主人公じゃない私のポケモンワールド異聞録(5/24改題)   作:時緒

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01-2. まさかの3人目エンカウント・中編

なんやかんやで食事を終えたら、今日済ませておきたいタスクは買い物だけ。となればさっさと用事だけ済ませるのもアレなので、手持ちを全員出してトキワシティを一周してみることにした。腹ごなしの運動と、ヒトカゲ改めアシュラムのための案内を兼ねてだ。

 

マサラタウンで暮らしていると、トキワシティには何かに付けて行くことになる。だからカフカやフラウには見慣れた場所だけど、アシュラムにとってはこの小さな(但しマサラタウンよりはだいぶ大きな)町も初めての場所。

 

キラキラした顔で忙しなく周囲を見回す彼の手は、彼よりも小柄なフラウがしっかり捕まえている。外を歩くときは私の左側でスラックスの裾を軽く掴んでいることの多い彼女は、既にアシュラムのお姉さん役が板について来ているようだ。

 

ヤマブキやタマムシほどに栄えているわけではないけど、トキワシティも子供の脚にかかれば十分過ぎるほど広い。トキワジムがまともに動いていたときはもっとずっと店も人も多かったらしいが、ジムリーダーが留守がちになったここ10年くらいで少しずつ色々な物が減っていったのだと昔誰かが言っていた。

 

『それってロケット団が本格稼働して10年くらいってこと?』

 

なんてアホなことをその場で聞かなかった自分を、私は今も褒めたいと思ってたりする。

 

町をぐるりと一周する途中、遠目に件のトキワジムを見かけたが立ち寄りはしない。続いて最初に入ったポケセンを通り過ぎて、向かうはトキワシティの中心に位置するその名も『トキワ中央公園』。そのまんま過ぎる名前だけど、地名とか施設名なんてものは分かりやすいに越したことはない。

 

「フラウ、アシュラムと全員分のジュース買ってきてくれる?」

「ルゥ!」

 

入口に一番近いベンチをお借りして、フラウの小さな手に小銭入れを持たせた。不思議そうにするアシュラムの手を引いて少し離れた自販機に近寄った彼女は、私がそうと指示しなくても彼に小銭を握らせ、お金を機械に入れてボタンを押すという一連の流れを体験させてくれた。

 

こういうのを見ると、ポケモンってどう考えても私が知る『動物』よりだいぶ賢いよなと改めて思う。犬とか猿とかイルカとか、芸を仕込めるほどに賢い動物はそりゃ確かにいたし、海外の施設には明らかに意味を理解して人語を喋るヨウムや、手話で人間と会話できるゴリラもいたと聞いたことがある。

 

だけどそういった賢い種族の中で更に賢い個体と比較しても、『ポケモン』というカテゴリにくくられる彼らは飛び抜けている。彼らは人間の言葉や意図を確実に理解してくるし、だからこそポケモンバトルなんていう競技が世界中で成立し浸透しているわけだ。

 

神話によれば、元々人間とポケモンの間に差は無かったらしい。人間に嫁入りするポケモンも、その逆も当たり前のようにいたんだそうだ。『ポケットモンスター』がフィクションでしかなかった頃は「異類婚姻譚盛り込むとか多神教の日本っぽいな」という感想しか抱かなかったが、今となるとこの神話、案外馬鹿に出来ないかもしれない。

 

「ルルゥ」

「おかえり。ちゃんと買えたみたいだね。先に選んでいいよ」

「ルゥ!」

「……カゲェ?」

 

サイコソーダとミックスオレを2本ずつ。フラウが真っ先にサイコソーダの缶を取ったので、アシュラムも釣られて同じ柄を手に取った。私は残ったミックスオレを取ってカフカに持たせてやる。カフカは炭酸が苦手だからこれで問題無い。

 

「……ッケ!? クケッ!」

「お、びっくりした? 炭酸も初めてだよね。飲めそう?」

「カゲッ!」

 

炭酸の感触に案の定驚いたものの、どうやらお気に召したらしく美味しそうに飲み始めた。それならこちらも遠慮は要らないので、取っておいた最後のミックスオレのプルタブをプシュリと引っ張る。こちらも1口分けてやろうかと思っていたら、カフカがすすすっと近づいていき自分の分をアシュラムに分け与えていた。

 

「ありがとう、カフカ」

「もんっ」

 

メタモンというポケモンに性別はない。だけど「任せとけ」とばかりに触腕で胸にあたりそうな部分を叩いてみせる様は、なんだか不思議と勇ましい。

 

「フラウも、アシュラムの面倒見てくれてありがとうね」

「ル!」

 

軟体通り越してゲル状のカフカと異なり、『人型』とされるフラウは撫でる場所に迷わない。まあ今更カフカに対して迷うことなんて無いけど。

 

「おーし、全員もう飲み終わった? じゃあこれから買い物行くから、お店では私から離れないようにしてね」

「もぉん」

「ラルゥ」

「カゲー」

 

フラウとアシュラムが再び手を繋ぎ、空いている方の手をそれぞれ挙げて良い子のお返事をする。空き缶4本をナイスなコントロール力でゴミ箱に投げ入れたカフカも、いつもの定位置(つまり私の左肩)にもにゅんっと乗っかった。よしじゃあ出発――などと意気込む必要もなく、公園を出て右手に数十メートルも進めば、お馴染みのフレンドリィショップがすぐ見えてくる。

 

タマムシデパート以外のフレンドリィショップはゲームにおいてせいぜいコンビニくらいの規模しかないが、現実は勿論そうではない。広さは郊外のスーパーマーケットくらいはあるし、品揃えも『主人公のスタート地点から遠いほど良くなっていく』なんてRPGあるあるは存在しない。

 

つまり何が言いたいかと言うと、ここトキワシティのフレンドリィショップにも『なんでもなおし』や『すごいきずぐすり』や『ゴールドスプレー』は売ってるってことだ。

 

「モンボ、きずぐすり、おいしいみず、どくけし、マヒなおし、げんきのかけら、ゴールドスプレー……」

 

公式戦どころか認可トレーナーを相手にしたバトル(研究所のアレは含まない)も未経験である以上、財布の紐は堅くしておく必要がある。とはいえ、だからといって必要な道具を惜しんでは本末転倒。野生のポケモンはアニメよろしく普通にトレーナーを攻撃したり徒党を組んできたりするので、トキワの森であっても侮るのは非常によろしくない。

 

それからあとは、

 

「どっちが好きな味?」

「……カゲっ」

「ふむ。じゃあこれとそっちなら?」

「クー」

「ほうほう。ならコレは?」

「………………ゲェッ」

「おっとこれは駄目か。ごめんごめん」

 

ポケモンフードの試食コーナーで、アシュラムが毎日食べられるフードを見繕う。ポケモンは大体人間と同じものも食べられるけど、栄養バランスや健康のことを考えればやはりそればかりだと宜しくない。だからこうやって主食となるフード選びはかなり重要だったりする。

 

少しずつ試して貰ったところ、アシュラムは甘い物好きながらご飯として食べる分には辛口が好きらしい。なので辛味が強いフードを2種類買うことにした。別に一番反応が良かったやつだけでも良いんだけど、たまには味変しないと飽きちゃうかもしれないしね。

 

「お会計お願いします」

「お預かりいたします。トレーナーカードをご提示頂きましたので、モンスターボールとその他対象商品は2割引とさせていただきますね」

 

大昔に取扱説明書で見たアイテム類を、鞄にまるっとしまい込んでから店を出る。この鞄といいポケモンセンターの回復システムやポケモン転送システムといい。スマートフォンすらまだ存在しないこの世界は、ポケモンに関わる分野だけ妙に科学技術が発展しているのが凄い。

 

「よし、じゃあそろそろポケセン戻ろうか。夕飯はまた後d」

 

「っっせえんだよクソジジイ! いいから退きやがれ!!」

 

…………進行方向から聞き覚えありありの聞きたくもない声が聞こえてきたな。

 

たっぷり5秒ほど踵を返して逆方向にダッシュしようか迷ったけど、そこそこ重量があるものが何かに衝突するような音が聞こえてきたので流石に見て見ぬ振りは出来ない。あの『聞き覚えがある聞きたくない声』の主が想像通りなら、この先に広がる光景もきっと想像通りのものであるはずだ。

 

頼むから良い方向に違っていてくれ、とは思うけど。

 

「あ、の野郎っ……!」

 

果たして、悪い予感とは当たるもの。駆けつけた先はトキワの森方向に抜ける道で、その端に顔を顰めて倒れた老人とそれを抱き起こそうとする女の子がいた。

 

「う、うう……」

「しっ、しっかりしてくださ……え、ええとっ、どうしよ、えっと、こういう時ってどうしたら……!?」

 

片頬が腫れ上がり始めている老人は自力で起きるのも難しい様子。女の子も女の子で、老人の上体を起こしはしたもののそれ以上動かすことは出来ないらしい。見たところレッドやグリーンと変わらなそうだし、これはもう仕方ない。

 

「君、落ち着いて。そのままおじいさんの身体をこっちに寄せてくれる?」

「えっ」

「大丈夫ですか? 意識は? 自分の名前は言えますか?」

「ぐ……ぅ……」

 

痛みに呻きながらではあったが、老人はこちらの質問によどみなく答えた。顔を殴られたとはいえ頭は打っていないらしい。が、素人判断は良くない。痛みのある場所を尋ねると分かりやすい顔より右足と背中の苦痛が強いようなので、フラウの念力で軽く身体を浮かせて貰った。

 

「君、この町の子? トキワ総合病院の場所はわかる?」

「……へ? あ、ひゃ、ひゃい! わかり、わかりましゅっ!」

「良かった。じゃあ悪いけどカフカ――このメタモンと一緒に先にそこまで行って、受付で事情を説明して貰える? 私達はこのままこの人を運ぶから」

「わかりまひたっ!」

 

ツッコミ待ちか? と思うほどバキバキに噛んでくれたが、流石に今どうこう言っている場合ではないので全部スルーする。私の意図をくみ取ったカフカは『へんしん』でガーディに姿を変えると、女の子を先導するように一つ吠えて走り出した。

 

「わっ、ま、まままま待って! 置いてかないで!」

 

転びそうな勢いで走って行く彼女の背中を見送る間に、アシュラムを一旦ボールに戻して立ち上がる。

 

「行こうか、フラウ。安全第一でお願い」

「ルゥ!」

 

地面を滑るように移動するフラウに先導されつつ、向かうはトキワシティ唯一の総合病院。ちなみにトキワ民にとっては勿論、病院のないマサラタウンの人間にとっても一番身近な病院だったりする。

 

道中すれ違う人にチラチラと向けられる視線を無視して総合入口に駆け込むと、待ち受けていた病院のスタッフ達が慣れた様子で老人をストレッチャーに乗せて運んでいった。どうやらカフカと女の子はちゃんと仕事を果たしてくれたらしい。ガーディの姿を取ったままの相棒が「わん!」と一声鳴いて駆け寄ってくるその少し後ろから、女の子も小走りで近づいてくる。

 

「や、さっきぶり。面倒なこと任せてごめんね、ありがとう」

「いっいえそんな! 私の方こそ、最初からいたのに全然役に立たなくて……」

「適材適所だよ。私はまあ、ああいうのちょっと慣れてるから」

「がうっ」

「うん、カフカとフラウもありがとう。悪いけど少しボールに戻っててくれる? 病院であんまり出てるの良くないからね」

「ラァル」

「――もぉん」

 

フラウがにっこり微笑んで、カフカがにゅるんと『へんしん』を半分解きながらそれぞれ腰のボールに入っていく。ポケモンが入っていようがいまいが、ボール自体の重さが変わらないというのも凄い話だ。ごく限定的だけど、四次元ポケットの再現に成功していると言っていいと思う。

 

「気になる?」

「えっ!? あっ、えっと、その」

 

ボールホルダーに並ぶボールを穴が開きそうなほど見つめる視線は、特段気配に聡いわけでもない私でも察せられるほどだ。性別も違うし声や顔つきだって似たところは何処にもないのに、キラキラと輝くふたつの瞳はレッドやグリーンを彷彿とさせた。

 

「トレーナー志望なの?」

「は、はい、実は……まだ9歳だから、試験も来年からなんですけど……」

「そうなんだ」

 

驚いた。本当にあの子達と同い年らしい。じゃあもし彼女が無事に試験を突破したら、彼女はあの2人と同期になるわけか。

 

「あっあの!」

 

勝手ながら親近感と、それからほんの少しの羨望を抱いていると、何やらもじもじとした彼女は「お名前を聞いていいですか……?」と消え入りそうな声で尋ねてきた。奥ゆかしい子だな。

 

「そういえば自己紹介してなかったね。私はマサラタウンのマリステラ。君は?」

 

ところでこの『○○○(出身地)の××(名前)です』という自己紹介、実はカントーのみならず全世界共通らしい。なんでも昔は行方不明になるトレーナーや身元不明のトレーナーのご遺体が見つかることが今よりだいぶ多かったため、旅のトレーナーが自分に何かあったとき少しでも確実に故郷へと帰れるようにするために定着した習慣なんだとか――――成る程、これが黒い任○堂ってやつか。

 

そんなどうでもいい方向に思考を飛ばしていた私は、次の瞬間彼女が名乗った名前に少しばかり心臓を跳ねさせてしまった。

 

「私、リーフっていいます。トキワシティのリーフです。よろしくお願いします、マリステラさん!」

 

そう言ってにっこり微笑む少女は、明るめの茶髪をロングヘアで、同じ色の瞳を人懐っこく三日月にしている。ノースリーブのシャツは水色で、コーラルピンクのスカートを合わせたシンプルながらも可愛らしい服装。

 

「…………呼び捨てでいいよ。私もリーフって呼ぶし」

 

黄色い肩掛け鞄と白い帽子を身につけていないだけで、そして何より生きた人間らしい表情が加わるだけで、こんなに印象も変わってくるのかと。

 

そんなことをぼんやり考えた。

 




《後書き》
ぽこあの影響もあってどうしてもポケモンとのふれあいシーンに重点を置きすぎてしまってます。展開が遅くて申し訳ありませんが、暇潰しになれば幸いです。


《キャラ設定》
○マリステラ(リスティ)
・年齢:11歳
・性別:女
・身長/体重:未設定だが身長は平均より高い
・外見:灰色がかった銀髪ロングヘアと左右ともに黄色みが強いアースアイ
・特記事項:正直トキワシティは半分故郷みたいなものだと思っている

【所持ポケモン(参入順)】
・メタモン(カフカ):ー/Lv.??
・ラルトス(フラウ):♀/Lv.9
・ヒトカゲ(アシュラム):♂/Lv.4

○リーフ
・年齢:9歳
・性別:女
・特記事項:ポケモントレーナー志望の少女。トキワシティ在住

【所持ポケモン】
なし
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