自分への尻叩きも兼ねて取り急ぎアップしました。できるだけ早めに続きをあげられるよう努力中ですが、不発に終わったらすみません。
※2026/7/12追記:誤字脱字を修正しました。ご連絡くださった方、ありがとうございました。
「おー……ホントにハナダシティだ」
おつきみ山の正規登山ルートから大きく外れた先。険しい坂道を登ったり降りたり、暗く足場の悪い洞窟を入ったり出たりしながらようやく辿り着いた出口。一度も通ったことのない、前後左右どころか上下にも曲がりくねった獣道のお陰で方向感覚はとっくに無くなっていた。
が、記憶にある人家の群れを遠目に見つけるなり一抹の不安はすぐに消えた。それまで泣いていたのに、探しに来た親の顔を見るなり一気に笑顔になる迷子って多分こんな気持ちなんだと思う。
正確には私は迷っていたわけじゃないが、やはり見知らぬ道を延々歩くというのは大なり小なり不安になるものだ。……そこが人の手の入らない場所なら、尚更。
「助かったよ、ヌシ。秘密の通り道なのに教えてくれてありがとうね」
「……ギュオ」
ズズ、ズズ、と低い地鳴りのような音と震動を立てながら、此処までの案内役をしてくれたヌシの口元を撫でる。以前トキワジム対策として、まだヒトカゲとラルトスだったアシュラムとフラウのバトル相手をやってくれた野生の大イワークだ。長い間おつきみ山で暮らしている彼は、恐らくこの山について最も詳しいポケモンの1匹だろう。
「ピッピィ」
「ピィッ!」
「おっとごめんごめん、君達も色々ありがとうね。楽しかったよ」
「ピッピ!」
そんなヌシの身体に乗って一緒についてきたピンクの塊達は、先日の遭難者騒ぎで偶然出会ったピッピ達だ。ここ数年は見かけることすら稀なポケモンのはずなのに、山中でデータを採っていた私を見つけるなり集団で押しかけてきたんだから驚きだ。どうやら私は先日のアレソレで無害判定されているらしい。正直可愛いし嬉しいけど、いつまたロケット団が来るかも分からないんだから、せめてあと2年は隠れていて欲しい。
……そういえばいなかったな、ロケット団。このところずっと山中を歩き回ったけど、あの特徴的な黒に『R』の制服は一切見かけていない。化石なりピッピなりを目当てにした下っ端と遭遇することはありそうだから結構意識してたんだけど、正直肩透かしだ。
いや、いないなら別に、というか全然良いんだけど。
「悪の組織を潰すのはあくまで主人公、ってことかねえ」
「もぉん?」
「うんにゃ、なんでもないよ」
いかんいかん、独り言が漏れてしまった。不思議そうな声を上げたカフカをよしよししてごまかしておく。ロケット団自体はどうでも良くないどころか重要事項だが、今はこの山を荒らす連中がいなかったことを素直に喜んでおこう。
「にしても、正規ルートなら徒歩6時間のところを3時間ちょっととは恐れ入ったわ。ねえヌシ、この道本当にこれからも使っていいの?」
「グオ」
「そっか。正直助かるよ、ありがとう」
「グオウ」
いいってことよ、とばかりに大小の岩が連なる尻尾を軽く振るヌシ。よく分かっていなそうながらも、何故かえへんと胸を張るピッピ達。全員可愛いので順繰りに頭を撫でておく。
よーしゃよしゃよしゃ。うちの子達が一番だけど君達も可愛いね良い子だね。きのみのお裾分けもしてあげようね。
「この先は他の人間に会いやすいから、お見送りは此処まででいいよ。みんな本当にありがとう。またそのうち会いに来るから、それまで元気でね」
「ギュオウ」
「ピッピ!」
「ピィ!」
「ピッピピ!」
尻尾や短い手を思い思いに振ってくれるポケモン達に見送られつつ、ようやく近づいてきた水色の街に少しだけ心が浮き立つ。何度か立ち戻ったポケモンセンター以外では数日ぶりの人工物、いや建造物だ。ちょっぴりはしゃいでしまうのも許して欲しい。というのも、
「まさかピッピよりもパラスを見つけるのに苦労するとは思わなかったわ……」
「もんも」
そう、先日ニビシティを意気揚々と出発した私ことマリステラ、なんとおつきみ山周辺でだいぶ足止めを食らってしまったのだ。
いや、足止めというのは正しくない。別に物理的に何かあったとか誰かに妨害されたとかではなく、単にデータが欲しいポケモンがなかなか見つからなかったってだけなんだけども。
一応だが、ざっと経緯を語っておこう。
まず前提として、私はポケモン図鑑(プロトタイプ)のテスターとして、その土地のポケモンに多く遭遇するよう意図して動いている。それはニビシティを出てからも変わっていないため、私はまずニビとおつきみ山を繋ぐ3番道路に暫く居座ることにした。居座るといっても、麓にあるポケセンが拠点になるわけだが。
滞在1日目、3番道路でつがいになったばかりのニドラン達を見つけたことで彼らのデータはすぐ採ることが出来た。更に翌日、道中勝負を仕掛けてきたミニスカートの少女と手持ちのプクリンに協力してもらい、野生のプリンやププリンも比較的楽に見つけられた(その女の子には「捕まえないの!?」と驚かれたが)。
その後、おつきみ山に入ればイシツブテやズバットは向こうからやってきた。比較的珍しいイワークのデータは、ヌシのお陰で楽勝だった。
そして当初一番手こずると思っていたピッピに関しては、もうご存じの通り。
……のだが、最後の最後で躓いた。
それがパラス。図鑑ナンバー46で分類は『きのこポケモン』。パラセクトへの進化にそこはかとない闇というか生命の神秘(或いは恐怖)を感じさせるちょっと曰く付きのポケモンである。ゲームプレイ当時の図鑑説明で幼心に戦慄した設定ではあったが、『ぽこあ』でその設定が生きてることが証明されたのもかなりの衝撃だった。
という小話はさておくとして、このパラスがまあ見つからない見つからない。確かにおつきみ山では「少数ながら生息している」とされているのでイシツブテやズバットに比べれば珍しいのは間違いない。が、それでも希少性でいうならピッピの方が圧倒的に上なのは間違いない。なんせピッピは本当にここ3年の目撃例が1、2件くらいだし。
なのに私はパラスが見つけられなかった。本当に、草の根かき分ける勢いで探したのに見つからなかった。
勿論、ヌシやピッピ達にも勿論聞いてみた。のだが、種族的に群れを作らずあっちこっちに移動しているパラスは決まった住処を持っておらず、同じ山に住む彼らでも居場所を特定することは難しかった。なので本当に、何日もかけて山の隅から隅まで自分の脚で探さなければならなかったわけだ。
………………いやーもう、本当に、本っっっ当に苦労した。イワークどころかピクシー(1.3メートル)が頭をぶつけるような小さい横穴の奥でやっと見つけたときは喝采どころか絶叫しそうになった。カフカが咄嗟に口塞いでくれなかったらマジで叫んでたと思う。ありがとう相棒本当にありがとう。
「――カフカ」
「もん?」
とまあ、そんな問わず語りはそろそろ切り上げることにして。
「約束通り、此処からはカフカも本格的にバトル編成組み込むよ」
「!」
「ずっと待たせてごめんね。頼りにしてるよ、相棒」
「めぇったもん!」
「んっふふ、くすぐったいってば」
モチモチプニプニの身体を目一杯使って顔に抱きついてくるカフカを撫でる。
今日此処に至るまで、カフカはサカキとの追加バトルを始め一部例外を除きバトルには出してこなかった。主な理由はカフカとレベル差のあるフラウとアシュラムを優先して鍛えるため。ちゃんと話し合って決めたことではあるけど、元来バトルが好きで強くなることにも熱心なこの子には随分我慢をさせてしまった。
喜んでしがみ付いてくるカフカは可愛いが自分の髪がチクチクして鬱陶しいので、よいしょと両手で抱え込む。……何だか少し懐かしい感覚だ。この子が私の左肩を定位置にする前は、こうやって抱っこしながら歩くのが常だったっけ。
「はい、これで下山処理完了です。お疲れ様でした」
「ありがとうございました」
登山口で手続きを済ませ、あとは歩いてハナダシティに向かうだけ。ゲームだとこの道は一方通行になっていて、抜けると暫くニビやトキワには戻れなくなったけど、当然この世界でそんなことは無い。
前も何処かで言ったが、おつきみ山は登山道もちゃんとあるし車が通る道路も整備されている。ちなみにニビとハナダを行き来する高速バスは、平日なら1時間に2本ペースだからなかなかのものだ。
「おーい! そこ行く嬢ちゃん!」
「…………私か。はい、何でしょう?」
が、こうやってポケモン連れで歩いているとトレーナーが勝負をしかけてくるのはゲームと然程変わりない。とはいえ『!』のフキダシと共に拒否権ナシ問答無用というわけではなく、ちゃんと一声かけてくれる上に辞退も出来るんだが……アレって本当ゲームだからこそ許される仕様だよね、うん。
「見たところポケモントレーナーだな? 休憩がてら、おじさん達と一勝負どうだい?」
「是非お願いします」
……という感じで。
登山道を出て早々話しかけてきた山男いや登山者の男性はじめ、バトルを仕掛けてきたトレーナーは全部で4人。ポケモンのレベルは総じて18~24という感じで、手持ちも多くて3匹くらい。バトルの内容は省略してしまうが、危なげなく全勝できたということは報告しておく。
「問題なさそうだね、カフカ」
「もんも!」
よしよし、調子が良さそうで何よりだ。レベルも全員かなり順調に上がっているし、ハナダに着いたらサクッとジム戦に挑んでみるのもありかも知れない。相変わらずパーティ全体のタイプ相性は良くないが、相性の悪さは今に始まったことじゃない。なんせ最初が地面で次が岩、そして今度が水ときたもんだ。ゲームではトキワジムが強制的に最後のジムになるとはいえ、ヒトカゲを選んだトレーナーにはつくづく優しくない配置である。
「はい、ハナダシティとうちゃーく。山越え挟んだから達成感あるね」
「もん」
「流石に疲れたしポケセン行こうポケセン。シャワー浴びたい」
「もんもんっ」
ヌシが教えてくれたポケモン達の山越えルートはかなり時短になったが、人間が踏み固めていない分それなりに神経を使う道だった。ただ体力をつけたり体幹を鍛えるには割と持ってこいな環境だったので、またそのうち利用させて貰おう。
「それではポケモン達をお預かりしますね」
「よろしくお願いします」
いつも通り手持ち達をジョーイさんに預け、宿泊手続きもする。期間はトキワの時と同じく1週間。何せハナダの周辺には、今は立ち入れないハナダの洞窟を除いても行っておきたい場所がそこそこあるので。
その後はカフカ達を待つ間にシャワーを済ませようと思ってたけど、まだやることが他にあった。目当てはメインフロア端に設置された電話機だ。
『! おお、マリステラか。調子はどうじゃ?』
「おかげさまで。博士もお変わりなく」
『おーいリスティ、此処にオレもいんだけど?』
「はいはい。ちゃんと見えてるよ。グリーンも元気そうで何より」
レポート用紙の束を持ったまま通話に応じたオーキド博士の横から、ずいとグリーンが身を乗り出す。こうして見ると、まだまだ博士より頭一つと半分くらいは小さい。男の子の成長期は女の子より遅いから、彼が祖父に追いつくのはもう暫く先だろうか。
「レッドは?」
『おばさんの忘れ物届けに行ってる。あーあ、タイミング悪ぃ奴』
「ありゃりゃ。まあハナコちゃんも忙しいからね」
『こら、グリーン。大事な話があるんだから少し下がりなさい』
『ちぇっ』
ぷく、と頬を膨らませながらも素直に身を引くグリーンは何だかんだ良い子だ。ゲーム本編だとひたすら主人公を煽ったりと失礼な言動が目立つが、やはりゲームと現実は違うってことだろう。
『それでマリステラ、図鑑の調子はどうかね?』
「特に問題ありません。いつも通り動かせてしますし、動きます」
『処理速度は?』
「それも……ええと、はい。今のところは大丈夫ですね」
『そうか』
念のため図鑑を広げてカチカチいじってみる。うん、特に問題なし。
『それなら一安心じゃな』
「ですね。一度蓄積したデータを吸い出したのと、データ取得対象になる条件を絞ったのが良かったと思います」
『うむ……』
何の話かと言えばポケモン図鑑の話だ。以前トキワシティにいたときに『図鑑のデータ使用量がヤバい』という報告は既にしていたんだけど、実は私がおつきみ山にいた時点でデータ使用率はもう60%に迫る勢いとなっていたのだ。
というのも、3番道路やおつきみ山というのは当然野生のポケモンだけでなくポケモントレーナーも多く出入りする。そして彼らの中には野生であまり見かけない最終進化や条件進化のポケモン、或いはカントーにいないポケモンを連れている人達も少なかれ存在する。そんな彼らとのバトル中にも勤勉なポケモン図鑑くんはせっせとデータ収集を続け、その結果博士の想定よりもかなり早く使用容量が半分を超えてしまったわけである。
そんなわけで、私は一度マサラタウンに戻ることになった。そして一度戻ったならとその日は実家にも顔を出し(父からは大歓迎、母からは非常に軽い対応をされた)、レッドとグリーンにせがまれるまま2回しか熟していないジム戦や出会ったポケモンの話をし続けることになった。
ちなみに2人は進化したアシュラムとフラウに大興奮し、そのまま我が家に寝泊まりしていった。フラウはまだしもアシュラムには電話越しに一度会っていたのに興奮度は大差なかった。
……で、マサラまで戻ってきたなら次の通院も済ませたら良いってことで、そのまま数日留まってから改めて出発。実家のありがたみを噛みしめつつオフィウ先生*1の定期検診を受け、その後は可及的速やかにおつきみ山に戻ったわけだ。
つまり私がパラスを見つけたのは、おつきみ山に戻ったその後。最初にニビを出てから数えると10日くらい経っている。我ながらどんだけ時間かけてんだ。
『とはいえ、これでは根本的な解決になっておらん。容量不足かデータの転送方法か、せめてどちらかでも早急に改善せねば君の、ひいてはいずれ図鑑を持つであろうトレーナー達の邪魔になってしまう』
「それは……否定できないですね」
定期検診がある私と違って、いちいち図鑑のためだけに旅路を戻る必要が出るのは確かに煩わしいだろう。とはいえ私もゴリゴリの文系(前世)だからこういうことは全然分からないし、はてさてどうしたものか。
『…………そういえばマリステラ、今君は何処にいるんじゃったかの?』
「ハナダシティですが」
そういえばまだ伝えてなかったなと思いつつ答える。すると博士は目を見開いたかと思えば、『それじゃ!』と声を上げる。それじゃってどれじゃ?
『すまんが近日中に今から言う場所を訪ねてくれんか。先方にはワシの方から先に連絡しておくから』
「分かりました。どちらに向かえば?」
『ハナダシティの北側に出る24、25番道路の先にある一軒家じゃ』
お?
『彼は若いのにそんな場所にたった1人で住んでおる変わり者でな、しかしこういったことには滅法強い。君もいずれ使うことになるじゃろうが、ポケモンの転送システムを生み出した立役者じゃよ』
おお?
『名前をマサキという。ハナダではポケモンマニアで通っておるが、本職は技術者じゃな。彼に図鑑を見て貰って、問題の突破口について相談してきてくれんか』
…………そっかあ、此処でその名前出てくるか。
私が彼を訪ねる理由なんて聖地巡礼(いや物見遊山)くらいだと思ってたけど、こういうきっかけって有り得るんだね、我がことながらびっくり。
《キャラ設定》
○マリステラ(リスティ)
・年齢:11歳
・性別:女
・特記事項:ここで繋がるんか、と若干アハ体験中
【所持ポケモン(参入順)】
・メタモン(カフカ):―/Lv.33 → 34
・キルリア(フラウ):♀/Lv.23 → 28
・リザード(アシュラム):♂/Lv.22 → 29
※3番道路~おつきみ山滞在中のレベルアップ含む
○オーキド博士
・年齢:58歳(捏造)
・性別:男
・特記事項:メカに弱いわけではない。あくまでポケモンが専門なだけ
○グリーン
・年齢:9歳
・性別:男
・特記事項:地頭がいいのでポケモン図鑑の問題については恐らく理解している
○レッド
・年齢:9歳
・性別:男
・特記事項:今回は名前だけ登場。母子家庭なので今回のようなことは割とある