山海経 ロア遭遇編   作:。ばーしぱす

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アブノーマル・アサルトⅡ 無間舞曲

 

 バス外の道路標識に弾き飛ばされるように、右腕をバス内に引き戻すミナ。

 

 それをわき目に捉えたカグヤがミナに声をかける。

 

「やったんですか、ミナ執行……部…長……?……ぁあっ…!」

 

 

 ――ミナは目をこれ以上ない程に目を見開きながら、左腕に噛みつき、痛みを押し殺していた。

 

 引き戻された方の肩は血に染まり、右腕は肘から先がとある一点でくじかれ、力なくだらんと垂れ下がっている。

 

 整った顔からはだらだらと脂汗が垂れ、噛んでいる左腕はうっ血で変色していた。

 

 

「ッッッ"ん”ん”ヴう”う””う””う”……!」

 

 

 これを好機と見たか、すかさず残った紺青色の霊異がカグヤに飛び掛かる。

 

 カグヤの頭の中を様々な思考が錯綜(さくそう)していた。

 

 

(ミナ執行部長の腕が折れた……⁉)   (前方からの強襲)  

   

       (この銃にひるまないこの化け物の正体は一体……?)

 

 (どうすればいい……?)    (敵は残り2体……)

 

       (門主様への忠義と私の道……)

 

 (銃弾のめり込む身体……)      (運転席は今どうなっている……?)

 

 

「――はっ⁉しまっ……!」

 

 

 パァン!

 

 反応が遅れたカグヤを目掛けて手刀をふるう霊異。

 

 ……だが、その頭を一発の銃弾が(かす)めた。

 

 霊異が視線を逸らした先にいたのは残った左腕を噛み続けながらも、その手で銃口を霊異に向けるミナの姿だった。

 

 

「ん”ぅ”ーーーーーーっ!」

 

「執行部長……!」

 

 

 ミナは到底喋れる状態などではなく、引き金を引いた衝撃は折れ曲がった痛みをさらに増幅させることとなった……。

 

 ――それでも、声にならない(うな)りは確かにカグヤに届く。

 

 

一意専心(いちいせんしん)――事を為すのであれば他の一切に脇目を振らず、今この瞬間のために全精神を研ぎ澄まさん……!)

 

 

 霊異が目をそらした一瞬を逃さなかった。

 

 カグヤは足を天高く振り上げ、霊異の首にかけるとそのままの勢いで地に振り下ろす。

 

 座席にぶつかった霊異の身体が大きく跳ねる。

 

 すかさず、浮き上がった霊異の体を押さえつけるように銃口を突き刺し、カグヤは再び7.62mmを全力で叩き込んだ(フルバースト)

 

 

 ガガガガガガガガガガッ!!!

 

 

 冷たい床に叩きつけられた霊異の身体に無数の穴が開くが、そこから血も出なければ、それによって動きが停まることもやはりなかった。

 

 霊異は反対側が見えるほどにポッカリと胸に大穴が開いていても、それでも動き続けた。

 

 

 文字通り全身全霊で攻撃したからか。

 

 この時、カグヤはある種の冷静さを取り戻していた。

 

 なおも動こうとする霊異を見て言葉を漏らす。

 

「まるで僵尸(キョンシー)のよう……。申谷カイの目指した不老不死も、案外こんなものなのでしょうか……」

 

 リロードを挟んで、今度は霊異の片足に撃ちこむ。

 

 その場から逃げることもできずに次第に霊異の足はひしゃげていき、マガジンが空になる頃には自重を支えることも困難になっていた。

 

 霊異が機敏に動くことができないことを確認して、カグヤはミナの方へ急ぐ。

 

 

 ◇

 

 

 カグヤがミナの下にたどり着いたとき、ミナは座席に身体を預け、息を荒げながら痛みに顔をしかめていた。

 

 しかし、激痛に耐えていた時に比べれば会話をする程度の余裕は生まれていた。

 

 

「――まだ戦えますか?」

 

「……普通、こういうときは『大丈夫ですか』と、聞くものじゃないか……?」

 

「冗談を言えるなら必要ありません。それで、動けるんですか?」

 

「はっきり言って、右腕はしばらく使い物にならんだろうな。だが、左腕は動く。ならば動いて見せる」

 

「……そうですか。」

 

 2人はバスの車内を見渡す。

 

 前方は今や菌床のように白いナニカに埋め尽くされていた。

 

 運転席がどうなっているのかなど、確認しようとも思えないぐらいに……。

 

 

 後方もまた、ミナが乗り込んだ頃とは一転して四方八方に弾痕が見られ、2人を逃がさないためだろうか、側面の窓は2重3重にナニカで封鎖されていた。

 

 床にはもぞもぞと足掻(あが)く足と胸の潰れた霊異、そして最後部には群青色のお供が悲惨な状況であっても微動だにせず、相変わらず白いナニカを伸ばし続ける霊異がいた。

 

 

 カグヤは封鎖されている割れ窓にサブマシンガンを放つ。

 

 しかし、銃弾がナニカに命中しても、ナニカがもぞもぞと蠕動(ぜんどう)すると、少し引き裂くのみで銃弾は貫通してしまった。

 

 今の2人にとって銃以上に攻撃性を持つ武器はなかった。

 

 ナニカが銃撃に適応し始めているという事実は、着々と状況が手遅れに近づいていることを示していた。

 

 

「……ふう。どうします?計画通り、脱出口が開くことにかけて、イチかバチか、今持ってるマガジン分、総て打ち込んでみせましょうか?」

 

「フッ……、私に考えがあるんだが……聞いてくれるか?」

 

「……賛同するかは聞いてから決めますよ」

 

 着々とバス内の侵食が進む中、ミナは少しずつ自らの考えを話し始めた。

 

 

「初めに運転席でアレを見たとき、私はここから脱出して救援を呼ぶべきだと考えていた。離脱して戦力を集めてから、改めてアレを制圧すればいいとな。」

 

「私と同様では?」

 

「だが、あの化け物どもを見て気が変わった。あいつらは銃撃をものともせず、私たちに向かってきた。そしてこのありさまだ。」

 

 カグヤはミナを見る。片腕が機能不全になっている姿を、そして自分の姿も。

 

「玄龍門の執行部長と京劇部部長の2人でも、ギリギリ逃げられるかどうか。山海経の生徒たちではとても太刀打ちできないでしょう……」

 

「ここで化け物を逃せば、私たちの準備する間に確実に犠牲が出るだろう。……それを防ぐために、そしてこいつらの情報を集めるために、私は逃げるわけにはいかない!」

 

「――ならば私たちが進むべき道は一つ……」

 

 

「「ここで食い止めて終わらせる(こと)!」」

 

 

「……ふふ、今日初めて意気投合した気がします。策はあるのですか?」

 

「それなんだが……こんなのはどうだ?――」

 

 ミナは霊異の視界を切るようにカグヤを抱き寄せ、手の内を見せながら策を伝える。

 

 

「……それなら早く言いなさい!」

 

「タイミングがなかったんだ仕方ないだろう⁉」

 

 カグヤの叱り声が、ミナには折れ曲がった骨身で感じられる気がした。

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