講堂には全校生徒が集められていた。
生徒の数は、
一年生600人。
二年生340人。
三年生160人。
の計1100人だ。
学年が上がるごとに人数が減っているのは、各学期に何度かある、選抜術式試験によって、実力を判定され、ランク分けをされ、そして能力がこの学校に相応しくないと判断された生徒たちが、相対評価によって退学になっていくからだ。
だから、一年が終わる頃には、生徒の数が約半分になってしまう。ゆえに、学年が上がるごとに、生徒の数が減っているのだ。
当然、生徒たちは必死に勉強し、修練をする。体術と呪術、両面に秀でていなければこの学校で生き残ることが出来ないから。
彰哉は周りの生徒たちを見回した。
生徒たちは、楽しげだった。
新しい生活に期待しながらもこれから始まる競争に不安になり、それを忘れようとして、口数が多くなる。
講堂の舞台には校長が立っている。
そして先程から続く校長の長い挨拶はいまだに終わろうとしない。
「君たちは選ばれた生徒です。ここに残る者は、将来、『帝ノ鬼』の中でも幹部候補として迎えられる可能性のある、光の卵です。その事を胸に、誇りを持った、楽しい学生生活を.....」
そんな感じの話をさっきからずっと続いている。
ただ時間だけが過ぎていく。
「だから違うと言ってるでしょう!」
唐突に大きな声が聞こえた。
グレンのいる九組のほうからだ。
校長の言葉が止まる。
生徒たちの視線が集まる。
しかしすぐに校長が話始め、他の生徒たちも顔をそむける。
少ししてようやく校長の話が終わろうとしてきた。
「長くなりましたが、私からの話は終わりです。では次は新入生代表からの挨拶にうつりましょう。今年の新入生代表は、満場一致で決まりました。あの、柊家のご息女を、この学校に迎え入れることが出来たことを、光栄に思います──それでは、柊真昼様──ご挨拶お願いいたします」
そう言って、校長が頭を下げる。
すると舞台の袖から、一人の少女が出てきた。
長く灰色の髪、凛とした強い瞳、とても整った顔立ちの少女。
柊真昼だ。
「........」
先程まで騒がしかった講堂は、異常なまでに静まり返っていた。
まるで全員が真昼に見とれているように思えた。
もちろん柊家──その名前にも、それだけの力がある。ここに集まった者たちを、黙らせるだけの力はある。
だけどここで起きていることはそれだけではなかった。
まるで、真昼の中にある、なにかはわからないが、強い光のようなものに押し潰されて、生徒たちは動けなくなってしまったように、見えた。
真昼が壇上に上がり、生徒たちを見つめて軽く会釈をして、話始めた。
◆
夜。
時刻は十九時半。
今後の学校でのカリキュラムについての説明といくつかの呪術的な試験を受けたあと、彰哉たちは家に帰された。
彰哉が住むことになっている家は、学校から徒歩十五分ほどにある、高層マンションの一室である。
五LDKというかなり広い部屋を、一瀬家がグレンのために借りていたうえに、敵が忍び込んで来ないようにそのマンションの上下フロアが全てを借りきっていたので、その中の一室を借りたのだ。
まぁ、現在いるのは、その横のグレンの部屋なのだが。
「なんでおまえらは、俺と同じ部屋にいる?」
グレンがリビングのソファにあぐらをかくように座り、こちらを見ながら言った。
最初の取り決めでは、三人はグレンの両隣に住むことになっていたのだが、いま、彰哉以外の二人はすべての荷物をリュックに背負いグレンの部屋に移ってきていたのだ。
そのあと、グレンはどうにか二人を自分の部屋から出ていせようとしたが、結局二人が出ていくことはなかった。
時雨が荷解きを始め、小百合が夕食を作り始めたので、彰哉が自分の部屋に戻るために部屋を出ようとすると、グレンが刀が入った袋を持って部屋から出ていった。
ちょうどいい俺も修練をしに行こうか。
霧雨家はおもに、剣術と体術をあわせて遣いその補助として呪術を遣うということで発展してきた家で、こと剣術に関しては柊家には負けることはないはずだった。
ゆえに彰哉は、刀を遣わなければ実力のすべてを発揮することはできないのだが、学校では鞘から刀を抜く気はなかった。
本当の実力を見せることなく──霧雨家の発展状況については、柊家の奴らには見せることなく、卒業する予定だった。
だが、その間も修練をする必要がある。
だから彰哉は部屋に戻り刀をとって階段に向かった。
小百合と時雨に気付かれると面倒だという理由で、気配を消して部屋を出るという周到さで。
一瀬家が一部屋丸ごと、修練場として改造している部屋が上階にあるばずだった。だから、上階に繋がる階段がある広間へと向かう。
階段がある広間につくと壁際に男がいた。
この階の上下階のフロアの部屋は一瀬家が全て貸しきっているためここまでくる人はいない。
というよりそもそもエレベーターがあるため階段を使いここまで上がってくる人はいない。
上にはオーナーの一族が住んでいるがエレベーターを使っているため階段を使うことはない。
つまり、
「っ!」
反射的に袋を破り捨て、先手をとるために刀を抜き放つ。
すると男も懐から何かを取り出した。それが鎖だというのが、自分の刀がぶつかった瞬間に、わかる。
鎖には、呪符がいくつも結びつけられていた。
その呪符は、あまり見たことがないものだった。
少なくとも柊家の者たちが使う呪符ではない。
柊が使う呪符は──密教と陰陽道をベースとし、世界中の呪術科学を取り込み複雑に発展してきたものであり、出自が同じである一瀬の者なら、ある程度読めるのだか、男が使っている呪符は基礎部分から種類が違う。
ゆえに、彰哉には読み取ることが、出来ない。
男が、その呪符をくくりつけた鎖で彰哉の刀を縛ろうとしてくる。即座に横に跳び、かわす。そのまま動きを止めずに男の首を狙う。しかし男はそれをかわす。だが少し体勢が崩れた。腹に蹴りをいれる。人を殺すまではいかずとも確実に戦闘不能になるほどの威力をこめて。
男が目を見開く。おそらく相手が普通の人間ならそれで終わっていただろう。
しかし彰哉は動きを止めず男の首を狙う。
「はは、すげぇな......まるで容赦がねぇ」
男はそう言いながら右腕を上げる。
彰哉はかまわず刀を振るう。
相手の腕もろとも首を切り捨てるほどの勢いで振るう。
ギィンという、まるで金属と金属がぶつかったような甲高い音が鳴り刀が止まる。
当たるとすれば男の腕の骨のはずだった。
人間の骨なら、斬れるはずだった。例えそこに鉄甲を仕込んでいたとしてもそれごと切断できる、という自信が彰哉にはあった。
だが、刀は止まっている。
男がこちらを見ながら笑う。
さきほど蹴りがもろにはいったにもかかわらず平然としている。いや、それどころか切り裂いた腕の肉の部分から黒い霧のようなものが噴き出してくる。それはまるで意思があるかのようにこちらに襲いかかろうとしてきて....
「くそ、なんだよそれ」
彰哉は後方に引く。
相手がどう動いても反応できるように構える。
しかし男は楽しそうに笑いながら、切り裂かれた腕を持って階段のほうへ歩きだす。
もちろんこちらから目を離さずに。
そして歩きながら男は言う。
「まったく、さすがは次期一瀬家当主候補の従者筆頭だ。怖いねぇ....ただ広間の壁際で休んでいただけの人間を躊躇もせずに斬るとは....」
彰哉は、黒い霧が出ている腕を一瞥し答える。
「お前は人じゃないだろ。」
「はは、そりゃあ心外だなぁ」
「かといって
「...........」
「つまりどこかの暗殺者なんだろうが......柊家の刺客か?」
すると男は笑みをうかべながら、
「正解....」
と、言いかけていたのを彰哉は遮って言う。
「嘘だな。お前が鎖に付与している呪術は柊が遣うものじゃない。それに馬鹿にしてる一瀬や霧雨を殺すために刺客を放つ、なんてことは柊はしない。なら、いったいお前は誰だろうなぁ?」
そう問いかけると、男はさっきとは少し違う笑みをうかべた。本当に楽しそうに。
「やっぱすげぇよお前。普通さっきの戦闘でそこまでは分からないと思うんだが」
「俺は腹に蹴りいれられて、腕を切断されてんのにぴんぴんしてるお前のほうが不思議なんだが」
「はは、すげぇだろこれ」
また、男は楽しげに笑う。霧がまるで、それそのものに意思があるかのように宙空で蠢く。
それを見て、彰哉は言う。
「お前はいったい、何者だ?」
「何者だと思う?」
「バケモノかな」
「んー、これでもれっきとした人間なんだけどな」
などと、言う。
そしてその言葉を聞いた彰哉は苦い顔をして、
「人.....ね。つまりおまえは、人体実験で作られた、
男は笑みをうかべ答える。
「ああ。『帝ノ月』も同じようなことやってるだろ?」
だが彰哉は首を横に振る。
「いや、うちはやってないんだよ。そもそも
「はは、そうかもなぁ」
「で?そんなことはどうでもいい。お前は誰だ?どこに所属していて、なにをしにここにきた?」
すると男はやっとまともに答える気になったのか、鎖を隠し、さらに黒い霧も隠していく。いや、それどころではない。切断したはずの腕までもいつのまにか元にもどっている。どういう仕組みでこうなっているのかは分からない。
次に攻撃するときは刀に炎を纏わせて霧も焼いてみようか?なんてことを頭の中で考える。
とそこで、男が名乗った。
「じゃあまずは、名乗ろうか。俺の名前は
「《百夜教》だと」
彰哉は呟き、その名前に、目を細めた。
《百夜教》というのは、この日本という国の中でもっとも規模の大きい、国家の暗部を支えているともいわれている呪術組織の名前だ。
数多くの政治家が《百夜教》の援助を受けており、この国を支配しているとも言っていいほどに大きな組織。
やはり呪術組織として規模が大きい柊家の『帝ノ鬼』とは、時の権力者が替わるたびにどちらが後ろ楯になるかで小競り合いを繰り広げていたが、第二次世界対戦後からは、《百夜教》がアメリカのバックアップを受けたため、今は《百夜教》がこの国の基幹呪術組織の座を担っている。
噂では、力と権力を手に入れるためならこいつらはなんでもするという話だ。
殺し。
誘拐。
戦争。
はてには人体実験まで。
特に有名なのは《百夜教》の運営している孤児院での子供たちの扱いがひどいという話だ。
特殊な才能を持った子供たちの親を殺し、子供たちを孤児院に集め、ひどい実験を繰り返しているらしい。
こいつももしかすればそんな孤児院から生み出されたバケモノの一人なのかもしれない。
彰哉は八木と名乗った男を見つめ、刀を鞘にもどして言った。
「で?その《百夜教》が俺になんの用だ?」
八木は笑みを崩さずに、言う。
「いやな、俺ら《百夜教》と、お前の利害が一致していると聞いてな、手を組みにきた」
「利害が一致?そりゃ、いったいなんの事だ?」
「当然『帝ノ鬼』潰しだよ。柊家潰し。俺達がお前に力を与えてやる、という話だよ。どうだ?興味.....」
が、その言葉を遮って、彰哉は言う。
「興味ない」
「嘘だな」
「ってか、そんな話俺にすんなよ。俺はグレンの従者だぞ。それに、その話にのる理由がない」
「お前達の過去を調べた」
「勝手に調べんなよ」
「お前達はいまの状況に、深い怒りを抱いている」
「へー。で?」
「だが、お前達二人で柊家を潰すことはできない」
「だから?」
「そこで俺達が......」
が、やはり彰哉は遮り、
「興味ない。もし興味があったとしてもお前達と組むことはない」
すると八木はこちらを見つめて、言う。
「なぜだ?」
彰哉は少し笑って、答える。
「グレンは、昔から一等賞が好きだった。でもお前達と組んだら、一等賞はお前達が取っていくだろ?」
「........」
「無言は肯定として受けとるぞ。で、今度は《
「...........」
「それとも、ここでお前を殺して存在を消してやろうか?」
と、彰哉は鞘の剣に手を載せた。
すると八木は笑った。
「お前は俺には......」
「勝てるよ。殺すつもりなら、次は容赦しない」
「.........」
「本当の実力を見た相手は、必ず殺すって決めてるんだ。でも、五秒待ってやる。だから帰れ。そして霧雨は寝返らなかったと上に伝えろ。じゃあ数えるぞ。五......」
「.........」
「四.......」
刀の柄を強く握る。
黒死──という名の妖刀の、封じられている部分に意識で触れる。
「三.......」
そこで初めて八木の表情から余裕が消えた。
「くそが、なんだよ。さっきまでとは全然様子が違うじゃねぇか.......はったりじゃないのかよ。わかった、わかった。今日はこれぐらいで帰.......」
「二......」
「.................」
八木は肩をすくめ、階段を降りていく。足を止めずにこちらをふりかえり言った。
「だが、俺達と組まなかったことを、お前はきっと後悔.......」
「一」
しかしそこで、八木の姿が視界から消えた。
彰哉は階段を見つめ、
「....《百夜教》か。こりゃ近々戦争でもおきるかな?」
と、刀から手を離して、小さくため息をつき、彰哉は言う。
もしそうなれば、柊を潰すチャンスもあるかもしれない、なんてことを少し考える。
それぼとまでに、《百夜教》の規模は大きいのだ。
その《百夜教》と『帝ノ鬼』がぶつかれば、そのどさくさに紛れて『帝ノ月』が覇権を握ることができる可能性もあるかも知れない。
そんなことを考えながら階段を上り、歩いていると修練場についたので中に入る。
「そういや、まだ修練場の片付け終わってないんだった.........」
そのあと、カレーができて彰哉を呼びにきた小百合が見たのは片付けが終わった修練場の真ん中で寝ていた彰哉だった。
初めて戦闘書いたので、こうしたらいいというところがあればご指摘お願いします。