主人公じゃない私のポケモンワールド異聞録   作:時緒

9 / 10
バトル描写が難しすぎて何度も書き直してしまい日曜までに投稿できませんでした。
全てのポケモン二次創作作家様をより尊敬せざるを得ない今日この頃です。



06-1. ビギナーズラックで終わらせない・前編

おつきみ山のヌシこと巨大イワーク相手に手持ちのバトル訓練(主にアシュラム用)を終えた私は、そのままその日はテントで夜を明かし、翌日の昼過ぎにトキワシティへと戻った。訓練内容は大して面白くもないので省略するが、アシュラムの実戦練習として十分実りのあるものとなったのは間違いない。

 

その後は自分のストレッチだとか手持ち達への食事やマッサージといったケアをしつつ、心持ち早めに就寝……するつもりだったんだけど、普段宵っ張りなせいであまり寝付けず、手帳やレポートの整理で普段通りの時間に寝入ることとなった。成長期を考えると22時には就寝したいんだけど、時間がもったいなくてどうしても0時前後になってしまう。

 

「ようこそ、チャレンジャー」

 

そんなこんなで迎えたジム戦当日。リーフと共にやってきたトキワジムで私に片手を挙げて見せたのは、上等なスーツに身を包んだ30半ばくらいの男性だった。短く刈り込んだ黒髪に、同じ色のつり目。身長は恐らく180を少し越えたくらいで、スーツの上からでも分かる程度にはしっかりと鍛えられた体躯をしている。

 

「私がこのジムのジムリーダー、サカキだ。君の挑戦を歓迎しよう」

 

ゲームの取扱説明書で、アニメで、映画で。子供の頃にやたらと影がかかった正体不明の人物として何度も見た覚えのある男は、けれどあまり見覚えのない柔和な微笑みをもって私を見下ろしている。穏やかな、と形容して差し支えのないその笑い方は、だけど何かで見た覚えもあるような気がした。ええと、何処でだっけ? いや、『何』でだっけ?

 

(…………思い出した。『ポケスペ』だ。『ポケットモンスターSPECHAL』)

 

遙か昔の小学生時代、あっちでもこっちでもコミカライズされたポケモンという化け物コンテンツ。その中でも一番長く読んでいた作品を記憶の片隅から掘り起こす。掲載雑誌までは覚えていないが、あの漫画には当時の主人公レッドに、正体を隠し『化石のおじさん』としてサカキが接触するというシナリオがあったはずだ。

 

……今思えばあの話、結構えげつなかったな。主人公が敵組織のボスに知らないうちに完全ロックオンっていうぞっとしないシチュエーションもさることながら、氷漬けにされたブーバーがそのままバラバラにされる展開とかあったし。

 

ていうかあの漫画、私の記憶にあるだけでも主人公(レッド)の腹をサワムラーが蹴り上げたり全身氷漬けにしたりと、結構ポケモンに人間を攻撃させる展開が多かった。あとイーブイをガッツリ実験体にしたり身体がデロデロに腐ったコダックのゾンビが出てきたり……。

 

なんていうか、うちのレッドとグリーンがあの漫画の2人じゃなくてよかった。本当によかった。マジで。漫画自体はイエロー編完結までしか読んでなかったけど、あの時点でブルーを誘拐した犯人とかその実行犯ポケモンのシルエットがどう見てもホウオウだったとか、色々未回収の伏線もとい厄ネタ詰まっててヤバい臭いがプンプンしてたし。

 

え、ロケット団の悪事? それはあっちもこっちも多分そんな変わらないと思う。少なくともアニポケのような子供向けのマイルドさは無い。そこは断言しておく。

 

「どうかしたかい?」

「あ、すみません。少し緊張してしまって。……マサラタウンのマリステラです。今日は胸をお借りします」

 

とはいえ。そう、とはいえ、だ。

 

今ここにいる彼は『トキワジムジムリーダーのサカキ』で、私はただのチャレンジャー。『初心者トレーナーらしい緊張』以上のものを表に出しても良いことはない。何一つ。

 

「では、今一度ルールの確認をしておこう。今回適用されるのは初級①。使用ポケモンはお互い2体。回復・補助アイテムの使用はチャレンジャーのみ可能。ポケモンの交代も同様だ。質問はあるかね?」

「いいえ、問題ありません」

「そうか。では始めよう」

「よろしくお願いします」

 

簡素なバトルフィールドは、舞台やピアノの置いていない体育館に少し似ている。上から全体を見渡せる立ち見席にはこの後のチャレンジャーと、昨日までの敗北者達が両手の指で数えられる程度。ぐるりとそれを見渡すと、パイプ椅子を並べただけの僅かな関係者席に座ったリーフと目が合った。手を振ってくれたので振り返す。

 

いつも通りの狭い視界。いつもと違って軽い左肩。腰のボールに手をかけ、深呼吸。

 

オフィスカジュアルといった格好のエリートトレーナーが、ホイッスルを首に提げてフィールドの中間線に立った。

 

「それでは両者、構えて――――ジムリーダー・サカキ対チャレンジャー・マリステラ、バトル開始!!」

 

「行け、サンド!」

「アシュラム、君に任せた!」

 

「キュウ!」

「カゲ!」

 

丸っこくて愛らしいフォルムのねずみポケモンとアシュラムが同時にボールから飛び出す。初っ端からの相性無視っぷりに、数少ないながらもギャラリーから「あーあやっちまったな」という空気感が伝わってくるが、気にするものでもない。

 

寧ろ私はサカキがサンドを使ってきたことに驚いたぞ。ゲームでは確か使ってなかったハズだ。いやでも考えてみるとサンドも地面タイプだし、私みたいなバッジゼロの初心者用ポケモンとして持ってても何らおかしくはないな。ってことは次のポケモンはディグダあたりか。イワークは次のニビジムでよく使われてるからないだろうし……。

 

って、今考えることじゃなかったわ。

 

「サンド、『すなかけ』!」

「アシュラム、目を閉じてバックステップ。そのまま『ひのこ』!」

「むっ!」

 

「カァ、ゲ!!」

「キュッ!?」

 

特に小回りの利くポケモン相手に初手『すなかけ』は基本中の基本だ。半ば来ると分かっていたから対処は容易い。両者の距離が開いていたこともあって『ひのこ』は目くらまし程度にしかならないが、それも想定の通りだ。

 

「そのまま距離を詰めて、『メタルクロー』!」

「カゲー!」

「ギュッ!?」

 

顔面を『鋼の爪』で引っかかれたサンドが濁った悲鳴を上げる。目を開けていられなくなった手持ちを見て顔を顰めたサカキはすぐ何か指示しようとしたが、そうは問屋が卸さない。

 

「一度で終わるな! マウント取って『メタルクロー』続行! 反撃させるな!」

「カゲ! カゲカゲカゲッ、コォー!!」

「キュッ! きゅきゅ!? ギュッ、……きゅ」

 

プロレスの絞め技よろしく下半身でがっちりサンドを固定しての『メタルクロー』連撃。短いうめき声とともにサンドの抵抗が完全になくなったところで、審判が片手を挙げる。

 

「サンド、戦闘不能。チャレンジャーのヒトカゲの勝利!」

「っし。お疲れアシュラム、最高だ」

「カゲェー!」

「おっと。こら、まだバトル全部終わってないから……ん?」

 

満面の笑みと共に飛びついてきたアシュラムにメロメロになりつつ抱き留めると、ほのおタイプらしい温かい身体が不意に更なる熱を帯びた。と思えば全身が光り出す。

 

「ギャオウ!!」

「……びっくりした。進化おめでとう、アシュラム。カッコよくなったね」

「ギャウっ!」

 

お祝いは後で改めてね、と言い伏せてアシュラムをボールに戻す。大人しく一連の流れを見守ってくれたサカキが、あのにこやかな笑みのままパチパチと軽い拍手をくれた。

 

「進化おめでとう。だがまだバトルは終わっていない。準備はいいかな?」

「お待たせしてすみません。引き続きお願いします」

 

次のボールを掴みつつ一応頭を下げておく。サカキは「いや」と片手を挙げた。

 

「こちらこそ悪かった。正直君がヒトカゲを出したときは、タイプ相性も理解していない素人が来たのかと思ってつい油断したよ」

「だと思いました」

 

明らかに反応速度悪かったもんな。ポケモンがじゃなくてトレーナーが。

 

「だが、次も同じようにはいかせない。理解しているね?」

「勿論です。お願いします」

「よろしい。――行け、ディグダ!」

「フラウ、次任せた!」

 

「ディッグ!」

「ルル!」

 

メタ予想の通り、サカキの二番手はディグダだった。こちらは予定通りフラウ。カントーには生息していないポケモンの登場に、ギャラリーがまたざわつく。

 

「ほう、ラルトスか。確かホウエンのエスパーポケモンだったかな?」

「…………その通りです」

 

流石はジムリーダー(そして悪の組織のボス)、地元以外のポケモンも知っているらしい。私なんか、孵化して間も無い彼女を連れてオーキド博士に聞きに行くまで『ラルトス』なんてポケモン知らなかったのに。

 

「では始めよう。ディグダ、『あなをほる』!」

「ビッ!」

 

短い返事とともに、ディグダが瞬く間に地中へと姿を消す。ゲームでの『あなをほる』は1ターン相手の攻撃をやり過ごし、次のターンで大打撃を与えるなかなか厄介な技だが、現実のバトルではもっと凶悪だ。なにせ公式バトルなら制限時間はあるものの、基本的にいつポケモンが出てくるかは完全に仕掛けた側次第なので。

 

……が、逆に現実だからこその打開策もそれなりにあったりする。

 

「どうした? あまりじっとしていると格好の的だぞ?」

 

軽く煽ってくるサカキはスルーするとして。……ていうか微妙に『悪の親玉』モード出てませんかねサカキさん。若干笑い方があくどいぞ。

 

「ふむ。ではこちらから行こう――――ディグダ、仕掛けろ!」

「フラウ、『かげぶんしん』!」

「なに!?」

 

『あなをほる』や『そらをとぶ』はどちらも相手の攻撃を無駄にさせつつダメージを押しつける技だが、こと『あなをほる』には明確な弱点が2つある。

 

ひとつは攻撃技になるほどの勢いで地中を掘り進めたら、それなりに音や振動がどうしても発生するということ。音は周囲が騒音まみれならある程度誤魔化せるが、足の裏を伝う独特の揺れはなかなかそうもいかない。だから音や足の感覚に意識を集中させれば、ある程度の距離や深度はつかめてしまうわけだ。

 

そしてもう一つ、これは若干メタっぽいっちゃメタっぽいんだが……そもそも折角地中に潜ったのに、馬鹿正直に真正面に出てくることなんて早々ないだろって話である。『あなをほる』したら足場を崩すか背後から不意打ちがセオリー。だからいちいち「何処行った!?」なんてキョロキョロするより、もう死角から攻撃がくるものだと思って待ち構える方がよっぽど対処が楽なのだ。

 

「ディッッ!?」

 

渾身の一撃――のつもりだっただろう突撃をスカしたディグダが、完全に虚を突かれて動きを止める。

 

「フラウ、『さいみんじゅつ』からの、『ねんりき』!」

 

「ラァル! ルルゥーッ!」

「ディッ、ググゥーッ!?」

 

私の意図を汲んで鼻先数センチまで距離を詰めてのエスパー。超至近距離からの『さいみんじゅつ』は流石に外れようもなく、一瞬でとろんとしたディグダが次の瞬間には『ねんりき』による頭痛で涙を浮かべる。周囲の土塊ごとフィールドアウトさせられたもぐらポケモンは、そのまま壁に激突して気を失った。

 

「……ディグダ、戦闘不能! チャレンジャーの、えー、ラルトスの勝利! これで試合は全て終了、0対2ポイントでチャレンジャー側の勝利です!」

「ラァル♪ ルゥル♪」

「ありがとうフラウ。お疲れ様、カッコよかったよ」

「ラルルゥ」

 

褒めて褒めて、とアシュラムと同じように抱きつく当パーティーのお嬢様を受け止め、しっかり頭を撫でてからボールに戻す。本当にふたりともよくやってくれた。アシュラムは進化もしたし、今日の晩ご飯はお祝いに美味しいもの食べに行こうね。

 




《キャラ設定》
○マリステラ(リスティ)
・年齢:11歳
・性別:女
・身長/体重:平均より高め/BMI正常域
・髪:灰色がかった銀髪ロングヘアのフィッシュボーン
・瞳:左右ともに黄色みが強いアースアイ
・特記事項:ポケスペ以外だと穴久保版ポケモンや電撃ピカチュウも若干記憶あり

【所持ポケモン(参入順)】
・メタモン(カフカ):―/Lv.??
・ラルトス(フラウ):♀/Lv.13 → 18
・ヒトカゲ → リザード(アシュラム):♂/Lv.13 → 17


○サカキ
・年齢:36歳(捏造)
・性別:男
・特記事項:消息途切れがちなトキワジムジムリーダー。本人も手持ちも猫被り中


○リーフ
・年齢:9歳
・性別:女
・特記事項:セリフは無いが初めての公式バトル観戦(not映像)に大興奮
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