主人公じゃない私のポケモンワールド異聞録(5/24改題)   作:時緒

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Switch版FRLGををやってから書きたくてうずうずしていたんですが、ようやくぽこあポケモンに手を出した結果メタモンと旅に出た過ぎて一気に筆が進みました(その割にメタモンの影は薄い)。
決してマハーバーラタの履修に疲れてきたとかそんなことは……あります、はい、すみません。



00-1. マサラタウンにサヨナラバイバイ・前編

昨今流行りの、というか流行りすぎて飽和状態のフィクションジャンルに『異世界転生』がある。読んで字の如く「現代日本人(たまに違う)がトラックか何かによって即死し、自分がよく知るゲームやアニメや漫画の世界(たまに見知らぬ異世界)に転生して前世知識により無双する」というものだ。

 

え、偏見が入ってる? それはそうかも知れない。

実際作品によって人外になってしまったり、家庭環境最悪の家で最下層の立場だったり、あるべき才能やスキルが一切なかったり、といったナーフが発動することはあるらしい。

だがしかし、『異世界転生』と聞いて多くの人が思い浮かべるのは、大体が先の通りのものだろう。そうでなければ『異世界転生』というジャンルとしての呼び名が定着するわけがない。

 

なお、私はそんな『異世界転生もの』を特別好んではいなかったが、かといって嫌ってもいなかった。時々メディアミックスされた作品を広告などで見かけて、面白そうだったら読んでみたり、あとは投稿サイトでおすすめされたものに少し手を出してみたり。

そうすると時折、思いがけず琴線に触れる佳作名作に出会うこともある。私は特別読書家の人間ではなかったが、休みの日にそういう作品を、時々思い立ったときに探すのがなんとなく好きだった。……逆に言えば、その程度だった。

 

つまり。

 

「絶っっっ対に人選ミスなんだよなあ」

 

『その程度』でしかない私がマジに異世界転生してしまったという時点で、こういうセリフは何百回出てきても仕方ないってことだ。

 

いや、まあ、一応付け加えると、「異世界転生したこと」、つまり「前世で死んだこと」自体はもう割り切っている。考えても仕方ないし、私の死因は現代医療技術の粋を尽くしても蘇生なんてまず絶対出来ない死に方だった。

 

じゃあ何が引っかかっているのかといえば、それはひとえに転生先。つまり私がおぎゃあと産声を上げてから今に至るまで生きて呼吸をしているこの世界だ。いっそ自分が全く知らないファンタジーワールドであればそうと割り切れたかもしれないが、生憎と私はこの世界を『ある程度は知っていた』。つまり逆を言えば『チートできるほど詳しくもないし、そこまでの情熱もなかった』世界なのだ。

 

……そろそろ『勿体ぶってないで何処の世界か吐け』という天の声が聞こえた気がする。焦らす意味もないので答え合わせをしよう。とはいえ、

 

「も~ん?」

 

今こうして私の左肩にくっついている、子供の両手で十分に抱えられる程度の大きさをした軟体生物を見れば大体の人、特に日本人は分かってくれると思う。見るからにぷにぷにとろっとしていそうな、とろみのある液体っぽい身体。色は淡い菫色で、何より黒いペンで適当に書き足したような、線だけのシンプルな目と口。

 

ポケモン図鑑(カントー版)番号132、へんしんポケモンのメタモン。

2026年に発売したポケモンによるスローライフゲーム『ぽこあポケモン』の主役として一躍脚光を浴びた、最初の150匹――いや151匹のうち1匹。

 

つまり私が転生したのは、日本が誇る世界屈指のキャラクターコンテンツ『ポケットモンスター』、通称ポケモンの世界というわけだ。

 

「もん? もんもー?」

「……ごめん。なんでもないよ」

 

どうしたの? 大丈夫? と私の顔、というか左目の縁をなぞるように、ひんやりぺたりとした感触が滑っていく。のんびりとした、ともすれば少しとぼけたような声音だが、長年の相棒が何を言いたいかは大体分かるものだ。

 

「もぉんっ!」

「あっは、くすぐったいって」

 

このぺったりと身体に少し張り付くようなスライム状の感触も、見た目よりも少しずっしりとくる重みもすっかり慣れたものだ。4歳の時にたまたま拾ったタマゴをやっとの思いで孵して以来、実に8年目に及ぶ付き合い。悲劇ではあるが有名な小説『変身』の作者にちなんで、カフカという名前を付けたのはこの子が初めて『へんしん』を使った時のことだ。この可愛い顔には少し仰々しい名前だが、本ポケは気に入ってくれているらしいのでよしとする。

 

「っし、行くか」

「もん!」

 

立ち上がって少し凝っていた関節をほぐす。ぐるぐると肩を回せば、メタモンも腕(というか触腕?)を同じように動かした。可愛い。

 

「まずはお母さん達に挨拶して、ご近所にも声かけて、そんで研究所か。それじゃあ暫くはボール入っててね、カフカ」

「もん!」

 

合点承知、とばかりに返事をした我が子が、私の腰にぶら下がっているボールのスイッチを勝手に押して中に入っていく。内部拡張機能がついたおろしたての鞄は、数ヶ月前の誕生日に両親から買って貰ったものだ。中身はもう何度も検めたので、こちらはもう確認しない。

 

「お母さん」

「あら、マリステラ。もう行くの?」

「うん。近所とはいえ、あんまりのんびりしてるとアレだし」

「それもそうね。……だ、そうよ。あなたも準備はいい?」

「ルゥ!」

「おお、良いお返事。おいで、フラウ」

 

母に尋ねられて元気よく片手を上げたもう1匹の手持ちが、半分踊るような動きで私の側に駆け寄ってくる。くるくるひらひらとフェアリータイプらしいパフォーマンスを見せてくれた彼女は、最後ににっこり笑ってカフカと同じようにボールへ吸い込まれた。

 

「行ってきます。お父さんにもよろしく言っといてね」

「たまにはちゃんと連絡するのよー」

「はーい」

 

自身も若い頃はトレーナーとして各地を回っていたという母の見送りはアッサリだ。出張中の他地方から半泣きの電話をかけてきた父とは正反対と言って良い。個人的には前者の方がありがたい。

 

家を出れば外は快晴で、気温はやや涼しめ。旅に出るとまではいかずとも、外に出るにはうってつけの日だ。道すがらすれ違うご近所さんは、お世話になっていた食堂や雑貨店、診療所に挨拶をしながらのんびり目的地を目指す。そうすると約束の時間15分前という、日本人感覚だととてもベストなタイミングで目的地に到着した。

 

――『オーキド研究所』。熱烈なファンでこそなかったが、ゲームボーイで初代の赤版を夢中でプレイしていた私からすれば、まさに聖地のひとつ。マサラタウン出身というアドバンテージを活かして子供の頃から出入りさせて貰っている故にいつもの訪問ではもうあまり感動しなくなったが、今日はやっぱり特別だ。

 

が、

 

「だから待てって言ってんだろ! 全員揃ってからだ! あと割り込みもナシ!」

「なんだと!! 年下のチビがしゃしゃってんじゃねえよ!!」

「…………」

「うっせえ! ■■■女の腰巾着のくせに!!」

「テッメエっっ! まだそれ言ってやがんのか!!」

「……! ……!!」

「ビィガッッ! ピッカチュー!!」

「こら、お前達! いい加減にせんか!!」

「だってじーちゃん! こいつがまたっっ!!」

「キャウッ! ブイブイ! ブーイ!!」

 

うーん、なんか入りたくない気配というか騒音というか怒号というか鳴き声というか喧嘩というか。

 

とはいえ出入り口を塞いだままでいるわけにもいかないので、敢えて空気を読まず「お邪魔しまーす」と音を立てて扉を開ける。一番近くでハラハラしていただろう研究員さんが、あからさまにほっとした顔をこちらに向けたのが右目の端にちらついた。

 

「おお、マリステラ!」

「おはようございます、オーキド博士」

 

言外に「やっときてくれたか」という本音を滲ませる博士は、幼い頃にゲームやアニメ、あとは一部の漫画で見た姿と大きく差は無い。しかし心なしかいつもの白衣は草臥れているように見えて、その原因であろう子供達を見やる。

 

子供達と一言でまとめていても、実態は弟分2人にクソガキ2人というのが私の本音だ。なので後者はさっと狭い視界から排除し、自分よりまだ背の低い弟分2人に視線を合わせる。

 

弟分といっても、実のところ身体年齢は2歳しか違わない。が、前世の記憶のせいもあり意図的無意識問わず何かとお姉ちゃんムーブをし続けた結果、周囲からは「血の繋がらない三姉弟」みたいな扱いをされることも多くなってしまった。

 

「一体どーしたの。こんな時間から喧嘩?」

「……ちがう」

「そうなの? すっごい言い合いの声聞こえてきたけど」

「…………ら」

「うん?」

「あいつらが、リスティが来ないのにポケモン取ろうとした、から」

「ああ、成る程……でも先着順ならいいんじゃない?」

「じーちゃんが『ちゃんと全員揃ってから順番に』つってんのに聞かなかったんだ! オレらは悪くねーよ!」

「分かってる分かってる。お前らが悪いとは思ってないよ、私は」

 

ぽそぽそと聞き取りにくい声で相手の非を訴える黒髪癖毛の少年と、よく通る大声で自分達の是を主張するツンツンと跳ねた茶髪の少年。私よりも低い背にふくふくと丸みを帯びた幼い頬はかつて取り扱い説明書で見たイメージと少し違うが、それでも『成る程本人達だ』とハッキリ分かるくらいには既に特徴がある。

 

そういえば、一昔前はこのツンツン頭の方が主人公っぽかったよね。ドラ○ンボ○ルとか。

最近だとDr.ST○NEの主人公が珍しくツンツン頭だった。色も白と緑で、ネットでは白菜とか色々言われてた気がする。

 

「庇ってくれてあんがとね、ふたりとも」

「……うん」

「べ、別にリスティのためじゃねーし! 勘違いすんな!」

「はいはい」

 

頬を染めてはにかむ黒髪と、真っ赤になってぷいとそっぽを向く茶髪。正反対だがどちらも可愛い。片や極端な無口、片や意地っ張りとコツを掴むまでは付き合いに難儀する子達だが、こうして素直な良い子に育っているのは親御さんの教育と本人の素養の賜だろう。年寄り臭くそれを嬉しく思うとともに……正直、どうして私の同期が彼らではなかったのかと改めて残念に思う。

 

「それで、オーキド博士。いただけるポケモンはどちらに?」

 

黒髪と茶髪――レッドとグリーン、それから彼らのまだまだ小さな相棒の頭を一度ずつ撫でてから、胸を撫で下ろしている博士を促した。

 

私はマリステラ。マサラタウン出身の11歳で、今日から新米ポケモントレーナー。生まれつきのオプションは異世界転生と、持ってきてしまった前世の記憶。まさに「憧れのポケモン世界で可愛いポケモンやメインキャラと絆を深めながら俺TUEEE!!」をするために生まれてきたような属性だが、実際はそうもいかない。

 

理由は主に二つ。

一つ目は年齢。そもそもマサラタウン出身だというのに主人公世代ではないということ。

そして二つ目、

 

「おいマリステラ! オレを無視してんじゃねーよ!」

「ソ、ソーダソーダ!! オンガ君を無視するなんて生意気だゾ!」

 

こうして同じ日に旅立つ同期2名が、色々な意味でライバルと呼べる関係になり得ないことだ。

 

一応言っておくと、私は死んだことにも異世界転生したことにも、転生先がポケモンワールドだったことにも文句はない。人選ミス、というか役者不足だとは大いに思っているけれど、それでも子供の頃夢中でプレイしたゲームの世界に生きているという事実は、思い起こす度に胸の内を静かに昂ぶらせてくれるものだ。

だけど、この同期2人については――これまでについても今後についても、色々と物申したいことが多すぎる。

 

嗚呼、まったく。

 

私があと2年、せめて1年遅く生まれていれば、こいつらではなくこの未来のレジェンド2人と一緒に希望溢れるスタートダッシュが決められただろうに。

詮無いと分かっていてもそんなことを考えるたび、「いやだってお前、元々この世界にいるものじゃないでしょ」という天の声が聞こえるような気がしてしまうのだ。

 

 




《キャラ設定》
○マリステラ(リスティ)
・年齢:11歳
・性別:女
・身長/体重:未設定だが身長は平均より高い
・外見:灰色がかった銀髪ロングヘアと左右ともに黄色みが強いアースアイ
・特記事項:どこにでもいる異世界転生者(自称)

【所持ポケモン】
・メタモン(カフカ):ー/Lv.??
・????(フラウ):♀/Lv.9
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