俺が初めて決意をしたのはいつのことだっただろう。
それは随分と昔のことだった。
グレンは俺たち霧雨家が命を懸けて守るべき主家の生まれで──
そして兄弟のように育った幼馴染みだった。
兄弟のような主。
それは、あってはならない関係だったのかもしれない。
だが、それは伝統だった。
『帝の月』の成り立ちから続くものだった。
十年前の、あの日。
俺は兄弟を、いや主を守れなかった。
俺ではあの日、グレンを守ることができなかった。
グレンは骨を何ヵ所も折られて、顔中にあざができ、高熱が出た。
近くにいたのに、グレンのすぐ近くにいたのに守れなかった。
なんで守れなかった?
相手が大人だったからか?相手が複数だったからか?相手が柊家だったからか?
違う。
俺が弱かったからだ。
グレンを守れるほど強くなかったからだ。
弱肉強食は原初のルール。
強いものは奪い、弱いものは奪われる。
それこそが最初から決まっていて、なおかつ変わらないルールだ。
俺は弱かった。
だから何も守れなかった。
グレンは目を覚ました後、泣いていたそうだ。
自分に力が足りないから、と。
とても悔しそうに、辛そうに、寂しそうに。
それを聞いたときに決意をしたんだと思う。
全てを支えることできなくとも、一部だけでも、いや半分ぐらいは支えられるようになろう、と。
そして十年の時がたった。
いまだに決意は変わっていない。
あれ以来、俺はそれまで以上に修練をした。
親達の任務に付いていったりもした。
グレンは昔よりも強くなり、誰もが認める一瀬家の次期当主になった。
俺も昔よりは強くなれたと思う。
今の俺がグレンのことをどこまで支えられるかは、分からないけど。
身分が違う、幼馴染みで。
兄弟のような、主。
自分は強くなれたのか、いまだに弱いままなのか。
次こそはちゃんと守れるのか、また守れないのか。
まだ分からないから、だからもっと強くなろうと思う。
場所はいつもの通学路。
俺達がいずれ倒すべき相手である柊家。
その柊家が運営している、敵だらけの第一渋谷高校に向かう道。
グレンたちの後ろを歩いていると、毎日のように小百合がグレンに近付く。
グレンが顔をしかめ、
「離れろ」
と言う。
だが小百合は誤魔化し、また半歩近付く。
そんなことをして、最後はグレンに怒鳴られる。
怒鳴られてるのに小百合は笑う。
それを見て俺も笑い、グレンが俺を睨む。
それでいい。
今はこれでいい。
もうすぐこんなこともできなくなるかもしれないのだから。
今を楽しみ、生きていく。
これから先、進んでいくなかでどれほどの人の死を見ようと。
例え、地獄の中を進むことになったとしたとしても。
変わらずに生きていけるように。
友達や家族、皆が笑って楽しく毎日を過ごせるように。
そんな子供の考えのような、そんな日がくることを願いながら、俺は生きていく。