主人公じゃない私のポケモンワールド異聞録(5/24改題)   作:時緒

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自宅から旅立ちまでで1万字以上かかるって我ながら何なんだろう。


00-3. マサラタウンにサヨナラバイバイ・後編

最初のポケモンを貰ったら、次は最初のポケモンバトル。これは初代でも次の金銀でも同じだったと記憶しているし、恐らく世代を重ねても流れは大きく変わらないだろう。習うより慣れろという言葉は多くのことに適用されるし、ポケモンもそれは同じだ。

 

が、このチュートリアルバトル、特に初代は気をつけないと結構負ける。というか、私は本当に最初のプレイで普通に負けた。たいあたりとひっかくのぶつかり合いという戦略もクソもないバトルの結果、防御力で勝っていたゼニガメよりヒトカゲの被ダメージが大きかったのだ。後から友人に「パソコンからきずぐすり取れるよ」と教えて貰ってリベンジに成功したが、あの敗北でライバルに煽られたのは地味にトラウマとなったものだ。

 

……が、それも今は昔、そして何より箱庭(ゲーム)の話。

 

実際のポケモンバトルにおいて、ポケモンは自分の判断でよく動く。何も言わなくても自分に当たりそうな攻撃は躱そうとするし、ゲームのようにお行儀の良いターン制なんて取るわけもないし、ポケモン自身のスタミナ管理問題だってある。気を抜くとトレーナーの方にも余波が飛んでくるし、マナーの悪いトレーナーや悪党はポケモンより先に人間を行動不能にしようとしてくることもあるらしい(当然だが故意にやるのは反則)。

 

つまり何が言いたいかというと、現実のポケモントレーナーはゲームよりずっと考えることが多いし、判断ミス1つ、知識不足1つが文字通り命取りになるということだ。

 

「くそっ! くそくそ! 何やってるゼニガメ! 『体当たり』だ!」

「ぜ、ぜ、ゼェニ……ッ」

「ヒトカゲ、受け止めてそのまま『ひっかく』」

「カゲェッ!」

 

体当たりの連発で疲労困憊のゼニガメがなんとかぶつかってくるものの、疲れのせいで勢いが足りなすぎる。まだまだ余裕のヒトカゲによって呆気なく受け止められ、顔にガッツリひっかき傷を入れられたゼニガメはそのまま倒れてしまった。ゲームセットだ。

 

「ゼニガメ、戦闘不能。これでヒトカゲの2連勝じゃ!」

「ギャーオ!」

「おーし、よくやったねヒトカゲ。疲れた?」

「ケー!」

「まだ余裕か。じゃあ楽しかった?」

「カゲッ!!」

「おっと。思った以上に乗ってくれてんね。ありがとう、正直助かるよ」

 

バトル嫌いならこれっきり出さないと約束したものの、ヒトカゲ自身が積極的にバトルしてくれるならそれに越したことはない。何度か食らった体当たりのせいで手足に痣ができているものの、抱きついてくる身体は元気いっぱいだ。

 

「く、くそ! 畜生! なんでだ!? 炎タイプは水タイプが弱点なのに!」

「なんでって……」

 

お前それマジで言ってんのか。思わず「ハァ? アンタ、馬鹿ぁ?」と心のアスカが出てきそうになるのをぐっと堪えた。

 

確かにクソガキの言う通り、ポケモンには種類ごとにタイプが存在する。ゲームボーイの赤緑の時点で既に15種類、その次の金銀では『あく』と『はがね』が追加され17種類。更にその後何処かのタイミングで『フェアリー』なるタイプも増えたとか聞いたことがある。ポケモンはタイプ相性によって技の効き方もダメージも大きく違うから、初心者トレーナー達はまずこれを頭に叩き込むところからスタートする。

 

加えて初代赤緑にはきのみやハチマキがなく、持ち物という要素はほぼ存在しないようなものだったし、特性や性格も同様。努力値だけは昔からあったらしいが、それを知っている子供もほぼいなかったと思う。ネットの海を漂って情報収集するという当たり前の手段がなく、ウソか本当かわからない攻略本や子供同士の噂で知恵を絞り合うのが当時のポケモンだったのだ。

 

以上のことから、古のポケモントレーナーにとってタイプ相性の知識は何より重要だった。システムの欠陥からビードル1匹でワタルのカイリューを確殺する方法が見つかったりもしたそうだが、そんな奇策を使わなくても取り敢えずタイプで有利をとり、あとは高レベル帯から殴れば大抵の相手はどうにかなる。それがポケモンだった。

 

が、それはあくまである程度ポケモンを育成し、それぞれのタイプに合わせた技を覚え、更に使いこなせるようになってからの話である。

 

「そりゃ当たり前でしょ。お互いノーマル技しか覚えてないんだから、今の時点でタイプ相性もクソもないに決まってる」

 

ゼニガメをボールに戻しながら喚くクソガキ1に現実を突きつけてやると、汚いジャイアン&スネ夫みたいなクソガキ共がそろってぽかんと口を開ける。

が、ぶっちゃけこれは何も私だけが知っていた情報ではない。博士から貰えるポケモンがレベル一桁前半で、タイプ一致技が未習得であることはちゃんと事前に通達されていた。しかも保護者同伴での説明会でのことだったから、「知らなかった」なんて言い訳が通用するハズも無い。

……のだが、案の定このクソガキ共は都合の悪い情報は全く頭に入れていなかったらしい。道理で初っ端「『水鉄砲』! おい、『水鉄砲』だって!」とか「じゃ、じゃあ『あわ』だ! ……『あわ』も駄目かよ!?」とか言ってゼニガメを困惑させてたわけだ。

 

「ちっ、畜生! 畜生畜生! テメエっ、これでいい気になるなよ! 次はボコボコにしてやる! 今回はビッ……ビッ、ビジターズラックってやつなんだからな!」

「お、覚えてろ~~!!」

 

三下悪役ごっこかな?

どっかのロケット団トリオみたいな愛嬌は全然ないけど。

 

「それを言うならビギナーズラックだろ、ばーか」

「ばーかばーか」

「こら、グリーンもレッドも中指立てない」

 

お行儀悪いでしょ、とポ○テピピ○クみたいに両手で中指を立てる2人を窘める。ごめんね博士、お孫さん達になんか変なこと覚えさせちゃったみたいだ。直接教えた覚えはないけど、たまに私があのクソガキ共の後ろ姿にやってたのを見られてたかも知れない。

 

「まったくあの子達は……まあよい。それよりマリステラ、勝利おめでとう。見事なバトルじゃったぞ」

「ありがとうございます。でもビギナーズラックは確かにありましたよ」

 

まあ実際はビギナーズラックというより、『初心者あるあるの失敗』を向こうがかましてくれたお陰、という方が正しい。

 

最初のフシギダネ戦は、そもそも心の準備もイマイチだったクソガキ2と、そのクソガキ2に何処となく引いていた(間違いなく延々見せていた含み笑いのせいだろう)フシギダネがろくに動けていなかった。指示出しも私が最初に出して、それを受けたヒトカゲが動き出してからやっとという感じだったし、あとは素の機動力で勝るヒトカゲが『体当たり』を避ける合間に『ひっかく』を次々入れておしまい。

 

次のゼニガメ戦はさっき述べたとおりクソガキ1がゼニガメの使える技を全く把握してなかったし、1戦終えて早くも私のクセを覚えてきたらしいヒトカゲは私の「右」の一言で的確に攻撃を避けることができた。そのまま一定の距離を取りつつ『鳴き声』で攻撃力を3回も下げてしまえば、あとは攻撃が当たろうが当たるまいがダメージなんて無いも同然。がっぷり四つに組まれた挙げ句に顔面という急所を『ひっかかれ』たゼニガメは、自慢の耐久力を披露する間もなく倒れてしまった。

 

「ま、流石に次があればこうはいかないんじゃないですかね」

「だと良いんじゃがのう」

「2人とも、あんな奴らもうどーでも良いだろ! それよかすげえなリスティ! いきなり2連勝じゃねーか!」

「かっこよかった!」

「んふふ、ありがと。ヒトカゲが頑張ってくれたからね」

「カゲェッ!」

「おっと、こら動かない。傷薬塗れないでしょ」

 

両手で抱き上げたオレンジ色の身体はずっしりとしていて、尻尾の炎が触れていても不思議と熱くない。確かポニータやギャロップは認めた相手であれば炎を熱く感じないという設定があったハズだけど、もしかしたらヒトカゲの尻尾もそうなんだろうか。ほんのり温かい炎が肩口に触れて、肌を撫でているのは不思議な感触だ。

 

「ピッカ! ピカチュ!」

「ブゥイっ! キュッ、ブーイブイ!」

「カゲ? ケ? ククー!」

 

なんだか私より私の勝利を喜んでいる小僧2人に感化されてか、彼らの相棒達もテンション高くヒトカゲに話しかける。

鳴き声からもう説明不要と思うが、一応紹介しておこう。ピカチュウとイーブイ。どちらもポケモンワールドの顔といって差し支えのない、愛くるしく将来有望なポケモン達だ。言わずもがな、未来の黄色い悪魔と茶色い悪魔でもある。

 

ちなみにこの世界のカントー地方では、正規にトレーナーとして登録可能となるのは10歳から。しかも無条件に誰でもというわけではなく、指定された講習を受講して試験を突破する必要がある。この講習と試験を受けられるようになるのがそもそも10歳以降で、更に合格してもトレーナーカードが発行されるのは一律で次年度4月のため、名実ともにポケモントレーナーを名乗れるのは最速でも11歳だ。

 

但し、トレーナーになる前からある程度ポケモンと関わることは当然ながら可能で(でなければ子供が親の手持ちと触れ合うにも規制がかかってしまう)、然るべき手続きを踏めば自分のポケモンを持つことも出来る。だから10歳以下にしか見えない虫取り少年や短パン小僧が自分のポケモンを持っていても咎められることはまずないし、公式のジム戦などが出来ないだけで野良バトルも出来る。

だから今年トレーナー試験を控えているレッドとグリーンが相棒を連れているのも、別にルール違反というわけではないので悪しからず。

 

「よし、手当終わり。痛いところもう無い?」

「カゲッ!」

「ならよし。マサラはポケセンないから、もう少し休んでから出発しようか」

「ケー!」

 

ついでにうちの子と顔合わせもしておこうと、ボールの中でうずうずする気配を出していたカフカとフラウも出してやる。

 

「メタモンのカフカと、ラルトスのフラウだよ。よろしくね」

「もぉん」

「ルゥ~っ」

「カゲッ、カーゲ、ケー」

 

うん、見たところお互いの相性は悪くなさそうだ。人間と同じでポケモン同士にもどうしても相性があるから、仲良くなれそうならそれに越したことはない。

 

え? なんでカントーにいないポケモン持ってるのかって? 色々事情があるんだよこっちにも。

 

「よし、じゃああんまり長居してもアレだし、そろそろ出発しますかね」

 

気がつけばさっき終わったと思っていたバトルからもう1時間以上過ぎていた。可愛い手持ち達の戯れを見ているとこのまま時間がずるずる溶けていきそうなので、なんとか踏みとどまって腰を上げる。うちの子達は名残惜しそうなピカチュウとイーブイとそれぞれハグや握手を交わしてボールに入っていく。トレーナーよりポケモンの方が余程サッパリしているな、これは。

 

「もう行くのかよ」

「…………」

 

むす、と双子でもないのに同時にへの字に曲げた口が可愛い。ちょっと固めの黒い癖毛と、見た目よりフワフワした茶髪を両手で撫で回してやる。

 

「定期報告はこまめにするし、ちょいちょい帰省もするよ。どうせ旅に出ても隔週の検診は行かないとだしね」

「ふーん……」

「お土産も買ってくるし、新しいポケモンが来てくれたら見せたげるし」

「ほんと?」

「ホントホント」

 

渋々といった様子でようやくスラックスから手を離してくれた弟分の頭を追加でもう1回ずつ撫でて、黙って見守ってくれていたオーキド博士に「行ってきます」と頭を下げた。

 

すると、

 

「おっと忘れるところじゃった! マリステラ、悪いが少し待ってくれ!」

「?」

 

何故か引き留められてしまった。何かを思い出したように慌てて研究所に入っていった博士を頭に「?」を浮かべつつ待っていると、彼は出て行ったときの勢いそのまま慌ただしく戻ってきた。

 

「すまんすまん。実は君にはこれを持っていってほしくてな」

「――――え、」

 

これ、と目の前に出されたものを、私は最初スマートフォンだと思った。手のひらを閉める大きさが丁度そのくらいだった気がしたから。

だけどそれはスマートフォン3台分くらいは分厚くて、大きな青いセンサーライトと、小さな信号色のライトが行儀良く上部に並んでいる。博士が脇のボタンを親指で押すと、パカリと外蓋が左から右に開いた。右利き向けの手帳型スマホカバーとは逆。現れた画面はドットで、ゲームボーイのそれより少し大きいくらい。

 

「これは『ポケモン図鑑』、君が出会ったり捕まえたりしたポケモンのデータを自動で取得し記録する。当然トレーナーによってページ数もデータ量も変わることから、トレーナーごとに世界に1つだけのポケモン百科を作れる夢のような図鑑――――の、プロトタイプじゃ」

「プロトタイプ?」

 

試作品ってことか。見た目からはよく分からないけど。

 

「君には旅を進めがてら実際にこの図鑑を使い、実際にサンプルとなるポケモンのデータを収集してみてほしいのじゃ。勿論、無理のない範囲でな」

「サンプル、ですか」

「うむ。この図鑑は制作にあたってこれまでも信頼の置けるベテラントレーナーやブリーダーに協力を頼んできたんじゃが、やはり旅やバトルに不慣れな新人にこそ問題無く使えるようでなければならんと結論が出てのう。そこでこのタイミングでトレーナーカードを手に入れた君に白羽の矢が立ったというわけじゃ」

 

麻痺しかける聴覚と脳を叱咤して、博士の言葉をどうにか咀嚼する。少しでも気を抜いたらうっかり気絶でもしてしまいそうだ。このたった数分の間に、もう何度瞬きを忘れたかわからない。

 

「この図鑑はワシとこの研究所の集大成の1つとなるじゃろう。故に実用化を目前とした今、託す相手は慎重に選ぶ必要がある。この辺りの事情は、まあ君なら分かってくれると思うがの」

「…………」

「女の子の一人旅じゃ。大変なことも多い。バトルや移動の傍ら、いちいち図鑑を開くのは面倒になるかも知れん。……が、君ならワシらが求める以上の結果を出してくれると思っておる。どうかこの老人の頼み、引き受けて貰えんだろうか」

「…………」

 

流石に即答は出来なかった。たとえ答えが決まっていたとしても。

嗚呼。嗚呼。でも。でもだって。だってだってだって。

こんなことってあるだろうか。こんなことがあって良いんだろうか。

 

子供の頃、ほんの少しの間触れただけの世界で。

周りやその場の必要性に押し流されて、それっきり何年もほったらかした世界で。

異世界転生だの前世だの、余計なものばっかり背負った命で。

 

こんなにも恵まれて、本当に良いんだろうか。

 

「――――っ、はい……、はい! やります、頑張りますっっ……!」

 

出立前から大泣きなんて流石に恥ずかしくて出来ない。絶対周りが困るだろうと気合いで涙腺を締める。震えを堪えた両手で受け取った図鑑はずっしり重く、まだまだ技術発展の余地と、博士が手向けてきた情熱の片鱗を感じた。

 

「いいなーリスティ! なあなあオレにも見せて! なあいいだろー!?」

「ぼくもっ! ぼくも見たい! 見せて!」

「わ、わかったわかった。ちょっと待って服引っ張らない! わかったから!」

 

感傷に浸る間もなく、空気を読まない(この場合はありがたいことに)チビ2人に請われるまま、図鑑を開いてのぞき込む。もうすっかり朧気な記憶と思い出がまた激しく揺さぶられて、鼻の奥がつんと痛んだ。

 

こうして出発は予定より更に遅れ、たまたまオーキド研究所に差し入れを持ってきた母親に「まだいたの?」と痛烈なツッコミを貰うのは、ここから2時間後のことだったりする。

 

 




《後書き》
ゲーム本編はライバルの発言がコンプラ的に際どかったり、オーキド博士がライバルに当たりが強い(+主人公贔屓)に見えることも多々ありますが(特にラストバトル直後)、そこは「容量不足に伴うシナリオ簡略化と当時の風潮の犠牲」と捉え、他の媒体もある程度参考にしつついい感じに解釈して進めたいと思っています。
とはいえキャラの掘り下げ少なめな初期ポケモンと異なり、昨今はシナリオが増えたことによって逆に擁護しにくいキャラも出てくるので、そういった場合は適宜注意書きやタグで自己防衛します(そもそもそこまで連載が続くかは不明ですが)。

なお書き手が一番コンプラ的に問題あると思ってるのは博士でもライバルでもロケット団でもなくタマムシの覗きジジイです。


《キャラ設定》
○マリステラ(リスティ)
・年齢:11歳
・性別:女
・身長/体重:平均より高め/BMI正常域
・髪:灰色がかった銀髪ロングヘアのフィッシュボーン
・瞳:左右ともに黄色みが強いアースアイ
・特記事項:世界初のポケモン図鑑所有者となった。将来はちゃんと有望

【所持ポケモン(参入順)】
・メタモン(カフカ):ー/Lv.??
・ラルトス(フラウ):♀/Lv.9
・ヒトカゲ(????):♂/Lv.4

○レッド
・年齢:9歳
・性別:男
・特記事項:黙っているとクソガキ共に良いようにされるため、ゲーム本編と異なり喋るときはそこそこ喋るようになった

【所持ポケモン】
・ピカチュウ:♂

○グリーン
・年齢:9歳
・性別:男
・特記事項:クソガキ共という悪い見本を反面教師にした結果、ゲーム本編と異なりライン越えの発言はしなくなった

【所持ポケモン】
・イーブイ:♀

○オーキド博士
・年齢:60歳手前(予想)
・性別:男
・特記事項:子供達はなるべく平等に、と思いつつ大切な研究の成果を託す相手はちゃんと選ぶ程度には合理的

○オンガとギンピ(汚いジャイアンと汚いスネ夫)
・特記事項:辛うじてトレーナーにはなれたが素行が悪すぎてポケモン図鑑のテスター試験(基準:オーキドの心証)から知らないうちに落ちていた



ちなみに本作で『ラッタ死亡説』は採用しません。
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