主人公じゃない私のポケモンワールド異聞録(5/24改題) 作:時緒
【速報】まさかの女主人公遭遇――――!!
……なんて脳内で軽く激震(なんだこの日本語)が走ったものの、10年以上にわたる転生者生活で分厚くなったガワはそうそう簡単に剥げたりしなかった。ありがたいことに自己紹介が終わって早々に病院から通報を受けたジュンサーさん(女性)が話しかけてきてくれたので、彼女の注目もすぐそちらに移っていった。
簡単に現場の状況を聞きたいとのことなので、オドオドするリーフに「君が見たままの状況をそのまま話せばいいよ。自分の想像や印象はなるべく省いてね」と簡単なアドバイスをした。なお、大昔にマサラのジュンサーさん(こっちは男性)に言われたことそのままだったりする。
「顔見知りのおじいさんが道の真ん中で寝ていたんで、起こそうとしたんです。その、あのおじいさん、今の時期はよくあの辺でそうしているので」
「ええ、知ってますよ。毎年この時期は新人トレーナーが一斉に旅に出ますから、恒例のお節介をしに出ていたんでしょう」
「というと?」
トキワ在住の2人でだけ通じ合ってしまったので口を挟んでみた。
聞くところによると、あの老人は元々引退したポケモントレーナーで、酔ったフリをしながら動きのぎこちない新米トレーナーに声をかけ、ポケモンゲットのレクチャーとボールのプレゼントをするのを老後の趣味としているらしい。とはいえ普段から酒を常飲していて本格的に酔っ払って道ばたで倒れていることも多いので、彼の回収はトキワに配属されたジュンサーさん達にとって通過儀礼なんだとか。
……なーるほど。つまりあの人、所謂『捕獲チュートリアルのじいさん』だったわけだ。ゲームボーイでは勿論Switch版FRLGでも変わらず登場していて、ちょっと嬉しくなったのを思い出す。
ちなみに私、最期にプレイしたポケモンがそのFRLGだった。というか、ゲームボーイの銀以降すっかりご無沙汰だったポケモン界隈に出戻ったきっかけがそれだった。あとは『ぽこあポケモン』。Switch2を偶然2025年内に手に入れた私は、たまたま目にしたぽこポケとFRLG発売のニュースを見て、そこから何の前触れもなくポケモンという今や大海原のように広まったジャンルへと久々に足を踏み入れたのだ。
FRLGは当時の思い出補正を抜きにしても本当に楽しくて、久しぶりにゲームで徹夜してしまったほどだった。『ぽこあポケモン』をやりながらだったから時間かかったけど殿堂入りも2回したし(なおぽこポケも進捗は芳しくなかった)、ゲームボーイ時代は影も形もなかったナナシマもきっちりクリアした。
惜しむらくは、私はそれから間も無く最新作のスカーレットかヴァイオレットのどっちを買おうか悩んでる中で死んでしまったので、世間で言うところの第三世代? 以降のポケモンは殆ど知らないってことだ。私のポケモン知識はほぼほぼカントーとジョウトの約300匹だけで構成されている。SNSで広まったネットミームは幾つか覚えてるけどね。
「それでその……遠くから2人組の男の子が走ってきて、その子達はモンスターボールを1個だけつけてたんです。だから私も新人だって分かったんですけど、その子達がおじいさんに向かっていきなり『退けよ、ジジイ!』って」
リーフ曰く、『2人組の新人トレーナー』は酷くイライラした様子で、特に1人は「早くいかねえと先を越される」と吐き捨てたり、「テメエがコラッタ如きに手こずるからだぞ!」ともう1人に当たり散らしたりと只事ではない様子だったという。
流石の老人も、この状況で呑気に酔ったフリは出来なかったらしい。早々に立ち上がって「どうかしたのかね」と親切心を出し尋ねたそうだが、次の瞬間
『っっせえんだよクソジジイ! いいから退きやがれ!!』
と、有無を言わさず顔面に右ストレートを食らわされたんだという……ああうん、目に浮かぶようだわ。
「その2人組、殴った方は金髪リーゼントで私より15センチ以上デカいデブで、もう1人は茶髪の坊ちゃん刈りで私より10センチくらい背の低い痩せ型の眼鏡じゃなかった?」
「そ、そうです! その2人! ……お知り合いなんですか?」
やっぱりあいつらだったか、声からして分かってたけど当たってて欲しくはなかった。驚き顔のリーフと片眉を顰めたジュンサーさんに、「そいつら同郷の同期です」とトレーナーカードを出しながら付け加える。
「昔から地元では有名な問題児なんです。素行不良でオーキド研究所のサマーキャンプも4年前に出禁になったんですが、トレーナー試験の受験を禁止になるほどではなかったんですよね。だから合格したし、博士も最初のポケモンを渡したんですけど」
ちなみにトレーナー側による正式な申請を無視し、定められた研究所やスクール、育て屋などが最初のポケモン譲渡を拒否することは原則として違法にあたる。だからオーキド博士も最近まで悩みつつも、試験結果とキャンプ出禁以降は表立った問題行動がなかったことを踏まえてポケモンを渡すことにしたわけなのだが。
「一応聞いておくんだけど、その子達と貴方は友だ」
「違います」
冗談でも聞いてくれるな。
「偶然同じ町に同い年で生まれただけです。寧ろその関連で連中の被害を最も受けてきたと思います。具体的に言うと2回くらい死にかけました」
「しっ……!?」
顔を引きつらせるリーフはさておき、ジュンサーさんが「流石にウソでしょう」という顔をしたが、生憎と私は何一つ話を盛っていない。悲しいことにだ。
「年下の幼馴染み2人と一緒に、サマーキャンプ中に遭難させられたことがあります。子供3人、野生のポケモンが出る山中を2日間の強制サバイバルです。手持ちのポケモンは連れていなかったし、急な雨で視界も足場も悪くなるし、1人は足首捻って歩けなくなるし……救助があと1日でも遅れてたらどうなってたやら」
これだけのことをやらかしてもやっとキャンプが出禁になっただけなんだから、この世界の法律はちょっとどうかしてるところがある。まあこれについては『奴らの策略でこっちが遭難させられた』ことを客観的に証明できなかったのも一因なんだけども。
「嘘だと思うならオーキド研究所に問い合わせてみてください。遭難した子供の1人は博士の孫でしたから、色々と詳しく話を聞けると思います」
あの時は本当に酷い目に遭った。特にグリーンが負傷して移動におんぶが必須となったところに、気が立った野生のリングマと遭遇してしまった瞬間は流石に二度目の死を覚悟したほどだ。
「ちなみにそいつらの両親もあんまり話は通じないです。私達は奴らから一度たりとも謝罪らしい謝罪を受けたことがありません」
マサラタウンは良くも悪くも田舎なので、『子供のオイタ』にはある程度寛容だ。その分『大人』として一度認定されると一転して視線が厳しくなるのだが……それに加え、クソガキ共の両親は所謂DQNなので、地元の警察から多少注意されたくらいでは何らダメージを負わないのである。いっそ一度手錠をかけられれば話も変わってくるだろうが、絶妙にそのラインは踏み越えないんだから親子揃って悪知恵が働くらしい。
「ま、今回は明確に被害者も目撃者もいるし、これはカントー史上最速のトレーナー資格剥奪が見られるかもね」
自分の人生をRTAプレイとは攻めてるよな、いやマジで。
「……話は分かりました。ひとまず今聞きたいことは以上で大丈夫。ご協力ありがとうございました」
真っ直ぐ敬礼してきたジュンサーさんにこちらも敬礼を返して別れる。ちなみに敬礼って頭の横に手をやるポーズってイメージがあるけど、あれは帽子を被っているときだけで、脱帽した状態での敬礼は普通のお辞儀なんだってね。
「さて、お互い災難だったね。それじゃあ私もこれで」
「え? あっ、待っ」
「そこにいるのはマリステラちゃんか?」
ん? この聞きなじみのある声は。
「オフィウ先生」
「やっぱりマリステラちゃんか。予約は明日じゃなかったかい?」
「明日ですね。今日は別件です」
まだまだ若いのに黒髪より白髪の割合が多い、草臥れた白衣を身につけた猫背気味の男性。私がオフィウ先生と呼ぶこの人は、もう3年以上の付き合いになる私の主治医だ。基本的に隔週の検診で毎度お世話になっている。
あ、念のため申し上げておくと別に持病とかはないし余命宣告も受けてないです。
「この後予定はあるのかい? もし無いなら、明日分の検診今やっちゃうけど」
「それは正直ありがたいですけど……大丈夫ですか? 他の予定とか色々」
「この後の診察が急にキャンセルされて時間が空いたんだ。昼飯はもう詰め込んじゃったし、それなら後のタスクを減らしておく方が未来の自分に貸しを作れるだろう?」
「それならお言葉に甘えて」
「うん、そうしてくれ。ところで、そちらのお嬢さんは?」
私のやや左後ろ辺りにオフィウ博士の視線が向けられる。私は身体ごと向きを変えて、オロオロするリーフを手で示した。
「こちらはリーフです。さっき偶然知り合ったんですけど、トレーナー志望だとかでちょっと話し込んでました」
「ああ、そうなのかい。それなら、もしや私は邪魔をしてしまった形かな?」
「意地悪言わないでくださいよ」
私だけならいざ知らず、初対面のリーフは目を白黒させたり恐縮したり忙しない。「気にしなくていいよ、この人なりのジョークだから」とフォローを入れてやる。オフィウ先生の専門を考えると今後リーフと関わりが生まれることはそうそう無いだろうが、まあ医者の知り合いってだけで何かと心強いのは間違いない。特にトレーナーとして旅立てば、多かれ少なかれ生傷の絶えない生活になるだろうし。
「それじゃ、私は先に行くからね。準備が出来たらいつもの診察室においで」
「はーい」
診察券とトレーナーカード出しておかないと…………あ、そうだ。
「リーフ、明日の予定は? 暇な時間はある?」
「あ、明日ですか? ええっと、特にこれといった用事はないですね」
「そっか。なら明日の朝10時にまた会わない? 折角知り合ったんだし、新米とはいえポケモンの世話自体は長いことしてるから、多少は実になる話は出来るとおも」
「いいんですか!?」
うわびっくりした。勢い凄いな。
「一応言っとくけど、本当に役に立つかは分からないよ?」
「そんなことないです! 嬉しいです!」
……ちょっとプレッシャー感じてきたな。自分で言い出しておいてアレだけど大丈夫か、これ。
「待ち合わせ場所はポケモンセンターの待合室でいい?」
「大丈夫です!」
「よかった。それじゃあまた明日」
「はい! 明日よろしくお願いします! 失礼します!!」
勢いよく腰を90度曲げた後、勢いよく走り去るリーフの背中はあっという間に豆粒サイズとなり消えていった。うーん速い、あの速度はレッド達と並ぶかも知れない。
「――――さて」
若干の不安は感じるものの、今更言い出したことを引っ込めるわけにもいかない。マサラタウンにいなかったせいで「きっと存在しないのだろう」と思っていた女主人公に出会えた幸運への対価と考えることにして、よっこらしょと少し固めのソファから立ち上がる。
オフィウ先生の診察室は3階だ。
「すみません、乗ります」
車椅子の老女と看護師が乗り込んだばかりのエレベーターへ一緒に乗り込み、『3』ボタンをプッシュする。病院のエレベーターはストレッチャーや車椅子が乗るのが前提だから大体どこでも広くてありがたい。
「失礼しまーす」
「はいどうぞー」
もう数え切れないほど出入りしている診察室はいつも通りややごちゃついていた。オフィウ先生は度々小児科のヘルプもしているため、デスク横や本棚の上にはピカチュウやピッピのぬいぐるみが並んでいる。あ、いやこれは本人の趣味だったか? 別にどっちでもいいな。
そういえば、タ○ラトミーがピカチュウの等身大ぬいぐるみ(高さ40センチだっけ?)を復刻させてたけど、当時とは値段が倍くらい変わっててびっくりしたっけ。アレ見た時は流石に物価高とかインフレって怖いなと身にしみたもんだ。まあ抽選応募はしたけど。そして落ちたけど。
「――――うん、コンディションは悪くなさそうだね。違和感は?」
「ないです」
「なら良かった」
念入りに私の顔に触れていた手で、そのまま電子カルテを書き込み始めるオフィウ先生。私より遙かにアナログ派だった彼も、導入から数年経てば流石に扱いに慣れてきたようだ。ちなみに顔なじみの看護師達の間では、彼に限らず金釘流の多い医師達の直筆カルテを解読しなくて良くなったと大変好評だったりする。
「今のところ次の交換予定は変えなくてよさそうだね。ただ……マリステラちゃん、今確か11歳だったね?」
「はい」
「なら成長期はこれから来るだろうし、急に圧迫感や痛みが出ることもあるかも知れないな。ちょっとでも変な感じがしたら、予約なんか良いからすぐ連絡すること。いいね?」
「わかりました」
「よし。それじゃ次はまた来月だね。お大事に」
「ありがとうございましたー」
診察とはいっても定期検診なので、特段変わったことはやらない。殆どルーチンとなっている問診も、私側に特段報告することがない以上すぐに終わってしまった。
が、何もなくとも病院という場所は気疲れするものだ。おまけにそもそもの原因は、直接見てこそいないが毎度迷惑をかけられてきたあのクソガキ共。今更あの2人がどんな問題行動を起こそうがこちらは知ったことじゃないが、こっちに飛んでくる風評被害を考えると今から大変嫌な気持ちになる。私はあくまで同い年の同郷ってだけで奴らの血縁でもなんでもないが、世の中にはたったそれだけの繋がりで「なんでお前がしっかり面倒見ないんだ」なんて言いがかりを付けてくるアホも一定数いるものだ。
…………嗚呼駄目だ、疲れて思考がネガティブになりつつある。
今日の必須タスクにしていた買い物はとっくに終わっているし、さっさとポケセンに戻って少し休もう。考えても仕方の無いことを延々考えることほどの時間の無駄はそうそう無い。ちょっと昼寝して、そしたら明日のことを考えよう。
《キャラ設定》
○マリステラ(リスティ)
・年齢:11歳
・性別:女
・身長/体重:未設定だが身長は平均より高い
・外見:灰色がかった銀髪ロングヘアと左右ともに黄色みが強いアースアイ
・特記事項:事情聴取は既に何度か経験済み。原因は大体同郷のクソガキ×2
【所持ポケモン(参入順)】
・メタモン(カフカ):―/Lv.??
・ラルトス(フラウ):♀/Lv.9
・ヒトカゲ(アシュラム):♂/Lv.4
○リーフ
・年齢:9歳
・性別:女
・特記事項:生まれて初めて事情聴取を受けた
○トキワのジュンサーさん
・年齢:不明
・性別:女
・特記事項:制服はアニポケ初期のイメージ。交番にいけば普通に男性巡査もいる
○オフィウ先生
・年齢:30代後半
・年齢:男
・名前の由来:蛇遣い座のラテン語名『オフィウクス』
・特記事項:トキワ総合病院の勤務医。専門は形成外科