尾張水神伝 ~SF世界の天使っぽい種族に転生したけどワープ事故で戦国時代の日本に漂着しました~ 作:Lavian
1591年(天正19年)。
数日後、江戸城の執務室で信長とセララ、丹羽が向き合っていた。
「次の布告として刀狩りを行いたい」
信長が地図を指でなぞりながら言った。
「刀狩り?」
「うむ。農民や寺から武器を買い取り、刀を持てるのは武士だけとする。武士と農民の身分をはっきりと分け、社会の秩序を安定させるのだ」
「それって必要なのかな。比叡山も石山本願寺ももう脅威じゃないし」
「今は脅威ではない。だからこそ、今のうちにやるべきなのだ」
信長は腕を組んだ。
「天下が定まった今、武士と農民の境が曖昧であればいつか再び一揆や反乱の種になる。武器を持つ者と持たぬ者を分け、それぞれの役割を明確にしておけば長く続く平和の土台になる」
丹羽も頷いた。
「戦国の世が長く続いたために、農民の中にも武器を持つ者が少なくありません。今のうちに整理しておくのが賢明かと存じます」
「理屈は分かった。でも、民衆からの反発が大きいんじゃないかな。長年持っていた武器を取り上げられるのは誰だって嫌だと思う」
「その通りだ」
信長は表情を引き締めた。
「故に、頭を悩ませている。力で奪えば反発を招く。だが無策で買い取りを行うと時間がかかりすぎる」
セララは腕を組んで考えた。
刀を買い取る。それに対する反発を和らげる方法。
ふと、以前のことを思い出した。鬼滅の刃を書いた時のことだ。あの作品は爆発的に広まり、民衆の意識に大きな影響を与えた。
(物語の影響力って思った以上に大きいんだよね)
「信長さん、一つ考えがあるんだけど」
「なんだ」
「また新しい物語を書こうと思う。今度は刀じゃなくて自分の肉体そのもので戦う物語だよ。それが流行れば刀を持つことへの執着が薄れるかもしれない」
「鬼滅の刃で皆が呼吸を真似たように、か」
「うん。今回は自分の拳で戦う物語にするつもりだよ」
セララは自室に籠り、新しい物語を書き始めた。
舞台は戦国時代の日の本。山奥で育った少年、孫悟空が主人公だ。猿の尾を持つ不思議な少年は、相棒の少女と共に七つ集めると願いが叶うという伝説の球、龍珠を求めて旅に出る。
世界中に散らばった龍珠を巡って悟空たちは旅を続ける。道中で出会う敵たちは刀や銃を持つ者もいるが、悟空は武器に頼らず、鍛え上げた己の体だけで立ち向かっていく。
旅の途中では亀仙人と名乗る老人と出会い、武芸の修行を始める。
修行の内容は厳しいものだった。
まず、重い甲羅を背負わされ、その状態で日々の生活をこなすことを命じられる。水を汲み、薪を割り、畑を耕す。すべて重い甲羅を着けたまま行う。最初は数歩も歩けなかった悟空が、次第にその重さに慣れ、軽々と動けるようになっていく。
次に、徒手による組手の稽古だ。武器を一切使わず、拳と脚だけで相手と渡り合う。亀仙人の動きは老人とは思えぬ速さで、悟空は何度も地面に転がされながら、少しずつ技を覚えていく。
そして、ライバルとの出会いだ。同じく武芸を学ぶ少年が現れる。二人は互いに競い合い、時に張り合い、時に助け合いながら、共に強くなっていく。
敵役には妖怪や魔族のような存在もいる。物語が進むにつれて敵は強大になっていくが、悟空もまた修行を重ねるごとに強くなっていく。
物語の文明のレベルは今の時代に合わせてあるが、絡繰りだけは未来の技術として登場させた。敵の中には絡繰りで動く兵器も襲ってくる。これらは物語を盛り上げる要素であると同時に、絡繰り技術への興味を引き出す狙いもあった。
数ヶ月かけて物語は完成した。
題名は『龍珠物語』。前世で大人気の漫画、ドラゴンボールを元にした物語だ。
また、漫画の中の修行方法は架空の修行方法のため真似すると危険であると注意書きを載せ、漫画の最後に現実で推奨する修行方法として腕立て伏せや腹筋等修行方法や、健康を維持するラジオ体操、筋肉の超回復の仕組みの解説などを載せた。現実での修行の興味を引くためだった。
完成した物語はまず紙芝居として江戸の町で披露された。
甲羅を背負って汗を流す悟空の姿、亀仙人との厳しい修行、ライバルとの友情と競争。これらの場面は子供から大人まで多くの人の心を掴んだ。
「武器がなくてもあんなに強くなれるのか」
「修行を積めば、俺でもあそこまでいけるのかもしれん」
観客たちは興奮して話し合った。子供たちは木の棒を投げ捨て、拳を構えて遊ぶようになった。若者の中には実際に重い荷物を背負って体を鍛えようとする者まで現れた。
小説としても刊行され、江戸だけでなく全国に広まっていった。
龍珠物語は爆発的にヒットした。
刀を持つことよりも自分の肉体を鍛えること、武芸の道場で組手を学ぶことに人々の興味が移っていった。各地の道場には徒手の武術を学ぼうとする者が急増した。
丹羽が報告書を持ってセララのもとへ来た。
「セララ様、龍珠物語の影響は予想以上でございます。各地で刀よりも体術を磨こうとする者が増えております」
「良かった。上手くいったみたいだね」
「これなら刀狩りへの反発も和らぐかもしれません」
信長もこの報告に満足そうだった。
「龍珠物語が十分に広まった地域から、順番に刀狩りを布告する。民の意識が変わっていれば抵抗も少ないはずだ」
計画は順調に進み始めた。龍珠物語が広く読まれた地域から、刀狩りの布告が次々と出された。農民たちは、最初は戸惑いを見せたものの、「修行を積めば武器がなくても強くなれる」という物語の影響もあり、大きな反乱には至らなかった。代わりに、各地の道場には体術を学ぼうとする者たちが集まるようになった。
刀狩りは当初懸念していたほどの混乱もなく進んでいった。
ある日、セララは信長から相談があると言って呼び出された。
「セララよ。龍珠物語を読んで儂も気を扱ってみたくなったぞ。鬼滅の刃の呼吸のように何とかならぬか」
「信長さんなら絶対にそう言うってボクは思ってたよ」
セララはあきれながらそう言い、一度自室へ戻って木箱を取って来た。
信長の前で木箱を開け、その中身の籠手を信長に渡した。
「はい、どうぞ。これは水神刀と同じ理屈でボクの羽根を仕込んだ籠手だよ。かめはめ波の構えを取ると気が集まるようになってる。けど本物じゃ無くて見た目だけの幻影だよ」
「流石はセララだ。それでは早速試してみるとしよう」
信長は心を弾ませて籠手を両手に装着する。
試しに腰を落とし、両手をかめはめ波のように構えると青白い気の光が籠手から溢れた。
「ほう!確かに拳が気を纏っておる。セララよ、これで実際に威力のある気弾を放つ事は出来ぬか?」
「神様になって魔力が上がったし、神通力もあるからちょっとぐらい何とか出来そうな気はするけど……ボクが見た目だけじゃ無くて本物の気を纏える籠手を作ったら危ないと思うよ。信長さん、部屋の中で気弾を発射したら壁を破って城の外まで突き抜けて行くからね。絶対にうっかりやらかさないって誓える?」
「……この世は天下泰平となった。わざわざ危険な兵器を作らずとも良いだろう。見た目だけの気弾の方が安全で良い」
信長は明後日の方向を向きながらごまかすようにそう言った。水の呼吸をあれだけ人に見せびらかした信長だ。気弾を発射できるとなれば絶対に人に見せびらかし、いつか室内で使って大惨事になるのが目に見えていた。
「分かってくれて良かった。見た目だけの気で我慢してね。そのままかめはめ波のように発射の構えを取れば気弾を出せるよ。見た目だけの気弾だから室内でも大丈夫」
「かめはめ波が再現できるとは素晴らしいな。では行くぞ!か~め~は~め~」
信長が腰を深く落とし、かめはめ波の構えを再開する。両手の気の光が集まった後、両手を前に突き出した。
「波ーーー!!」
突き出した小手から青白い光の弾が射出され、部屋の壁に当たって霧散した。かめはめ波を撃つ籠手はきちんと機能した。
「ほう。流石に気の光を連続で出し続ける事は出来ぬか。だが、気弾を出せるだけで十分だ。この籠手は『気弾籠手』と名付けよう」
信長は実に満足そうに笑みを浮かべた。
「喜んでくれて良かったよ。この後はどうするの?」
「うむ。これから人を集めてかめはめ波を披露する。しばらくの間は気弾籠手の力であることは秘密とし、儂が修行で気を体得した事にしておく。セララも黙っておくように」
信長は実に楽しそうだ。かめはめ波を披露するのがとても楽しみらしい。
「分かったよ。まあ、ほどほどにね……」
「心得ておる。それでは行ってくるぞ!」
信長は軽やかな足取りで部屋を出て行った。
それから数日間、信長は毎朝かめはめ波を披露し続けた。それが一週間続いた頃、丹羽からセララに相談があり、セララは放置せずに信長に話をしに行った。
セララが話をしても信長は毎日のかめはめ波の披露をやめる事を渋った。
しかし、配下達が信長がかめはめ波を撃つときに必ず籠手をつけている事を怪しみ始めているため、毎日披露しているといずれ仕組みが露見するとセララが嘘を伝えると、かめはめ波の毎日の披露をやめることに同意した。
気を習得した達人であると言う評判を少しでも長続きさせたい信長だった。
漫画として採用する作品はドラゴンボールと北斗の拳の二択で迷いました。
しかし明るい世界観の作品の方が良いと思い、ドラゴンボールを採用しました。
また、気弾籠手の存在を信長が秘密にしたため、『信長はセララから気を操る秘伝を教わった』等という噂が流れます。
後世の創作物では信長が気を操る達人として描写される事もあったとか。