主人公じゃない私のポケモンワールド異聞録   作:時緒

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予想通りというか危惧した通りというか、書きたいシーンと書きたいシーンの繋ぎが上手く出来ず何度も書き直した結果更新が遅くなりました。でもまさか丸々2週間空けてしまうとは思わず筆の遅さに絶望です。他にも仕事のトラブルで土日が潰れたりとかもあったんですが…。

ともあれ一番書きにくいところは超えたので、お盆期間でもある今週はいつもよりは少し短い間隔で続きを更新出来ると見込んでます。お盆休み取ってないのと若干今トラブルが続いているので絶対とは言い切れないのがアレですが。

※2026/8/31追記:誤字脱字を修正しました。ご連絡くださった方、ありがとうございました。



19. 特に狂ってない普通のお茶会

保護施設に保護されたポケモンは、身も蓋もない言い方をすれば『取扱注意』だ。何らかの理由で野生の群れを追われた個体だったり、トレーナーから捨てられたり虐待されていたのを保護された個体だったりする。だから傾向として人間に対する警戒心や忌避感が強く、態度も反抗的であることが多い。中には最低限の食事や治療すら拒否する個体も珍しくないんだとか。

ちなみにそういう場合はどうするかと言うと、眠りやマヒ状態にして動きを止めた上で点滴を打つのが正攻法。さながら錯乱した精神病患者みたいな扱いだが、実際そうでもしないと衰弱死する危険もあるんだから仕方ない。

 

というわけでミドリさんの保護施設、通称『ポケモンの隠れ里』を手伝うことにしたものの、やることというか出来ることはあまり無いだろうなと思っていた。ミドリさん側の意図がどうであれ、こういうのはポケモン側がどの程度私という異分子を許容してくれるかに大きく依存する。私が変に積極的になっても嫌がられる可能性が高いし、ミドリさんが下手に私を関わらせようと出張れば彼女への信頼に罅が入る。

だから私に出来ることは裏方、つまるところあまりポケモンと直接接触が無い仕事に留まるだろうなと、まあ、そんな風に思ってたんだけど……。

 

「お痒いところございませんかー?」

 

なんか現在進行形でポケモン達のシャンプーしてるぞ。スキンシップっていうか完全にボディタッチだ。

 

「シィ……」

 

頭の片隅には折に触れて「良いのかコレ」と疑問が浮かぶものの、気持ちよさそうな鳴き声を欠伸混じりに上げるケーシィを見れば、そんな些細な引っかかりはたちまち消えてしまう。

ニビのジムリーダーと良い勝負の糸目と正面から口元が見えにくいせいで感情が伝わりにくいけど、ぐでっと弛緩した体から感じる重みのお陰でリラックスしてくれているのは分かる。肩周りをほぐすように揉んでやると、また「シィ」と蕩けた鳴き声が漏れた。

 

「はい、お疲れ様でしたー」

「シ……ジィ」

 

全身の泡をお湯でしっかり流し、カフカが手渡してくれたバスタオルで包んでやる。抱き上げて浴槽代わりの洗い桶から下ろすと、隣に控えていたアシュラムが丁寧に体を拭くのを手伝い始めた。そういえばフラウはどうしたと軽く周囲を見回せば、ミドリさんが事前に用意していた冷たいモーモーミルクをケーシィの絵が描かれたコップに注いでいる。うちの子は本当に気が利いてて可愛い。気が利かなくても可愛いけど。

 

「ナッゾ!」

「おー、次は君か」

「ナゾ!」

 

桶に残った泡をすすぎ終わった途端、勢いよく中に飛び込んでくるのはナゾノクサ。一応「ミドリさんじゃなくていいの?」と聞いたが、弾けるような満面の笑みで頷かれた。

 

「カフカ、お湯の温度下げてくれる? 35℃ね」

「もん」

 

ともあれ、今は仕事だ。

草ポケモン全部がそうじゃないけど、ナゾノクサやマダツボミに40度以上のお湯は少し熱すぎる。給湯器の操作もお手のものな相棒が「もんもー(もういいよー)」とこちらに差し出したシャワーヘッドを受け取り、大人しく座っているナゾノクサの後ろ頭(いや背中?)に水をかけていく。

 

「湯加減大丈夫ですかー?」

「ナゾォ」

「そかそか。じゃあ洗ってきまーす」

 

ナゾノクサやフシギダネのようなタイプは、植物と本体(この言い方が正しいかはわからんが)との繋ぎ目や葉っぱの間に汚れが溜まりやすい。あと硬いブラシでゴシゴシしてしまうと葉が傷ついてしまうので、基本は手作業だ。クサイハナになったらある程度頑丈になるけど、ナゾノクサの葉っぱは特段デリケートだから気をつけなければならない。

 

「ベットォ」

「ん?」

 

マッサージとシャンプーで少しずつ溶けていくナゾノクサを面白く見下ろしていると、背後で何かが動く気配と小さな鳴き声。振り返れば少し離れたところにニドランカップルとニョロモ、そしてあのベトベターが一列に並んでいる。

 

「順番待ちかな?」

「ベトッ」

「んふふ。じゃあ少し待っててね。ナゾノクサ、お痒いところございませんかー?」

「ナァゾォ……」

 

殆どの子がミドリさんに洗って貰うのを待っている中で、こうやってわざわざ選んで貰えるのは素直に嬉しい。ま、最初のケーシィだけは18時間の長時間睡眠から起きたばかりで寝ぼけてるところをなし崩しに洗わせて貰った感じだけども。

 

ということで思いがけず予約のお客様が増えたので、頭を切り替えてナゾノクサのシャンプーに戻る。急ぎたいが手抜きは厳禁。雑な手入れはポケモン側がすぐ察知するし、察知されてしまえば決してリラックスはしてくれなくなる。

人間だって自分の髪を切ってる美容師の手つきが雑だったら結構すぐ分かるし、そこんところは同じだよね。

 

耳の大きなニドラン達は中に水が入らないように、かつ肉球の隙間に入り込んだゴミを丁寧に取る。ニョロモはみずタイプで肌が乾燥と熱に弱いので、こちらの手も冷水で冷やしてなるべく熱が移らないように。ベトベターはシャンプーの類は使わず、代わりにお湯の温度を高めにした上でマッサージを入念に行って全身をほぐしていく。

 

「っし、これで終わり。お疲れ様でしたー」

「ベェトォオ」

 

ただでさえ流体の体が更に溶けちゃってますぜ、お客様。そのままスライムよろしく桶から溢れて流れ出ていきそうなので、ぺちぺち叩いて気を取り直して貰う。心なしか手触りが滑らかになった感じがするな。体がヘドロで出来ているというから最初はもっと泥みたいな感触かと思ったけど、実際は水気の多いスライムって感じ。進化したら本当に一度ベッドになって貰おうかな。

 

「マリステラちゃん、こっちはもうすぐ終わるから、良かったら貴方のポケモン達も洗ってあげて。シャンプーや石鹸は好きに使って大丈夫だから」

「いいんですか? ありがとうございます」

 

丁寧にトサキントの鰭の手入れをしながら笑顔を向けるミドリさん。その手つきに迷いや淀みはない。元々ナースだったのは壁の写真で分かっていたけど、此処まで手入れが上手いのは失礼ながら正直意外だ。もしかしたらナースになる前はコーディネーターか、或いはその志望者だったりもしたんだろうか。

 

……別に何でもいいか。別に迷惑かけられたわけでもないってのに、他人様の過去を下手に勘ぐるもんじゃない。大人しく厚意に甘え、ひとまずいの一番に近寄ってきたアシュラムを後ろ向きに座らせる。

 

「アシュラム、体拭くから痒いところあったら教えてね」

「ギャウゥ」

 

ほのおタイプも水が比較的得意な種族とそうでない種族がいるが、ヒトカゲ系統は後者の典型例だ。だから水遊びは勿論、温泉に浸かることにも抵抗を示す。とはいえ水分は生きるために必要だし、汚れれば不快感も覚える。だからドライシャンプーで汚れを吸着し、レンジで温めた塗れタオルを使ってしっかり拭いてやるのがベスト。

 

「フラウはやっぱり首回り凝るねえ。痛かったらすぐ教えてよ?」

「リィルゥ~」

 

エスパータイプは総じて頭をフル回転させている関係上、頭皮やリンパ周り(に当たる部分)が非常に凝りやすい。自主的に水浴びやシャワーで清潔に保っていることが多いのでその分マッサージを念入りに行うのが肝要。フラウ、というかラルトス系統は体の形が人間に近い分、凝りやすい部位が分かりやすくて助かる。

 

「カフカさーん、溶けてますよー。気持ちいいですかー」

「……もぉん、もぉ」

 

じゃあノーマルタイプはというと、一概に「こうしましょう」という手入れ方法が無かったりする。様々なタイプとの複合が多く、単タイプであってもその姿はなかなかに千差万別。だから「ノーマルタイプならこうしましょう」ではなく「このポケモンはこうしましょう」と個別に考える必要がある。

これについては突き詰めればどんなポケモンでも最終的にそうなんだけど、さっき並べたように『○○タイプならまずこれ』みたいなのが無い分、ノーマルタイプの手入れは少しばかり気をつける必要があるわけだ。

 

が、4歳の頃から付き合っている相棒の手入れ方法に今更迷うわけもなく。何処を触ってもプニプニモチモチの体を指圧で揉みほぐしていくと、心なしか反発力が減ってとろみが増した。ような気がする。

 

「このままどっか流れてかないでよー?」

「もぉ~、ん……」

 

辛うじてこちらの言葉を首肯してくるが、不安になる程に響きから気が抜けている。リラックスしてくれてるなら冥利に尽きるが、流した水と一緒にどっか行っちゃったらどうしようって気持ちに毎度なるのはこの子が不定形だからだろうか。

 

「お疲れ様、マリステラちゃん。少し休憩しましょう」

「お疲れ様です」

 

最後のひとりだったヒンバスを洗い終えたミドリさんに促され、ダイニングの椅子に座る。テーブルには氷が入ったミルクティーとお茶菓子が用意されていた。どうやらハピナスがやってくれたらしく、ミドリさんが「流石ね」とにこやかに褒めていた。私も「ありがとう」と汗かいたグラスを持ち上げてお礼を言っておく。

口に含んだ冷たいミルクティーは、濃厚で甘くて美味しい。普段は水かブラックコーヒーが多いのもあって、甘さがガツンと疲れた身体に染みた。

 

ハピナスはにっこり笑うと、そのままヒンバスを抱えて水槽の方に向かっていく。そのまますぐ水の中に戻るかと思ったが、用意されていたモーモーミルクをストローで飲み始めた。身体の形態からして陸上適性は低いものの、コイキングと違って陸地でも自立(?)は出来るらしい。

 

……それにしても、見たところ鰭は艶があるし鱗が松ぼっくりのように開いたりもしていない。特別痩せているようにも太っているようにも見えないし、一見すると普通に健康そうだ。ミルクが飲めるなら胃腸が悪いわけでもなさそうだし、一体何が原因で療養しているんだろう。

 

「……ヒン?」

「おっ」

 

ついじろじろ見てしまったせいか、視線に気づいたヒンバスとバッチリ目が合ってしまった。ぱちくりとした眼といい少しだけぽかんと開いた口といい、やっぱり愛嬌があってとても可愛い。思わずへらりと笑って手を振ってしまったが、ヒンバスは「ヒンッ!」と短く鳴いて水槽へと飛び込んでしまった。その姿はあっという間に珊瑚のオブジェに隠れ、瞬きしている間にもう見えなくなる。

 

「嫌われちゃったかなあ」

 

やっぱり最初の一言がセクハラになってしまったんだろうか。「そんなことないわよ」とフォローしてくれるミドリさんの優しさが逆にダメージを与えてくる。

……ところでなんだけど、こういうときに「ぴえん」って言うの流石にもう古かったりする? 古いよね? いや古い以前に中身ガチサーが言うのは普通に痛かったわ。自分のことながらアイタタタ。もう二度と言わない。

 

「……それにしても、この数のシャンプーは流石に重労働ですね。これ本当に毎週やってるんですか?」

 

それはそれとしてやっぱり悲しいのは悲しいので、もう話題は変えてしまう。ちなみにミドリさんはずっと笑っていた。別に良いけどちょっと酷くないか?

 

「こういうのは慣れよ。何せもう3年もやってるんだもの」

「3年も」

 

そりゃ色々と慣れてるわけだ。

オーキド研究所でも研究に協力してくれるポケモンの世話はしょっちゅう手伝っていたけど、博士も他の研究者達も(そしてレッドやグリーンも)総出でやっていたから1人辺りの労力は然程でもなかった。人海戦術って本当に有効なんだと、こんな形で思い知るとは正直思ってなかった。

 

ところでカントー地方では成人年齢こそ18歳だが、トレーナーに11歳でなれることから分かる通り、大抵の仕事には15歳までに従事できる。ポケモンセンターのナースを例に挙げると、看護師学校への入学は11歳から可能で、卒業までは最短3年。つまり早ければ14歳で正式なナースと認められるわけだ。つまり弱冠20歳のミドリさんは、単純計算でナースとして3年、そして此処の管理人として3年の計6年も社会人やってることになる。

 

「人を雇う予定はないんですか?」

「それも考えたんだけどね……昨日話したように、あまり不用意なことが出来ないのよ。この子達の心の準備もあるし。でも今はハピナスもいるしどうにか回せてるから、もう少しだけこのまま頑張るつもり」

 

それ多分だけど3年前から同じ事言ってるのでは? とは思うものの、あまり踏み込んだことは言えないので口を噤む。医療従事者はワーカーホリックが多いと聞いたことがあるが、元とはいえ彼女もその類なんだろうか。

 

「おかげさまで今日は随分早く終わったわ。本当にありがとう」

「お役に立てて良かったです」

 

正直いきなりこういう仕事が回ってくるとは思ってなかったが、思ったより協力的なポケモンが多かったお陰でスムーズに済んだのが良かった。正直、見ず知らずの人間にベタベタ触られるのを嫌がって敬遠されることしか想像出来ていなかったし。

 

「あの子達が仲立ちしてくれたみたいよ」

「やっぱりですか」

 

あの子達、とミドリさんが嫋やかな指で差した先は、うちの子達と一緒にモーモーミルクを飲んでいるナゾノクサとベトベターだ。こちらの視線に気づいたふたりがきょとん顔を向けてきたので、へらっと笑って手を振っておく。よく分かっていないなりに笑顔を返してくれるのが可愛い。うちの子にも負けてない。

 

「でも、正直こっちも助かりました。やっぱり旅なんかしてると、家みたいに遠慮無く水や浴室を使えないから」

「やっぱりそうよね」

 

通院とか図鑑のデータとかとは別に、私が実家への帰省に抵抗感を持たないのはこれが理由でもある。幾らポケセンの水道光熱が無料で使えるとはいえ、あんまり無遠慮にジャブジャブ使うのは流石に気が咎めるのだ。

 

「でも、マリステラちゃんは手持ち達をきちんと手入れしてるわよね。こういうのって若いトレーナーさんはあまり気にしてないことが多いから、十分立派だと思うわ」

「それは教えてくれる人が身近にいたからですねえ」

「あらそうなの? もしかしてコーディネーターをやってるっていう?」

「はい。幼馴染みのお姉さんから」

 

ゲームでその設定がいつ頃生えてきたのかは知らないが、グリーンのお姉さんことナナミちゃんはその界隈で大層有名なポケモンコーディネーターだ。FRLGではナナシマの少し古い雑誌で特集を組まれていたほどで、手持ち1匹を毛繕いして懐き度を上げてくれるという無二の役割を持っていたと記憶している。

……あとアレだ、ボイスチェッカーで彼女の噂を集めるのが他の誰より難しかったのが印象的。何だよ、トゲピーを先頭にして本人に話しかけるって。流石に気づかんわ。

 

「……」

 

ミドリさんは私の返答に何か考える素振りを見せたが、ややあって「そうなのね」という当たり障りの無い相槌を打ってきた。多少は気になるけど、別に言及しなくても良いだろう。

 

「もう少し休んだらお仕事再開しましょうか。今日はマリステラちゃんがいるから、いつもより色々なことが出来そうだわ」

「お手柔らかに」

 

初っ端から結構強いジャブ食らったからな。別に嫌ではないけども。

 

「ちなみに本日のご予定は?」

「そうね、いつもならこれからお風呂掃除とおやつの準備、その後で洗い物と夕食の支度ね。シーツとタオルの洗濯は早い内に済ませないといけないわ。光熱費の支払いも今のうちにやっておきたいし、出かけるついでに買い物も済ませなくちゃね。手紙や書留も出したいし、燃えるゴミも今日中に捨てに行かないと。それからキッチン周りの片付けときのみブレンダーの掃除、それからそれから……」

「わーお」

 

やることが……やることが多い……!!

ていうかミドリさん、薄々気づいてたけど貴方やっぱワーカーホリックの類だな?

 

「…………取り敢えず、外出が必要な用事は一通り引き受けますね」

 

移動と荷物運びはフラウに協力して貰えば時短になるだろうし、家の中のことを他人がいじくり回すのはあんまり宜しくない。「まあ、いいの?」なんて無邪気に喜ぶミドリさんにちょっと末恐ろしいものを感じつつ、「大丈夫です」と首をかっくんと上下に振った。

 

いやだって、流石にこの状況で「やっぱもう帰りますサヨウナラ」とはいかんでしょ。自分でオーケー出したことだし、こういう仕事自体が嫌なわけではないし、ね。

 




《キャラ設定》
○マリステラ(リスティ)
・年齢:11歳
・性別:女
・特記事項:ヒンバスに嫌われたっぽくてぴえん超えてぱおん(古)

【所持ポケモン(参入順)】
・メタモン(カフカ):―/Lv.35
・キルリア(フラウ):♀/Lv.28
・リザード(アシュラム):♂/Lv.29

○ミドリ
・年齢:20歳(捏造)
・性別:女
・特記事項:ナチュラルボーンワーカーホリック
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