尾張水神伝 ~SF世界の天使っぽい種族に転生したけどワープ事故で戦国時代の日本に漂着しました~ 作:Lavian
その感覚に気づいたのはいつ頃からだったか。
セララはスカイエルフに生まれてから常に魔力と共にあった。魔法を使えば魔力が減り、時間と共に復活するのが魔力だ。しかし魔法を使っても全く減らず、日々増えていく魔力とは別の何かの感覚が体の中に存在していた。
それが何なのか分からないまま、セララは不思議に思いながらも特に害が無いため気にせずに過ごしていた。
この日の朝、配下の者からセララは今日の予定を聞いていた。
「セララ様、本日は丹羽殿の見舞いへ行く日です」
「もちろん行くよ」
ずっと腹が痛いという事で一か月前に丹羽から相談を受けており、その時のセララは回復魔法をかけた。怪我であれば治癒魔法で対処できるが、病気はそうはいかない。魔力で免疫を強化する程度のことはできても、病そのものを治すには至らなかった。
それから一か月。丹羽の体調は徐々に悪化し、仕事を休んで寝込むようになっていた。
セララは定期的に見舞いに訪れて回復魔法をかけていたが、丹羽の病状が改善する様子は無かった。
「丹羽さん、お見舞いに来たよ」
丹羽は布団の中で横になっていた。腹部を手で押さえ、苦しそうに呻いている。
セララは枕元に座って丹羽の顔を見た。
その時、体の奥にある不思議な力が動いた気がした。
意識を向けると、それが形になりそうな感覚があった。使い方もなんとなく理解できた。おそるおそる、その力を丹羽の方へと向けてみた。魔法を使うときの感覚とは全く違う。魔力を集めるのではなく、祈りに近い感覚だった。
丹羽の体が白い光に包まれる。回復魔法とはまた違う光だった。
丹羽の体から悪い物を消していく感覚があった。回復しているのではなく、浄化していくという感覚だ。
荒かった呼吸が穏やかになった。丹羽がゆっくりと目を開いた。
「あれ……腹が……」
丹羽は上半身を起こし、腹を手で何度も摩った後にセララを見た。
「楽になりました……腹が痛くありません」
「良かった。治ったと思うけど体力は戻ってないはず。しばらくは安静にしてね」
とセララは言った。
「セララ様……本当にありがとうございます」
丹羽が深く頭を下げた。
セララは笑顔で応えてから部屋を後にした。廊下を歩きながら自分の手のひらを見た。
あの力は魔法では無かったが、何なのか。
自室に戻ってからも考えたが、その正体は分からなかった。
考えていたらいつの間にか眠っていた。
夢の中だとすぐに分かった。白い空間が広がっていて、その中にセララは立っていた。
その白い空間の中心に聖国の本や肖像画で何度も見た事のある存在が立っていた。
太陽神アルテリス。セララの故郷である聖国が信仰する、最も偉大な神だ。
その姿は光に満ちていて、六枚の翼を持ち、頭上には輝く三重の光の輪があった。顔は穏やかで笑みを浮かべていた。
「はじめまして、セララ。私は太陽神アルテリス」
セララは反射的に膝をついた。
「は、はじめまして!水神セララです!」
声が震えた。目の前にいる存在からはすさまじい魔力が溢れており、神々しさからも本物の神だとセララは判断した。
「セララ、顔を上げてください。私が貴方の夢に現れたのは貴方を祝福するためです」
「祝福……ですか?何故ボクが祝福されるのでしょう?」
アルテリスはにっこりと微笑んだ。
「それは貴方が神に至ったからです。この星で善行をなし、多くの人に信仰され、本当の神になった。貴方に宿った不思議な力、それは神の証である神通力なのです」
「ええっ!?ボクが本当の神に??」
頭が真っ白になった。
知らない間に本物の神になっていた。水神様と呼ばれてはいたが、それはあくまで地球人と見た目が異なり、魔法が使えていたからだ。神の力なんて持っていなかったはずなのに。
「驚いているようですが、事実ですよ。この国の人々は貴方を信仰し、神であると信じています。さらには国外でも信仰が広まっているようですね。神の力とは信仰の力。信じる人が増えれば、才能のある者は神へと至るのです」
アルテリスが説明する。セララはそれを聞いても戸惑っていた。
「でも、ある日突然、神になったと言われても実感がありません」
アルテリスが優しく微笑んだ。
「貴方はずいぶん前から急激な魔力増加と、身体が成長しないことを不思議がっていましたね。それは貴方への信仰が広まり、徐々に神に近づいて行ったのが理由です。神通力こそ目覚めたばかりですが、巨大な魔力と不老については既に兆候があったのです」
「なるほど……不老と言うのは、身長はもう伸びないし胸も大きくならないと言う事ですか?」
セララができれば否定して欲しいというわずかな希望を込めて質問した。
「はい、そうなります。不老というのは肉体的に成長しないという事ですからね。本来であれば貴方はまだ成長途中のはずでしたが、神となる過程で成長が鈍化し、神に至ったことで完全に成長が止まりました」
アルテリスが肯定するとセララは内心で落ち込んだ。これから一生、子供の見た目から成長しない事が判明してしまった。
「そうですか……」
「普通は神になれば喜ぶと言うのに、身長の事で落ち込むとは面白い子ですね」
アルテリスが楽しそうに笑う。
「すみません。神になったと言われても実感があまり湧かなくて。神になるとどのような事ができるのですか?」
セララが恐縮しながら質問した。
「神になると不老となり寿命も永遠となりますが、負傷により死ぬことはあります。また、強大な魔力を獲得し、既存の魔法が強化されます。貴方の神格であれば神通力によって病気の治療、植物の急成長、物質変換が可能です。信者の夢の中に入り神託を行う事も出来ますが……それは信者側に魔法の才能が必要なため、地球では無理でしょう」
「色々な事が出来るんですね。物質変換というのは具体的に何から何に変換できるのでしょうか」
アルテリスの回答にセララは目を白黒させながら言った。
「神通力を消費し、物質を食べ物に変える事が出来ます。石をパンにしたり、水をワインにしたりですね。食べ物以外への変換は不可能です。物質に手をかざして念じれば物質変換が発動しますよ。神通力は信者の信仰内容に影響されますから、地球人は神にパンとワインを求めているのかもしれませんね」
「す、すごい……教えてくださってありがとうございます」
セララがお礼を言って頭を下げるとアルテリスがニッコリとほほ笑んだ。
「さて、説明は以上となります。今日は先達として貴方が神になったことを祝福し、贈り物を授けに来たのです。私が貴方に贈る物、それは私に願う権利です。何か願い事はありますか?」
とアルテリスは言った。
「い、いきなり願い事なんて……」
頭の中が慌ただしく動いた。何が欲しいか。何を願うか。
そのとき、自然と一つのことが浮かんだ。
「それなら、ボクの両親に伝えてほしいです。セララは遠くの星で生きて元気に過ごしているって。この星の場所や、ボクがこの星で何をしてきたのかも」
アルテリスの目が柔らかくなった。
「承知しました。私から貴方が神になったことも含めて神託で伝えましょう。この星の座標を書いた本と、スカイエルフの言葉に翻訳した尾張水神伝も届けてあげますね」
「そ、それは何だか照れてしまいますね」
「ふふ。セララ、貴方は可愛いですね」
とアルテリスは笑った。
セララは少し赤くなった。太陽神に可愛いと言われるとは思っていなかった。
「今日はそろそろ去るとしましょう。セララ、貴方を見守っていますよ」
アルテリスがそう言うと、周囲の光がゆっくりと薄れていった。白い空間が暗くなり、意識が遠くなっていった。
目が覚めた。
部屋の天井が見えた。窓の外が明るい。朝だった。
夢の内容を鮮明に覚えていた。普通の夢なら覚めると薄れていくものだが、あの夢は全く薄れなかった。むしろ現実よりもはっきりしていた。
太陽神アルテリスと夢の中で話した。
体の奥の力に意識を向けると神通力の使い方が分かったような気がした。祈りに近い感覚で力を向ければ、病気を治すだけでなく、もっと様々な奇跡を起こせるかもしれないという予感があった。
「どうしよう。ボク、本物の神様になっちゃった」
思わずつぶやき、しばらくそのままぼーっとしていた。
信長に話した方が良いと思って部屋を出た。
部屋を訪ねると信長は書状を読んでいた。セララが入ってきたのを見て、顔を上げた。
「報告が届いているぞ。丹羽の病気を治療したそうだな。よくやってくれた。その割には嬉しそうではなく、浮かない顔をしているが……」
「丹羽さんの病気が治ったのはボクも嬉しいよ。でもその、ちょっと聞いてほしいことがあって」
セララは昨夜の夢のことを話した。アルテリスが現れたこと。神通力について告げられたこと。病気が治せたこと。
信長は黙って聞いていた。全て話し終えてから信長は言った。
「今更だ」
「え?」
「儂らにとって、お前はずっと昔から本物の神様だ」
セララは少し固まった。
「でも、ボクは元々一般人で神様じゃなかったし」
「最初の村で初めて雨を降らせたときから、この国の人間にとってお前は神様だ。神通力が使えるかどうかが神の基準では無い」
信長は書状を脇に置いた。
「民から認められれば神なのだ。それにセララは最初から奇跡を扱えたではないか。せいぜい奇跡の種類に神通力が加わったという程度だろう」
「ボク自身にとっては、ただの一般人が神になったっていう大変な差なのだけれど」
「お前にとってはそうかもしれん。だが儂や民にとっては何も変わらんという事だ。セララはセララだ」
セララは信長の回答を聞いて笑った。
「なんだかボクだけが大騒ぎしてるだけみたい。まさか本物の神様になったのに何も変わらないなんてね」
「お前は元から神様だったからな」
信長は笑った。
「良かったではないか。奇跡が使えるだけの平民であると自分では気にしていたのであろう?これで名実ともに神になったのだから、お前は自信を持って神を名乗る事ができる」
信長の言葉を聞いてセララも笑みを浮かべた。
「そう考えると確かに良い事だね。一般人のボクが神を名乗るのは、皆を騙しているようで後ろめたい気持ちがあったんだ。本当の神になったんだからこれからは騙す事にはならない」
信長がいつもの真顔に戻って言った。
「しかし、民にはわざわざ公表しなくて良いだろう。セララが元から持っていた知識や奇跡の力も、新たに入手した神通力も民にとっては区別がつかん。であれば、最初から神であり、地上に降臨した時には既に神通力を持っていた事にした方が民を混乱させずにすむ」
「確かに説明が難しいよね。信長さんの言う通りにするよ」
「うむ。それと神通力で病気を治せると言ったが……それも秘密にしておけ」
「それはどうして?公表して皆の病気を治していった方が良いと思うんだけど……」
「一日に何人程度癒すのだ?病気で苦しむ民は大量にいる。一人一人診察して治すのであれば時間がかかり、とてもお前が治療しきれる数ではないぞ。治す順番でも揉めるし、誰を治すかでも揉める」
「え、えっと……それは……重い病気の人から優先で、一日に人数制限をつけるとか……」
「無駄だ。どう考えてもお前が一日に対処できる人数を超える。順番待ちの者がどんどん膨れ上がり、間に合わず病気で死んだ者の遺族がお前を非難するようになる。お前が治療して救った人の何百倍もの民が、どうして自分を救ってくれないのかと文句を言うだろう」
信長がセララの意見をばっさりと切った。
「そうだね。信長さんの言う通りかも。でも、ボクの目の前に病気で困っている人がいたら放っておけないよ……」
「お前の性格は分かっている。であれば、助けたいと思った者を秘密裏に治療しろ。少数であれば秘密を維持する事ができるだろう」
セララの理想と信長の現実的な判断が合わさって、いつものように落とし所が見つかった。
セララはこの妥協案に頷いた。
「それならボクも納得できるよ。病気を治療できることは秘密にする。でも親しい人や目の前で苦しんでる人に対しては口止めしながら使う事にするね」
「うむ。それであれば問題ないだろう。後で儂から丹羽や関わった者に口止めしておく」
それからセララと信長は病気治療についての仕組みを作った。
病気治療は秘密裏に行う。セララと親しい人物か、政治や外交的に治療しなければ問題となる者、セララの目の前で苦しんでおり助けたいと思った者のみを対象とすることになった。
本物の神となって病気の人を救えるようになったのに、セララの理想通りには行かない。
神様であっても出来ない事は多いんだなとセララは少し残念に思った。
この小説では神通力を獲得して神に至るためには下記の条件を満たす必要があるとします。
・非常に高い魔力適正
・数百万人以上からの信仰(魔力適正によって必要な人数は大幅に増減する)
・信仰されている国や地域において、信者の割合が一定以上
スカイエルフは元々が魔力適正の高い種族なので条件を満たしやすく、
人間は魔力が無いため絶対に神にはなれない、となります。
セララは条件を満たして神に昇格しました。
とはいえ、宇宙の神々から見れば、辺境の土着の小神といった感じでしょうか。
一度神に昇格して神通力を得た後であれば、条件を満たさなくなっても神のままとなります。
石をパンに、水をワインに変える能力は地球の人々の信仰の影響を受けています。
セララがキリスト教の熾天使であることの影響ですね。
病気を癒せるのは人々を治療して来たからです。なお、死者蘇生は出来ません。
植物の急成長の神通力を獲得しているのはこれまで農業を広めて来たためとなります。
天候関係の神通力もそのうち獲得しそうですね。
宇宙の他の神々であればもっと別の物質創造や物質変換、その他の奇跡となります。