主人公じゃない私のポケモンワールド異聞録(5/24改題) 作:時緒
前世の私は平成初期の生まれで、ポケモンといえばゲームボーイの白黒ドット画面とにらめっこしながら、数時間しかもたないアルカリ電池のタイムリミットと戦いながら進めるゲームだった。
残念ながら一人っ子だったので、買って貰えたソフトは赤と緑のうち赤版だけ。通信ケーブルを持っている友達と協力体制を敷きながらポケモン交換をしたり、攻略法を教え合ったりしてやっとの思いで150匹分の図鑑を埋めた記憶がある。
なお、ミュウの抽選は当然の如く外れた。というか周りの子も誰一人当てていなかった。
それから間も無く発売されたマイナーバージョンアップ版の青は買って貰えず、だけどその次のピカチュウ版はゴネにごねて追加購入してもらった。サトシと同じようにピカチュウを後ろにつれて、御三家全員を育てられるというシステムに歓喜したのも懐かしい。
次にプレイしたのは金銀の銀。理由は映画の影響でルギアが好きになったから。また友達と協力しようとしたが、彼女も銀を買っていたので慌てて金を購入したクラスメートを探さなければならなかった。タマゴのシステムやメカニズムが当時は全然分からず苦労したし、必死に集めたぼんぐりで作ったガンテツボールがガラクタばかりだったと知ったのは何年も後になってからだ。当時は攻略サイトなんて便利なものは無かったので。
そしてその次は……といきたいところだが、生憎私のポケモン歴はそこで呆気なく、そして長い間途絶えることになる。当時私はもう中学生になっていたが、周りの女の子が誰もポケモンをプレイしていなかったのだ。幼稚園であれだけ夢中になっていたアンパンマンやセーラームーン(今の子ならプリキュアだろうか)を、小学校に上がった途端「ダサい」と言い始めるのと同じような流れだった。
当時はオタク文化に風当たりが強く、小学生ならまだしも思春期以降の女がテレビゲームに夢中になることに眉を顰める風潮もあった。更に中学ともなればその先の高校受験に意識が向きがちになることもあり、私も自然と次のポケモン(所謂第三世代というやつだ)は買わなかった。あれほど毎日起動していたゲームボーイはいつの間にか動かなくなっていて、そのまま両親によって廃品回収に出されてしまった。
そしてそのまま、ポケモン新作のニュースを見ても「懐かしいなあ」でスルーし続けて早ン十年。たまに流れるCMを見てもピカチュウ以外わからないなと首を傾げる日々。アニメ主人公が交代したと聞いたときは流石に驚いたが、それも20年以上ずっと主役を張っていたと知って「そりゃ私も年取るわけだ」と永遠の10歳だったサトシに敬意を表さざるを得なかった。が、それだけだった。
その数年後、私はとあるきっかけから20年以上のブランクを経て再び『ポケモン』という世界的コンテンツに足を踏み入れることになるのだが――まあ、これは今は良いだろう。
何が言いたいかと言うと、私にとって『ポケモン』といえばあの荒い白黒ドット絵だし、主人公と言えばマサラタウンのレッド(もしくはサトシ)だし、ライバルといえば同じくマサラタウンのグリーン(或いはシゲル)だし、ポケモン博士はオーキド博士で、御三家はカントー御三家なのだ。
つまり、
「机の上にポケモンが入ったモンスターボールが3つあるじゃろう? 1人ずつ、好きな1匹を選ぶのじゃ」
こんなにテンションがアガることある? いや無い(反語)。
にこりと笑うオーキド博士、行儀良く並んだ3つのモンスターボール。私には分からない科学の仕組みで、近くで覗き見ればポケットサイズになった3匹が不思議そうにこちらを見上げてくる。可愛い。みんな可愛い。
「おいマリステラ! オマエ、後から来ておいて先に選ぶなんてズーズーしいゾ! まずはオンガ君、そんでその次がボクなんだゾ!」
ボク達の方が早く来たんだからな! とキーキー声と特徴のある口調で喚くクソガキ、もとい同期2号。1号はその隣でふんぞり返っているガタイのいいデb……ジャイアンもどきだ。
え、体型のことを悪く言うのはマナー違反? 特別な事情があるならまだしも、コイツのだらしない体型は不摂生のせいだから無問題だ。あと別に口に出してはいない。
「確かに来たのは最後だけど、博士の指定時間には十分間に合ってるよ。寧ろ、約束より早く来すぎた君達の方がこの場合は問題でしょ」
コミケだって徹夜組は明確にルール違反だし。
「なっ、なんだとお!?」
「こらっ、もう喧嘩するでない! あまり騒ぐようならポケモンは渡せんぞ!」
「ぐっっ」
「すみません、博士」
博士の一喝に流石に黙らざるを得なかったクソガキ2(そういや名前何だっけ?)が口ごもる横でさっさと謝っておく。こういうときは素直な子供ムーブが一番なので。
「で、誰から選ぶ? 別に私は最後でもいいよ」
「えっ、なんでだよ!? リスティが選べばいいじゃん!」
「きゅうんっ!」
顔中に『不服です』と書いて抗議するグリーン。いつの間にか彼の肩に乗っていた相棒も同じような顔をしている。
ふたりの気持ちはありがたいが、私は御三家が貰えるなら本当に誰でもいい。誰が来てくれても今の手持ちとタイプが被らないし、そもそもカントー御三家は雑に育ててもそれぞれが最後まで活躍してくれる高スペック持ち。できればピカチュウ版のように3匹全員連れて行きたいくらいだが、それが許されない以上誰が来てくれても嬉しいだけなのだ。
「な、ならオンガ君が一番だ! そんで次は……」
「いや、待て」
鍔を飛ばしながら身を乗り出したクソガキ2だったが、その首根っこをクソガキ1が乱暴に掴んで引っ張った。首絞まってるぞ、オイ。
「マリステラ、お前選べよ。レディーバーストってやつだ」
「それを言うならレディーファーストだろ。ばーか」
「あ゛あんっ!?」
「……じゃ、お言葉に甘えて」
年齢不相応の馬鹿を晒したクソガキ1にすかさず茶々を入れるグリーンは正直痛快だったが、ここでまた喧嘩されても困る。両者を手で制してボール3つの前に改めて立てば、好奇心に満ちた3対の眼がまたこちらを見上げてきた。
ふむ、どうしようか。
さっき述べた通り、御三家を貰えるなら誰を貰うかは二の次だったので、順番が最後でも全く構わなかった。ゲームでは主人公の弱点タイプを必ずライバルが選ぶようになっていたけど、それだって後から他のポケモンで補えばどうということもない。
……こうして最初の選択権を貰ってしまうと、目線はどうしても3つのうち1つに吸い寄せられてしまう。というのも、私が最初に買ったポケモンは初代赤版。そして赤版のパッケージを飾り、小学生だった私がビジュアルだけで選んだ最初の1匹といえば。
「この子にします」
「おお、ヒトカゲか! そのポケモンは本当に元気が良いぞ! 炎タイプは育てるのに少し根気が要るが、そこは腕の見せ所じゃな」
「頑張ります」
というわけで、選ばれたのはヒトカゲでした。いや選んだの私だけど。
「おっし、じゃあオレはコイツ! コイツに決めた!」
どすっと私の身体を押しのけて、クソガキ1がボールを1つ取り上げる。入っているのはゼニガメだ。うん、まあ、予想はついてた。
「じゃ、じゃあボクはコイツ……へへっ、ボクのポケモン……へへへっ」
最後のフシギダネも無事にクソガキ2の手に渡り、これでゲームと違ってテーブルのボールは全てなくなった。
「これで君達は正真正銘のポケモントレーナー。バトルの腕を磨くもよし、更なるポケモンとの出会いを求めるもよしじゃ。但し、今日パートナーになったポケモンを大切に、信頼を築くことを忘れるでないぞ」
にこやかながらも真剣に紡がれた戒めに、「はい博士」と返事をしたのは案の定私だけ。クソガキ1はもう用は済んだとばかりにそっぽを向いているし、クソガキ2は舐めるような視線でボールを見ては含み笑いを漏らしている。
お前らさ、せめて聞いてる振りくらいはしろよ。幾ら博士が子供に優しくても流石にカチンとくると思うぞ。
「リスティ、ポケモン見せて!」
「ぼくも見たい!」
よし解散、という博士の号令に被せるように、グリーンとレッドがじゃれついてくる。こいつらの可愛さをあのクソガキ共にも分けてやってほしいものだ。今度こっそり飲み物に爪の垢でも煎じて入れてやろうか。
「言うと思った。いいよいいよ。じゃあ中庭お借りして……」
「待てよ、マリステラ」
ああ、うん。これもまあ予想通りだ。
なんていうか、こういうところはお約束を踏襲してくるもんなんだな。
「折角ポケモンを貰ったんだ。わかるよな?」
「……バトルでしょ。いいよ別に」
「い、言っとくけド、オマエが元から持ってる奴らは使うなよ! 使ったらルール違反で失格なんだゾ!」
「了解了解。ちゃんと今貰った子で勝負するよ」
というわけで博士にそのまま研究所の中庭(保護ポケモンが入らない場所)をお借りし、そのままバトルをすることになった。朧気なアニメの記憶だと結構ポカやボケをやらかしていた記憶もあるが、基本的にオーキド博士は子供に寛容で立派な大人だと思う。本当にたまにすんごい天然爆弾落としてくるけど。
「審判はワシが引き受けよう。まずは誰と誰がやるんじゃ?」
「もっ勿論オンガ君とマリステラ……」
「マリステラとギンピだ。ほら、早く行けよ」
「えっ?」
てっきり親分と私だけがやり合うものだと思ってたのだろうクソガキ2がぎょっとした顔をするものの、クソガキ1に何やらヒソヒソと囁かれ同じように悪い顔をし始めた。声自体は聞き取れないが、まあ「お前(クソガキ2)のポケモンでマリステラ(私)のポケモンを弱らせ、その後オレ(クソガキ1)がボコボコにする」みたいな話だろう。ていうかそれ以外に考えようもない。
……馬鹿だなあ。
「ヒトカゲ」
「ギャオ」
あっちがその気ならこっちも多少は対策しておこう。何せ貰ったポケモンはようやくパピー期を脱した状態。レベルも低いし持ち味を活かせる技も覚えていない。そして、自分に指示を出すトレーナーとも初めまして状態だ。
この状況でいきなり連戦なんてしたら、最初はまだしも次で詰まる可能性がある。別に負けたところでゲームのように「めのまえが まっくらになった!」とはならないだろうが、ここぞとばかりに所持金を丸ごと奪われるリスクもある以上勝つに越したことはない。
「まずは初めまして。私が今日から君のトレーナーになるマリステラです」
「クー?」
「そう。マリステラ。リスティって呼ぶ人もいるけどね。最初に幾つか聞きたいんだけど、君は私のポケモンになることに不満はある?」
「ケ? ケー」
不思議そうにしながらも首を横に振るヒトカゲ。「可愛い!」と悶えたいのをぐっと堪える。
「じゃあ、バトルはどう? ポケモンバトルは好きかな?」
「……ギャウ」
うーん、と考える素振りを見せた後、首をこてんを傾げる。はいともいいえとも取れない。まあバトル自体未経験なのだから仕方ないだろう。全力で拒否されなかっただけ良しだ。
「それじゃあ、まずはあそこの2人と順番にバトルしてみよう。もし君がバトルを好きになったら、私は君を強くするための協力を惜しまない。好きになれないなら、自衛以外で君をバトルには出さない。それでいいかな?」
「クケっ!」
「よし。じゃあまずは相手の動きをよく見ることと、私の指示をちゃんと聞くこと。この2つだけ意識してやってみよう。良いかな?」
「カゲー!」
「うん、良いお返事」
意思疎通は問題なし。本ポケも協力的。これならまあ何とかなる。
体格も顔立ちも全く違うのに同じようなニヤニヤ笑いを浮かべこちらを見るクソガキ共に肩をすくめつつ、「行っておいで」とヒトカゲを送り出す。相手は当然フシギダネ。心なしか動きに緊張らしいものが窺える。
「それではオンガ対マリステラ、ルールは1対1のシングル――――バトル開始!」
いつもよりずっとキレのあるオーキド博士の合図と共に、私の人生初ポケモンバトルの火蓋は落とされたのだった。
《キャラ設定》
○マリステラ(リスティ)
・年齢:11歳
・性別:女
・身長/体重:未設定だが身長は平均より高い
・外見:灰色がかった銀髪ロングヘアと左右ともに黄色みが強いアースアイ
・特記事項:クソガキ共をライバルとは思っていない。クソガキはクソガキただそれだけ
【所持ポケモン(参入順)】
・メタモン(カフカ):ー/Lv.??
・????(フラウ):♀/Lv.9
・ヒトカゲ(????):♂/Lv.4
○オンガ(クソガキ1)
・年齢:11歳
・性別:男
・名前の由来:オンガオンガ(ニュージーランドの有毒植物)
・コンセプト:汚いジャイアン+長所のないドラコ・マルフォイ
【所持ポケモン】
・ゼニガメ:♂/Lv.4
○ギンピ(クソガキ2)
・年齢:11歳
・性別:男
・名前の由来:ギンピギンピ(オーストラリアの有毒植物)
・コンセプト:汚いスネ夫+短所を強調したヴィンセント・クラッブ
【所持ポケモン】
・フシギダネ:♂/Lv.4
○レッド
・年齢:9歳
・性別:男
・特記事項:未来のレジェンドの赤い方。今はまだ一人の夢見る少年
【所持ポケモン】
・?????
○グリーン
・年齢:9歳
・性別:男
・特記事項:未来のレジェンドの緑の方。今はまだ一人の夢見る少年
【所持ポケモン】
・????
○オーキド博士
・年齢:60歳手前(予想)
・性別:男
・特記事項:クソガキ2名については当然手を焼いているが、年齢の割に老成しているオリ主に対しても頼りにしている反面一抹の心配がある