色々大変なんですが、特に四天王とチャンピオンになったグリーン以外とは一切の再戦が出来ないのが鬼畜過ぎますね。バトルサーチャーは偉大。
ニビシティには日が暮れる前に辿り着いた。トキワの時と同じように、まずはポケセンに直行して手持ちの回復と宿泊手続きを行う。
トキワの森を出てニビに到着するまでの道中、虫取り少年はじめちょっとした人数のトレーナーに勝負を挑まれたため、メインで相手していたフラウとアシュラムはちょっとお疲れだ。体力に余裕はあるしレベルも上がったから良いんだけどね。
「滞在期間はどうされますか?」
「取り敢えず1泊、いや2泊でお願いします」
今回はトキワのように1週間も滞在するつもりも予定もない。今夜を明かす1泊と、明日ジム戦に挑めなかった場合を考えてもう1泊。何かあったら延長すればいいし、キャンプセットはあるから最悪野宿でも問題無い。
あ、でも博物館は久々に覗いておきたいのと、あとニビあられは一応買ってマサラに送っておこうかな。あの素朴なあられ、オーキド博士とレッドが好きなんだよね。逆にグリーンは見た目から何からオシャレな方がお好みだったりする。
それはさておき。
「お邪魔しまーす」
「もんもーん」
宿泊施設のお風呂とベッドでしっかり休んで迎えた翌日。外観だけはトキワとさして変わらないニビジムの入口を潜ると、近くに立っていたジムトレーナーが近づいてきた。
「ようこそ、ジム戦の挑戦者かな?」
「はい」
トキワジムほど事務的では無いが、トレーナーは手慣れた様子でカードの提示を指示してきた。聞かれることはあまり変わらない。出身地と名前、そして所持バッジの数。当たり障り無くそれらに回答すると、相手は少しだけ驚いた顔をした。
「……何かありましたか?」
まじまじとこちらの顔を見つめてきたトレーナーだったが、やがて我に返ると「いや、すまない。何でも無い」と首を横に振る。そんなことを言われてもこっちは気になるのだが、問いただすのもそれはそれで失礼なのでやめた。
「バッジの数が1つなら、今回のルールは初級②だ。使用ポケモンはジムリーダー、チャレンジャーともに2体。持ち物、交代、途中のアイテム使用はチャレンジャーのみ可。ジムリーダーのポケモンは1段階目の進化形が解禁される。ここまでで質問は?」
「ありません」
「よし。では奥へどうぞ。今は丁度先に来たチャレンジャーとのバトルが始まるところだ。良かったら参考にするといい」
「ありがとうございます」
一応カフカをボールに戻してバトルフィールドに入る。内部の構造は一見して、周辺がゴツゴツした岩に囲まれている以外はトキワとあまり変わらない。地面がアスファルトでもリノリウムでもないのは、ポケモンの穴掘りを前提にしているからだろう。ゲームと違ってトキワもそうだったし。
そういえば、ゲームではタマムシゲームコーナーの地下やトキワジム(あとナナシマ)で採用されてた動く廊下のギミック、FRLGでは改善されてたけどゲームボーイ時代めっちゃ鈍足だったんだよなあ。しかも途中で降りられないし。うっかり間違ったやつに乗っちゃって、しかもそれが長距離だったときの絶望は未だに忘れられない。当時小学生だった私は当然ながら今よりずっと気が短かったから、苛ついてゲームボーイ本体を投げ捨てそうになったこともあったっけ。
「それではこれより、ジムリーダー・タケシ対チャレンジャーの試合を開始します。使用ポケモンは各自2体のシングルバトルです。――――バトル開始!!」
「行け、イシツブテ!」
上座(というものがあるかは分からないが、とにかく出入り口からは遠い方)に立つタケシが、気負った様子も無くボールを投げる。宣言通りボールから飛び出してきたのはイシツブテ。ゲームでもアニメでも見た光景だ。ちょっとワクワクする。
「よ、よーし! 頼んだぞ、マダツボミ!」
対するトレーナーは恐らく同い年くらいだろう少年トレーナー。出したのは岩・地面に有利を取れる草タイプ。タケシ側が未進化のイシツブテを出したってことは試合ルールは初級①だろうし、見たところ互いのレベルも同じくらい。これだけ見ると、そんなに一方的な試合にはならなそうだ。
「マダツボミ、『せいちょう』!」
「ではこちらも――イシツブテ、『かたくなる』!」
安易な攻撃はせず能力を上げにかかったチャレンジャーの隙を突かず、自分の防御を固めるタケシ。ここで相手の技を止めたり先手必勝を狙わない辺り、やっぱりルールは初級①で間違いない。ジムリーダーは制約が多くて大変だ。
「マダツボミ! つ、次は『ねむりごな』だ!」
「イシツブテ、距離を取れ。そして『ロックカット』!」
指示そのものは悪くないが、ただでさえ命中率に不安がある『ねむりごな』を、レンジの短いマダツボミが使ってもなかなか当たるものではない。弾んで遠ざかるイシツブテはそのままスピードを上げてしまい、早くもチャレンジャーの顔に焦りが見え始める。
「くそっ、じゃあ『つるのムチ』で捕まえろ!」
「イシツブテ、落ち着いて動きを見極めろ」
タケシの指示は技でも何でも無いが、冷静な言葉を聞き届けたがんせきポケモンは上がった素早さを上手く利用してしなる鞭を器用に避ける。それだけでなく徐々に距離を詰めてもいくのだから器用なものだ。
「『たいあたり』!」
「しまっ! 避けろ、マダツボ――……」
十分距離を縮めたベストタイミングでの攻撃指示。鞭を空振ってよろけたマダツボミにイシツブテの全身がクリティカルヒット。不意に『きゅうしょに あたった!』というポップアップが目の前に浮かんできた気がした。そしてその見立てに誤りはなく、壁に激突して挟まれたマダツボミは目を回して気絶してしまった。
「マダツボミ、戦闘不能! チャレンジャーは次のポケモンを出してください!」
「ち、ちくしょうっ!」
半泣きになったチャレンジャーがヤケクソ気味にボールを投げる。てっきり次はナゾノクサでも出してくるかと思ったが、出てきたのはコラッタだった。
いや別にコラッタは悪くない。何も悪くないんだが……明らかにレベル足りてないな? さっきのマダツボミやあのイシツブテがレベル10ちょっとだとしたら、あのコラッタ多分5かそこらでは? 体つきも頼りないし、何よりイシツブテを見る目が明らかに怯えている。
はっはーん。
あの少年、マダツボミ1匹だけでジムリーダーのポケモン2タテする気だったんだな。ゲームなら『つるのムチ』連打でなんとかなったかも知れないけど、扱うトレーナーが素人で、その上レベル帯が同じくらいじゃ無理ってもんだ。せめてウツドンに進化させるか、その付近までレベリングしてからやるべきだったね。
「一応言っておくが、このジム戦は棄権も認めているぞ」
タケシも私と同じ結論に至ったんだろう。「多分しないだろうなァ」という副音声をふんだんに含ませた提案をしたものの、チャレンジャーは「そんなことしない!」とコラッタをけしかける。肝心のコラッタは完全に腰が引けているが。あーあ。
「コラッタ! しっかりしろ! 『でんこうせ』――……」
「『たいあたり』」
先程より明らかに手加減された『たいあたり』だったが、コラッタを戦闘不能にするには十分過ぎる威力だったらしい。ころんとフィールドに転がってしまった小ネズミをボールに戻した少年はというと、握手を求めようとしたタケシを無視して走り去ってしまった。
おいおい、最後くらいスポーツマンシップに則れよ。
「君が次のチャレンジャーだな」
「あ、どうも」
トレーナーから私の挑戦を聞いたらしいタケシがこちらに近寄ってくるので、会釈を返す。
実のところ、私と彼は面識がある……という程ではないが、何度かニアミスしていたりする。以前ヌシに会いに行ったときに「おつきみ山に遭難者が出たときの捜索ボランティアに参加したことがある」という話をしたが、この捜索ボランティアには大体ジムリーダーであるタケシも参加するのだ。
だから私は遠目から何度か彼を見かけたことがあるのだが、これまで同じ班になったことが無いのもあって向こうは覚えていないらしい。別にそれで不都合もないので、私も「初めましてですよ」という体でいくことにした。
そんなわけで、初めて真正面から見たニビのジムリーダー・タケシは、恐らく私より5、6歳くらいは年上に見えた。暗めの茶髪はやや逆立っており、浅黒い肌と糸目が特徴的。服装はゲームやポケスペのような上裸スタイルではなく、カーゴパンツにTシャツにベストと、アニメで見たのと似たような格好をしている。
敢えて言おう、上裸でなくてよかったと。
「見苦しいところを見せてすまなかった。このまま始めて問題無いか?」
「勿論です」
見苦しかったのはチャレンジャーだけだしな。
「そう言ってもらえると助かる。改めて、ニビジムのリーダーやってるタケシだ」
「マサラタウンのマリステラです。本日はよろしくお願いします」
「……マサラタウン?」
「? はい、そうですが」
どうかしましたか、と言外に問うてみるものの、タケシは「いや」と軽く首を振るだけにとどめた。先程のトレーナーよりもきっぱりハッキリした態度だ。やっぱり気にはなるが、まあ今はジム戦を優先しよう。
「ルールの確認は必要か?」
「大丈夫です」
「よし、なら始めよう!」
先程と同じように、審判の合図と共に、2人同時にボールを繰り出す。ちなみにジム戦、特に初級から中級ルールの途中までは、最初の1匹の後出しがチャレンジャーに許されている。
が、フルバトルならいざ知らず、ポケモンが2体ずつしか使用できない初級ルールで相手の出方をいちいち確認してもあまり意味が無いと(個人的には)思う。野良バトルならまだしも、ジム戦なら原則相手が出してくるタイプ決まってるしね。
というわけで、
「イワーク、『いわおとし』だ!」
「アシュラム、慌てなくていい! よく見て落ち着いて避けろ!」
「ギュオウ!」
「ギャウッ」
ガラガラと音を立てて降ってくる岩は、タイプ相性もあり一度でも当たれば十分致命傷だ。
ただ、逆に言えば例によって「当たらなければどうということはない!」である。元々サカキ対策でおつきみ山のヌシ相手に何度もバトルしてきたアシュラムは、ひるむこと無く軽やかに岩を回避し――一足飛びにイワークの顔面めがけて飛びかかる。
「イワーク、『うちおと』せ!」
「アシュラム、『まもる』!」
「ムっ!?」
「続けて『えんまく』!」
顔めがけてメタルクローでも仕掛けられると思ったんだとう。しなる鞭のようなイワークの尻尾が、しかし絶妙なタイミングで完全に防がれた。更に『えんまく』で視界を塞ぐとともにジャンプの勢いを殺したアシュラムは、私の狙い通りイワークの顔面ではなく胴体にしがみ付く。
「しっかり掴んで、『ちきゅうなげ』!」
「ギャオウ!!」
体格差を物ともしない腕力で、イワークの巨体が持ち上がる。アシュラムは体幹を軸にイワークの全身を分回して目を回してから、近くの岩壁めがけてぶん投げた。「ギュウッ!?」という引きつった悲鳴がフィールド中に短く響いた。
通常のかくとう技ならこれで終わっているが、『ちきゅうなげ』はゴースト相手以外のタイプ相性は無効の技だ。これだけで倒しきっているわけがない。
「イワーク、『いわおとし』で攪乱しろ!」
「アシュラム、そこの尻尾に『ほのおのキバ』!」
痛みに軽く目を回したイワークが体勢を立て直すより、アシュラムの方が当然早い。ぐらぐら揺れている巨体のバランスを取ることで精一杯だった尾に、文字通りの炎熱を纏った牙が深く食い込む。
「グオゥ!?」
「イワーク!?」
岩タイプに炎技が効きにくいなんてのは常識だが、決して無効になるわけじゃないのも常識だ。文字通り燃えたぎる牙を突き立てられたイワークは、これまでにない悲鳴を上げて硬直する。――――っし、怯んだな!
「この隙を逃すな! 『メタルクロー』!」
一際大きく咆哮したアシュラムの一撃は、綺麗にイワークの意識を刈り取った。低いうめき声を響かせながら、地響きと共に頽れる巨躯。たっぷり10秒経っても動かないそれに、審判が戦闘不能判定を出す。
「ギャウゥ!」
「おーし、やったねアシュラム。よく頑張った。文句なしにカッコよかったよ」
「ギャウ!」
こちらを振り返ってにっこり笑うアシュラムは、進化こそしたものの表情にも性格にもあまり変化がない。アニメで当初優等生タイプだったサトシのヒトカゲがリザードに進化した途端全く言うことを聞かなくなったのをよく知っていた身としては、ホッとした反面ほんの少し拍子抜けではある。
「まずは1勝おめでとう。だが次はどうかな?」
「ありがとうございます。どうぞお手柔らかに」
「ハハッ、残念だがトキワジムを突破した挑戦者に向ける慢心は持ち合わせていないさ。……さあ出番だ、行ってこい!」
高く放られたボールが割れて、赤い光が新たなポケモンをかたどる。
イワークよりも小柄といえばそうだが、十分な長身。シルエットだけなら巨大なきのみを枝にぶら下げた樹木……に見えなくもない。単純な線で構成された目鼻立ちは、何処か今ボールに入っている相棒を思わせた。メインのボディカラーは茶色と、あと緑。
「ウソッキー……」
此処でジョウト、というか金銀のポケモン出てくるとは流石に思わなかった。ルール違反でもレギュレーション違反でもないから全然良いんだけど、こういうとこやっぱりゲームと現実は違うんだなあ。
《後書き》
タケシがウソッキー使ってたのはアニメの方ですが、ここでは1段階進化したポケモンを使って欲しかったのと、ゴローンだと進化レベルがちょっと高い(Lv.25)ので出張して貰いました。
ちなみに本作で世代が変わって覚えられなくなった技や失った特性を使うポケモンが出てきた場合は、『風土や先祖返りや突然変異によってたまにそういう個体が出てくる』という設定を採用しているということでお願いします。
《キャラ設定》
○マリステラ(リスティ)
・年齢:11歳
・性別:女
・特記事項:早速ジムチャレ中。ニビシティに長居する予定は(今のところ)無い
【所持ポケモン(参入順)】
・メタモン(カフカ):―/Lv.33
・ラルトス(フラウ):♀/Lv.18 → 19
・リザード(アシュラム):♂/Lv.17 → 21
○タケシ
・年齢:16歳(捏造)
・性別:男
・特記事項:『マサラタウン』にちょっと引っかかるものがあった。理由は後ほど