仲正イチカは嘆かない(旧題:少女たちの奇妙な日常~Stand by Aoharu~)   作:イチヂクのタルト

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#003 『シザーマン』

 えぇと……もうカメラって回ってます?あぁ、はい、わかりました。こ、こほんッ!では、本官は『ヴァルキューレ警察学校』生活安全局の中務キリノです!年齢は15歳、趣味は────えっ、趣味は必要ない……?も、申し訳ありませんッ!!

 

 えっと、本官が例の『怪事件』と相対したのは先週の『金曜日』……えぇ、ちょうど季節外れの『猛暑日』のことでした。コノカ副局長からの要請で、通報された『怪事件』の調査を────はい?コノカ副局長ですか?……えぇ、確か副局長はデスクワーク?か何かが忙しいから同行はできないとおっしゃっていました。それに、この事件を本官一人で解決できれば『警備局』への転属も夢ではないとッ!!「また占いか」……ですか?それはどういう────っと話が逸れました。

 

 通報の内容はこうです。『とある山で無造作に木が切り倒されている。また、その山に山菜を取りに行った市民が『怪人』に襲われた』……と。ところで、カンナ局長は『カミキリムシ』って昆虫をご存じでしょうか?ちなみに名前の由来は『噛み切り虫』ではなく『髪切虫』で────え?この話は『怪事件』に関係あるのか……と。それはもうッ!

 

 それでは、事件当日の話に移ります。場所はD.U.郊外『神切山(カミキリヤマ)』、『怪人』の名は────

 

 

 

 

#003 『シザーマン』

 

 

「ひい、ひい……あ、暑すぎますぅ……」

 

 この一週間、D.U.は秋らしからぬ熱波に襲われていた。それは中心部だけではなく郊外も同じこと。現在、キリノが目指している『神切山』も例外ではないだろう。

 

 『神切山』はD.U.西部に位置する休火山。たびたびゲヘナの温泉開発部の目撃例はあるも、未だ温泉が湧いたという話はない。紅葉はほとんど見られないが、秋には『ノビル』や『山椒』などの山菜が取れ、麓の集落の住人や一部の料理通の生徒が集う穴場スポットとなっている。

 

「と、とりあえず本官、目標地点に到着いたしましたァ~……あ、暑い……」

 

 キリノは第一の目標地点────『怪人』と遭遇したという村民の住宅へ到着した。

 

「あれまァ!お巡りさん!こんな暑い中ご足労いただきありがとうございますぅ~。ささ!上がって上がって!」

 

 例の『通報』を行った村民は人のよさそうな柴犬のお婆さんだった。撫子色の頭巾を被り、手作りと思われる草鞋が土間にいくつも掛けられている様子から、年齢に反してアクティブな印象を受ける。

 

「ほらほら、暑かったでしょうにィ。冷たいお茶を入れましょうねェ」

 

「い、いえ!本官、職務中の身につき……!お気持ちだけで十分でございますッ!!」

 

「何を言ってらっしゃるのォ。たとえ『お巡りさん』でも『子供』は『子供』。『大人』の私たちが労ってあげる『義務』があるんですぅ」

 

 ちょっと待っててねと言い残し奥へ引っ込むお婆さんを見て、キリノはお言葉に甘えることにした。そこまで言われて断るのは心が痛むうえ、『子供』への親切さとスタンスがキリノの敬愛する『先生』の姿と重なったからだ。

 

 戻ってきたお婆さんの手には、冷たい麦茶と山菜の天ぷらの乗ったお盆が乗せられていた。『警備局』転属のチャンスだと意気込んで朝から何も食べていなかったキリノは自分の短絡さを恥じながらも舌鼓を打つ。

 

「はぁ~~ご馳走さまでした……!『ノビル』のほろ苦い味とサクッとした衣がマッチして────ハッ!!ほ、本官の目的を忘れておりましたッ!!」

 

 美味しそうに天ぷらを頬張るキリノを実の孫に対するように慈愛に満ちた表情で眺めていたお婆さんも、キリノの発言ではっとする。

 

「あら……!私ったらウッカリしてましたァ……例の『通報』のことですねェ?」

 

 えぇそうですと頷くキリノを見て、お婆さんは少しずつ思い出すように話を始める。

 

「えぇと、今週の水曜日の……ちょうど日が暮れ始めた『黄昏時』のことですぅ。私が山菜を取りに『神切山』の中腹まで登った時、『妙なもの』を見たんですぅ」

 

「『妙なもの』とは?」

 

「『木』がねェ、こう、切り倒されていたんですよォ。それも、一本だけじゃあなく、何本も」

 

「それは……誰かが伐採したということでしょうか……?」

 

 キリノの当然の疑問に、お婆さんはゆっくりと首を振る。

 

「私も最初はそう思ったんですけどねェ。『断面』が『妙』だったんですぅ。なんていうのかなァ……『切り株』も『地面に倒れた木』も、断面が『鉛筆の先っぽ』みたいに尖っていたんですよォ。まるで、木の幹の周りをぐるっと『削り取った』ような」

 

「でもねェ、話はこれで終わりじゃあないんですよォ、お巡りさん」

 

 声のトーンを下げるお婆さんを前に、思わず体を硬くするキリノ。

 

「私ゃね、熊か何かの仕業だと思ってご近所に電話しようと思ったんですよォ……だって、猛獣がいるのに山に入ったら危ないでしょう?でもね、電話が繋がらない……『圏外』なんですぅ。いつもは電波が通っているのに『圏外』……さすがに『胸騒ぎ』がしてねェ……下山しようと思った時、『アレ』がいたんです」

 

 キリノは既に事件の聴取をしているということも忘れ、固唾を飲んで話に没頭している。

 

「『アレ』は木の陰から覗いていました。身長……体長なのかなァ?は180cmくらい。奇妙なのはその見た目。言うなれば『影法師』でしたァ。『アレ』はまさしく『影法師』……『輪郭』がねェ……『無い』んですぅ……それでいて『真っ黒』。さらにジャリジャリとテレビの『砂嵐』みたいな音を立ててるんです」

 

「私はもう恐ろしくて恐ろしくてッ!無我夢中で駆け出しましたッ!……それで、ようやくこの『集落』が見えるところまで降りてきたんですぅ。安心したんでしょうねェ、どっと疲れが湧いてきて、その場にへたり込んだんです。そうしたら曲がり道の向こうからこう聞こえてきた」

 

「『おーい、おーい。大丈夫かぁーっ』って」

 

「心細かった私は『大丈夫だよーっ』って叫んだんです。そしたら、曲がり道の向こうから走ってきた『アレ』はこう言ったんです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すぐに大丈夫じゃなくなるからねエエエエエエエエエェェェェェェェェ!!!!!!!!!!!!!」

 

「にゃあああああああああああああああああああああああっ!?!?!?!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぁっふぁっふぁ!びっくりしたかしらァ?お巡りさん!年寄りはねェ、若いコ脅かすのがスゲー好きッ♡なのよォ~~~~~~」

 

「も、もうッ!そりゃびっくりしましたよッ!!」

 

 悪戯好きのお婆さんの話術に見事に引っかかったキリノは、まだ心拍を落ち着けられずにいる。それを見たお婆さんは、またくつくつと笑った後、その後の顛末を語る。

 

「その後、気がついたら朝だったんですぅ。気絶しちゃってェ、『集落』の目の前で発見されて大騒ぎになっちゃいましたァ……ここまで全部『本当のお話』……私の命が助かったのはねェ……『これ』のおかげだと思っているんですぅ」

 

 お婆さんは、携帯電話につけられた『赤いお守り』型のストラップを取り出した。

 

「『それ』は?」

 

「『これ』はねェ……数か月くらい前だったかな?『神切山』で出会って仲良くなった生徒さんに貰ったんですぅ。『電磁波』がどうのこうので『頭痛』が治るとか……『頭痛』への効きはからっきしでしたけどねぇ~。ふぁっふぁ!」

 

 ひとしきり話を聞いた後、キリノは天ぷらとお話のお礼を言い、『怪人』の調査を行うために『神切山』へと足を踏み入れた。実際、あんな話を聞いて『恐怖』を感じざるを得なかったが、『警備局』への転属への希望と『警察官』としてのプライドで自分に発破をかけ、()()()()をしながら歩を進めた。

 

 日が落ちるにつれ、気温が落ち、肌寒くなってくる。日中あんなに苦しめられた日差しと気温が、今は恋しく感じる。

 

「うぅ~……や、やっぱり誰か連れて来ればよかったかなぁ~……何でフブキは今日に限って真面目にパトロールをしてるんでしょう……?」

 

 働かないことがデフォルトになっている同僚の顔を思い浮かべ、なおさら寂しさを募らせるキリノ。そんな彼女の脚を『何者か』が掴む。

 

「にゃあああああああああああああああああああっ!?!?!?」

 

 キリノはホルスターから銃を取り出し、一心不乱に乱射する。こんな状況でも流石というべきか当然というべきか、極度の『射撃音痴』である彼女の弾丸は一発も当たらない。そうこうしているうちに、もう片方の脚も『何者か』に掴まれる。

 

「お、お助けエエェェ……!」

 

「お、お助けえええええええええええええええええええっ!!!!!!!……え?」

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

「んっんっんっ……プハーッ!な、何だこの水はッ!!う、『美味い』ぞッ!!まるで『ミレニアム東アルプス』の未だ誰も足を踏み入れていない湧き水の味というかッ!純粋なものしか好まない『ユニコーン』が飲んでいる水というかッ!!」

 

「あ、あはは……ただの『水』に大袈裟ですよぅ」

 

 キリノが救助したその『少女』は、差し出された水を一気に飲み干し怒涛の感想をこぼした。ただの『水』にここまでのことを言われるとは予想外だったキリノだが、山中で行き倒れていたこの『要救助者』を安心させるため、自らの身分を明かすことにした。

 

「本官は『ヴァルキューレ警察学校』生活安全局の中務キリノです!」

 

「『ヴァルキューレ』……?も、もしかしてなのだが、公安局の『志真コノカ』を知っているかい?」

 

「おや!コノカ副局長をご存じなのですか?」

 

「知ってるも何も!共に汗をかきながら『ツチノコ』を捜索した仲さッ!」

 

 ツ……ツチノコ?と出会って早々混乱するキリノを尻目に、彼女は自己紹介を始める。

 

「申し遅れた!吾輩は『ミレニアムサイエンススクール』の生徒であり『モー超常現象研究所』の『所長』でもある。名は『羽咋ツバサ』。気軽に『ツバサ所長』と呼んでくれたまえッ!!SNSでは『@mo_channel』というアカウント名で活動していると言えばわかると思うが……あ、知らない?そう……」

 

 そんな自己紹介を受けて、キリノの混乱は加速を極める。何とか頭を整理させながら、要点をかいつまんでの『質問』を行う。

 

「えぇと、それで『ツバサ所長』はどうしてこの『神切山』に……?」

 

 その『質問』はどうやら正解だったようで、露骨にシュンとしていたツバサはよくぞ聞いてくれたと大袈裟に腕を広げ、演説するように語り始める。

 

「この『神切山』はUFO……つまり『未確認飛行物体』の目撃証言が多い。だから吾輩は以前からこうして山登りすることがあったのだが……最近、『オカルト掲示板』にて新たな噂が広まっているのを確認した……『シザーマン』の噂だ」

 

「『シザーマン』……?」

 

「そう!怪人『シザーマン』。日が沈むと共に現れる真っ黒な『怪人』。無作為に木を切り倒して人をおびき出し、人を襲うらしい……一説には『山を下りられなくなった生徒の成れの果て』だとか『触られたら体が動かなくなる』とか。ここからは私の見解なんだが、『シザーマン』は宇宙人の手先、あるいは宇宙人そのものだと────」

 

 キリノは、その話がただの都市伝説だとは思わなかった。むしろ二つの証言────『お婆さん』の目撃談と『ツバサ』の話から、怪人『シザーマン』の存在に確信めいたものを感じていた。と同時に、一般人であるツバサをこのまま『神切山』にいさせるのには少々の不安を感じざるを得なかった。

 

「────これを機に『宇宙人』の存在が明らかになればあの憎き『セミナー』も……おや?どうしたキリノ君。顔色が優れないようだが……」

 

「……一応質問しますが、所長はこの『神切山』から下山するつもりはありませんか?恐らくその『怪人』は実在します。それも『危険』な匂いがする……『警察官』の端くれとして、『一般人』の危険な行動は見過ごせません」

 

 朗らかだったキリノが一変して見せた『真摯』さにわずかに気圧されつつ、同じく『譲れないもの』があるツバサは真っすぐ見つめ返して答える。

 

「……残念ながらそれはできない相談だ。しかも『実在』するとなればいよいよ譲れない。全ては『セミナー』に着せられた『部』への……『部長』への『汚名』を晴らすためッ!!『ロマン』への『潔白さ』のためなら吾輩はどんな『謎』にでも挑もうッ!!」

 

 互いの主張がぶつかり合い、山道が静寂に包まれる。日がいよいよ傾いてきた時、頬を緩めたのはキリノの方だった。

 

「あなたの『想い』はよく伝わりました。まるで本官の友人が『ドーナッツ』へ向ける『情熱』のような『気高い意志』……であれば本官から何も言うことはありませんッ!!ただし!あくまで『警察官』と守られるべき『市民』の関係ッ!『目的達成』まで本官が『護衛』させていただきますッ!!」

 

「ド……『ドーナッツ』……いやしかし!『同行』してくれるとは有り難いッ!吾輩も心細……い、いや人手を欲していたところだッ!ぜひご協力願いたい!」

 

 かくして、『生活安全局員』と『元・疑似科学部員』の奇妙なタッグが結成された。

 

 しかし、相手は都市伝説の『怪人』。一朝一夕で見つかるような存在ではなく、調査は難航を極めた。そして、調査に進展が見られたのは完全に日が落ちてから数分経った後のことであった。

 

「さすがに暗くなってきましたね……『懐中電灯』は持っていますか?所長────」

 

「ぜぇ……はァ……ヒュッ」

 

「だ、大丈夫ですかァ────────!?!?」

 

 キリノには二つ誤算があった。一つは『怪人』となかなか遭遇しないこと。二つ目は、ツバサの圧倒的体力不足。

 

「ツ、ツバサ所長がミレニアム生だということを失念していました……今までどうやってこの山に登山していたんですかッ!」

 

「そ、それはたまたま通りかかった地域の人に助けてもらって……あ、あれを見たまえッ!こんなところに『切り株』があるとはツイてるぞ……!!少し腰を落ち着けていこう……!」

 

 ツバサは息も絶え絶えになりながら『切り株』へ近づいて腰を下ろす。

 

「よいしょ……ッ!?い、痛ァ────ッ!!な、なんだァ!この『切り株』はッ!!『断面』がとんがっているじゃあないかッ!!お尻に穴が開いたかと思ったぞッ!!」

 

「えッ!?『断面』が……何ですってッ!?」

 

 ツバサの悲鳴を聞いたキリノは慌てて辺りを照らす。すると、先ほどまでは暗くて気がつかなかったが、多数の木が『切り倒されて』いることが確認できた。しかもその『断面』はどれも『鉛筆の先っぽ』のように尖っている。

 

「はァ────っ……はァ────っ……スマホは……『圏外』ッ!?『時刻表記』もまるで狂っているッ!!」

 

 何かマズい、何かヤバいッ!そう警鐘を鳴らしたキリノの第六感は、彼女自身に周囲を警戒させる。

 

「所長……『シザーマン』が近くにいるかもしれません……スマホの電波が『狂って』います……『応援要請』もできないし『時刻』だってわからない……!!」

 

「『現在、時刻は午後6時を回りました』」

 

「ッ!!所長のスマホは無事でしたかッ!!ではすぐに『通報』を────」

 

 キリノに時刻を伝えた『声』はツバサではなかった。振り返ったキリノは一瞬、思考を放棄しかけた。それほど悍ましい『衝撃』がそこには『いた』。

 

 ツバサの体に覆いかぶさるように四つん這いになっている『それ』は、テレビの砂嵐のような不快な音を鳴らしていた。

 

「何イィ────────────ッ!?!?『シザーマン』ッ!?バカなッ!?いつの間に『近づいて』……!!」

 

 ハッとしたキリノは倒れ伏しているツバサを見た。顔を『シザーマン』の右手に覆われ、呼吸ができていないようだった。

 

「マズいッ……!所長を放せッ!『バケモノ』ッ!!」

 

 キリノの拳銃からマズル・フラッシュが光るも、こんな時でも弾丸は明後日の方向に飛んで行ってしまう。『シザーマン』は首を傾げると、ゆっくりと『輪郭』の無い腕を伸ばしてくる。

 

「ジャリジャリジャリ『あっ明日のててて天気はかっ『快晴』……『かいせい』ででです』ジャリジャリ」

 

「それなら『これ』でどうだッ!!」

 

 キリノは『ピンを抜いていない手榴弾』を投げつけた。『シザーマン』は驚いたように腕を引っ込め、真っ黒な体を霧散させる。

 

「『手榴弾』を避けた……!やはり『シザーマン』には『知能』が……?」

 

「ゲホッ!ゴホッ!ハァ……ハァ……た、助かったよキリノ君」

 

「よ、良かった……!意識は失ってなかったのですね……!と、とにかくここを離れましょうッ!『シザーマン』が再び現れる前にッ!」

 

 『シザーマン』の襲来から約5分後、二人は洞穴に身を潜めていた。そこでヴァルキューレの『応急手当キット』を取り出し、ツバサの容態を診る。

 

「とりあえず『外傷』はないみたいですね。良かったです」

 

「あ、あぁ……だが気をつけてくれ。やはり噂通り、『シザーマン』に触れられた者は『体を動かせなく』なるらしい。事実、吾輩がそうだった。そして……『シザーマン』の『正体』がわかった。……状況の打破に繋がるかはわからないが」

 

「本当ですかッ!!」

 

 キリノは正直、半ば『絶望』していた。一度は撃退したとはいえ、確実に『知能』を持ち神出鬼没に襲ってくる『シザーマン』に二度目が通用するとは思えなかったからだ。それでも『正体』がわかれば『弱点』がわかる。『弱点』がわかれば『対策』が打てる。キリノは淡い『希望』を見出し、ツバサの次の言葉を待つ。

 

「……『カミキリムシ』だ」

 

「……何ですって?」

 

「正確には『キヴォトスクロカミキリ』。レッドウィンターやアビドス以外のほぼキヴォトス全域に生息している昆虫で、真っ黒の体と発達した顎から推察するに間違いな────」

 

「ちょ、ちょっと待ってくださいッ!!一体何の話をしているんですかッ!?」

 

 狼狽するキリノの両手を掴み、上体を起こしながらツバサは話を続ける。

 

「だから『正体』の話だよ。話を聞いて、実際に見て、確かに吾輩も『不定形の怪人』だと思った。だけど『間近』で見て理解したんだ。『シザーマン』は無数の『カミキリムシ』の群れだ」

 

 キリノは信じられないといった風に目を瞬かせる。

 

「そんな……!じゃあ、本当に『カミキリムシ』だったとして、なんで『電波』が不安定になるんですかッ!!それに、触られたら『体が動かなく』なるのも意味がわかりませんッ!!」

 

「そ、そこまでは……すまない……『未知の生物』や『エイリアン』なのかもしれないし……」

 

 再び議論は振出しに戻ってしまう。洞穴を包み込むイヤな沈黙を紛らわそうと、キリノは電波の繋がらないスマホを取り出す。

 

「ム……?それは……!な、何で君がその『お守り』を持っているんだいッ!!」

 

 キリノのスマホにぶら下がっている『赤いお守り』型のストラップを見て、焦ったような声を上げるツバサ。

 

「え……?これは、『シザーマン』と遭遇した『お婆さん』からお借りした『お守り』です。『シザーマン』に襲われないようにって親切にも」

 

 ツバサは、今までのことに合点がいったように、そして、愚かな自分を呪うように頭を抱え、震えだした。

 

「……それは、部長が開発した『磁気シート』だ……その場の『磁気』を打ち消し、『ゼロ磁場』を作り出す……そういえば、助けてくれた『お婆さん』に頭痛が治るって渡したっけ」

 

 明らかに様子がおかしいツバサに、キリノはそっと手を握る。それでもツバサの震えと冷や汗は止まらない。

 

「『ゼロ磁場』の効果は他にもある……い、一説によると『UFO』や『怪異』を呼び込んでしまうッ!!つっ、つまりっわ、吾輩がァ……()が『それ』を渡したせいでッ!『あの人』や『キリノ君』は『シザーマン』に襲われてッ……!!」

 

 だんだん嗚咽交じりになり、ごめんなさい、ごめんなさいと繰り返すツバサ。今まで気丈に振舞っていたツバサの変容に驚き、慌てて背中をさするキリノ。しかし、心の中には何か『納得』しきれない違和感が引っ掛かっていることにキリノは気づいていた。

 

(『磁器シート』の『ゼロ磁場』……なぜか助かった『お婆さん』……『電波』『体の硬直』)

 

「まさかッ!?そんな単純(シンプル)なことだったなんてッ!!」

 

「キリノ君……?」

 

 この絶望的な状況を打開する『あること』に気がついたキリノは、勇気づけるようにツバサの両手を掴む。

 

「ツバサ所長ッ!この『事件』の原因はあなたじゃないッ!!『シザーマン』の『能力』がわかりましたッ!!」

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 『シザーマン』はニンゲンを見下していた。それどころか、自分はこの世で最も尊い存在だと『信仰』していた。

 

 数か月前、『神切山』でニンゲンから何か『鋭いもの』で刺された日から『知能』を得た。『知能』を得た自分は『無敵』だった。ニンゲンが持っている『黒っぽいもの(銃火器)』はキケンだが、それにさえ気をつければ『ニンゲンの鳴き声』を受信し発声するだけで簡単に『狩り』ができる。今日の得物である『白いメス』と『小さいメス』のニンゲンも同じだろう。

 

「ジャリジャリ……『おーいっおーいっ!大丈夫かァ────っ』ジャリジャリジャリ」

 

 この声に反応したのか、林の奥の洞穴から二匹のニンゲンが顔を出した。やっぱり『狩り』は簡単だ。『無敵』の自分に『できないこと』なんてないんだ。

 

「ジャリジャリ……ジャリジャリ……」

 

「あなたの『能力』がわかりました『シザーマン』。あなたは『電磁力』を食べ、そして『操って』いる。だから体内の『電気信号』を食べられれば体が動かなくなるし、携帯の『電波』も繋がらなくなる」

 

「『フライング・フィッシュ』────別名『ロッズ』────は生物の『体温』を食らうというが……『シザーマン』。君もその類なのかな?」

 

 ────?なんだこのニンゲン達は。自分の姿を見たというのに恐れおののかない。何と()()()いるのかは知らないが、油断しているのは好都合だ。

 

 そう考えた『シザーマン』は一直線に接近し、『白いメス(キリノ)』の方に肉薄した。突き出された彼女の右腕に食らいつく。

 

「ジャリリリッ!『すぐに大丈夫じゃあ』……ッ!?ギャアアアアアアアスッ!!!!」

 

 どういうことだッ!?『()()()()()()()ッ!!『シザーマン』に『知能』が宿って以来二度目の『動揺』が走る。

 

 『体』を保てないッ!!『カミキリムシ』の群れの制御ができないッ!!コントロールを失った『黒い肉体』は『崩壊』を始める。

 

「やはり……!!『磁気シート』の『ゼロ磁場』は『カミキリムシ』の統制を乱すッ!!あの『お婆さん』が助かったのは『お守り』のおかげだったッ!!」

 

 キリノの『右手』に握られていたのはあの『赤いお守り』。続けてキリノは『左手』を突き出したッ!

 

 マズいマズいマズいッ!!ヤツは『黒っぽいもの(手榴弾)』を持っているッ!!生命の危機に瀕した『シザーマン』の生存本能は、ありったけの力を振り絞る。その『想い』に応えた『カミキリムシ』達は、キリノの『左手』の『電気信号』を捕食する。

 

「くッ!?」

 

 力が入らなくなったキリノの『左手』から『手榴弾』が自由落下を始める。

 

 勝った……!!『シザーマン』が勝利の余韻を味わったのはほんの一瞬だけだった。

 

「うおおおおおッ!!!!!」

 

 『手榴弾』が地面に落ちるよりも早くッ!『小さいメス(ツバサ)』が猛ダッシュで駆けてくるッ!!

 

 こんな小さなニンゲンのどこにこんな『スピード』がッ!!最初に襲撃したとき、コイツにこんな『生命エネルギー』はなかったはずッ!!

 

「人間の『底力』をおおッ!!舐めるんじゃあないッ!!!」

 

 蹴り上げられた『手榴弾』はッ!残る『シザーマン』の『肉体』の中で『炸裂』したッ!!

 

「USHHHHHHHHHAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAッ!!!!!」

 

 『理解できない』『理解できない』『理解できない』ッ!!

 

 これが怪人『シザーマン』の最期。驕り高ぶった『カミキリムシ』は、爆炎に焼かれ、灰は夜空へと立ち昇っていった。

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 ────というのが『事の顛末』です。あの『カミキリムシ』が結局なんだったのかは、正直よくわかりません。ただ、近頃頻発している『怪事件』と何か関係があるのではないか?というのが本官の『見解』です。

 

 ただ、その……少し『気になる点』がございまして……先ほどお話しした通り、『シザーマン』という名前は、今回ご協力いただいた『羽咋ツバサ』さんが閲覧している『オカルト掲示板』から拝借させていただきました。……えぇ、流石カンナ局長、お気づきになられましたか。

 

 『ハサミ人間(シザーマン)』という名前は、正体が『髪切虫(カミキリムシ)』だと()()()()()()()()()()()()()()のではないでしょうか?既存の『シザーマン』の噂には、『ハサミ(シザー)』を連想させる要素がありません。

 

 だから、そのぉ……『シザーマン』の『正体』を知っている『誰か』が『悪意』をもって噂を流布し、『神切山』へ人を呼び寄せていたのではないか?というのは、本官の『考えすぎ』でしょうか……?

 

 『報告』は以上になります。

 

 

#003 『シザーマン』了




スタンド名『ケージーズ・ジ・エレファント』
本体『シザーマン(カミキリムシの群れ)』

破壊力:D スピード:C 射程距離:B
持続力:D 精密動作性:C 成長性:B

一匹のカミキリムシから始まったスタンド。電磁力を操る。ラジオ放送を受信して『発声』を行う。無数のカミキリムシが集まって『脳回路』を形成したため『知能』を持つが、『思い出』という概念を持たないため『知性』があるわけではない。


『志真コノカ』

怖がり。『お婆さんの証言』のくだりで泣いた。
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