主人公じゃない私のポケモンワールド異聞録   作:時緒

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12-2. 底に残った唯ひとつ輝けるナニカ・承編

ヒーローになるのが夢だった。ずっとヒーローになりたかった。

スクールの成績は散々だったけど、バトルの授業だけは得意だった。他がどんなに悪くても、ポケモンバトルでは一番だった。学校で使えるどんなポケモンでも相手に勝てた。

そして、バトルの時だけは誰もが自分を褒めてくれた。クラスメートも先生も両親も。嫌味な同級生だって、バトルで勝てば何も言わなくなった。

やっぱり自分はヒーローなのだと、ヒーローになれる人間なのだと心から思った。

 

『君ね、調子に乗るのも大概にしなよ』

 

いつも通りコテンパンにしてやった後、珍しく黙り込まず口を開いた優等生。

 

『君は確かにバトルの授業だけはよくやってるけど、それは君の使うポケモンが君の指示をちゃんと聞けているからだ。でもそのポケモンは君のものじゃないし、スクールを卒業したらもう使うことはできない』

『……何が言いたいんだよ』

『君も僕も、自分のポケモンでバトルしたことなんてまだ一度もないんだってこと。本当の実力が出るのは今じゃなくて僕達がトレーナーになった後。だからこれは親切心からの忠告だけど、それまであまり大きな顔はしない方がいいよ』

 

なんてつまらない負け惜しみだろう。負けガーディの遠吠えだな、と鼻で笑ってやろうとしたが、優等生はこちらの顔色を読んだのかフンと鼻を鳴らした。

 

『ま、いざそのときになって恥をかいても構わないなら良いけどね』

 

嫌味を残して立ち去った優等生に、怒りは湧いてこなかった。勝利の余韻に水を差されたことだけが少し癪に障ったが、友達が「また勝ったな!」「すげえ!」と褒めてくれれば溜飲はすぐに下がった。

そしてそのまま、彼の言ったことは忘れてしまった。それからの学生生活では勿論、トレーナー試験に落ちたときも、合格したときも、憧れのポケモンが用意されなかった時も。

一度だって、思い出すことは無かった。

 

 

  ■◇■◇■◇

 

 

受けた技の威力に反し、ぽてっという軽い音を立てて小さな身体が地面に落ちる。

楕円形の赤いボディと、その上部から2つ飛び出た薄緑色の触角。小さなリボンのようなそれには小さいながらもつぶらな瞳が備わっており、形は少し違うがカタツムリのそれのようだ。よくよく見れば、果肉についた青虫にも似た尻尾らしいものもついている。

道端に落ちていたら林檎と間違って拾ってしまいそうだといえば、実際地元でそういう事故は数多くあるんだとか。

 

「カジッチュ、戦闘不能!」

「ルルゥ♪」

 

眼を回している相手ポケモンを余所にぴょんぴょんと跳ねて喜ぶフラウ。その姿はこれまで見慣れていたものとは様変わりしていた。

身長はざっくり見ても倍以上伸び、白い手足はシンプルなネグリジェのようだったのが、今はバレリーナの纏うチュチュのようになっている。しなやかに伸びる足は頭部と同じ緑色だ。頭頂部から額にかけての赤いツノは2本になって耳のように左右に伸び、おかっぱのように見えていた頭はツインテールっぽくなっている。

 

かんじょうポケモンのキルリア。紛うことなきラルトスの進化形だ。

 

「おーし、お疲れフラウ。これで最後だって。よく頑張ったね」

「リルゥ」

「おっ、と」

 

身長が倍になったってことは体重もある程度増えてるわけで、いつも通りの勢いで抱きつかれ少し蹈鞴を踏んでしまった。転ばなくて良かった。怪我するのは最悪仕方ないけど、フラウがこれでショック受けたら申し訳ない。

 

「お疲れ様でした。これでサンプリングは全て終了です」

「お疲れ様です」

 

カジッチュに傷薬を吹きかけ終えたテンロ博士が、一見大玉の林檎にしか見えない彼を抱えて近寄ってきた。軽く握手した後、一言断ってから図鑑を取り出す。

 

「おや、もしやそれがオーキド博士が開発しているという」

「ポケモン図鑑です。まだ試作品ですけど……」

 

『分類:りんごぐらしポケモン』

『りんごの なかに すんでいる。 りんごの かにくを たべて そだち じぶんの たいえきで かわの きょうどを たかめ くさらない ように している。 りんごが なくなると からだの すいぶんが ぬけて よわって しまうため ようちゅうい』

 

「……おもろい生態」

 

なんでもカジッチュはカントーには全く生息していない一方、ガラル地方では相当古くから知られているポケモンらしい。こんな外見をしているが、林檎の中には小さな本体がちゃんと潜んでいるんだとか。

そしてタイプは草・ドラゴンの複合。この見た目でそれは嘘だろと思ったがマジらしい。図鑑にもしっかりそう書いてある。

 

「進化してアップリューやタルップルになるとドラゴンらしい見た目になるんですよ。今のところ本人があまり進化に乗り気でないのと、ガラルの林檎が手に入らないのでお預けになってますが」

「林檎?」

「ええ、カジッチュは特別な林檎を食べると進化するんです。ちなみに進化先は2種類あって、食べた林檎が甘いか酸っぱいかによって変わります」

 

マジかよそんなんあるんか。

 

「進化先をコントロールしたかったら糖度計が必須になるわけですね」

「っ、ふふ! ええ、その通りです。ただカジッチュに限らず、ガラルは特殊な進化方法を持つポケモンが多いんですよ」

「というと?」

「そのポケモンが入ったモンスターボールの前で逆立ちするとか、特別な飴細工を持たせてその場で回転させるとかですね」

「それ最初に発見した人ちょっとエグすぎません?」

 

アイテム持たせて交換とか時間帯がどうとかの比じゃねーぞ。どうなってんだ。

 

「ガラルがポケチャーの拠点である理由が分かった気がします……」

「ええ、全くです」

 

そんだけ面白いポケモンがいるならさぞ研究しがいがあることだろう。私もいずれ東方列島は一通り行くつもりだけど、その次は海の向こうに足を伸ばしてみるのも良いかも知れない。オレンジ諸島以降のアニポケは殆ど知らないからちょっとアレだけど、サトシの旅に想いを馳せながらの聖地巡礼は楽しそうだ。

 

「やあ、お疲れ」

「タケシさん」

 

バトルを見守っていたタケシがペットボトルのお茶を渡してくる。喉が渇いていたのでありがたく受け取った。

 

「休憩を挟みつつの1対1とはいえ、10人抜きは流石だな。バッジを渡した身として誇らしいよ」

「光栄です。でも進化して馬力上がりましたから、その辺の運もあったかと」

 

10人相手は予想外だったが、レベルをこちらに合わせてくれたお陰で(そういう機械がちゃんとある)バトルとしても全体的に良い立ち回りが出来たと思う。

更にアーボ、ロコン、コイル、ワンリキー、ゴース、イシツブテ、バタフリーといった野生でよく見かけるポケモン以外に、カントーにいないカジッチュやなつき進化のクロバット、石進化のスターミーとのバトル経験が積めたというのも収穫だった。特にスターミーは、ハナダで待ち構えているカスミ戦を考えるとかなり大きい。

 

……いや本当、当時の子供にとってカスミのスターミーは殺戮兵器だった。なんせフシギダネ含めその時点でゲット出来る草タイプは全員毒も持ってるから、スターミー相手だとエスパー技で沈められるんだよね。私は運良く捕まえられたピカチュウのお陰でなんとか倒せたが、3回くらいは『めのまえが まっくらになった!』ような気がする。

 

「ともあれ、この度はご協力本当にありがとうございました」

「こちらこそ。フェアリータイプ認可のお役には立てましたか?」

「ええ。何せ論文の仮説とほぼ同じ結果が出ましたからね」

 

テンロ博士は言いながら、眼鏡のブリッジを中指で押し込んだ。

 

「フェアリータイプは格闘・悪・虫・ドラゴンタイプに強く、とりわけドラゴン技は一切無効。反対に鋼・毒には弱く、炎タイプには技が効きにくい。ドラゴンへの優位性と毒への脆弱性はエスパーにはあり得ない特徴です。ラルトス、キルリア、そしてその進化形サーナイトはほぼ確実にエスパー・フェアリーの複合でしょう」

「なるほど。……だってさフラウ、お前ってば妖精さんだったんだねえ」

「リーア」

 

そうなんだねえ、とばかりに小首を傾げながらこっちを見上げてくるお嬢さんは今日も今日とて可愛い。甘えてこられるともっと可愛い。よしよしお疲れさん。

 

「もんもー?」

「ん? おっとごめんごめん。終わったからこっち来ていいよー」

「リルルゥ」

「もぉん」

「ギャウッ」

 

バトルフィールドの外で研究員達のポケモンと遊んでいたカフカとアシュラムが戻ってくる。そうかと思えばふたりして順番にフラウに笑顔を向け、フラウは嬉しそうに破顔しながらそれぞれとハグをする。進化おめでとうありがとうってことね、そっかそっか。

 

「もんもん」

「ん? どうしたのカフカ」

「めぇーた、もんっ」

 

にゅるんっと床に降りたカフカが私のデニムをちょいちょいと引っ張った。かと思えば数秒も経たないうちにフラウと同じ姿、つまりキルリアへと変わる。

 

「リアー♪」

「ルゥリ?」

「リル!」

「……ラールル!」

「リィル♪ ラル♪」

「リルッルル♪」

 

「…………ギャゥ~?」

 

化けられたフラウは少し驚いたものの、すぐにパチパチと手を叩いてカフカと鏡コントのようなことをし始める。互いに腕を組んでくるくる回り出せば、もう傍目からはどちらがどちらか分からない。見分けがつく私にとっては普通に面白いが、アシュラムが少し目を回し始めたので「その辺にしときな」と軽く窘めておいた。

 

「フラウは分かるけどカフカもご機嫌だね。さては此処にいるポケモン一通りストックに入れたな?」

「もん」

「よしよし。ポケセン戻ったら一緒にチェックしようね」

「もんっ!」

 

相変わらず学習意欲の高い子だ。いや学習意欲というかバトル意欲? 何にせよ向上心があるのは良いことだと思う。ついてくこっちは大変だけどね。

 

「アシュラム、待たせてごめんね。退屈だった?」

「ギャーウ」

「そっかそっか。じゃあ楽しかった?」

「ギャオゥ!」

「んふふ、良かったねえ」

 

こちらもこちらで此処のポケモン達に随分構われていたらしい。てちてちという感じでこちらに近寄ってきたロコンの喉元を撫でると、「コォン♡」と甘えた鳴き声が返ってきた。……毛並みふわっふわだ。あと炎タイプだからやっぱり体温が高い。

 

「うちの子達の相手までありがとうございます」

 

バトル相手だった研究員達にお礼を言うと、「とんでもない」「こっちこそ協力ありがとう」と和やかに返される。「誰1人勝てないとは思わなかったけどな」と言われた時は流石に苦笑いしか出来なかったけども。

 

「それではマリステラさん、ポケモンバトルの賞金と、実験協力の謝礼です」

「ありがとうございま……なんか分厚くないです?」

 

テンロ博士が差し出してきたのは1枚の茶封筒だ。それは別にいいんだが、なんか想定よりだいぶ厚みがある。咄嗟に手を離そうとしたが、謎の反射神経を発揮したテンロ博士によって手首を捕まれたかと思うと、そのまま封筒を握らされてしまった。

…………いや待てちょっと待て。やっぱ分厚いって! たとえシブサワじゃなくキタサトだったとしても11歳の小娘に支払う金額じゃないって!

 

「ちゃんと正規の金額ですよ」

「テンロ博士、嘘は良くないですよ」

「嘘ではないですって。ねえタケシ君?」

「そうだな」

 

嘘だろ絶対。

 

「本当ですって。というかうちの研究所に正規以上の金額をお支払いするような余裕ありませんよ」

「追求しにくい理由出してきますね」

「事実ですから」

「それについては本当だぞ。長年協力してきたオレが保証する」

「金額がですか? それとも研究所の財政がですか?」

「両方だな」

 

くっ、こうなってくると断りづらいな。

 

「……謹んで頂戴します」

「はいどうぞ。あと、これは研究所一同からのサービスです。良かったらこれも受け取ってください」

「? これは?」

「博物館の年パス、ならぬ永年パスです」

「永年パス!?」

 

そんなんあんの!?

 

「博物館関係者の身内ですとか、あとはタケシ君や貴方のようにご協力いただいた外部の方といったごく一部の方にだけお渡ししているものです。期間限定の展示会の時なども問題無く使えますからご活用ください。ちなみに人間の同伴者は1名のみ可能です」

「いや、流石に此処までしていただくのは……」

 

財政厳しい(意訳)って言ってたのにこんな売上落とすようなことしちゃ駄目でしょと遠慮してみるものの、「これ1枚程度分の売上なんてたかが知れてるんですよ」と身も蓋もないことを言われれば黙るしかない。

 

「そんな端金を巻き上げるより、腕の確かなトレーナーとの縁の方がポケモン研究には余程大切なんです。今日取ったデータだって研究員だけでは数ヶ月はかかってましたからね」

「そんなもんですか……」

「ええ、それに」

「?」

「マリステラさん、午前中に博物館見学に来ていたでしょう? ボールの中のポケモン達にまで丁寧に展示物を見せていたから印象に残っていたんですよ」

「ナンテコッタイ」

 

そりゃ確かに見せてましたけども。ボールごと展示物ギリギリに近づけて見せてましたけども! でもだって仕方なくない? 小型でノーマルタイプのカフカと違ってアシュラムもフラウも外に出て見学出来ないんだもん! 仕方ないじゃん!!

 

「そうやって関心を寄せてくださる方に今後も来て頂けるなら、研究する我々も展示物も、渡したパスも報われるというものです。ですから、遠慮無く」

「…………ありがとうございます」

 

もういいや。恥ずかしいしさっさと受け取っとく。そしてさっさと帰る。

 

「もしまたニビにお越しの際は是非お立ち寄りください。職員一同歓迎しますよ。まあ、その際はまた何かしらご協力いただくやも知れませんが」

「幾らでもお付き合いします」

「こら。軽々に『幾らでも』なんで言うもんじゃありません」

 

なんかすごい真っ当に怒られてしまった。とはいえ迂闊な発言なのは間違いないので「すみません」と殊勝に謝っておく。

 

「それじゃ、そろそろ失礼しますね」

「テンロ博士。オレも今日のところはこれでお暇するよ」

「ええ、お二方ともありがとうございました。マリステラさん、旅の無事を祈ってますよ」

「ありがとうございます。皆さんもお元気で」

 

頑張れよー、気をつけてなー、と口々に労いをくれる研究員達に手を振って頭を下げて、そうしてようやく研究所を出る。外は夕暮れと昼の間という感じで、西側は赤く染まっているがまだまだ青空も残っていた。

 

「ポケモンセンターに戻るんだろう? オレも用事があるから一緒に行こう」

「分かりました」

 

多分気を遣って送ってくれてるんだろうなと思いつつ、本人が何も言わないので私も口に出すのはやめておく。こういうスマートな気遣いには何か別のところでお礼をした方がいいはずだ。……そんな機会があるかは分からないが。

 

とはいえニビ博物館からポケセンまでは徒歩10分もかからない。大して会話も広がらないうちに目的地に到着したので、ひとまず手持ち達を預けようと受付に向かう。

 

? なんかバタバタしてるな?

 

「何かあったのか?」

 

タケシも異変に気づいたらしい。受付の奥ではラッキーもジョーイさん達も緊迫した様子で右往左往、いや東奔西走といった感じだ。

 

「急患ですかね」

「そうだろうな」

「待ちますか」

「そうしよう」

 

私の手持ちは大きな怪我も負ってなければ疲労もさほどではないし、それはタケシも同じだろう。解散して一旦宿泊する部屋に戻ることも考えたが、戻ってくるのが若干面倒なので空いているソファ腰掛けて待つことにした。

 

なおこの選択が正しかったと分かるのは、なんと僅か30分後のことだったりする。

 




《後書き》
アニメのタケシがサトシ10歳に対して16歳と小耳に挟んだので、レッド・グリーン11歳(旅立ち時点)で16歳になるようこっそり修正しています。
なおこの変更は今後の本編シナリオには一切関係ありません。あとタケシとのカップリングとかもありません。


《キャラ設定》
○マリステラ(リスティ)
・年齢:11歳
・性別:女
・特記事項:後に遭遇するゴールデンボールブリッジの倍の記録を達成

【所持ポケモン(参入順)】
・メタモン(カフカ):―/Lv.33
・ラルトス → キルリア(フラウ):♀/Lv.19 → 23
・リザード(アシュラム):♂/Lv.22

○タケシ
・年齢:14歳(捏造)
・性別:男
・特記事項:オリ主に恋愛感情とかは特にない。ただ紳士なだけ

○テンロ博士
・年齢:43歳
・性別:男
・特記事項:実はカントー(父方)とガラル(母方)のハーフという設定
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