主人公じゃない私のポケモンワールド異聞録   作:時緒

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10-1. マナーを守って楽しく決闘(バトル)!・後編

「知っていたのか。説明の手間が省けるのは助かる」

「というと?」

 

枝に擬態した両手でボクシングのようなファイティングポーズを取るウソッキー。その背後からタケシが苦笑い交じりに口を開く。

 

「何せ見た目が見た目だから、どうにも草タイプと誤解されることが多くてな。それだけならまだしも、『岩タイプのジムで岩以外を使うのはおかしい』とクレームを付けられたことも何度かあるんだ」

「……お疲れ様です」

 

ウソッキーは岩単タイプのポケモンだ。岩タイプなのに木に擬態しているから『まねポケモン』に分類され、名前も『ウソッキー』と付けられた。だから岩タイプを専門としているタケシが使っても何ら不思議なことはない。

とはいえ、(既に何度か繰り返していることだが)今のご時世ではまだまだ他地方の情報が手に入りにくい。だからウソッキーを知らないこと自体は正直仕方ない面もある。私だって金銀既プレイ且つジョウトのポケモン図鑑(紙媒体)に目を通していなかったら危なかっただろう。

 

だがそもそもの話、実はジムリーダーは手持ちの全てを専門タイプにしていなければならない、というルールは無かったりする。勿論『岩タイプ専門』の看板を掲げているのに岩タイプを1匹も使っていないのは明確に違反だが、例えばカントーなら手持ちの半数までなら専門外のポケモンを使ってもよしとされている。

 

その理由は様々だが、1つは「進化前と進化後でタイプが全く違うものになるポケモンが存在する」という点が挙げられる。分かりやすく岩タイプを例に挙げるならイワークがそうで、地面・岩複合のイワークはハガネールに進化すると地面・鋼タイプになる。

ハガネールは進化方法がレベリングや進化の石ではないから、基本的に意図しない進化は起こらない……が、何事も例外というものはあるし、ポケモンは未だに謎多き生き物だ。奇跡的な確率でジム戦中のイワークがハガネールになった場合、ジムリーダー側がルール違反で失格となるのは流石に理不尽が過ぎる、というわけである。

 

「すまない、バトル中に無駄話をしてしまったな。さあ2戦目だ。ポケモンを入れ替えるなら今のうちだぞ」

「……アシュラム、どうする? まだやる?」

「ギャウ!」

 

気合い十分ですか、成る程。じゃあフラウには悪いけど、今回は譲って貰おう。

 

「よし分かった。じゃあ勝ちに行こう!」

「ギュオウッッ!」

 

ボッ、と小さく炎を吐いたアシュラムが、心なしかキリリと表情を引き締めたウソッキーと睨み合う。深呼吸1回。

 

「――ウソッキー、『うそなき』だ!」

「耳塞いで『どろかけ』!」

 

まともに食らえばこちらの特防を2段階も下げる変化技を初手に持ってきた。聴覚は物理的に、視覚はまき散らした泥でガードしたが完全に防げてはいない。とはいえ泥が目に入ったらしいウソッキーが嘘ではない涙を流してむずがったので、初手は五分五分といったところ……

 

「ウソッキー、『なみだめ』!」

「ゲッ」

 

両目を潤ませたウソッキーに「酷いことしないで!」とばかりに睨め付けられ、ウッと身体を強張らせるアシュラム。あざと腹立たしいがこれも立派な技だ。しかも『まもる』すら貫通してくるというんだから腹立たしい。

 

「『ストーンエッジ』!」

「『まもる』で突っ込め!!」

 

ここで回避したり距離を取るとまた変化技を使われかねない。かといって下手にフラウと交代しても今度はその隙を狙われる。それならこのまま前進した方が良い。

 

「『りゅうのいぶき』!」

「ギャウ!」

「ウッソゥ!?」

 

先程のイワークのように組み付かれると思って身構えていたんだろうが、そんな単純なことはしてやらない。

炎とは異なる赤紫色の光線を真正面から受け、ウソッキーが大きくよろめく。

 

「『ちきゅうなげ』!」

「させるなウソッキー! 『じたばた』!」

 

チッ、流石にあっちも同じ手は食わないか。目を閉じながら我武者羅に振り回された腕がクリーンヒットし、今度はアシュラムが身体をぐらつかせる。これが岩か地面技だったらかなり危なかったが、幸い急所を避けられたこともあって大ダメージにはならなかった。

 

「踏ん張れアシュラム! しっかり身体支えて!」

「ギャ、オォッ!」

 

吹っ飛びはしなかったので、まだまだ互いの距離は近い。とはいえ我武者羅に組み付こうとしてもまた不意打ちを食らいかねない。ここは相手にならって搦め手といこう。

 

「もう一度踏み込――まなくていい! そこから『どろかけ』!」

「ッ、しまった!」

 

馬鹿正直にもう一度接近戦を仕掛けてくると思ったんだろう。先程より至近距離からの『どろかけ』を全身に食らったウソッキーは完全に怯んだ。『どろかけ』は命中率を下げる代わりに威力が弱いけど、それでも岩タイプに良く効く地面技。ついでにこの距離から思い切り引っ被ったとなれば、こうなっても仕方ない。

 

「しっかりしろウソッキー! 『じたばた』!」

「アシュラム、バック!」

 

二度も同じ手は食らわない。

 

「『りゅうのいぶき』!!」

「ギュアオウ!!」

 

ツツジの花のような色をした光線が、先程よりも更に勢いよく放たれる。タイプ一致技でなくとも、振り回した手足を空振ったばかりの無防備なボディで受け止めれば無事で済むものじゃない。フィールドの端から端に吹っ飛んだウソッキーはそれでも何とか立ち上がろうとしたが、やがてがくりと崩れ落ちた。

 

「ウソッキー、戦闘不能! チャレンジャーのリザードの勝ち! よってこのバトルはチャレンジャーの勝利です!」

 

よかった、勝てた。アシュラムのやる気を尊重して2連戦やって貰ったけど、タイプ相性が不利なのは間違いないし、ウソッキーは完全に想定外の相手だったから少々緊張してしまった。曲がりなりにもトレーナーになった以上この先ずっと負け知らずなんてことはあり得ないけど、だからって負けてもいいとか仕方ないなんて思えるわけが無い。

 

「いやあ見事だ! サカキさんに勝利したというのも伊達ではないな!」

 

ありがと、お疲れ様、頑張ったね。と飛びついてきたアシュラムを猫可愛がりしているところに、呵々と笑いながらタケシが近づいてくる。いけないいけない。握手を求めてきたジムリーダーに、私はしっかりと右手で応えた。さっきの少年の態度を内心批判したくせに、私が礼儀を欠いてしまってはどうしようもない。

 

「俺に勝利した証にグレーバッジを渡そう。さあ、受け取ってくれ」

「ありがとうございます」

 

六角形の岩を模したピンバッジを両手で受け取る。当たり前だが、やっぱりグリーンバッジと同じくゲーム画面で見たままだ。大きさも重さも同じくらい。そして感傷もまた同じくらい胸の奥にせり上がってくる。嗚呼、やっぱり嬉しいもんだな。

 

「…………」

「……?」

 

片手の平に収まる程度のバッジを矯めつ眇めつ見下ろしていた私を、何故かタケシが興味深そうに見下ろしていた。

 

「……あの、何か?」

「! ああいや、すまない。何でも無い……というか、君がどうのというのとは少し違うんだが」

 

奥歯に物が挟まったような、という喩えを体現したかのような言い淀みっぷりだ。これはいっそ気にせず流した方が良い感じもしたが、此処まで変な態度を取られて気にするなという方が難しい。なので「なんでしょう?」と軽く退路を塞いでみると、相手はややあって「実はな」と若干重たそうに口を開いく。

 

「つい1週間くらい前なんだが、このジムに君と同じくマサラタウン出身だという2人組の少年が挑戦しに来たんだが」

 

アッ、やっぱ聞かない方が良かったかも。

 

「1人はゼニガメ、もう1人はフシギダネを連れた2人だった。両方ともそれなりに危なげなく戦えていたし、バッジを渡すこと自体に異存は無かったんだが」

「……何か失礼な態度でも取りましたか」

「うーん、そうだな、先程のチャレンジャーが可愛く見えるレベルではあったかな」

 

あ の ク ソ ガ キ 共 が !!

 

「それで、同じ町出身だという君についても少し身構えていたんだ。結果として杞憂だったわけだが……不快にさせてしまってすまなかったな」

「……いえ、こちらこそ同期が本当にすみません。別に本当に、これっぽっちも親しくも何とも無いんですけど」

「だろうなあ」

 

君の顔を見れば分かるよ、と苦笑いを向けられて居たたまれない気持ちになる。どうして行く先々でこんなに他人に悪印象を植え付けられるんだ。触れるもの全てを切り裂いていく年頃にはまだ早いだろ。

 

「そんなに気に病まなくていい。俺だけならまだしも、うちのトレーナーや他のチャレンジャーに対してもあまり褒められた様子じゃなかったからな。バッジを渡した後に『腕試し』という名目で少し揉んでやったよ」

「アッハイ」

 

揉んでやった=ガチ戦の手持ちでボコってやったってことですね、分かります。

 

いやうん、全然良いと思う。あいつらに限った話じゃなくジムリーダーって何かに付けて舐められがちな立場だから、折に触れてそういう『分からせ』は必要だと個人的には考えている。それこそ私の前のチャレンジャーだって、「草タイプ(弱点)連れていけば勝てる」と舐めた結果がアレだったわけだし。

 

「何はともあれ、バッジ取得おめでとう。これからの旅も頑張ってくれよ。ああでも、この町には自慢の博物館もあるから、先を急がないなら一度遊びに行くといい。今は特にイベントや特別展もやっていないから、研究者や学芸員達から色々と面白い話が聞けるかも知れないぞ」

「……ありがとうございます。是非そうします」

 

ポン、と気軽い所作で肩を叩かれて、ほんの少し気分が上向いた。改めてタケシと、試合を見守ってくれたトレーナー達に頭を下げつつ事務を後にした私は、ひとまずポケセンに戻ってアシュラムの回復して貰った。何を置いてもまずはこれが優先事項第1位だ。

 

「めーたもぉん」

「……ありがとね、カフカ」

 

いつの間にかボールから出てきていたカフカが「よしよし」と定位置(左肩)から私の頭を抱きしめる。ぷにぷにでちょっとひんやりしてて気持ちが良い。ポケモンセラピー、いやメタモンセラピーかな? うちの子の優しさに涙がちょちょ切れそう。

 

「ラルゥ……」

「ギャウ」

「んふふ、ふたりもありがと」

 

フラウとアシュラムが揃って心配そうにこちらを見上げてくるのも、申し訳ないがやっぱり可愛い。とはいえこんなしょんぼり顔をさせたいわけではないので、がばりと纏めてハグしてしまう。あー、あったかい。しあわせ。

 

「心配かけてごめんね、もう大丈夫だから」

 

特にアシュラムに対しては、折角ジム戦で2連勝という快挙だったのにこんなどんよりした空気にしてしまって申し訳ない。お昼はまた美味しいもの食べようね、と約束してふたりをボールに戻した。とはいえ朝イチでジム戦を終わらせたため、昼食にはまだ早い。

 

「このままボーっとしてるのもアレだし、博物館行ってみようか」

「もんっ」

 

ニビシティには何度か訪れたことがあって、博物館も同様だ。今は特別展もやっていないハズだから特に目新しいものはないだろうが、少なくとも気分転換にはなる。

そうと決まれば、とカフカを肩に乗せ、向かうは町の北側にあるニビ博物館。一部を除けば小型のポケモンであればボールから出して見学可能なのが嬉しい施設だ。ゲームと違って上野の博物館くらい広いので、イベントが無い期間でもなかなか見応えがあるのもありがたい。

 

「入館1名お願いします」

「600円です」

 

そして料金も現実的だ。確かにゲームの50円は平成初期(当時)の物価を考えても流石に安すぎるからこれは別にいい。美術品や貴重品の保存と管理はそれだけで非常に金がかかるものだ。私は前世、刀剣の付喪神と共に歴史を守る盆栽ゲーでそれを学んでいる。

 

「フラウとアシュラムは博物館初めてだもんね。ボールの中からで申し訳ないけど、面白いもの沢山あるから楽しもうね」

 

ワクワクした様子の手持ち達にボール越しに声をかけ、展示場に足を踏み入れる。

 

「じゃ、いつも通り端から順番に見て回ろうか」

「もんもーん」

 

カブトプスの全身骨格やプテラの復元想像図はアシュラムが喜ぶだろうし、2階に飾られている巨大な『つきのいし』はフラウが好きそうだ。カフカは意外と機械の類が好きなので、かつて月に到着したロケットの設計図や模型をじっくり眺めるのが恒例行事になっている。

 

(一通り見学したらお昼にして、そしたらもうニビ出ようかな。あられだけ買うの忘れないようにしないと)

 

おつきみ山とその周辺でもポケモンのリサーチはする予定だが、それなら拠点にするのはニビではなくおつきみ山の麓にあるポケセンの方が効率が良い。トキワで買いそろえたアイテム類はまだ在庫に余裕があるし、それがいいそうしよう。

 

………………と思ってたのに。

 

「オレとポケモン交換してくれ!」

「だが断る!!」

 

折角みんなで楽しく博物館見学して気分がほっこりしていたところに冷や水ぶっかけられるとは思わなんだ。

 

え、なにこれ。新手の嫌がらせ?

 




《キャラ設定》
○マリステラ(リスティ)
・年齢:11歳
・性別:女
・特記事項:ニビシティ編も長くなる気配を察知(しろめ)

【所持ポケモン(参入順)】
・メタモン(カフカ):―/Lv.33
・ラルトス(フラウ):♀/Lv.19
・リザード(アシュラム):♂/Lv.21 → 22


○タケシ
・年齢:16歳(捏造)
・性別:男
・特記事項:『つよくてかたい いしの おとこ』の名に恥じぬ分からせを披露した模様
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