学校から帰る途中。
いつもと変わらない同じ道。
「グレン様!グレン様!今日一日、何事もありませんでしたか!?」
そして、いつもと変わらずにうるさい花依小百合。
前と変わらない日常に見える。
四月にあった襲撃で、この第一渋谷高校は生徒の半数以上を、殺されてしまった。
特に、入学したばかりで実力が足りない一年生は死亡者数が多く、もとは600人いたはずの生徒数は180人まで減っていた。
クラスも五クラスまで、減った。
クラスメイトも、顔ぶれは半分以上変わっているみたいだ。
──もともと覚えてなかったので、自分では気付かなかったが。
しかし、例え顔ぶれが変わっても『帝ノ鬼』の生徒がすることに変わりはない。
だから、小百合がグレンを心配するのも分かりはするのだが。
さすがにあれは、うるさいだろうな。
と、考えていると小百合が時雨に注意されていた。
そして、時雨がグレンを見上げて言った。
「ですが、私も小百合と同じことが日々気になっています。四月の襲撃でクラスが半分に減って隣のクラスになれたとはいえ、授業中のグレン様の様子はわかりませんから」
すると小百合が横でうなずいた。
「なので、せめて今日一日の感想だけでも、お教えいただけないでしょうか?たとえば頬の小さなアザは、誰にやられたのでしょう?」
言われてみると確かに、グレンの頬に小さなアザが、ついていた。
「これは問題ない。柊深夜が、俺が道化を演じるのを手伝ってくれただけだ」
それを聞くと、時雨が安心したように笑った。
あ、駄目だ。この笑顔は駄目なやつだ。
そう思った直後、不安が的中した。
「..........あの、柊のクズが。殺してやる。いきましょう小百合」
「はい!」
「ちょ、ストップ。小百合も待てって言ってるだろ」
本当に柊深夜のとこに行こうとしていた二人を止める。
隣でグレンが、うんざりした顔で言う。
「だ~からおまえらに話すの嫌なんだよ」
「ですが深夜とかいう男の実力であれば、グレン様を傷付けずに──」
「できない理由があったんだろ」
時雨の言葉を遮り言う。
するとグレンはうなずき、説明をした。
「ああ、あの時は監視があったからな。仕方がなかった」
「監視?柊深夜が誤魔化せないほどのか?」
「そうだ。どうやら俺は、生徒会長に目をつけられたらしい」
生徒会長ねぇ。
生徒会長って..........誰だっけ....。
すると、小百合が言った。
「柊、暮人ですか?」
「知ってるのか?」
どうやら生徒会長の名前は柊暮人と、言うらしい。
グレンの問いに時雨が答える。
が、結局分かっているのは。
首位で入学したこと。
強く、賢く、冷静で、柊家の次の当主に選ばれる可能性がある。
と、いうことだけ。
やはり柊の情報は厳重に秘匿されていて、調べるのは難しいみたいだ。
「ですが、グレン様を超える才能の持ち主なんて、柊ごときにいるわけないですけどね!」
「当然です」
小百合がそんなことを言い、時雨が同意する。
だが、決めつけるのはよくない。
決めつける、という行為は相手の実力を見定めるうえで大きな誤算を生むことになるからだ。
「時雨、小百合。グレンを信じるのはいい、だが決めつけるな。それは愚か者がすることだ」
日本で一位、二位を争う規模の呪術組織の、宗家の人間よりも、グレンのほうが優れている──と本気で言う二人に釘をさす。
決め付けは誤算を生み、誤算は敗北をもたらす。
それに、気付かない二人ではない。
だから二人は少しうつむいた。
自らの言葉を後悔するように。
グレンはこちらを見て、あきれたように笑い、そのまま歩き出した。
おそらくグレンの頭の中では、今の状況の整理を進めているのだろう。
水面下とはいえ始まってしまった《百夜教》と『帝ノ鬼』の戦争。
真昼が始めた《鬼呪》の武器という、人の力を大幅に超えた、禁呪の研究。
今年のクリスマスにウイルスが蔓延し、一度世界が滅ぶということ。
最後のはシンプルだが、それゆえに意味が分からない。
ゆえに、グレンはそれについて考えているのだろう。
そして、それについて詳しく知るには《百夜教》に接触するしかない。
と、そんなことを考えているとグレンが言った。
「小百合、時雨。おまえらスーパーに行くんだろ?」
「はい。昨日で食材が切れましたから、今日は三日に一度の買い出しの日です」
「なら、おまえらだけでいけ。俺は途中で帰る」
「それは構いませんが....なにか気になることでも?」
「帰ったら話す」
「ですが..........」
「監視がついたいま、おまえらの実力じゃ足手まといだ」
「..........」
時雨と小百合の表情が、緊張する。
「そう緊張するな二人とも。グレン、俺は付いていくからな」
「分かってる。来るなっていってもお前どうせ来るだろうが」
「まぁな」
グレンが呆れたように言う。
「情報を集めにいく。戻ったらお前らにも動いてもらう。それぞれのポジションで、ミスなくすべてを進めるぞ」
グレンがそう言うだけで、二人はそれ以上聞いてこない。
普段こそうるさいが、基本的に二人とも優秀なのだ。
そのあと、小百合がグレンに夕飯は何がいいかを聞き、それにグレンが適当に答える。
と、いうことをした後俺達は二手に分かれた。
たったそれだけで、監視が二手に分かれたのがわかった。
バレバレの監視、つまり実力のない監視者と、少し気配が薄い、そこそこ実力がある監視者。
「おーおー、ちょっと前まで、気にもしていなかったのに、ずいぶんと重要人物だと思われたなぁ」
「しょうがないだろ、あんなことがあったんだ。『帝ノ鬼』じゃない俺達が疑われるのは当たり前だ」
「んなこと知ってるよ」
グレンが笑いながら言い、俺も苦笑いをしながら会話をする。
「じゃあ、また後で」
「ああ、また後でな」
そう言い、グレンは商店街のほうへと歩いていった。
「さて、後はまだこっちについてる奴だけだな」
まったく、監視者をまくなんてめんどくさいったらありゃしない。
彰哉はグレンとは逆方向の、住宅街へと歩いていった。
もともと、一瀬家では監視をまくためのルートをいくつか調査していた。
そのルートをつかう。
それだけで、監視の気配が消える。
自分が気付けてない監視がいる可能性もあるので、もう一つのルートを使う。
さて、目的地に向かうか。
彰哉とグレン、二人の目的地は同じだ。
《百夜孤児院》
特殊な才能を持つ子供達の親を殺し、孤児院に集めなんらかの実験をしている──との、噂がある場所。
《
だが、その場所へ向かう途中。
道の中央に一人の少年が立っていた、年は一五歳くらいだろうか。
「やっと見付けたよ。兄さん」
その少年はそう言い、彰哉の前に立っていた。