様がこの村にいらっしゃる事を、役人や周囲の村に伝えてもよいものでしょうか」

 

 セララは少し考えた。

 

「うーん。水神様の噂を周囲の村が聞いたら、雨を降らせたり、井戸を掘って欲しいってお願いがいっぱい来そうだよね」

 

「それは確かに……考えが足りていませんでした」と五兵衛は頭を下げた。「役人や周囲の村に伝えるのはやめておきますか?」

 

 セララはしばらく黙った。

 

 手間が増えることは間違いない。雨乞いや井戸掘りの依頼が周辺から殺到すれば、それだけ魔力の消費も時間の消費も増える。静かにこの村で暮らしたいという気持ちもある。

 

 しかし逆のことも考えられた。

 

 スカイエルフという存在は、この時代のこの土地には当然存在しない。翼があって、ヘイローがあって、魔法を使う小柄な存在。それを妖怪だとか悪魔だとか言って排斥しようとする人間が、どこかに現れるかもしれない。そのときに自分を守ってくれる味方が必要だ。

 

 善行の実績があれば、擁護してくれる人間が増える。

 

 あの村の水神様は雨を降らせてくれた、井戸を掘ってくれた、困った村を助けてくれた。そういう話が広まっていれば、悪魔だという主張に反論してくれる人間が自然と出てくるはずだ。役人の反応がどうなるかは読めないが、この村の人たちと良い関係を築いていれば、悪いようにはならないだろうという期待もあった。

 

「いや、広めてもらって大丈夫だよ」とセララは言った。「困ってる人がいれば助けてあげたいしね」

 

 五兵衛の顔がぱっと明るくなった。

 

「なんと心優しい。流石は水神様です!」

 

 五兵衛は深く頭を下げてから、早速準備を始めると言って広場を後にした。その背中を見送りながら、セララは小さく息をついた。

 

 まあ、なるようになるだろう。

 

 この時代に来てまだ日が浅い。分からないことだらけだが、一つずつ対処していくしかない。

 

 五兵衛が役人への連絡準備を進める中、セララは別のことに取り掛かることにした。

 

 新しく掘った井戸を眺めながら、ずっと気になっていたことがある。村人たちが水を汲む様子を見ていると、縄を手で引っ張って桶を上げ下げしている。深い井戸から重い桶を毎回手で引き上げるのは、なかなかの重労働だ。

 

 滑車があれば楽になる。

 

 原理は単純だ。定滑車を使えば力の方向を変えられる。動滑車を組み合わせれば必要な力を半分に減らせる。前世でも、転生後でも、物理の基本は変わらない。

 

 材料は木材と縄があれば作れる。

 

 セララは翼を広げて飛び立ち、墜落した森の方向へ向かった。ホワイトスワローの周辺にはまだ倒れた木や折れた枝が残っている。機体の状態を確認してから、周囲の木材として使えそうな材料を見繕った。

 

 風魔法、ウィンドカッターを唱えると、風の刃が木を切り分けていく。必要な長さに整え、断面を整形する。機械いじりが好きなセララは、こういう作業が楽しくて仕方がない。頭の中で完成形を描きながら、木材を一本一本加工していった。

 

 加工した木材を風魔法で浮かせて、村まで運んだ。

 

 空中を漂う木材の行列が村に近づいてきたとき、畑仕事をしていた村人が気づいて声を上げた。子供たちが走り寄ってきて、木が空を飛んでいると騒いだ。

 

 広場に木材を下ろしてから、セララは作業を始めた。

 

 滑車の軸になる部分を削り、溝を作り、回転しやすいように調整する。支柱になる部材を組み合わせて、井戸の上に渡せる形に整える。縄は五兵衛に頼んで村から麻縄を調達してもらった。

 

 作業しながら鼻歌が出た。

 

 前世で良く聞いていたアニメのOP曲だ。死んで転生しても覚えているなんてよっぽど好きだったんだなと自分でも思う。

 

 近くで見ていた子供が首を傾けた。

 

「水神様、何を歌ってるの?」

 

「天の国の歌だよ」とセララは手を動かしながら答えた。「ボクの好きな歌なんだ」

 

「きれい」と子供は言った。「もっと歌って」

 

 断る理由もないので、セララはそのまま歌い続けた。前世の歌なので日本語だから村人たちも聞き取れるだろう。

 

 作業をしながら歌っていると、いつの間にか周囲に人が集まっていた。仕事の手を止めて聞きに来た大人もいれば、地面に座り込んで目を丸くしている子供もいた。歌が終わると自然と拍手が起きて、セララは少し照れくさくなった。

 

「聞いたことのない歌だ」と年配の女性が言った。「なんと美しい……」

 

「天の国の歌は違うものじゃのう」と老人が感心したように呟いた。

 

 それからしばらくして、その歌は村中で口ずさまれるようになった。正確に再現できる村人は少なかったが、みんな楽しそうに歌おうとしていた。子供たちは特に熱心で、夕方になるとセララの空き家の前に集まって、教えてほしいとせがんできた。

 

「水神様、歌を教えてください!」

 

「ボクの歌を覚えたいの?」

 

「うん!」と子供たちが口をそろえた。

 

 セララは縁側に腰を下ろして、子供たちと向き合った。一節ずつゆっくり歌って、子供たちが繰り返す。音程が外れると笑いが起きて、また挑戦する。そのうちに近くにいた大人も混じってきて、広場が即席の歌の稽古場になった。

 

 夜が近づく頃には、村のあちこちから歌声が聞こえていた。

 

 滑車は翌朝に完成した。

 

 井戸の上に組んだ木の枠に滑車を取り付け、麻縄を通して桶を吊るす。構造を確認してから、セララは実際に桶を下ろして水を汲んでみた。縄を引くと滑らかに桶が上がってくる。重さが分散されており、以前の方法よりずっと軽い力で済む。

 

「これで水が汲みやすくなったよ」

 

 最初に試した若い女性が、目を丸くした。

 

「本当に軽い……!今までと全然違う」

 

「これは凄い」と隣の男性が言った。「どういう仕組みじゃ」

 

「縄と輪を使うと、力の向きと大きさを変えられるんだよ」とセララは説明した。「難しい話じゃないよ。知ってれば君達でも作れる」

 

 村人たちは感心したように滑車を眺めた。水神様はやはり凄いと声が上がり、ありがたやという言葉がまた飛び出した。セララは苦笑しながら、まあいいかと思った。

 

 役人からの返事が届くまでの数日間、セララは木材の加工を続けた。

 

 滑車を作ったのをきっかけに、モノ作りへの意欲に火がついた。村の家を見て回ると、壁の歪んでいる箇所、床板のきしむ箇所、柱の傾いている箇所など、気になる場所がいくつもあった。

 

 ウィンドカッターで木材を加工し、アースシェイプで土台の地面を均し、魔法と手作業を組み合わせながら補修していく。作業しながら鼻歌が出る。楽しかった。

 

 モノ作りは楽しいし、完成品を見て村人たちが喜んでくれる。誰かの笑顔のために働くのは嬉しいし達成感があった。

 

 家具も作った。

 

 村には椅子や棚が少なく、生活道具のほとんどが床に直置きされていた。簡単な棚と椅子を作って届けると、受け取った家族が喜んで、翌日には別の家からも欲しいという声が来た。

 

 子供たちはいつもセララの作業場所に集まってきた。何を作っているのかと聞き、どうやって作るのかと聞き、やってみたいと手を出してきた。木材の端切れを渡してやると、思い思いの形に削ろうとして、うまくいかずに笑っていた。

 

 ある昼過ぎのことだった。

 

「水神様、空を飛んでいるところをもっと近くで見てみたい」と子供の一人が言った。

 

 七つか八つくらいの男の子で、名前を太助といった。毎日作業場に来る常連だ。

 

「近くで見たいの?」

 

「飛ぶのって気持ちいい?」

 

「気持ちいいよ。風が当たってね」

 

「いいなあ」と太助は羨ましそうに言った。「僕も飛んでみたい」

 

 セララは少し考えてから、太助の方へ歩み寄った。

 

「じゃあ一緒に飛ぼうか」

 

 太助が目を丸くした。

 

「え、いいの?!」

 

「落とさないから安心して」

 

 太助を抱き上げると、思ったより軽かった。しっかりと両腕で抱えて、翼を広げた。ゆっくりと地面を蹴る。

 

 ふわりと体が浮いた。

 

 太助が短く叫んで、それから固まった。地面が遠ざかっていく。村の家の屋根が見えてくる。高度を上げるにつれて、村全体が見渡せるようになった。

 

「す、すごい……!」

 

 太助の声が弾けた。

 

「村が全部見える!畑も、井戸も!」

 

「気持ちいいでしょ」

 

「気持ちいい!風が当たる!もっと高く行ける?」

 

「じゃあ少しだけ」

 

 高度をさらに上げると、森の向こうまで見渡せた。遠くに山の稜線が続いている。太助が声を上げながら景色を見回している。その顔がとても嬉しそうで、セララも自然と笑顔になった。

 

 地上では、作業場に残っていた他の子供たちが空を見上げて叫んでいた。

 

「太助が飛んでる!」

 

「ずるい僕も!僕も乗せて!」

 

 しばらくして太助を地面に下ろすと、子供たちが一斉に集まってきた。

 

「次は俺!」

 

「わたしも!」

 

「順番に一人ずつね」

 

 それからしばらく、セララは子供たちを一人ずつ抱えて村の上空を飛んで回った。最初は怖がって硬直する子もいたが、高度が上がって景色が広がると、ほとんどの子が歓声を上げた。中には終わった後にもう一度と言ってくる子もいた。

 

 夕方近くになって最後の子を地面に下ろしたとき、セララは少し息を吐いた。体力は使ったが、嫌な疲れではなかった。

 

 子供たちは口々に楽しかったと言いながら走り去っていった。その声が遠ざかるのを聞きながら空を見上げた。

 

 西の空が赤く染まり始めていた。

 

 夕焼けを見ながら、こんな日々も良いなとセララは思うのだった。

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