魔法少女のぬいぐるみは百合の花を眺めているだけでよくないですか? 作:苔茎花
ゴンちゃん視点④:
見るからに真昼は落ち込んでいた。
「落ち込むなよ。多分副作用が酷いから近づかないで欲しいってことだと思うよ」
琉奈ちゃんが慰めるがあまり意味をなしているようには見えなかった。
「うん。大丈夫。わかってるから」
実際はどうであれ拒絶されたというのが、精神に来てそうだ。
「しっかし凄かったな。あの技。近づいたら私までミンチにされそう」
「やろうと思えばもっとコンパクトな戦いもできるんダモ」
「戦いようはあるけど、少なくともあんなに大勢の敵を巻き込むのは無理だな」
「そうだよね! カッコよかったよね」
落ち込んでいても自分が好きな人を褒められるのは嬉しいようだ。
「しっかし、あんな大技使ったら流石に消耗も大きそうだなってごめん」
会話の流れで副作用の話になると今度はわかりやすく真昼ちゃんが落ち込んだ。
「あっ、気にしないで。私も副作用知らないから何だろうなって考えちゃって」
「確か一回目使った時は二人とも使ったから真昼は記憶になくて、二回目以降鏡花は使ってないんだよな」
「うん。鏡花ちゃんはピンチに陥ることないしね」
「ってことはよお。一人副作用を知っている奴いるじゃねえかよ」
「えっ、でも、ゴンちゃんは教えてくれないよ」
とか言いつつ、二人して期待を込めた目線で見つめてくる。
「まあ、教えてもいいダモ」
「だよな~。そんな簡単な話はないよな」
「そうだよねって、今いいって言わなかった?」
意外そうな顔をして見てくる。
「別に教えてもいいダモ」
「え~!? だってゴンちゃんは他人を尊重しがちというか、中立がちだろ」
「まあ、中立でありたいとは思うけど、別にこだわってないダモ」
「それは本当に聞いていいの?」
さっきまであわよくば聞こうとしていた真昼の方が怯えている。真昼ちゃんが鏡花ちゃんに知られたくないことがあるように、鏡花ちゃんが真昼ちゃんに知られたくないことがあるからこうやって隠したのだ。
「多分だけど、副作用の期間が落ち着けば、本人も言うつもりではあると思う。さっきそんな感じの話をした」
副作用は別に時間が経てば治る。真昼ちゃんみたいに理性が完璧に溶けてしまうのは実は極端な例で、鏡花ちゃんは記憶まで失くしたりしないのだ。だからこそ、こんなにも悩んでいると言えるのだが。
「多分で言っていいの?」
「駄目なんじゃないかダモ」
「ええー」
「でも、二人は知りたいんダモ?」
「「まあ、それは」」
「それならば簡単ダモ」
そう言って鏡花ちゃんの家に着くまで黙っていた。
鏡花ちゃんの家に着くと誰もいないかと思うくらいシンとしていた。電気も点いていなければ、人の気配もない。だが、玄関に靴が置いてあるので、鏡花ちゃんがいるのだろう。そして、鏡花ちゃんの部屋の前まで着いた。
「簡単ダモ。これを開ければわかるんダモ」
そう言うと真昼ちゃんと琉奈ちゃんに口を塞がれながら、リビングへと連行された。
「何言ってるの!?」
「馬鹿野郎! 少なくとも部屋の前で言うことじゃねえだろ」
「いや、二人が知りたいって言ったんダモ」
「「そうだけど」さ」
「というかダモ。リスクも取らずして、知りたいことが知れると思うのは甘いダモ」
「いや、リスクって」
二人は鏡花ちゃんと違って腹黒くないからそういうのは躊躇するのだろう。
「鏡花ちゃんに怒られるリスクぐらいは取りなよ」
「どっちかって言うと信頼を失う方が怖いよ。特に私は名指しで入るなと言われちゃったし」
真昼ちゃんはそう言うけど、僕は違うことを考えている。
「いや、逆にあれは真昼だったら入っていいって意味だと思うけどダモ」
「なんでそうなるの! どう考えたって私が入ったら副作用が酷くなっちゃうからでしょ」
「そうダモ。だけど真昼ちゃんの時を思い返してほしいダモ」
「記憶がないんだけど」
「でも、ずっと鏡花ちゃんに引っ付いていたダモ」
「それは———そうだけど」
流石にその記憶はあるみたいだ。
「真昼ちゃんが鏡花ちゃんに執着していたように、鏡花ちゃんもまた真昼ちゃんに何かしらの気持ちを抱いている」
「ゴンちゃんはその気持ちが何だか知っているみたいだけどさ。私はわからないし、鏡花ちゃんもわかって欲しくないから隠しているわけで」
「じゃあ、開けなければいいんダモ」
そう言うと真昼ちゃんは止まった。
そもそも選択肢が間違っている。
「別に開けろとは一言も言っていないダモ。確かに真昼ちゃんが言う通り、あの部屋には鏡花ちゃんが隠したいものがある。だから、それを守るべきだと思うなら開けないべきダモ」
「さっき開ければいいって言ったじゃん」
「それは個人的に思っていることダモ」
「無責任だよ!」
「無責任ダモ。だって真昼ちゃんの行動に責任を取れるのは真昼ちゃんだけダモ。もちろん僕でも琉奈ちゃんでもないし、鏡花ちゃんでもないんダモ」
「ズルいよ。ゴンちゃん。私が知りたいこと知っている癖に、勿体ぶって言わないで」
「それは僕じゃなくて、鏡花ちゃんにズルいって言ってやれダモ」
「わかってるよ。そんなこと」
まるで泣きそうな顔して真昼ちゃんこそそうやって言う方がズルいんダモ。
「逆に言うんダモけど、真昼ちゃんは鏡花ちゃんに失望されることを恐れているけど、真昼ちゃんが鏡花ちゃんに失望するとは思わないのか?」
真昼ちゃんは全く考えていなかったみたいな顔をした。
「鏡花ちゃんが恐れているのはそれダモ」
だからずっと面倒なことをしている。まあ、鏡花ちゃんが気にしすぎとは思わない。必死に隠す鏡花ちゃんの気持ちはわからなくはないから。
「わ、わたしは、大丈夫、だよ」
「全然大丈夫じゃなさそうダモ。真昼が隠している鏡花への執着心と同じように、鏡花も真昼にどでかい何かを隠しているんダモ」
ここまで黙っていた琉奈ちゃんが口を開いた。
「鏡花が赤ちゃん語で喋ってきたりしても耐えられんのか?」
何故か僕と同じ立場で真昼を責めていた。
「そっちは大丈夫」
「そっちは大丈夫なんだ」
わかるけど、質問するなら引くなよ。
「むしろ、役立たずだと思われて、それを直接鏡花ちゃんに言われたら泣いちゃいそう」
そう言うと琉奈ちゃんと思わず見合わせた。
「じゃあ、大丈夫だろ」
「そうダモ。赤ちゃんプレイが耐えれるなら大丈夫ダモ」
「いやいや、なんで!? っていうか赤ちゃんプレイは別に耐えられないから!?」
案外ノリノリになりそうだけど。
「そりゃあ、だってなあ」
「なあダモ」
琉奈と互いに納得すると真昼を蹴りだした。
「え!? なんで!? なんで蹴られた!?」
「もう面倒だから行ってこい」
「そうダモ。後で一緒に怒られてやるダモ」
そういうとこちらをチラチラ見ながらドアの前に真昼が立った。
そして、深呼吸をすると意を決して鏡花の部屋へ入っていった。
部屋に残った琉奈ちゃんが顔をまじまじと見てきた。
「なあ、流石にあの部屋に入らなかった私には教えてくれないよな」
自分には知る権利がないと思いながら、仲間はずれにされるのは、嫌だったのだろう。
「いや、教えてもいいダモ」
「おっ、ダメもとで言ったけどいいのか?」
「だけど、真昼ちゃんには黙ってくれダモ」
「おっけい! ってなんで鏡花じゃなくて、真昼?」
「それは正解を視たらわかるんダモ」
怪訝な顔をする琉奈ちゃんに指示を出した。
「まず台所に行くダモ」
「なんで?」
「いいから、いいから」
台所に着くとそのまま屈んでもらった。
「次は玉ねぎを置いてあるところの後ろを探すんダモ」
そこは普段琉奈ちゃんも真昼ちゃんも使わない場所にあった。
「なんだコレ?」
それを琉奈ちゃんが取り出すと犬の絵が描かれた袋があった。
「ペットフード?」
「ペットフードダモ」
きちんとしたペットショップに売っているようなものじゃなくて、コンビニで売っている奴だ。
「あっ、なるほど、これがカモフラージュになって、中に入っているって奴か」
そう一人合点するが違う。
「いや、それはそのままペットフードダモ」
「え!? だってここにペットは買ってないよな? 大家さんに隠れて飼ってるとか? いや、私が気づかないことあるか?」
「そうダモ。問題は誰が食べたかということダモ」
「ん?」
琉奈ちゃんが気づいていないピュアな子で助かった。これだけで気づくような人間にはならないで欲しい。
「つまりはこういうことダモ———」
僕が説明し終わるまで、琉奈ちゃんは全く何を言っているかわからないという顔をしていた。
「なんかそれなら鏡花が言わなかった理由はわかったけどさ。なんでそんなことするんだ? 悪戯がバレたら怖いから?」
琉奈ちゃんがピュアで可愛い子に見えてきた。
「琉奈ちゃんは可愛い子ダモ」
「なんだよ。気持ち悪い」
だけど、今の説明を聞いてわからないなら、それはそれで幸せなことだ。