魔法少女のぬいぐるみは百合の花を眺めているだけでよくないですか?   作:苔茎花

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エピローグ:魔法少女のぬいぐるみは百合の花を眺めているだけでよくないですか?

⑤ゴンちゃん視点

 真昼ちゃんが部屋に入ってから約一時間は経った。その間、僕と琉奈ちゃんは部屋の隅で震えていた。だって考えてみて欲しいんだけど、真昼ちゃんが部屋に入ってから笑い声が聞こえて、「駄目」とか「止めて」という真昼ちゃんの声が聞こえてから、真昼ちゃんが泣きそうな声と何かを叩くような音がするんだもん。琉奈ちゃんは僕をずっと抱きしめているので、自由な行動もできないし。

「なあ、何が起こっているんだ」

「きっとプロレスごっことかダモ」

「本当にプロレスごっこやってたら、それはそれで怖えよ」

それはそうかも。ちょっと予想を甘く見過ぎたかもしれない。鏡花ちゃんなら真昼ちゃんを悪いようにしないと思っていたけど、ちょっとシャレにならないかも。

鏡花ちゃんの部屋から音がすると二人して体がビクッとなった。リビングから部屋を眺めると鏡花ちゃんが出てくるのが見えた。

「まずいダモ」

「まずいよな」

二人して小声で相談する。だって明らかに鏡花ちゃん不機嫌そうだし。

「鏡花ちゃん怒ってるかも」

やばい、こっち向いた。

「待ってくれ。差し向けたのはゴンちゃんなんだ。私は悪くない」

「ちょっと!何言ってるんダモ!」

裏切ったな。

「琉奈ちゃんは真昼ちゃんをドアの前まで蹴飛ばしたんダモ」

「バカ何言ってるんだ! お前だって行けみたいな感じだっただろう」

「そっちこそ何言って、って盾にするな」

琉奈ちゃんが僕を盾にするように前に差し出した。

鏡花ちゃんが迫ってくる。

「ち、違っ! ごめんダモ〜。でも鏡花ちゃんのことを思ってダモ〜」

鏡花ちゃんが僕の顔を掴んだ。

僕はそのまま地面に叩きつけられるんだ。

「ひっ、ひいー」

と叫んでいたら抱きかかえられた。

「なーんて冗談よ」

「え?」

「まあ、あんたにイラついてないって言ったら嘘だけど、感謝はしている」

珍しく鏡花ちゃんが頭を撫でてくれた。

「流石に今回は反省しているよ。あんたが色々手を回してくれたのは知っている。形はどうであれ、真昼にはちゃんと伝えるつもりだったとは言えど、真昼に対してあの対応は自分でもないなって思うし」

僕が言いたいことがわかってくれてよかった。副作用でいっぱいいっぱいだったかもしれないけど、真昼ちゃんを拒絶したのは良くない。そう思うから。

「鏡花ちゃん…」

「でも、嫌がっている人に対して善意を押し付けるのはどうかと思うけど」

「鏡花ちゃん甘えるのが下手だから、途中で気が変わって、真昼ちゃんにやっぱり教えなくていいやって思いかねないんダモ。悪いけど、そこは信用はしていないんダモ」

そういうと図星だったのか黙った。

「まあ、そういうことにしてあげる」

しんみりしたちょっと気まずい空気が流れた。

「やっぱり胸がない人にも心がないと思っていたけど、鏡花ちゃんにも心があったんだね」

やっぱり地面に叩きつけられた。

「ぐえええ。なんでダモぉ」

「当然だろ。バカか」

琉奈ちゃんも今回ばかりは擁護してくれない。

「で、副作用は治ったんダモ?」

「9割くらい。もう時間が経てば治るわ。今回だって。時間経過で治すつもりだったのに。余計なことしてくれたわね」

「悪いけどそうは思わないんダモ。鏡花ちゃんが抱え込むようになったら、それは結果が変わらない」

鏡花ちゃんは目を細めて言った。まるで未だ収まっていない嗜虐心をこちらに向けるように言った

「あなたを虐めれば副作用も治まるかしら」

別に向けたいなら向けられてもいいけど。

「多分治らないことは自分が一番わかってるんダモ?」

そう言われると図星を突かれたように固まった。

「そうね」

それを聞くと琉奈は不思議そうに言った。

「え? 何で?」

「まあ、それはいいじゃないかダモ。それより真昼の様子は?」

「今は寝てる」

「そうかダモ」

「ねえ、お願いがあるんだけど」

「なんダモ?」

「真昼の様子を見ててくれない?」

「どうするんダモ?」

「ちょっと走ってくる。運動して解消する」

「まあ、それがいいかもダモ」

そう言うと早速出て行ってしまった。

 

 部屋に残されたら琉奈ちゃんと二人で話し合った。

「なあ、結局鏡花が真昼に魔法少女をやめろと言っていた理由って」

「そうダモ。自分がサディストってバレたくなかったからダモ」

「なるほどね。気持ちは分からないでもない」

「それと同時に傷つけたくなかったからダモ」

「なあ、あんまり詳しくねえんだけど、サディストって傷つけたくて傷つけてくるやつなんじゃないの?」

「そうダモ。でも、別に他人をいくら傷つけてもいいと思っている奴らではないんダモ」

そうだったら、真昼ちゃんを遠ざけたりしないだろう。

「よくわかんねえな」

まあ、普通に生きていたら関わらないタイプの人種ではある。

「人を殴ったら当然だけど、殴られた相手は当然痛いダモ?」

「ああ」

「相手が痛みを感じることに喜びを感じるタイプの人間である一方、痛みがわかるタイプの人間でもあるんダモ。痛みがわかると相手が嫌がっていることもわかるし、それを続けていたら嫌われることだってわかる。ある意味痛みを感じることに喜んでしまうタイプの人間といえるんダモ」

鏡花ちゃんは他人が何を思っているかわからない風を装うけど、実は結構繊細な子だ。

「それに当然罪悪感だって湧く。自分のサディストっていうアイデンティティにかまけて、人を傷つけ続けたら当然周りの人はいなくなってしまう。アイデンティティは免罪符じゃないから。鏡花ちゃんも普段はそんな自分の本性を抑えて、他人を傷つけないように生きている。だからこそ他人と関わるのが下手な面もあるんダモ」

「ふ~ん。ちょっと生きづらそう」

「まあ、間違ってはないと思うんダモ。だからこそ、鏡花ちゃんも真昼ちゃんに憧れているようなところがあるし」

「成る程ね。矢印は真昼から鏡花だけじゃなかったんだな」

そうあの二人はある種思い合っている。鏡花ちゃんが一方的に口で言うから、見かけ上は対等な関係に見えないけど、二人ともお互いを尊重し合っている。

 また、鏡花ちゃんの部屋から音がしたと思ったら真昼ちゃんが出てきた。

「起きたんダモ?」

「うん、鏡花ちゃんは?」

「ちょっと走りに行った。頭を冷やしてくるって」

「そうなんだ。イタタタ」

なぜか仕切りにお尻を押さえていた。

「大丈夫?」

「大丈夫。加減してくれたみたいだから」

リビングの椅子に座ろうとすると「イテテ」と声を荒げて席を立った。

「本当に大丈夫かよ」

「当分は座れないかも」

「何があったんだよ」

「お尻を叩かれてね⋯」

顔が暗く沈む真昼ちゃんを心配して2人で駆け寄った。

「そんなに痛かったのか」

「真昼ちゃん1人に色々背負わせてしまったのは申し訳なく思っているんダモ」

「うん。上手くできなくてね」

うん? 上手く?

「お尻叩き20回言って言われたけど、途中で諦めちゃって励まされながら頑張ったんだよ」

うん?

「鏡花ちゃんも私が途中で諦めちゃったから失望しちゃったかもしれないけど、今度は途中で音を上げないから」

琉奈と顔を見合わせた。

「何も心配する必要なかったダモ」

「心配し損だぜ」

「ええ〜!? 慰めてくれる流れじゃなかったの!?」

割れ鍋に綴じ蓋じゃねえか。

「何を慰めるっていう言うんダモ」

「いや、鏡花ちゃんに失望されたかもしれないし」

「こっちは鏡花ちゃんに暴力を振るわれて傷ついてるんじゃないかと心配したんだよ」

実際あの豹変ぶりはびっくりするけど、あれも彼女の心の一つ。

「そりゃあ、びっくりしたけど、性格が変わったわけじゃないし。多分、あれは暴力ではないしね」

「さっきも言ったけど、鏡花ちゃんは本当に嫌がったら止めるんダモ」

そこだけは擁護しておく。別に鏡花ちゃんはサディストというだけで、自分の内面に秘めている暴力性に喜びを感じるわけじゃない。

「別に真昼を馬鹿にしたい訳じゃないけど、よく鏡花と付き合えるよな」

「そりゃあ好きだし」

自分で言っておいてバカみたいに顔を赤くした。

「自分で言っておいて恥ずかしくなるのやめろよ。こっちまで恥ずかしくなるわ」

何二人で顔真っ赤にしてるんだ。

「やっぱり鏡花ちゃんってSなのかな」

「知らんダモ」

「将来的に縄とかで縛られるのかな?」

若干真昼ちゃんに引いた。

「真昼ちゃんってMなのかダモ?」

「え? わかんない。鏡花ちゃんの前だとMかも」

結構引いた。

「何かちょっと引いてない?」

「ちょっとじゃないから安心するんダモ」

「それは喜んでいいやつ?」

さあ、駄目じゃないかな?

「まあ、良かったじゃねえか。真昼ちゃんも鏡花ちゃんとは結ばれた訳だし」

琉奈ちゃんは茶化すように言うが、真昼ちゃんの表情は芳しくなかった。

「それは違うよ」

「え?」

「だって言ったでしょ。鏡花ちゃんは女の子が好きなわけじゃないって。そりゃあ、役に立てて嬉しく思うよ。でもそれと一緒にしちゃダメだよ」

そう言うと琉奈ちゃんは意味がわからないという顔をして、黙ってしまった。

「・・・・・・」

気まずい。

「じゃ、じゃあ、体だけの関係ってことダモ?」

「・・・・・・」

やぱい。下ネタミスったみたいな感じになっちゃった。

「あはは、そうかもね」

真昼ちゃんに気を遣われてしまった。

「流石に何日も鏡花ちゃんのお家泊まるわけにはいかないから帰るね」

「ああ、うん。鏡花ちゃんに言っておくんダモ」

そう言って真昼ちゃんは帰っていった。

「やっちまったんダモ」

「なあ、ゴンちゃん」

後悔している間に、琉奈ちゃんが疑問を持ったように話しかけてきた。

「なんダモ?」

「鏡花からだって真昼に感情が向いているんだったらさ。真昼が怖がっているだけで、鏡花も恋愛感情があるんじゃねえの?」

そう笑って言う琉奈ちゃんに少し戸惑った。

「いや、なんでもかんでも恋愛感情にするのはどうかと思うんダモ」

「そうか?」

なんというか琉奈ちゃんも琉奈ちゃんで少し感性がちぐはぐに思える。いや、若い子ってこんなものかな。何でもかんでも恋愛感情にしてみたり。

「帰ってきたら鏡花に聞いてみようぜ」

少し危うい様に感じる。二人よりも若干自立していると思ったけど、きちんと見ていないといけないかもしれない。

「でも、真昼ちゃんは黙ってて欲しいって言ったんだから、気を遣ったほうがいいんじゃないかダモ」

「まあ、そうか」

多分琉奈ちゃんの頭の中では、真昼ちゃんが困っているから助けたい。という前提がある。でも、その原因が鏡花ちゃんが恋愛感情を持っていないことだから、持っているなら、何も問題ないという論法だ。それは間違ってはいないが、第三者が関わっていいかと言われると微妙なところだろう。

 

 ドアの音がしたので、おそらくは鏡花が帰ってきたのだろう。

「あっ、鏡花帰ってきた」

「真昼は?」

「もう帰るって」

「そう、起きたら謝ろうと思ったのだけど」

「心配なら電話でもしてやれダモ」

「ええ、そうする」

走ってきて汗をかいて、息が切れているが、どうやら精神はだいぶ落ち着いたみたいだった。

「なあ、鏡花」

「何?」

「真昼のことをどう思っているんだ?」

琉奈ちゃんがいきなり聞いたので驚いた。

「え!?」

まさかさっきのやり取りで聞くとは思わなかった。いや、直接的に聞かなければいいと思っているかもしれないけど、そうじゃない。

「それはどういう意図で?」

鏡花ちゃんが警戒心を持って聞き返した。いや、それもそうだ。さっきまでお互いの同意があったと言えど、虐めていたのだから。

「いや、恋愛的にとか、友達的にとか」

お前、それで隠しているつもりかよ。いや、まあ、鏡花ちゃんも自分が責められているんじゃないと知って表情を緩めたのは良かったけど。

「そういうことね。でも、ごめんなさいだけど、多分恋愛感情ではないわ」

そう鏡花ちゃんは断言してしまった。琉奈ちゃんに悪意はなかったとはいえど、残酷な宣言だった。

「でも、 仲がいいじゃん」

「ええ、特別に思っている。でも、恋愛感情ではない」

「でもさ」

「琉奈ちゃん止めるんダモ」

止めるのが遅かった。彼女の真っ直ぐさが良くない方向性に言ってしまった。

「あのね。同性愛っていうのはね。確かに最近世間に認め始められてきた。それに性自認が男の人だっている。だけどね。そんな簡単な話じゃないの」

まるで世間を知らない子供を諭すように鏡花ちゃんは言った。

「本で知ったけど、思春期の間に同性が好きだと勘違いしてしまう場合もある。よくも悪くも思春期は接する人が少ないから、自分の少ない経験で判断しがちなの。確かに友達という関係性において、一線を踏み越えてしまった感じをするけど、これはただの副作用だよ」

きっとそうじゃないんだけど、真昼に言われているみたいに感じてしまった。

「やっ、そうじゃなくてさ」

多分、それは琉奈ちゃんも感じたのだろう。

「琉奈ちゃん!」

無言で首を横に振った。

「自分が思った正解が他人の正解とは限らないんダモ」

少しズルい言い方をした自覚はある。琉奈ちゃんがこれ以上何も言い返してこないように。

「あっ、ごめん」

「いえ、いいわ」

多分、真昼ちゃんはこうなるのがわかっていたわけか。

ちょっと気まずい空気が流れると鏡花ちゃんが最初にキッチンに向かった。

「夕食にしましょう。最近は弁当ばかりだったから、きちんと作るわ」

「ああ」

それ以上は何も言わないでチリジリになった。

 

 なんというか思春期の女の子って難しすぎる。

「百合の花を眺めているだけでいいんだけどな」

人間関係なんて理想通りにいかない。そんなことわかっていたはずなのに。

願わくば、せめて彼女たちが幸せになってくれればいいのに。




ここまでお読みいただきありがとうございました。
ちょっと実験色が強い作品で、万人受けは絶対にしないだろうなと思っていました。だから、ここまでお読みいただき本当にありがとうございます。
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