魔法少女のぬいぐるみは百合の花を眺めているだけでよくないですか?   作:苔茎花

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10話:「一晩一緒に寝たからって彼女面かよ。ビッチ野郎ダモ」

ゴンちゃん視点②:

 朝四時くらいに鏡花ちゃんの部屋から真昼ちゃんが出てきた。

「おはようダモ。真昼ちゃん」

「わっ、ゴンちゃん」

起きていると思わなくて驚いたんだろう。

「体調は大丈夫なんダモ?」

「大丈夫だけど、あの後逆に大丈夫だった?」

真昼ちゃんは一度副作用が起こると記憶がなくなるので、毎回心配してくれる。

「鏡花ちゃんが怒っていた以外は大丈夫ダモ」

「それは大丈夫じゃないよ」

「ちゃんと怒られるといいダモ」

実際今回の件は危なかった。真昼ちゃんが倒せたからいいものの。倒せなかったらどうするつもりだったのか。

「———ごめん」

「僕じゃなくて、二人に謝るんダモ」

「うん。あとさ、私一回お家に帰るね」

「わかったダモ。その後戻ってくるダモ?」

「う~ん。お風呂入って着替えて、朝食食べて、二度寝するから遅くなるかも」

「勝手に鏡花ちゃんの家借りればいいじゃないかダモ」

「それはちょっと、恥ずかしいし、迷惑かかっちゃうよ」

「鏡花ちゃんは気にしないんじゃないかダモ」

「いやあ・・・」

「まあ、そういうことなら無理には止めないダモ」

「鏡花ちゃんには適当に言い訳しておいて」

「OKダモ」

というのが今朝の会話。

 それからしばらく時間が経ち、鏡花ちゃんも真昼ちゃんも遅めの朝を迎え、ゆったりとした午前中を過ごしていた時だった。ちらりと見るとリビングをウロチョロとする鏡花ちゃんが目に入った。

「なあ、なあ。また喧嘩したのか?」

「してねえダモ。あんなに挙動不審なのはそっちじゃねえダモ」

琉奈ちゃんが僕を膝の上に置きながら、鏡花ちゃんを横目で眺めた。さっきから何か掃除するふりをしたり、何かを取ってくるふりをしている。鏡花ちゃんのことを気にしていなくても、気になる。

「昨日まで一緒に寝てたダモ」

「ああ」

「んで、朝起きたらいねえから、嫌われたかもとか思ってるんじゃねえのダモ」

「違うから!」

話しているのが、聞こえたのか鏡花ちゃんが口を挟んできた。

「連絡すればいいじゃん」

「した!」

「なんなら俺が起きてたから、真昼ちゃんに会ったんダモ」

「それなら心配することねえじゃねえか。家も近いんだし、ただ帰っただけだろ」

「だから心配してない!」

鏡花ちゃんはそう言うが、僕も琉奈ちゃんも信じてはいまい。

「ていうか、そろそろ来るんだろ。昨日の話をしに」

「うん。多分もうちょっとで来ると思うんダモ」

 

 その時、インターフォンの音が鳴った。

「ほら、来た」

鏡花が我先にと近づいていった。

「いらっしゃい」

別に玄関からリビングまで離れているわけではないので、ドアさえ空いていれば、ここからでも聞こえる。

「ああ、ごめん。今日は鏡花ちゃんに会いに来たわけじゃないの」

そう言われてショックを受ける鏡花の顔が容易に想像できた。多分ショックを受けていても、表情には出さないだろう。

「琉奈ちゃんとゴンちゃんいる? ちょっと来てほしいの」

「え?」

「行ってやれダモ」

琉奈がまるで僕を盾にするかのように抱きしめながら、二人に近づく。気持ちはわかる。だって鏡花の隣を通った時、襲われるんじゃないかと思うような緊張感が走った。ちょっとおちょくってやろうかと思ったけど、そういう感じじゃないっぽいし。

「ごめん。ちょっと話したらすぐに戻ってくる。そしたら昨日の話の続きをしよう」

「———ええ」

「そ、それじゃあ、行ってくるダモ」

「———ええ」

「い、行ってきま~す」

「———ええ」

怖いよ。

鏡花の顔が見たくないもん。

その後アパートを出たが、何故かずっと背後に視線を感じた。

 

 手ごろな喫茶店に入って開口一番真昼はこう言った。

「私、鏡花ちゃんと意見がすれ違うのは防ぎたいの!」

思わず琉奈ちゃんと顔を合わせた。

おそらくこう思っただろう。

もう手遅れだろうな。と。

「それで二人にお話を聞いて、で、私も私で二人に言いたいことがあるの」

真昼の言いたいことはわかる。

「でも、鏡花をハブにしなくてもよかったんじゃない?」

琉奈ちゃんの言いたいことは最もだ。でも、たぶん、真昼ちゃんとしては———

「でも、鏡花ちゃん。私が知らなくてもいいと思ったこと隠そうとするから」

「そんなことないんじゃないか?」

「じゃあ、例えば昨日私が何したとか、何言ったとか、隠さない?」

「あー」

琉奈ちゃんは納得しつつも、目を逸らした。

彼女について昨日言われたばかりである。

「私、何か琉奈ちゃんに言ったんじゃない? 記憶が曖昧なんだけど、薄っすらと我儘とか、いらないこと言っちゃったと思うから」

「琉奈ちゃんが言いづらいなら、僕が言ってもいいダモ」

馬鹿と叩かれるが、真昼ちゃんが誤魔化してほしくないから言ったのだから、言ってあげるべきだろう。

「ああ、まあ、それで言うとだな。真昼が暴走状態の時に言ったことだし、なんなら盗み聞きした私が悪いんだけどさ。だから、気にしなくていいんだけど、真昼が私のいないところで居なくなってほしいって言ってたのを聞いた」

友達を傷つけたくないという琉奈ちゃんの気持ちは十分わかる。そして、真昼の教えてほしいという気持ちもだ。だからこそ居たたまれない空気が形成された。

「ごめん」

「いや、謝るなって。むしろ、いきなり二人の間に入った私が悪いだろ」

琉奈ちゃんは元々の性格なのか、いつでも二人の傍を離れようとする。二人の仲を引き裂いてまで居たくないのだろう。

「真昼が嫌なら本当に出てくよ。ていうか、本当に私のせいで泥人形達がおかしい可能性もありえるし。どちらにしても出ていくつもりだった」

星宮 琉奈はどこかに帰属するのに慣れていなかった。だから、いつも自分がどこかへ行くことで、調整しようとする。

「そうじゃないの」

多分、真昼ちゃんならそう言ってくれると思っていた。

「さっき謝ったのは、真昼が琉奈ちゃんに嫉妬してごめんって言いたかったから」

「いや、でも」

「ううん。それに関しては本当に私が悪いの。鏡花ちゃんと仲良くなっていくから嫉妬しちゃった。琉奈ちゃんはただ仲良くしてくれただけなんだから何も悪くないよ」

真昼は何か決意したかの様に深呼吸した。

「あのね。私自分の気持ちに気づいちゃったんだ」

まさか、魔法少女を止めるつもりか?

いや、でも、魔法少女を止めるのは止められない。彼女が何を思い、何を決めたとしても、その選択に口を出さないと決めたはずだ。

多分、それは鏡花も同じはずだ。

「私ね———」

だが、後悔しないわけではない。ここまで鏡花と一緒にやってきた。それに真昼は真昼が思うより弱くない。だからこそ、まだその決断を止めるべきなんじゃないか。

「真昼! 待つんダモ」

「え!?」

「魔法少女を止めるかどうかはもっと考えるべきじゃないかダモ? 真昼がもうやっていけないと思ったらやめてもいいダモ。でも、鏡花に言われたから止めるってのは違うんじゃないかダモ?」

人がすでに決定を下したものを覆すのは難しい。それよりもやるべきではないだろう。誰も個人の自由意志を侵すことはできない。だが、ここで僕のエゴを通さなければ———

「あの、ゴンちゃん、違うの」

「ん?」

よくよく真昼の顔を見ると顔を真っ赤にさせながら、俯いている。

「私が言いたいことは魔法少女止める云々じゃなくて———」

「え? それ以外にあるんかダモ?」

「あっ、うん。私が言いたかったことはそうじゃなくてね。あのね。言いたかったこととしては、私は鏡花ちゃんのことが好きだって言いたかったの」

それを言われて一瞬思考が止まった。

「そんな誰でも知ってることいきなり言われても意味わからんダモ」

ていうかさっきの葛藤は一体なんだったの? こいつらのためを思って色々と考えたんだけど。頭の中お花畑なん?

「好きって言っても、あれだよ。恋愛的な意味だよ」

なんか必死に手を振って、顔を真っ赤にさせてやがる。

「お前、ふざけるなよダモ」

「え!?」

「一晩一緒に寝たからって彼女面かよ。ビッチ野郎ダモ」

「え? え!? ゴンちゃんそんなに口悪かったっけ!? ていうか一緒に寝たってそういう意味じゃないでしょ! ていうかビッチ野郎って言わなかった今!?」

普段ツッコミしてないから、慣れてないな。こいつ。

「真昼、悪いけど、気持ち的にはゴンちゃんと同じだよ。いきなり意味わからないよ」

「え!? わからないの!? だからゴニョゴニョ」

「はっきりと喋れダモ。お花畑女!」

「え!? だから、私が鏡花ちゃんが好きだから、嫉妬してごめんねって」

「聞きました? 奥さん。喫茶店に集めて真面目な話をすると思ったら、惚気話ですよ」

「ええ。聞いたダモ。きっと夜の狼さんだぞ~とかベッドで言っているダモ」

「言ってないよ!」

「じゃあ、なんて言って夜は誘ってるんだ?」

「誘ってないよ! ていうか琉奈ちゃんもゴンちゃんの悪乗りに乗らないでよ!」

真昼ちゃんをいじるのがひと段落すると真昼ちゃんが口を開いた。

「なんか、もっと意外だと思われるかと思ったというか。女の子に女の子が恋愛するのって普通変じゃないの?」

「そりゃあ、あの野獣モード見ると納得するというか」

「野獣モードとか言うの止めて! さっきまで暴走モードとかだったでしょ」

「あんな見てて恥ずかしくなるようなこと、逆に恋愛的に好きじゃなかったら、怖いダモ」

「うっ、そこまでなんだ。記憶ないからわからないよ」

「再現してやろうかダモ」

「止めて! もう、今背中汗がダラダラで、いっぱいいっぱいなの!」

あとさ、そう真昼ちゃんが冷静に言った。

「鏡花ちゃんの前でこれを言ったり、これを弄るのだけは止めてね」

「いや、今から鏡花の前で告白しに行くんじゃないのかよ」

「———しないよ」

さっきまで弄られていた時とは打って変わって真昼ちゃんは静かになった。

「私は女の子が好きだけど、鏡花ちゃんはそうじゃないよ」

「いや、告白してみないとわかんないかもよ」

琉奈ちゃんはそう言ってみるが、真昼ちゃんは首を横に振った。

「前に鏡花ちゃんが男の子に興味がなさそうだから、女子のグループが鏡花ちゃんに聞いたの、女の子が好きなんじゃないかって。そしたら普通に男の子が好きだけど、好きな人がいないって言ってた。それに私に構っている時も別にドキドキとかしてないでしょ」

そういうと琉奈ちゃんが黙った。多分なんて言ったらいいのかわからなかったんだろうな。恋愛話は面白い半面、これ以上弄ってはいけない場面がある。

「だから、本当に嫉妬しちゃってごめんって二人に言いたかったの」

「それは弄ってごめんって感じだけど———」

きっと琉奈ちゃんが言いたいだろうことはわかった。

「鏡花ちゃんに言わなくてもいいんダモカ?」

「おまえ!」

「———言わないよ。絶対に」

琉奈ちゃんが怒る前に真昼ちゃんは言った。

「だって、今でさえちょっと気まずいのに、これ以上気まずくなったら二人も嫌でしょ」

それはそうかもしれない。鏡花ちゃんも多分今頃こんな会話しているとは思わないだろうな。

「それで良いならきちんと喋らないようにするダモ」

「うん。私ね。鏡花ちゃんのこと好きだけど、いや、好きだから隣にずっといたい。ワンチャン付き合えるかもなんて思えないよ。そのワンチャンだって無いようなものだし。やっぱり普通は女の子が好きになるのは、男の子だよ」

女の子が女の子を好き。それには沢山のハードルがある。一昔前なら、同性が好きな人間は精神病院に入れられた。それから少しした後も同性が好きな人間は後ろ指を指されていた。だが、現代となっては、まだその価値観を持つ老人ならともかく、若い人達で過度に嫌うものはいない。存在しないものとして扱うぐらいだ。だけど、真昼が恐れているのは、そこではないだろう。

真昼ちゃんが女の子を好きだとしても、鏡花ちゃんが好きとは限らないのだ。ましてや男の子が好きだと言ってしまっているのだから。そして、真昼ちゃんの恋心が尊重されるとしたら、鏡花ちゃんの恋愛感情も尊重されなければならない。だからこそ、真昼ちゃんは恋心に留めておきたいと言ったのだ。

「真昼はそれでいいのかよ」

琉奈ちゃんの気持ちもわかる。だって嘘をつくようなものだから。

「私が一緒に住んでいるの嫌じゃないのかよ」

彼女が言っているニュアンスはさっきまでとは違い。好きな相手と自分じゃない相手が一緒に住んでいることに対するものだ。

「だから言ったじゃん。嫉妬しちゃうって」

真昼ちゃんの頬に一粒の涙が通った。

「でもね。私、鏡花ちゃんに嫉妬で琉奈ちゃんを追い出したなんて思われたくないし、追い出したくもない。琉奈ちゃんも友達として好きだよ」

真昼ちゃんは笑いながら泣いた。

嫉妬しながらも謝った。

そして、恋焦がれながらも、恋を秘めた。

「むしろ、私がさ。こんなに嫉妬しちゃうけど、友達でいてくれる? って聞きたかったの」

ボロボロと泣き出す真昼ちゃんの傍に琉奈ちゃんが寄る。

「当然だろ。なんだったら二人きりとかにしてやるからさ」

今の手はぬいぐるみだったけど、良いことが一つだけあった。

「ゴンちゃん、汚れちゃうよ」

「なに言ってんだよ。どこに汚れがあるんダモ」

布製の手は彼女の涙を拭えば、吸い取ってくれた。

「滅茶苦茶いい雰囲気に水を差したくはないんだけどさダモ」

そう言うと二人がこちらを向いた。

「結局鏡花ちゃんと仲直りしてないじゃん。喧嘩しているわけじゃないけどダモ」

そう言うと真昼ちゃんは困ったように言った。

「でも、鏡花ちゃんに魔法少女止めろって言われて———」

「いや、多分それは違うんダモ」

なんで気づかねえんだろうなって思うけど、真昼ちゃんは気づかねえんだろうな。

「鏡花はまあ止めろとは言ったし、口もきついけど、止めてほしいとは思ってないんダモ」

「ああ、それ思った!」

琉奈ちゃんが共感してくれて助かった。

「何が違うの?」

「だから口だけなんだよ。本当は止めて欲しいと思っているわけじゃない。いや、頭の中では止めたほうがいいと思っているかもしれないけどさ。少なくとも感情的には思ってないんダモ」

「え!?」

なんで気づかねえんだろ。いや、まあ、気づかない理由は半分くらいわかってる。

「つまり、どういうこと?」

「これ以上は言わない。もう殆ど答えだからダモ」

「ええ!?」

「最後は真昼ちゃんが決めろダモ」

この喧嘩でないような喧嘩は秒で解決する。

 

ジリジリ——————

「「「え?」」」

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