尾張水神伝 ~SF世界の天使っぽい種族に転生したけどワープ事故で戦国時代の日本に漂着しました~   作:Lavian

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第五十二話 ガレオン船への挑戦と乾式羅針盤

 セララは執務室で信長と次に作る船について相談していた。

 

「鉄甲船が無事に完成したし、次は貿易船を作りたいんだ。大型のガレオン船だよ」

 

「ガレオン船は南蛮の船だったな。どのくらいの大きさになる」

 

 信長が質問する。

 

「以前に作った鉄甲船は全長三十メートルだったけど、次に作るのは全長四十五メートルを目指すよ。積み荷を大量に載せて、遠くの国まで航海できる船にしたいんだ」

 

「南蛮の国まで行けるのか」

 

「もちろん行けるよ。そのための船だからね。小型実験船や鉄甲船で十分な知識と経験を積んだから、ガレオン船の建造もきっと成功すると思う」

 

「許可する。ただし条件がある」

 

「どんな条件?」

 

「貿易船は作って良い。だが、いざとなれば軍艦として使えるよう、大砲を積める設計にしておけ」

 

 信長が条件を出した。普段は貿易船として使うが、戦があれば軍艦に転用したいのだろう。

 

 セララは少し考えた。ガレオン船はもともと貿易と軍事の両方に使える設計だ。大砲を積む前提で作ること自体は問題ない。

 

「分かった。砲口を設けた設計にするよ。海賊に対抗するのにも役立つからね」

 

「うむ。それで、何隻作る予定だ」

 

「最初は一隻で良いと思う。ガレオン船を作るのは初めてだし、まず一隻作って問題を洗い出してから増やした方が安全だよ」

 

「どのくらいかかる」

 

「大きいガレオン船は港の整備から始めないといけないんだ。港の整備込みで五年から七年ぐらい見て貰えれば良いかな」

 

「分かった。予算は出す。鉄甲船を作った職人にも引き続き協力を求めろ」

 

「うん。実験船や鉄甲船を一緒に作った船匠さんに協力してもらう予定だよ」

 

 信長は頷いた。

 

「今までは南蛮から来る船を迎えるだけだった。こちらから南蛮に向かう船が完成すれば貿易が活性化する。そうなれば得られるものは多い。儂もその日を楽しみにしているぞ」

 

「そうだね。ボクもとっても楽しみだよ」

 

 

 

 

 

 

 翌日から設計作業が始まった。

 

 南蛮の船匠と向き合い、端末に保存したガレオン船の設計データを展開した。実験船や鉄甲船の段階では参考にするにとどめていたが、今回は本格的に取り組む。

 

「今回作りたいのはこれだよ」

 

 ホログラフィックの映像が展開された。三本のマストを持つ大型帆船が空中に浮かんだ。長さと幅の比が大きく、船体は細長い。船尾楼が発達しており、舷側には砲門が並んでいる。

 

 南蛮の船匠が映像をじっくりと見た。

 

「これは本物のガレオン船ですね。実験船とは全く別の船です」

 

「うん。実験船はガレオン船の設計思想を参考にしたものだったけど、今回は規模も構造も本格的なものを作りたい」

 

「横帆と縦帆の組み合わせも複雑になります。帆の扱いに慣れた船乗りの訓練も行った方が良いでしょう」

 

「それも考えてた。船を作りながら、並行して乗組員の訓練もしないといけないね」

 

「それから喫水が深くなります。鉄甲船よりさらに深い。日本の港の中にはこの船が入れない場所も出てくるでしょう」

 

 セララは端末で港の水深データを確認した。伊勢の港は問題なさそうだ。他の港については調べる必要がある。

 

「港の水深については調査しておく。設計図と模型を作っている伊勢の港を整備して行こう」

 

「賢明です。それと、これだけの大きさになると、木材の調達も一苦労です。良質な大木が大量に必要になります」

 

「木材については丹羽さんに相談してみる。産地から運ぶ手配も含めて」

 

 課題が次々と出てきた。しかし一つひとつは解決できないものではない。実験船や鉄甲船を作った時も同じだった。問題が出るたびに議論して、修正して、また進む。そうやってここまで来た。

 

「まずは模型から始めようか。実験船や鉄甲船の時と同じやり方で」

 

「そうしましょう。今回は規模が大きい分、模型の段階で確かめることも増えます」

 

「うん。急がずにしっかり確かめてから進もう」

 

 老いた船大工が横から言った。

 

「水神様、今回も儂らを使ってくれますか」

 

「もちろんだよ。皆を一番頼りにしているよ」

 

 老船大工は少し照れたような顔をして図面の方へ視線を戻した。

 

 

 

 

 

 設計作業は予想通り難航した。

 

 ガレオン船は三本のマストそれぞれに異なる帆を張り、砲門を設けた複数の甲板を持ち、長距離航海に耐える水密構造を持つ。それでいてサイズが大きいため、設計要素が格段に増えた。

 

 端末のデータベースに入っているガレオン船の設計図は完成形のものだ。それを日本の木材と職人の技術で実現するためには細部をいちいち調整していく必要がある。

 

「この部分の接合はどうするか」

 

「日本の継手技術を使えばできます。ただ西洋の方法より複雑になりますが」

 

「複雑でも強度が確保できれば良い。どちらが良いかは試作で確かめよう」

 

 議論と試作が繰り返された。

 

 数か月後、模型の第一版が完成した。実験船の模型より大きく、精密だ。川に浮かべて安定性を確かめ、帆の動きをテストし、砲台の位置が重心に与える影響を計算した。

 

 問題が出た。帆柱の基部の強度が不足していた。波の動きに合わせて船が揺れると、帆柱の根元に想定以上の負荷がかかることが分かった。

 

「ここを補強する必要があるね」

 

「竜骨から肋材を延ばし、帆柱台座と連結すれば力を分散できます」

 

「模型で試してみよう」

 

 修正を加えた模型が出来た。川で再テストすると帆柱の揺れが明らかに減っていた。

 

「これで良さそうだね」

 

 セララは満足して頷いた。一つ問題が解決した。次の問題は水密構造だ。長距離航海では波が激しくなる場面もある。接合部からの浸水を防ぐ設計が必要だ。

 

 こうして課題を一つずつ潰しながら、設計が少しずつ固まっていった。

 

 

 

 遠洋航海の話が具体的になってきた頃、作業の合間に南蛮の船匠が話を切り出した。

 

「水神様、一つ相談があります」

 

「なにかな?」

 

「ガレオン船で遠洋に出るとなれば、羅針盤の精度が問題になります。日本で使われている羅針盤は水に磁針を浮かべる水羅針が主流ですが、荒波の中では水面が揺れて方位が読みにくい。遠洋航海では命取りになる場面もあります」

 

 セララは端末を操作して羅針盤の構造を調べた。水羅針の仕組みと、その問題点がすぐに出てきた。

 

「確かにそうだね。水が揺れると磁針も一緒に揺れて正確な方位が読めない」

 

「はい。ヨーロッパでは中心軸で磁針を支える乾式の羅針盤が使われるようになっています。水を使わないぶん揺れに強く、方位盤に三十二方位の目盛を刻めるので読み取りも正確です。水神様がいれば日本でも作れるかもしれないと思いまして」

 

 セララは端末で乾式羅針盤の構造を確認した。原理は単純だ。細い軸の先端に磁針を乗せ、自由に回転できるようにする。磁針の上に方位を刻んだ円盤を載せれば、船の向きに関わらず常に方位が分かる。

 

「作れると思う。ただ一番難しいのは軸の摩擦を減らすことだね。摩擦が大きいと磁針の動きが鈍くなって、方位の変化に追いつかなくなる」

 

「おっしゃる通りです。軸の先端をいかに滑らかにするかが鍵になります」

 

 セララは端末で素材を調べた。

 

「軸の先端を硬くて摩耗しにくい素材で仕上げるのが良いと思う。水晶を素材に使えば摩擦を大幅に減らせるはずだよ。日本の職人に研磨してもらえば精度の高いものが作れると思う」

 

「なるほど。宝石の研磨は日本の職人も得意としていますね」

 

 南蛮の船匠が納得して頷いた。軸の話が一通りまとまったところで、船匠がもう一つ話を切り出した。

 

「水神様、もう一つよろしいでしょうか。方位盤と磁針の上に蓋をしたいのですが、透明な蓋があれば針の動きを見ながら船を進められます」

 

「ガラスの蓋ってことだね」

 

「はい。南蛮貿易を行っている商人であればびいどろを扱っています。きっと蓋に適したものがあるでしょう。大きさと形状は購入後に切り出して蓋の形に調整しましょう」

 

 セララは考えた。ガラスは国内でまだ量産できず、輸入に頼るなら数は限られる。しかし試作品の一つに使う分であれば問題ないはずだ。

 

「分かった。今回は試作だから南蛮から取り寄せたガラスを使わせてもらおう。量産するときはまた別の方法を考えないといけないね」

 

「承知しました。商人に問い合わせて平らで透明度の高いものを選んでおきます」

 

 こうして宝石の研磨は日本の職人に、ガラスの蓋の入手は南蛮貿易を通じて商人から購入する事となった。

 

 

 

 早速、精密加工が得意な職人を呼んだ。

 

 セララが端末の画像を見せながら構造を説明し、職人が細かい部品を作り始めた。軸の先端を水晶で仕上げ、磁針を支える受け皿を滑らかに削り出す。方位盤には三十二の方位を均等に刻んだ。

 

 二週間ほどで試作品が完成した。

 

 完成した乾式羅針盤を手に取ると、磁針がすぅっと動いて北を指して止まった。揺らしてみると、針は一瞬ぶれてからまたすぐに北に戻る。反応が速く、安定していた。

 

「良いね。ちゃんと動いてる」

 

 船乗りの一人に渡して確かめてもらった。船乗りは羅針盤を手に取り、向きを変えながら何度も確認した。それから驚いた顔で言った。

 

「これは凄い。揺らしても針がすぐに戻ります。今まで使っていた水羅針とは比べ物になりません」

 

 老いた船大工も横から覗き込んだ。

 

「目盛が細かく刻んであるから方位が正確に読めますな。夜の荒波の中でもこれがあれば道に迷わない」

 

「乾式だから水が蒸発する心配もないし、寒い海域でも凍らない。遠洋航海には向いてると思う」

 

 南蛮の船匠が満足そうに頷いた。

 

「日本の職人の研磨技術は素晴らしい。軸の仕上がりがヨーロッパの職人に引けを取りません」

 

 セララは完成した羅針盤をもう一度手に取り、ゆっくりと回した。磁針が静かに北を指し続けた。

 

「これがあればどこへでも行けるね」

 

 そう呟いてから、セララは海の方角に羅針盤を向けた。針は変わらず北を指していた。

 

 

 

 模型が完成したその夜、セララは伊勢の港に一人で降り立った。

 

 水平線の先には外国がある事を前世の記憶で知っている。けれどセララは前世で海外旅行に行った事は無かった。

 

(ガレオン船が完成したらボクも乗って外国へ行ってみたいな)

 

 もしもこの時代の外国に行ったらどんな出来事が待っているんだろう。想像してセララはワクワクした気持ちになった。




改訂し、乾式羅針盤の蓋をガラス製に変更しました。
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