魔法少女のぬいぐるみは百合の花を眺めているだけでよくないですか?   作:苔茎花

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5話:「通報するべきなんじゃないの?」

真昼視点③:

「家に泊めた!?」

ほら鏡花ちゃんは怒るから言いたくなかったんだ。

いつも通りの学校で昼食を鏡花ちゃんと一緒に取りながら話すと急に大声になった。

でも、いつも通りに話してたら、話の流れ的に話しちゃったというか、うん。私から話しちゃった。

「でも、家がないっていうし」

「あの子年齢はいくつなの?」

「いや、聞いてないけど」

「仮に私たちと同じかその前後だとしても、家がないというのは大問題よ」

「うん。だから泊めて———」

「通報するべきなんじゃないの?」

通報。普通に考えて警察のお世話になるということだ。

「それは———」

鏡花ちゃんの言っていることは正しくて、反論のしようがない。

「警察は大事にしすぎなんじゃない?」

「別に警察通報したからって逮捕されるわけじゃない」

まあ、されたケースもあるけどと小さな声でいった。

「じゃあ、ダメじゃん」

「じゃあ、生活保護とか、行政の支援なんかだってあるじゃない。意外に感じるかもしれないけど、社会のセーフティーネットはこのためにあるの。女の子が根無し草でぶらつく方が危ないよ」

「でも———」

でも、なんだかわからない。琉奈ちゃんは嫌がりそうな気がした。

「そうやって制度を使って助かるべき人が制度の利用を避けて助からない人だっているの。ただ恥ずかしいとか、頼ったら終わるとかそんなしょうもない感情でね」

「でも、お金ならあるって言ってた」

「お金が?」

一瞬訝しげに考えると「わかった。それはまた別の話」と言って話を戻した。

「通報はともかく何かしらの行政と相談したほうがいいんじゃない?」

もしここでそれは嫌だと言ったら、彼女が私に黙って通報するんじゃないかと思った。

「嫌なの?」

鏡花ちゃんが覗き込むように聞いてきた。

「うん」

「でも、きちんと行政に頼った方が良い場合だってあるよ。そりゃあ制度だし、それを運営しているのが人だから、機械的で冷たいこともあるけど、やらないよりやった方がいいこともあるよ」

鏡花ちゃんが言っていることが全面的に正しいんだと思う。

でも、頷けない。

「———そう」

目の前にいるはずの鏡花ちゃんの顔が見れなかった。

だって何の根拠もなかった。

私よりも頭が良い鏡花ちゃんが言っていることなのだ。正しいと思う。でも、その選択を取ったら、琉奈ちゃんが私の声を聴いてくれなくなる気がしたのだ。でも、鏡花ちゃんの言っていることが正しくて、結果的に優しいと思う。だから、私の言っていることは間違っているのだろう。

「わかった」

「え?」

何がわかったのか一瞬わからなかった。

「だから好きにしなって。正直私知らない人だし。冷たい言い方をすれば、その人がどうなってもいいもの」

言い方こそ冷たいが、鏡花ちゃんは優しい顔をしている。

「でも———ずっと、あなたのお家には泊めておけないでしょ」

「それは、そうだね」

お母さんとお父さんには遠くから来た友達だと言って泊めている。お母さんはどっちかと言うと物事に頓着しないタイプなので、多分半年くらい住んだら、あれ? いつの間に私娘が二人もいたのかしら? なんて言うと思うけど、お父さんはそういうわけにはいかない。多分きちんと説明しないといけない。

「私の家に泊めなさい」

「———え?」

そんな言葉が飛んでくるとは思わなくて、びっくりした。

「なに。その表情」

「いや、だってそんなこと言うと思わなくて」

「仕方ないじゃない。貴方の家に泊めるのは、両親の許し云々をおいといて、魔法少女関連なんだから危ないかもしれないんだから」

鏡花ちゃんは誰にでも優しいわけじゃない。別にそこが悪いわけじゃない。むしろそこが彼女の良いところでもある。誰に優しくするかを選べる人間は責任感がある人間なのだ。と私は思う。鏡花ちゃんが泊めてくれれば、それはいいけど、それと同時に私のわがままが彼女にとっての負担にならないか心配だ。だって多分私が助けたいと言ったから彼女は助けてくれるのだろう。だけど、これは勝手に私が助けようとしただけで、鏡花ちゃんまで関わる必要はない。

「でも、嫌、じゃないの?」

「別に言うほど嫌じゃないよ」

てことはちょっと嫌じゃんか。

「まあ、どちらにしても本人の言うことは聞かなきゃならないけど」

「そうだね。ちょっと勝手に決めすぎてる感じもするし」

そう話を切り止めてまた他愛ない話に戻った。

 

 放課後鏡花ちゃんと共に琉奈ちゃんに会いに行った。

家には既にいなくて、どこかへ行ってしまったみたいだった。

「連絡先くらいは持ってないの?」

「いや、スマホすら持ってないって」

「どうやって生きてるのよ」

「まあ、でも多分そのうち会えると思うよ」

「そうね。おそらく今日か明日だろうし」

「今日じゃなきゃ困っちゃうよ」

「私は困らない」

「鏡花ちゃん!」

私が叫んだタイミングでジリジリとした空気を感じた。

「来たみたいよ」

意識を向けなくても意識が向いてしまう。そんな引力染みた【存在感】が全身で感じられる。集中してようが、してまいが、そこに意識を持っていかれる。

「いきましょうか」

「うん」

「「変身」」

 私の変身姿はちょっとだけ未だに恥ずかしい。白を基調としたロリータ風ワンピースの上に赤ずきんを思わせるような真っ赤なケープを羽織っている。フード部分も動物の耳みたいな形になっていて、私には少し可愛すぎる。鏡花ちゃんは黒いケープだから二人で合わせたコーデみたいで嫌いじゃないのだが、如何せん可愛すぎて私には似合わない。

「私も鏡花ちゃんみたいなカッコイイ奴がよかった」

「いいじゃない。可愛くて」

「背が高いからこういうの似合わないよ」

鏡花ちゃんにそう説明するのだが、あまり納得していない様子だった。

「全く羨ましい悩みだことで」

鏡花ちゃんの男装風の恰好はカッコイイからいいじゃん。私の恰好がもし皆に見えていたらと考えると恥ずかしい。

でも、魔法少女の恰好ってどうしてこんなんばっかりなんだろう。

可愛いけどね。

「ほら、行くよ」

「そういえばゴンちゃんは?」

「多分家にいる。でも、流暢に待ってられないから。置いていきましょう」

鏡花ちゃんが軽々しく跳躍して家の屋根に飛び乗った。それに合わせて私も行く。

「待って~」

魔法少女の姿は魔法少女以外には見えないし、聞こえない。だから、こうやって派手な格好をして派手に動いてもバレない。

その代わり敵の存在も民間人には見えない。

いわゆる見えざる敵との戦いという奴だ。

魔法少女になる間は身体能力がかなり向上し、特殊な能力まで使える。それでもやはり元の身体能力に比例するみたいだ。私は運動神経が悪いほうなので、鏡花ちゃんみたいには上手く動けない。だから、同じ場所を走っていても鏡花ちゃんからは離されるばかりだ。

「普段から運動しとけって言ったでしょ」

鏡花ちゃんは一切減速することなく、そのまま視界から消えてしまった。変身中は息切れこそないものの、体力の減少とともに身体が重くなる。ただ鏡花ちゃんが目の前から消えてしまってもどこに行ったかはわかる。【存在感】に連れられて、道を迷ったことはない。そして【存在感】の先に泥人形の存在がなかったことはない。

名が表す通り、私たちを誘うように異様な【存在感】を漂わせるのだ。

 

 走る途中で道に砂が混じり始め、目的地に近づいたのだとわかる。普段ここは川があるはずなのに、地面は砂漠のように一面砂だらけだ。それに空も夜みたいに暗く、星のようなものが夜を照らす。私は星にあまり詳しくないが、鏡花ちゃんはここは少なくとも地球から見える星ではないと言っていた。

 砂漠の上ですでに二人の少女が戦っていた。

一人は鏡花ちゃん。硝子の剣を持ち、『敵』をばっさばっさと切り倒す。

もう一人は琉奈ちゃん。モーニングスターのような武器を自由に振り回し、『敵』を倒していた。

そして、彼女らが対する『敵』を私たちは泥人形と呼んでいた。この砂漠の砂を固めて作ったような人型の怪物。体長は3~5m程で、いつもなら20体ほど出現する。存在理由、放っておいたらどうなるかなど不明。でも、倒すと砂漠が消える。

 さっと足場の砂が潮が引いていくように消えていった。いつもは私と鏡花ちゃん二人で倒しているのだが、もう倒してしまったようだ。

「遅い」

「ふ、二人が早いんだよ!」

移動に時間がかかったものの、多分鏡花ちゃんが先についてから一分と経っていないはずだ。

「いやあ、流石に真昼ちゃんを攻めれないよ。あっという間に倒しちゃうんだもん」

そういう琉奈ちゃんは疲れた様子もない。

「でも、私が来た時には既に半分だった」

「そりゃあ、近かったから先着いてたし」

「でも、一人の時の立ち回りは流石だった。囲まれないように立ち回りながら着実に減らす。それでいて流れ作業のように早かった」

「———そうなんだ」

私は見ていないから何も言えなかった。でも、私は知っていた。鏡花ちゃんは口数が少ないからこそ、褒める回数が少ない。それに結構な頻度で毒を吐くので、褒めた時は心の底から素直に褒めた時だとすぐにわかってしまうのだ。だから鏡花ちゃんに褒められたいなとか思ってしまう時もある。

「いやあ、一人だとああやって立ち回らないと危ないしね。でも鏡花もどんどん切り倒していくから、途中であっちは気にしないで戦って大丈夫だってなったよ」

「それならよかった」

「へ、へえ」

なんか鏡花ちゃん戦闘終わったからかもしれないけど、ハイテンションじゃない? 琉奈ちゃんは元々こんな感じだったかもだけど。

「そうだ。さっき二人して話し合ったんだけど、私の家にしばらく住まない?」

「え!? だけど、もともと住むつもりじゃないから気にしないでも———」

「流石に女の子一人を外に出せないよ。真昼の家はお父様とお母様がいらっしゃるし、魔法少女のアレコレに万が一でも巻き込むわけにはいかないけど、私のアパートは一人暮らしだから」

「一人暮らしなんだ。それならそっちがいいかも」

なんだかあれだけ最初は渋ったのにこうもあっさりといくと拍子抜けしてしまう。

「ええ、今日か明日かでいいから私の家に来てくれる?」

琉奈ちゃんが私の顔を一瞬見てから言った。

「それなら真昼のお父さんとお母さんに挨拶してから行こうかな」

「う、うん」

あれ? なんだかすんなり行き過ぎじゃない?

鏡花ちゃんはもっとぶっきらぼうな感じで言うから、それで勘違いされるのを私が防がないといけないと思っていた。でも、むしろ鏡花ちゃんが乗り気じゃなかった?

いや、乗り気なのが悪いとは思わないんだけど。

なんか。なんだかな。

何か言語化できない不安に苛まれた。

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