魔法少女のぬいぐるみは百合の花を眺めているだけでよくないですか? 作:苔茎花
ゴンちゃん視点②:
琉奈ちゃんが引っ越してから数日が経った。その間鏡花ちゃんに邪魔と追い出された僕は真昼ちゃんの家に泊まっていた。鏡花ちゃんの家は真昼ちゃんの家に近い位置にあるため、頻繁に鏡花ちゃんの家で集まる。鏡花ちゃんが一人暮らしということもあり、頻繁にお泊りしたり遊んだりもするらしい。鏡花ちゃんとの仲は家族レベルの仲であり、幼稚園の頃から大親友なんだそうだ。そんな普段は仲がいい二人とは言えど、今はすこしぎこちない。別にそれが悪い訳じゃないだろう。世の中の大親友だったり、仲良し夫婦と呼ばれるような奴でも喧嘩しないわけじゃないだろうから。
ただ、妙に真昼ちゃんの肩に力が入っているのが気になった。
「なあ、真昼ちゃん。すごい気合入ってるね」
「え? そうかな? いつも通りだけど」
真昼ちゃんは鏡花ちゃんの家に行くにも関わらず、随分とおめかしをしている。随分気合が入っている印象だ。
「いや、だってお前真昼ちゃん行くときは中学校のジャージとかじゃん」
「そんなことないよ! たまにはちゃんと可愛い服選んで着ていくもん」
まあ、そうか。ただ少しだけ空回りしていないといいけど。
「でも、鏡花ちゃんって勘違いされやすいから、仲が悪くなってたら仲を取り持たないといけないじゃん」
「え!? ああ、そうだな」
そう自信満々に言う真昼ちゃんに何も言えず、誤魔化した。なんか既に真昼ちゃんの中では、共同生活がうまく行っていないことになっていないか?
インターフォンを押すと「はい」という鏡花ちゃんの声がした。
「来たよ」
「———待ってて」
ドアの鍵を開けてくれるのを待っている間に真昼ちゃんが前髪を直している。なんだお前彼氏の家にでも遊びに来たんか?
「は~い」
「あっ、キョウ———」
「なんだよ。真昼じゃん」
「あっ、琉奈ちゃんだったか」
一瞬がっかりしたのを僕は見逃さなかった。裏表がないってのは、こじれると少し面倒なんだな。Tシャツ姿で出てきた琉奈ちゃんは、きっとショートパンツか何か履いているのだろうけど、すこし無防備に見えた。別にそれが何ってわけでもないけど、かなり鏡花ちゃんの家でくつろいでいるなという印象を受ける。
「ってあれ? そのTシャツ」
真昼ちゃんがTシャツに反応する。
「あ? これ? 鏡花がくれた」
「へ、へえ」
なんだか真昼ちゃんが嫉妬するのは珍しいと思った。確かにそのTシャツは見たことがあるけど、Tシャツの貸し借りしたくらいでわかりやすく動揺するな。お前らいつもべたべたしているだろ。
「ふ、ふ~ん。そうなんだ」
いや、今まで鏡花ちゃんを奪い合うということがなかっただけで、真昼ちゃんは嫉妬深いタイプなのかもしれない。鏡花ちゃんは近寄りがたいタイプなので、独り占めにしやすいのだろう。
多分だけど、真昼ちゃんは鏡花ちゃんを侮ってたんだろうな。鏡花ちゃんが琉奈ちゃんに対して冷たく接すると思っていたのに違いない。でも、別に鏡花ちゃんはパーソナルスペースに入るまでが難しいだけで、色々と面倒見の良いタイプだぞ。僕にも基本辛辣だけど、泣き落としが効くし。
「何やってるの?」
真昼ちゃんがこれ以上空回りする前に彼氏がやってきた。
「早くこっちに来て。あと琉奈は鍵閉めてね」
「オッケー」
どうやら仲良くやっているようだ。僕としては一安心だが、鏡花ちゃんが気安く琉奈ちゃんに対して接しているのを見て、真昼ちゃんは軽くショックを受けていた。
「真昼ちゃん、さっきから鏡花ちゃん舐めすぎダモ」
「うっ、だって」
まあ、本当に舐めていたというよりはそうあって欲しかったんだろうな。
「鏡花ちゃん、衣類の貸し借りとかしないと思っていた」
リビングに着くと開口一番服のことについて真昼ちゃんは喋った。そこまでショックなことか?
「別に貸すんじゃなくてあげたの。元々洗濯のしすぎでヨレヨレだからパジャマにするか捨てるかしようと思っていたけど、琉奈があんまり服持ってなさそうだったからあげた」
「へえ、私貰ったことないや」
「なんで自分がいらないものを渡すの?」
鏡花ちゃんも真昼ちゃんがいつもと違う様子を戸惑っているみたいだ。
「いや、でも、鏡花ちゃんには潔癖症であって欲しいけどね」
「「なんでよ」ダモ」
鏡花ちゃんとツッコミが被る。
「こう他人が作った料理をガシャーンってひっくり返して、貴方が作ったものなんて食べられないわって言ってほしい」
「それ潔癖症関係ないし。なんで私が少女漫画の手ごろな悪役みたいなこと言うの? 食べ物が勿体ないでしょ」
「ええ、似合うけどな」
多分真昼ちゃん褒めているつもりなんだろうけど、どう考えても悪口だよ。
「それ後でイケメンにこっぴどくフラれる奴でしょ」
「いや、むしろイケメンをフッてほしいね」
真昼ちゃんは悪役令嬢もの的なニュアンスで言っているんだろうけど、多分鏡花ちゃんは少女漫画に出てくる嫌なプライド高い女だと思っていそうだ。
「貴方の中の私像は一体何!?」
でも、よかった。多分、いつもみたいに夫婦漫才をやってたら、調子が戻ってきたのだろう。さっきまでの真昼ちゃんは背筋が老婆みたいに曲がっていたのに、自信を取り戻したのか背筋がピンと伸びている。
「私意外と優しいのよ」
ほら、鏡花ちゃんが言葉を真に受けて、落ち込んじゃったじゃん。
「知ってるよ」
「じゃあ、さっきのはなんなの」
「えへへ」
多分毒にも薬にもならない話。いつも二人きりはこんな感じのことを話している。ただちょっとだけ真昼ちゃんがジェラってるだけで。
「なるほどね」
琉奈ちゃんがそう頷いた。
「琉奈ちゃんも黙ってないで入ってきてよ」
「いや、二人で続けてよ。見てたいから」
「なんだよ。見てたいって」
まあ、気持ちはわかる。鏡花ちゃんと真昼ちゃんの掛け合いを邪魔したくなくて黙ってしまう。
「いや、鏡花とはちょっと仲良くなったと思ったけど、まだまだだと思って」
「むっ、張り合うなら受けて立つよ」
冗談めかして言うがマヒルちゃんだけ本気になってしまった。
「いや、張り合わない。張り合わない」
そう言って琉奈ちゃんが笑った。
ただ、僕は鏡花ちゃんに文句が言いたかった。
「そういうことじゃねえんだけどな」
やっぱり真昼は嫉妬しているし、それを隠そうともしない。
いや、あれで隠しているつもりなのか。
「優しくしろって言ったのは、周りの人に優しくしろって意味じゃなくて、真昼ちゃんに優しくしろって意味だったのに」
まあ、大きく違いはないんだけど、真昼ちゃんにはそのままで、琉奈ちゃんに優しくするから、余計こじれているように見える。まあ、これが人に説教するということなのだろう。説教したって相手が言いたいことを理解してくれるわけじゃない。別に鏡花ちゃんが間違っているとは思わない。結果的に琉奈ちゃんとは、仲良くできているみたいだし。
「でも、これじゃあ、まるで真昼ちゃんの代わりを見つけてきたみたいじゃん」
そんなつもりは一切ないんだろうけど、真昼は対抗心を出してしまっている。
「なあ、ちょっといいか?」
誰にも聞こえない場所で独り言を言っていると琉奈ちゃんが話しかけてきた。僕を空き部屋に連れ出した。横目で見ると鏡花ちゃんと真昼ちゃんは楽し気に話しているので、僕と一対一で話し合いたいのだろう。
「ああ」
僕もこいつに聞きたいことがあった。
「ただ僕は魔法少女関連は答えられないんダモ」
「ああ、そうじゃなくてさ」
そう言って言いづらそうにした後、言うことに決めたみたいだ。
「はっきり言ってほしいんだけどさ。私邪魔?」
「え!?」
正直真昼ちゃんの嫉妬は可愛いレベルなので、気づかないか、無視してくれるかと思った。
「いや、そういうわけじゃないとは思うんダモ」
と言いつつ、内心「あー、そう思っちゃうか」と納得する。
「できればハッキリと教えて欲しくてさ。なんか二人は二人で何かあるみたいだし。邪魔しているなら二人に何も言わずに消えようかなと思って」
「ハッキリも何も多分、二人は居てほしいとは思っていると思うんダモ」
「う~ん。でもさ、真昼に鏡花が辞めろって言っているんだろ。私がそれで代わりに入ったメンバーみたいなのだったら気が悪いと思って」
やっぱり琉奈ちゃんもそう感じてしまったか。
「鏡花ちゃんは多分そんなに悪い奴じゃないんダモ」
「わかってるよ。ちゃんと気が使えるタイプなんだろうな。真昼から最初聞いたからもっと悪い奴かと思ったけど、そうでもないっぽいしさ」
「ああ、そういうこと、ダモ」
なんと説明したらいいか。
いや、僕のスタンスからか。
「まず、僕のスタンスを説明すると二人の仲を取り持つつもりも、わざわざ引き裂く真似もしないんダモ。基本は中立だけど、二人が言い過ぎたら、それはどうなんダモって聞く審判的な立ち位置だと思ってほしいんダモ」
「そりゃあ、良い身分だな」
「そう言われると何も反論できないんダモ。でも、二人が喧嘩して琉奈ちゃんを巻き込むようなら全力で止めるんダモ。だから安心して二人と絡めばいいんじゃないかダモ」
「う~ん。それは———」
何か言いたいが思いつかないようだ。
「そもそも二人とも性格が悪いわけじゃないんダモ」
「それは知ってるよ」
「じゃあ、簡単ダモ。知らない振りして適当に仲良くすればいいんダモ。それとも琉奈ちゃんは二人がそこまで好きじゃないんダモカ?」
「そういうんじゃないって! でも———」
それでもリュナちゃんは言いたいことがあるらしい。
「二人を仲直りさせたほうがいいんじゃないか?」
「仲直りさせるほど悪いわけじゃないんダモ」
まあ、喧嘩にまで至ってないからこそ、現状の微妙な雰囲気だとも言えるが。
「それにダモ。もし、二人を仲良くさせたいなら二人を同じテーブルに座らせないといけないんダモ」
「そりゃあ、そうだろ」
「でも、それが一番難しいんダモ。例え同じテーブルに座ったとしても、心持ちが同じでないと話にならないんダモ。もし、それが簡単にできるなら、この世に戦争なんて蔓延ってないんダモ」
琉奈ちゃんには言わないけど、今の二人を同じテーブルに座らせると真昼ちゃんは鏡花ちゃんの言うことを聞いてしまうだろう。鏡花ちゃん自身もそれをわかってわざとテーブルに座らない。
「なんだ。突き放してるのかと思ったら、ちゃんと見ているのか」
「ガキはいつも気づいたら喧嘩してるものダモ。だから気を付けて見張ってないといけないダモ」
「ふ〜ん。でも、今の喧嘩が致命的なものにならないといいけどな。私たちは戦っているんだし」
確かにそうだ。これがただの学生だったら、それでいい。でも、僕たちは魔法少女で、敵と命を賭けながら戦っているのだ。
「そこは迷惑を掛けるんダモ」
「そこはお前が頑張れよ」
「そんなこと言われてもマスコットだし~ダモ」
頑張れって言われてもこの短い手足しかないし。
「頼りにならないマスコットだな」
マスコットが頼りになる世界ならきっと魔法少女はいらないだろ。
「そうだ。聞きたいことがあるんダモ」
話を逸らすついでに、聞きたいことを聞いてみる。
「なんだ?」
「リュナちゃんを魔法少女にしたマスコットってどこにいるんダモ?」
「は? 知らねえよ。私を魔法少女にしてからどっか消えたよ」
「そうなんダモ」
「むしろお前が知ってるだろ」
「いや、そう言われても記憶喪失なんダモ」
「えー?」
あんまり信じてなさそうな顔をしている。
「魔法少女に対する記憶もなくて、本当に喋ることしかできないマスコットなんダモ」
「え~? なんかマスコットらしくないと思ったら、そういうことかよ」
「そういうことなんダモ」
「といっても本当に何も知らないぞ」
「まあ、そうかもしれないと思っていたダモ。でも魔法少女がこっちに来るなんて珍しいから。そういえば、なんでこっちに来たんだも? 元々いた場所で普通は頑張るダモ?」
「ああ、いや。それは———」
「それは? ダモ」
「私も記憶喪失なんだよね」
ハハハと誤魔化そうとするリュナを冷たい目で見た。
「いや、本当なんだって」
「さっき、記憶喪失馬鹿にしたんダモ」
「してないから! いや、これは本当なんだって別に全部の記憶が抜けているわけじゃないんだけど、ちょっと嫌な記憶が消えてるっぽくて、そこから逃げてきた的な?」
「何ダモ? それ?」
「いや、自分でもよくわかんないんだよ。でも、多分前も彷徨っていたっぽいから、適当な場所の助っ人とか行こうかなと思ってここに来たんだよ」
「ええー?」
「あとこれあいつ等に秘密な。心配されたくないんだよ! 二人とも自分の問題で精一杯なんだから」
まあ、そうかもしれない。
「それはいいけど」
「まじでお願いな」
「わかったんダモ」
二人で話していたらガチャリとドアが開いた。
「ふたり~」
「「え!?」」
さっきまで二人に聞かれたくない話をしていたので、びっくりした。
「お話終わった? 鏡花ちゃんがおやつ食べようって」
「あ、ああ、大丈夫今すぐ行く~」
「行くんダモ~」
アイコンタクトをしてお互いが分かりあうとその部屋から出て行った。
「鏡花ちゃんがホットケーキ焼いてくれたの~」
「お菓子も何もないから」
リビングに向かうと砂糖が焦げた匂いとメープルシロップの甘い匂いが香り立った。
「美味しそうダモ~」
「私も手伝ったんだよ~」
「お皿運びをダモ?」
悪いけど真昼ちゃんが料理をできると思っていない。
「違うよ! 作ったんだよ!」
「そうよ。真昼もお料理上手いんだから」
そう言って笑い合う二人を見ているとリュナちゃんが肘で突いてきた。
「なあ、あの二人喧嘩してるのか?」
「ちゃんと喧嘩してないのが問題なんダモ」
「なるほどね」
「どうかした?」
「いや、なんでもないダモ」
盛り付けも頑張ったみたいで食卓に美味しそうなパンケーキが並んでいる。
「それじゃあ、いただき———」
いざ、食べようと皆で食卓を囲んだ時だった。
———ジリジリジリジリ
目覚まし時計が鳴ったと錯覚するような奇妙な【存在感】が日常を壊した。