主人公じゃない私のポケモンワールド異聞録   作:時緒

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もう少し長く続けたかったんですが切りの良いところまで書き切ろうとすると本日中のアップがほぼ不可能っぽかったのでやめました。
次もなるはやで書き終えたいんですが予定は未定です。



08. 楽園はミモザ色をしていた

ピカチュウというポケモンがいる。

 

ポケモン図鑑ナンバー25。分類はねずみポケモンで、電気単タイプのため通称『電気ネズミ』とも呼ばれる。赤いほっぺはただ可愛らしいだけでなく電気を生成し貯蔵する電気袋であり、ギザギザの尻尾は周囲の気配を探るアンテナだけでなく避雷針にもなる優れもの。前世では『ポケットモンスター』という世界的コンテンツの顔であり、アニメでは第1話から20年以上にわたって主人公の相棒を務めた功労者でもある。

 

ピカチュウへのこの扱い、実は今世(というかこの世界)でも然程変わっておらず、それはカントーポケモンリーグ設立時、トキワシティ出身でトキワの森と縁深かった初代代表がピカチュウをリーグのイメージキャラクターに設定したことに端を発する。

 

時はセキエイリーグが発足して間もない頃。世界各地の関係者達は老若男女に『正しいルールに基づいた競技としてのポケモンバトル』を広めるためのシンボルが必要と判断した。ルールの必要性そのものは理解しても、小難しい専門用語を小さい文字で羅列した説明書を配るだけでは定着しない。子供にも分かりやすく、老人にも親しみやすいアイコンを掲げる必要があるのだと。

 

そういうわけで他地方リーグが地元にまつわる幻や伝説のポケモン……つまり非常に見栄えするが実在が確定しておらず伝承が残るばかりのポケモンを掲げる中、一般ポケモンかつ存在証明バッチリ、それでいてマスコット適正SSSのピカチュウは異彩を放った。

 

放った結果、(当時そんな言葉はなかったが)バズった。

 

私自身生まれていない(オーキド博士がトレーナーデビューするよりも前だ)ので推測になるが、恐らく当時の熱狂ぶりは前世でポケモンが、ひいてはピカチュウが社会現象になったあの空気感そのものだったんじゃないかと思う。寝ても覚めても猫も杓子もみんなポケモンポケモンピカチュウピカチュウピカチュウ。下手に信仰の対象になっているわけでもなく、フォルムもある程度単純で、何より分かりやすく愛らしかったピカチュウはたちまちカントーを飛び越え世界中で持て囃された。

 

特にピカチュウが生息していない地方でこそその熱狂ぶりは凄まじかったそうで、先を見越した世界ポケモン協会が地方間のポケモンの移動を厳しく規制しなければ、今頃ピカチュウはペットブームやそれに伴う乱獲で大幅に数を減らしていたことだろう。前世でも今世でも何でもそうだけど、組織が腐敗して権力者が問題を起こすのは大概情勢が安定した後で、設立当時のトップは大体軒並み有能なもんだ(但し例外はあるし、人道の問題は一旦脇に置いておくものとする)。

 

それはさておき、こんなに長々くっちゃべておいて結局何が言いたいかというと、ピカチュウというポケモンは大層人気者だということだ。種族的には決して強くないし、見た目に反して警戒心が強く気性が荒い。おまけに通常特性『せいでんき』は一般家庭には結構迷惑な代物なので、少なくともペットとしては向かないと言って良い。

 

が、それでもピカチュウは人気である。そりゃもう大人気である。何故って可愛いから。可愛さは全てを凌駕するし、可愛いことはすなわち正義なのだ。こんだけ長尺使って結論それかよとお思いになるだろうが、とにかく重要なのはその一点に尽きるわけで…………いや、もういいか。

 

「――――ご感想は?」

 

ピカピカ、ピカチュ、ピッピカチュ。

ピッカ、ピカチュウ、ピカピカ、チャアピ。

ピカピッ、ピカピチュ、ピッカッチュウ。

 

「………………しゃ」

「しゃ?」

しゃいこぉ(最高)れしゅぅ……♡」

 

それは良かった。

 

「ピッチュ!」

「ん?」

「ピチュ、ピッチュ」

「ああ、これ? ……ほらどうぞ」

「ピチュ!」

「はいはい、どういたしまして。ちゃんと兄弟で分けなよ」

「ピィチュ」

 

アーミーナイフで4等分したオレンの実を、手が汚れるのも厭わず小さな両手で受け取る黄色い毛玉。黒い縁取りがされた両耳はその進化形よりも大きく、身体よりも頭が大きいせいもあってその足取りはあまり覚束ない。ヨチヨチと時間をかけて家族の元に戻っていったピチューが大きさも毛並みのぱやぱやっぷりも同じくらいの兄弟達と仲良く木の実を分け合ったのを確認してから、私もようやっと視線をリーフに戻す。

 

ピカピカピカピカと絶えず鳴いては動き回る、黄色い毛玉の山に埋もれているリーフに。

 

「リーフ、幸せそうなところ悪いけど熟睡は避けてね。私君の家知らないから、最悪ジュンサーさんのご厄介になっちゃうよ」

「ひゃぁい……♡ らぁいじょぶれしゅぅ……♡」

 

……うん、若干不安だけど大丈夫ではあるか。エンドルフィンと同じくらいアドレナリンもガッツリ出てそうな感じだし、流石に熟睡はないだろう……ないよね?

 

「ピッカァ」

「こら、くすぐったいよ」

 

背中側から私の身体をよじ登っていたやや小柄なピカチュウが、右肩に足をかけて何やら自慢げにふんすと鼻息を荒くする。うなじがこそばゆいのでやめろと手をやったが、アッサリ空振って左に逃げられてしまった。もふ、と左頬に温かい毛が当たって気持ちがいい。

 

重さそのものはいつも乗っかっているカフカとあまり変わらない感じだから、このピカチュウも大体体重は4kgかその辺だろう。

 

「ピッピカチュウ」

「ピッカピカッピ」

「ピッカー」

「こーら、重いから一度に全員乗るな。せめて順番にしろ順番に」

「「「ピカカァ~?」」」

「『なんで~?』じゃない。重いつってんだろ。あと足痺れるんだよ」

 

頭にじゃれ始めたピカチュウが羨ましくなったのか、他の若いピカチュウ達が次々膝に乗り上げてこようとするのを制止する。不満そうだが本当に重いんだから勘弁して欲しい。

 

あ、こらそこの色違い。ここぞとばかりに人の髪にじゃれるな。ぶら下がるな。ほどこうとするな。フィッシュボーンは見た目に反して編むの楽だけど、この長さだと編み直すの普通に面倒なんだよ。

 

「……………………ハッッ!!」

「お、復活した」

 

正直他人様にお見せできないレベルで蕩けた顔をしていた(それはそれで可愛らしいんだけども)リーフが、ようやく現実世界に戻ってきたらしい。勢いよく起き上がったせいで油断していたピカチュウがコロコロと転がってしまったが、怪我をするどころか逆に面白がって再びリーフに飛びつき始める。こら、また沈んじゃうからやめなさい。

 

「そっそれにしても、トキワの森にこんな、ピカチュウの縄張りがあったなんて知らなかったです。子供の頃からずっと出入りしてたのに」

「人間がおいそれと近づけない場所を選んでるからね。あと悪質なハンターに見つからないよう定期的に群れで移動してるし、この子達の位置を毎度ちゃんと把握してるのはトキワ所属のプロレンジャーくらいじゃない?」

 

ここ来る前結構歩いたでしょ? と問えば、そういえば、と気の抜けた返答をされた。ピカチュウ天国でここに来るまでの記憶が欠けたのかも知れない。ちょっとやべえな。

 

「あれ? じゃあなんでマリステラさんは此処が分かったんですか?」

「この一週間で痕跡見つけておいたのと、前もこの辺を縄張りにしてたの知ってたんだよ。移動っつっても位置はある程度決まってるもんだから」

「……そういえばこの子達、マリステラさんには全然警戒してなかったですね」

「昔ちょっとばかし縁があってね。ほら、丁度そこに」

「ビビッ」

「……え? えっ、でっか! あのピカチュウでっっか!?」

 

のそりと背後の草木をかき分けて姿を現したピカチュウは、リーフが驚く通りこの一面黄色の世界を構成しているどのピカチュウよりも大きい。短く発せられた鳴き声もワントーン低く、体毛も艶はあるが見るからに硬い。ピカチュウというポケモンにイメージされるあどけない愛らしさは影を潜めており、代わりにずしんとした貫禄が窺える。

 

「お帰り、ドン。見回りご苦労様」

「ビッ」

 

ぶっきらぼうながらも短く返事をしてくれたこの群れの長こと通称ドン。愛想はないが、こちらが差し出した手に短くすり寄ってくれたので嬉しくなる。

 

「この子、お腹に傷が……」

 

さながら○NE PIE○Eの主人公(2年後版)よろしく、ドンはお腹に巨大な十字傷を抱えている。ふかふかとはいえ短い毛並みでは隠せない痛々しさにリーフは青ざめるが、この傷はもう5年も前のものだ。無事に治療は完了しており、今に至るまで後遺症も出ていない。

 

「丁度今くらいの季節だったかな、幼馴染みと近場の海まで夜釣りに行ったことがあったんだけどね」

 

マサラの南側はご存じ海に通じている。旅館の類はないので観光客は来ないが昼間に漁師達が集まる波止場もあり、地元民には隠れた釣りスポット扱いされている。そこで父親とレッドと並んで(グリーンは夏風邪で欠席)釣り糸を垂らしていた私に激突してきたのが後のドンだった。異変にいち早く気づいたカフカが文字通り壁になってくれなければ、私は頭から海にドボンするか、興奮したドンの電撃で気絶していただろう。

 

『リスティ、そのピカチュウ血が!』

『ッ、うっそだろ、なんだよこの怪我……?』

 

ドンは重傷だった。お腹の十字傷はまだ血も止まっておらず、カフカの制止を振り切って抱え上げた私の服はあっという間に赤黒く汚れて二度と着られなくなった。

 

何故ここにピカチュウが、という当たり前の疑問もそこそこに父の車でポケセンに向かおうとしたが、ドンはこちらの意図を察すると激しく抵抗した。人間を警戒しているのかと最初は思ったが、その割には私の服にしがみ付いて離れようとしない。ビ、ビ、と息も絶え絶えに濁った鳴き声を上げて、何かをしきりに訴えていた。

 

『……他にもいるんだね』

 

どうしよう、と顔を見合わせた私と父とは真逆に、レッドは察しが良かった。疑問符のつかない確認に、大きなボロボロのピカチュウは我が意を得たりと頷く。私もそこでようやくおおまかな状況を理解した。

 

『お父さんはこのままこの子をポケセン連れてって。この子の仲間は私達が連れてくる』

『ビッ!?』

『馬鹿なことを言うんじゃない! 子供2人を置いていけるわけないだろう!』

『でもそれ以外に執れる手段がない。車の運転はお父さんにしか出来ないし、この子の怪我も放置できない。何より、グズグズしてたらこの子の仲間が危ない』

『だからと言って……!』

 

『……ビッ』

 

『!? ピカチュウが……!』

 

あっち、とハッキリと一方を指さしたのを最後に、ピカチュウは失神した。レッドが咄嗟に脱いだコットンのシャツで止血をし、申し訳程度に持っていた傷薬も全部使ったが血は止まらず、一刻一秒を争う事態なのは素人目にも明らかだった。

 

『パパが戻ってくるまで絶対深入りしないこと!!』と叫び置いて車を発進させた父を見送る間もなく、私はレッドを連れてピカチュウの示した方向に向かった。

 

結果として、その判断は最適解に近かった。

 

予想外だったのは、てっきり野生同士の喧嘩と思っていたドンの怪我が、密猟者のポケモンによるものだったこと。そして、その密猟者自体は何処にも所属していない小物だったが、ロケット団相手に取引をしていたことだった。つまり、現場には密猟者だけでなくロケット団の構成員もいたのだ。

 

ただ、幸運だったこともあった。密猟者自身は単独犯だったこと。用意された密漁船が漁船に偽装した小さいものだったこと。そのためロケット団も数が少なく、おまけに下っ端ばかりだったことなどがそうだ。

 

結論から言うと、当時既にレベル20を越えていたカフカだけで悪党は制圧できた。ロケット団のポケモンはゲーム通り毒タイプが多かったが、「当たらなければどうということはない!」理論で普通に何とかなった。全員倒すのに15分もかからなかった。

 

……が、私がバトルしているうちにレッドが勝手に(ポケモンも持たず単独で!)船に潜り込んでいたと分かったときは流石に肝が冷えた。結果的に彼に怪我はなかったが、もし何かあったら彼の母親に顔向けできなくなるところだった。全て終わった後で私はレッドの形の良い頭に拳骨を落としたが、私もまた父に同じ事をされたのは言うまでもない。

 

まあ最終的に、そのとき保護したピチューの1匹が(レッドがタマゴを抱えた途端生まれたらしい)がそのままレッドの相棒になったのだから、世の中何がどう転ぶか分からないものだ。密猟者が奪ったピチューやタマゴは余すことなく取り戻せたし、ドンも傷こそ残ったが元気になった。彼らはレッドに懐いた1匹を残して無事トキワの森に帰され、こうして今も元気に過ごしている。

 

「ちなみにそのとき被害に遭ったピチューがこいつらね」

「そんなことが……」

 

未だに膝の争奪戦を繰り広げているピカチュウ共の頭を代わる代わる撫でる。お前達は頼むから少し落ち着いてくれ。レッドのピカチュウなんか今やレッドのオカン2号みたいになってるのに。

 

「だからリーフも、あんまり此処のことは口外しないで。この森にピカチュウがいるのは知られてるけど、縄張りの一部まで漏洩しちゃうのは良くないから」

 

此処を教えたのはあくまでこの1週間色々と手伝ってくれた彼女へのお礼、その一環だ。勝手ではあるがこちらの期待をどうか裏切らないで欲しいと言外に訴えれば、彼女は神妙な顔で「分かりました」と力強く頷いてくれた……が、不意に眉をハの字にして「ふふっ」と困ったように笑って見せる。

 

「? どうかした?」

「いえ、あの、実は私、従妹がいるんです」

「従妹?」

「はい。1歳下で、家も近所だから殆ど姉妹みたいなものなんです。その子、バトルは苦手意識があってスクールには通ってないんですけどポケモンは好きで、その中でもピカチュウが大好きなんですよね」

 

だからちょっと申し訳なくて。そう言って苦笑いするリーフにこちらも少し申し訳ない気持ちになる。が、リーフ本人はまだしもその従妹とやらを私が知らないので何とも言いがたい。

 

「すみません。別にどうしても教えたいってわけじゃないんです。でも、いつかあの子がブリーダーの資格でも取ったら案内してあげてもいいかなって……良いですか?」

「そこは任せるよ。誰彼構わずペラペラ喋られるのが困るってだけだし」

 

女主人公だからとかそういうのではなく、この1週間でリーフが黙っているべきことを黙っていられる人間だということは理解したつもりだ。だからどう転んでもまず悪いようにはならないだろうとは思っている。

 

というようなことを言えば、リーフは何故か顔を真っ赤にして黙り込んでしまった。そんなに照れるようなことを言ったつもりはなかったんだけどな。

 




《キャラ設定》
○マリステラ(リスティ)
・年齢:11歳
・性別:女
・身長/体重:平均より高め/BMI正常域
・髪:灰色がかった銀髪ロングヘアのフィッシュボーン
・瞳:左右ともに黄色みが強いアースアイ
・特記事項:精神年齢もさることながら普通にコミュ強で人誑しの気がある

【所持ポケモン(参入順)】
・メタモン(カフカ):―/Lv.33
・ラルトス(フラウ):♀/Lv.18
・リザード(アシュラム):♂/Lv.17


○リーフ
・年齢:9歳
・性別:女
・特記事項:バトルが苦手な従妹がいることが判明。従妹の髪は金髪。登場は未定
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